軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされないために、仲間は必要ですか?④

放課後、アザレア様と一緒にゼンダ様までやって来た。

扉が開く前から、ギャーギャーと騒ぐふたりの声が聞こえてくる。

「どこに行くんだよ」

「ゼンダ様には関係ありませんわ。放っておいてくださいまし。回れ右! ハウスですわ!!」

「はぁ? 人がせっかく心配して着いてきてやってんだろ。俺だって暇じゃねーんだぞ」

「それなら、なおのこと帰ってくださいまし。ゼンダ様はお呼びじゃありませんわよ」

ふたりの声を聞きながら、非常に残念な気持ちになる。

ゼンダ様、せっかく心配してるって言えたのに、全部が台無しだよ。好きな子に意地悪しちゃう小学生男子感が極まってる。

いや、今時の小学生男子はそんなことしないかもだけど……。

「ゼンダ、うるさいよぉ。ふたりとも、さっさと入って」

「ぐぇっ」

レフィトは扉を開け、首根っこを掴んでゼンダを部屋に引っ張り込んだ。カエルが潰れたような変な声がしたけど、聞かなかったことにする。

案内役をしてくれた人は、ここでお別れらしい。一礼をしたあと、去っていった。

「お待たせいたしましたわ。ゼンダ様が勝手に着いてきてしまい、申し訳ございません」

そう言って、キレイに頭を下げたアザレアを見て、やっぱりお嬢様なんだな……と当たり前の感想を抱く。

所作がキレイなんだよね。同じようにやろうとしても、今の私には難しい……というか、できない。

「いいよぉ。ゼンダが来ることは分かってたし」

「あら、分かっておりましたの?」

「婚約者と仲良くなる方法を聞いてたって、話してたもんねぇ。そうしたら、ゼンダは来るでしょ」

レフィトの言葉に、アザレアは首を傾げた。

ゼンダ様に好かれていると、微塵も思っていないのだろう。

「それじゃ、早速だけど話そうかぁ」

間延びした声でレフィトが言うと、アザレアは向かいのソファへと座った。

「ねぇ……」

「どうしたのぉ?」

「このままなの?」

床に転がされたゼンダ様を見る。

首根っこを掴まれて、部屋に引っ張り込まれた後、驚くほど素早くゼンダ様は縛られた。口には布が噛ませられており、話すこともできない状態だ。

「ゼンダがいると、うるさくて話が進まないからねぇ。少し静かにしてもらってるんだよぉ」

そう言って笑うレフィトの瞳に、悪意はない。

そのことが、逆に怖い。

「そうですわ。私が何か話すと、すぐに否定ばかりですもの。このままの方が助かりますわ。それか、部屋の外にでも放り出してくださいまし」

「ゼンダにも協力して欲しいことがあるから、このままの方がいいかなぁ」

「分かりましたわ。では、このままの状態でお願いしますわ」

心配して着いてきただけなのに、自由を奪われ、床に転がされているなんて気の毒だが、自業自得でもあるのだろう。

ごめん。あとで 解(ほど) くからね。

心の中で謝罪をし、ゼンダ様からそっと視線を外した。

「──なるほど。私は真実を話せばいいんですのね」

「立場が悪くなるけどねぇ」

「かまいませんわ。元々、私たちがかけた冤罪ですもの。謝って済むことではないと分かっています。それでも、言わせてくださいまし。申し訳ありませんでしたわ」

まっすぐなアザレアの謝罪。

それを聞いても、いいよと言えない私は優しくない。

本当のヒロインなら、許すんだろうな……なんてぼんやりと思う。

「どうして、私を犯人にしたんですか?」

「……マリアン様のためだと思いましたの」

「マリアン様のため?」

何故、私に冤罪をかけることがマリアンのためになるのだろう。

あの時は、レフィトと婚約していなかったどころか、あれがきっかけで婚約することになった。

攻略対象とも、マリアンとも、クラスメイトという以上の接点はなかったはずだ。

「あの時の私は、子爵家のあなたがクラスメイトに相応しくないと思っておりましたの。それに、マリアン様とレオンハルト王子を差し置いて学問で優秀な成績をおさめるカミレさんを、その……」

「気にしないから、言っていいですよ」

「め、 目障(めざわ) りだと思っていましたわ」

あー、なるほどね。

それは、そうかもね。貴族としてのプライドもあるだろうし。まぁ、私も貴族ではあるんだけど、生活は庶民だからなぁ……。

「そんな時、マリアン様が成績で悩まれていらっしゃったから……」

「私を盗みの犯人にした……ということですか?」

「そうですわ。皆さんとどうしたらマリアン様を元気づけられるか話していた時に、カミレさんを学園から追い出そうという話になりましたの」

「その時にいた人の名前って、全員言えるかなぁ?」

それまで黙っていたレフィトが、にこにこと笑いながら言った。

もうね、その笑顔が怖いんだよ。

笑顔は、時に武器になるていうのをレフィトを見ていると実感する。

アザレアはクラスメイトの令嬢の名前を数人あげた。その中には、机の中にないと確認したはずなのに、机の奥からマリアンの万年筆を取り出した令嬢も当然入っていた。

「他に関わった人物はぁ?」

「他、ですか? そうですわね……、カミレさんがいるからマリアン様が成績に悩まれているんじゃないかとネイエ様がおしゃっていたくらいでしょうか」

「え、ネイエ様が言ったんですか?」

「あ、でも、ネイエ様はそうおっしゃっただけで、行動をしたのは私たちだけですし、私たちが独断でしたことなので、こんなことをするとは思ってもいなかったと思いますわ」

「そっかぁ。教えてくれてありがとうねぇ」

レフィトがお礼を言うのを眺めながら、どうして? と心がざわついた。

私の知っているネイエ様は、友だち思いの優しい方。私は顔を隠していたけど、一緒に戦ったばかりだ。

ネイエ様がアザレアたちを誘導したかもしれないなんて、思いたくなかった。私が悪になるように聞こえる発言をしていたことがショックだった。

「それで、マリアン嬢はカミレが盗みの罪を犯したと知って、喜んでたぁ?」

「いえ、胸を痛めていましたわ。マリアン様はお優しい方ですもの」

アザレアの言うお優しいマリアン様とは、何なのだろうか。

私には見えないマリアンの良いところが見えているのだろうか。

少し沈んだ心は、私が子爵令嬢で、貧乏だから仕方がないのだと、暗い気持ちに私を引っ張っていこうとする。

でも、そんなことは関係ないのだと、爵位が低いから、貧乏だからと人を 貶(おとし) めてはいけないと、頭では分かっている。

引っ張られるな。感情で考えるな。客観性を持て。

悲劇のヒロインになったところで、何が解決するの? レフィトが解決してくれるのを、ただ待っているの?

そんなことしたら、私が私を許せない。私を嫌いになる。

自分の嫌いな自分になっちゃ駄目だ。

自分に負けるな、前を向け。

「私を盗みの犯人だと決めてしまったマリアン様は、本当にお優しい方なのでしょうか?」

戦うんだ。望む未来があるのなら。

悪役令嬢にざまぁされない、レフィトとの未来を勝ち取るために。