作品タイトル不明
327.事件のその後
バースとテトを引き取ってから、5日後。事態は一気に動き出した。
バースとテトを攫って来た実行犯をはじめ、その元締めの奴隷商、そして奴隷商と通じていた伯爵が拘束された。その後、取調べが徹底的に行われて、処刑が決まった。伯爵家については、処刑されるのは当主だけではなく家族も使用人も全て。ちなみに、この伯爵家の嫡男は、以前近衛隊に所属していてフレッド殿下の警護をしていた。私が、初めてフレッド殿下に会った時に、私に向かって抜刀しようとしていた近衛隊の騎士だった。
そして、奴隷商の証言から奴隷を酷使していた貴族も同じように処分対象となった。
奴隷商を利用していたのは、全て第二王子派閥ということで、派閥のトップだったガレー公爵は、表向きは責任を取るということで、廃爵となり一族郎党、国外追放となった。
……しかし、誰一人、ガレー公爵家の人間が国境を越えたのを見た者はいない。
非公式ではあるが、ガレー公爵家の地下牢には、何人かの獣人やエルフが囚われていた。中にはケガをしている者、栄養失調の者がいたそうだ。今、その人達はジェネラルの診療所に入院をしている。ジェネラルでの療養になった理由は、医療設備が王都並みにあること、そして何よりも不躾な目をする人間が少ないこと。
辺境の地なのに、なぜ王都並みの医療設備なのかと言うと、私が前世の経験から、病院食レシピとリハビリの事をジェネラルの診療所に伝授したこと。享年82才の私にとって、リハビリや入院は切っても切れない関係だったから、病院食もリハビリもお手のもの。
通常、神殿に行けばお布施を払うことで、大抵の病気や怪我は治る。だが、王都以外の神殿にいる神官では、治すにも限度があるし、更にお布施の金額は平民にとっては、簡単に出せるものではない。
その点、ジェネラルの診療所には腕の良い治療師と薬師がいる。元々、冒険者だった2人は、ジェネラルにやって来て、料理が美味しいことや辺境の地なのに活気があることを気に入った。年齢的に冒険者としては、そろそろ限界と思って引退をしようとしていた時、ギルドでリリーさんの出産を目の当たりにした。そこで、私が動じる事なく、ギルド職員やギルマスを指揮していたことに、えらく感動したらしい。
そこで、ギルマスを通じて、私に連絡をして来た。もちろん、お父様経由だけど。
お父様と一緒に話を聞くと、最初はランペイル家に属したいとのことだったが、2人がスキルに【ファーストエイド】と【調合】を持っていることから、治療師と薬師になることを薦めた。診療所は孤児院の隣の空き地に、1階が診療所と薬局、2階は入院フロアとして建てられた。
この場所に作ったのは、孤児達が具合悪くなってもすぐ診てもらえることと、入院患者が窓から見える孤児達の笑顔で癒されれば良いかと思って。現に退院した人々からは、最初は煩いと思っていたが、外から子供達の笑い声や歌声が聞こえると、心細くならなかったと。孤児院も退院者から、差し入れを貰うことがあるそうだ。病は気からとは、よく言ったもんだ。
そして入院食は、領民の奥様方が作ってくれる。
レシピは主に私が考え、患者一人一人にあった食事を出している。そして、退院前日には祝膳として、ステーキやハンバーグ、カレーなどからリクエストを受け付ける。
これらのことが、退院した冒険者や商人達から噂が広まって、重病や重傷でないなら、療養したい地として人気になっている。ちなみに、治療内容や入院期日によって費用は変わるが、なるべく患者の負担がないようにしている。手持ちがない冒険者の場合は、冒険者ギルドの信託からの引き落としとなっているので、その時お金がなくても治療は受けられる。ちなみに、手持ちがない商人の場合は、商業ギルドの信託から。
これでは、神官の仕事が上がったりと思われるが、ジェネラルにいる期日が限られている商人などは、高額だろうと神殿に行くためにそうでもない。そして、診療所の治療師の手に余るような状態の人には、ちゃんと説明をして神官が治療することにしている。
それから、不躾な視線が少ない理由としては……私がいるからだと、お父様は言っていた。領主の娘でありながら、幼い頃からペガサスやフェンリルーー領民たちはウルフ系の魔獣だと思っているがーーに騎乗し、色々な料理を広め、ジョウ商会のオーナー、冒険者としても15才でランクBーー他の領では、ランクA相当ーー。【無】属性の規格外だとしても、誰に対しても分け隔てなく接していているのを見て、領民達も自分の行動を見つめ直し、今では差別をするような人は極わずかとなったそうだ。
だから獣人だろうと、ドワーフだろうと、エルフだろうと、オネェさんだろうと領民達は笑顔で迎え入れるし、困っていたら助けてくれる。
奴隷商の手により、エグザリア王国に連れて来られたのは、猫人族のバースとテトの他に、虎人族の男の子、兎人族の女の子、エルフ族の女の子、リザードマンの男性。
ということで、ただ今、我が領都のジェネラルは、人種のるつぼだ。
囚われていた全員が、当初、奴隷契約をされていた。その事で、体力的だけではなく精神的に疲労が見られ、未だに調書を取れないでいる。
虎人族の男の子とリザードマンは、バースとテトが飲まされた失声症になる毒を飲まされてから時間が経っているので、【アクア】の水を飲んでもすぐには声が出なかった。それ以外の外傷はないようなので、【アクア】の水を飲み続けている。
兎人族の女の子とエルフ族の女性は、助けられた時にホッとしたのか、「良かった……。」「助かった……。」と言った後、意識を失ったまま、2日が経つ。
今は、ともかく全員の回復を待つしかない。