作品タイトル不明
291.出産
ーー翌日。
ランクBの昇格試験を受ける為に、冒険者ギルドに行った。ベルだけ付き添ってくれた。本当は、お兄様達も来る予定だったのに、案の定、全員二日酔いだった。試験官は、ランクAに昇格したブライアンさん。
結果は……もちろん無事に合格。ランクBになりました。
「ジョアンちゃん、あっと言う間にBランカーね。頑張り過ぎじゃない?」
「えへへ、だって春から騎士科だからね。女だからって舐められたくないじゃない?」
「あのね〜、ジョアンちゃん。……っ!!うっ……。」
「リ、リリーさん!?」
「……ふぅ。大丈夫、落ち着いたわ。朝方に破水して、今朝から痛みの波があって。」
「それって、前駆陣痛!今、どのくらいの間隔なの?」
「えっと……20分ぐらいかしら?」
「じゃあ、こんな所にいないで準備しないと!ベル、ニッキーさんを呼んで来て。パールは、商会に行ってケイトさんかミシェルさん、グレイスさんの誰かを呼んで来て。」
「わかったわ。」『ワン。』
初産だからとリリーさんも周囲も余裕を持っていた。未だに寝ていたニッキーさんを叩き起こし、商会をグレックさんに任せてケイトさん、ミシェルさん、グレイスさんがやって来た。私は、ギルマスの部屋へ突入して驚いているモーガンさんに事情を説明し、空いている部屋を貸して貰った。
助産師さんが、到着してからが早かった。その頃には陣痛の間隔が10分になっていたから、急いでベッド代わりのテーブルにストレージから、毛布やクッションを出して、看護師さんに全てに【クリーン】をかけてもらう。その後は助産師さんや看護師さんに任せて、お湯を沸かしたり、産衣にする服にも【クリーン】をかけてもらい、何故かオロオロしているギルマスを邪魔だと蹴飛ばしたり……。
ーー仮の分娩室に入って1時間後。
「ンギャー。オンギャー。」
元気な産声が聞こえて、固唾を飲んで見守っていたギルド内にいた人達は、皆んなで喜んだ。人によっては、喜びのあまり大声で叫びそうになったが、赤ちゃんがびっくりすると悪いからと周りの人に口を抑えられていた。
「良かったね、パパさん?」
ホッとしたのか、床に座り込んだニッキーさんに声を掛ける。今日の出立ちは、バタバタと来たのもあって、いつものような薄化粧もなく中性的な服でもない。髪も無造作に縛っていて、素の ニ(・) コ(・) ラ(・) ス(・) さんだ。
「ジョアンちゃん……。お、俺、父親に……なったのか?」
「そうだよ。早くリリーさんの所に行ってあげて。ちゃんと労ってね。」
「あ、ああ。ほ、本当にありがとう。」
赤ちゃんは、女の子らしい。
その場はベテランママさん達に任せて、私達は帰ることにした。下に降りると、皆んな私達にも労いの言葉をかけてくれる。酒場の方からは、一緒に食べないかと誘いもあったけど丁重に断った。すると、カウンターで飲んでいた昇格試験の試験官だったブライアンさんから、テイクアウト用の入れ物に入ったジュースを、お疲れ様と言いながら渡された。
外に出ると、太陽がもう高い所にあった。
「良かったね、ジョアン。」
「うん。お腹空いたね〜。屋敷に連絡もしてないから、お昼ご飯がなかったら何か作るからね。」
『連絡はしておいたわ。』
「パールが?」
『ジョアンがギルマスの執務室に入っている時に、メテオが来たのよ。ママさんから、様子を見て来いって言われたらしくてね。だから、説明してママさんに伝えるように言ったわ。』
「ありがとう、パール。」
『いいのよ。……私は、ステーキが良いわ。』
「了解。レアで宜しいですか?お客様。」
『ええ、ガーニックなしでお願いするわ。』
「「『ぶっ、あははは……。帰ろっか。』」」
*****
「おかえりなさい。昇格おめでとう。それから大変だったわね。」
リビングに行くと、お祖母様、お母様、ジュリー叔母様がお茶をしていた。メテオからは聞いてるだろうけど、リリーさんのことを説明した。
「話している途中で痛み出したから、ちょっと焦ってしまって。」
と私が言うと、すかさずベルが
「でも、ジョアンだったから的確な指示を出せたと思うよ。私だったらオロオロするだけだったもの。」
『そうよ。ジョアンが指示しなかったら、誰も動かなかったと思うし。』
「そうかな?でも、ベルもパールも手伝ってくれてありがとう。」
「『どういたしまして。』」
「あっ、そう言えば、私パールにケイトさん達を連れて来てって頼んだけど、どうやって説明したの?皆んなの前では話せないでしょ?」
『あー、話したのはケイトだけよ。ナンシーの妹だし、大丈夫かと思って。でも、一応口止めはしたから、後で説明しないと。』
「ありがとう。……お母様、すみません。」
「まあ、焦ったのもあるでしょうけど、焦った時こそ冷静に対応しなければいけませんよ。……でも、大丈夫よ。ケイトとグレッグは、契約獣のこと話してあるから。」
「『えっ!?』」
さすがにパールも聞いていなかったらしい。
「だって、それを教えていたらあなた達が気を許しそうじゃない?」
「『あっ……はい。』」
お母様は、正しく私とパールを理解している。
「うふふふ。ジョアン、誰が悪意を持っているかわからないのだから、誰にでも気を許してはいけませんよ。」
「はい、お祖母様。」
遅くなったランチを取る為に、リビングを出ようとして思い出す。
「あの……。アフタヌーンティータイムの時に、話したい事があります。お祖父様やお父様、ギル兄様、お兄様達にエリック様とヴィーにも。もちろんベルも。」
「ジョアンちゃん、それはどのようなこと?エリック君やベルちゃんもってことは、あなたのスキルとかに関係することなの?」
「はい、ジュリー姉様。その通りです。」
「わかったわ。アフタヌーンティータイムまでに、私達が直々に全員を起こしておくわ。」
「「えっ!?」」
お祖母様の言葉に私とベルは驚く。
「あの、まだ寝ているんですか?」
「ええ。だから、ケンに言えばランチは残っているはずよ。サラ?」
シュタ。「はい、大奥様。」
「ジョアンとベルちゃんにランチを。それとパールには、ステーキかしらね?」
「かしこまりました。では、ジョアン様達は食堂でお待ち下さい。」
「「『はい……。』」」
私達が食堂で遅めのランチを取っていると、遠くの方で怒声と叫び声と謝罪の言葉が聞こえる。
「……美味しいね。」
「う、うん……。パールちゃんは、どう?」
『え、ええ……。ガーニックなしで、絶妙な火加減よ。』
「お酒は、飲んでも飲まれちゃダメね……。」
「うん……。気をつけないといけないね……。」
「エリック様……身内でもないのに、扱いが一緒で良いのかな?」
「そこは、気にしなくていいわ。イザベラ叔母様も了承済みみたいだから。」
「そうなんだ……。」