軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされないように、手を組んだ方がいいですか?①

昼休みになった。

リカルド王子のところに行かないといけないが、アザレアはまだ戻って来ていない。

「何にも言わないで行ったら、探しちゃいますよね?」

「そうね。一言声をかけた方がいいわね」

まずはアザレアを探そう。

そう決めて、席を立とうとしたところで、ちょうどアザレアが戻ってきた。アザレアの隣には、ゼンダ様もいる。

「カミレちゃん、ネイエ様! もしかして、待っててくださったのかしら。申し訳ありませんでしたわ」

そう言いながらも、アザレアの顔はにっこにこだ。

嬉しそうに、何度もゼンダと繋いだ手を見て、頬を染めている。

「これからお昼だけど、アザレアちゃんは──」

「ゼンダ様と、ゼンダ様のご家族と一緒に食べてきますわ!!」

ネイエ様の言葉に、食い気味に言う姿が微笑ましい。

婚約者としては長いけれど、最近両想いになったアザレアとゼンダ様からは、付き合いたてのカップルのような雰囲気が流れている。

「じゃぁ、また午後にね」

アザレアたちと別れ、私たちは応接室へと向かう。

応接室が近付けば近付くほど、レフィトとネイエ様の表情が作りものめいた笑みになっていき、空気がピリついていく。

王族相手ってだけで緊張するのに、ふたりの様子を見ていると、不安で胃がキリキリとしてくるんだけど……。

「大丈夫だよぉ」

レフィトはそう言ってくれるけど、レフィト自身があまり大丈夫な雰囲気じゃない。

クセが強くて、性格に難があって、レフィトとネイエ様が苦手な人物。それだけで、色々と駄目な気がする。

「着いちゃったわね」

「着いちゃったねぇ」

そう言うや否や、白熱したじゃんけんが始まった。

どっちが扉をノックするか、決めるらしい。

「うわっ、負けたぁ」

レフィトは悔しそうに自身が出したチョキを見つめ、ネイエ様は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

「それ、何のじゃんけん?」

「どっちがノックするか決めるためのもので…………。えっ!!??」

「はじめまして、カミレ・ハオトレ先輩。噂通り、綺麗な方だ」

そう言いながら、目の前の美少年は、私の手を取り指先に口づけた。

あまりにも流れるようにされたため、これが普通なのかと脳が錯覚を起こしてしまいそうだ。

「えっと、あなたは──」

リカルド王子ですか?

そう聞く前に、私の手を握っていた美少年の手は叩き落され、レフィトの背中に隠された。

「カミレに触るな」

「初対面のレディの指先に軽々しく口づけるものじゃありませんよ」

ネイエ様まで、私を守るように立ち、厳しい視線をリカルド王子らしき美少年へと向けている。

「ただのあいさつじゃないか。今日も美しいね、ネイエ先輩。月の女神が現れたのかと思ったよ」

「そういう冗談は間に合っております」

「堅苦しい言い方は、しないでよ。ネイエ先輩と、もっと親しくなりたいんだ」

「何ふざけたことをおっしゃってるのですか? さっさと室内に入りましょう。誰かに見られでもしたら──」

「そんなことにならないように、しっかり警備してもらってるから、無駄な心配だよ」

ケタケタと笑いながら、彼は応接室の扉を開ける。

「午前の試合はとても楽しませてもらったよ。たくさん話を聞かせて欲しいな。たとえば、マリアン先輩をどうやって追い払ったかとか……ね?」

部屋に通してもらいつつ、クセが強いと言ったふたりの言葉の意味が分かったような気がした。

部屋に入れば、たくさんの料理が用意されていた。

けれど、その内容に思わず首を傾げてしまう。

「カミレ先輩は、まだ貴族として勉強中と聞いたから、こういう食事にしたんだよ。気に入ってもらえたかな?」

「あ、はい。ありがとうございます。リカルド王子?」

私の返事に満足げに笑っているから、やっぱり彼はリカルド王子で合っているのだろう。

それにしても、いくら私がテーブルマナーが下手くそだからって、これはやり過ぎじゃないかな。

用意してくれたのは、手で食べられるものや、すでに一口サイズに切られており、ナイフを使用する必要がないもののみ。カップには、ソーサーがない。

ここまでやられると、馬鹿にされたような気分になる。

卑屈(ひくつ) になっているだけかもしれないけど。

「オレ、カミレが作ってくれたお弁当を食べるから、これいらないからぁ」

「えっ!?」

それは、せっかく用意をしてくれたのに、失礼じゃない? 大丈夫なの?

「いきなり呼ぶ方が悪いよねぇ? それに、馬鹿にしてきてて不愉快なんだよなぁ」

「馬鹿に? するわけないだろう? 兄さんをつぶすのに役立ちそうな相手には、いつでも敬意を払うことにしているからね。これは、僕なりの気遣いだよ。あ、でも、弁当でも何でも好きなものを食べていいよ。婚約者の手作りなんて 羨(うらや) ましいね。レフィト先輩は幸せ者だ」

「気遣いの仕方が最悪なんだって気付きなよぉ。先輩呼びも、気持ち悪いからぁ」

レフィトの言葉に、ネイエ様が何度も頷いている。

かなりきついことを言われてるけど、リカルド王子は気にしてないみたいだ。

……というか、リカルド王子がすっごいことを言ってた気がするんだけど。

スルーしちゃっていいよね? 巻き込まれたくないし。

「先輩呼び、いいと思うけどな。今ハマってる小説が学園ものでさ。先輩呼びに憧れちゃったんだよね。その小説、カミレ先輩にもあげるよ。お近づきの印にどうぞ」

リカルド王子の言葉に、侍従さんが私のところへ包みを持ってきてくれた。

でも、それは数冊どころか、十冊以上入っていそうな大きさだ。

「えっと、これは……」

「全十八巻だよ。読んだら、感想よろしくね」

よろしくねって、この量を読むとすると、かなり時間がかかるんだけど……。

「カミレ、無理しないでぇ。全部、売っちゃおうねぇ」

「リカルド様、ご自分がお好きだからって、人に押し付けてはなりませんよ」

「自分の好きなものを布教して、何が悪いの? 僕はカミレ先輩に話しかけてるんだけど」

眉間にしわを寄せたリカルド王子に、レフィトとネイエ様は笑みを深めた。

ふたりの目が笑ってなくて、怖い。

「リカルド王子、いきなりたくさんは読めないので、まずは、数冊から借りさせてください」

「全部あげるよ。これは、布教活動だからね」

なんとなく、そうなんじゃないかと思ったけど、確定だ。

リカルド王子は、私の仲間だ……。