軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされないために、仲間は必要ですか?③

「アザレア様、ちょっと……」

手招きをすれば、アザレアは不思議そうな顔でこちらにやって来た。

「どうされましたの?」

「それ、こっちのセリフですからね。ここ最近、私たちのこと見てましたよね? 今だって、ドアの影にいましたし……」

途中、すっかり存在を忘れてたことは言わないでおく。

見られていたと思うと恥ずかしいけれど、ほとんど聞こえなかったのなら、良しとしよう。というか、そう思わないとやってられない。

「な、なななな何のことか、サッパリ分かりませんわ!」

「今だって、そこのドアの影から見ていたじゃないですか」

「そ、そんなことは……」

どうにか誤魔化そうとするアザレアをじっと見詰める。

アザレアは視線をさ迷わせ、手をひらひらと上下に動かした後、観念した。

「だって、確かめたかったんですもの」

えーっと。主語がないから話が読めないのだけど……。

「何を確かめるんですか?」

「カミレさんが……」

「私が?」

「本当に嫌な人かをですわ」

「………………えっ?」

「私、皆さんが言うように、カミレさんが誰かを 誑(たぶら) かすところも、いじわるを言うところも、目からビームを出して目眩ましをするところも、何にも見たことがないんですの!!」

「あ、うん。そうなんだ?」

「だから、本当に嫌な人なのかを見てたんですのよ!!」

なるほど? アザレアは自分の目で見て、確かめようとしたわけね。

それは分かったけど、一つだけ本当に分からないことがあるんだけど……。

「アザレア様には、私がどう見えてるんですか?」

「優しい人に見えますわ」

「えっ? あ、ありがとうございます。……えっと、人間に見えてるんですよね?」

「当たり前ですわ」

「……何で、目からビームを出すと思ったんですか?」

「出ませんの?」

「出ませんね」

そう答えた瞬間、アザレアは明らかにガッカリした。

「目からビームが出るっていうのは、嘘だったんですのね。今日、その噂を聞いてから、慌てて眩しくないようにとサングラスを用意してもらいましたのに……」

「それは……、用意周到ですね」

「目からビームは残念でしたけれど、カミレさんが人を誑かすような方でも、いじわるをするような方でもないって分かりましたわ!」

こぶしを握り、アザレアは純粋な笑みを浮かべた。

けれど、そのあとすぐにキラキラと輝いていた瞳に影が差す。

「それなのに、私はカミレさんにとんでもないことをしてしまいましたわ」

「とんでもないこと?」

「皆さんの物を盗んだと言いましたでしょう? あれ、私たちで仕組んだことですの……」

大罪を犯してしまった……と言うかのように、アザレアは頭を垂れた。

そんなアザレアに、何て言葉を返したらいいのだろうか。

だって、知ってたんだよ?

まさか、気付かれてないと思ってたなんて……。

まぁ、うん。そうだよね。アザレアだもんね……。

良くも悪くも、純粋で隠し事ができなそうだよね。

懺悔をするように頭を下げたまま、アザレアはベッコベコに凹んでいる。

怒ってはいないけど、いいよとも、気にしないでとも、言うつもりはない。

それがなくても、今と同じになっていたかもしれないけど、やっぱりあれがはじまりだったとも思うから。

「とりあえず、ここだと誰かが来るかもしれませんから、いつも通りにしてください」

もし誰かが見たら、クラスメイトをいじめていただの、土下座させていただのと、事実を捻じ曲げた新たな噂を呼びそうだ。

「どこか、鍵がかかる部屋、空いてるかな……」

「そうだねぇ。人目のつくところじゃ、ちょっとねぇ……」

「普通に話すだけだからね」

「えー、罪は償わせるべきだよぉ?」

こてんと首を傾げる仕草が可愛い。目は怖いけど。

「何でもしますわ! 私にできることは限られていますが……」

「本当にぃ?」

「本当ですわ。二言はありませんわ!!」

アザレアの言葉にレフィトは少し考えると、口元に笑みを乗せた。

「話が長くなりそうだから、放課後にしようかぁ。いーい? 誰にもカミレとオレに会うこと、言っちゃ駄目だよぉ? もし、何を話していたのか聞かれたら、そうだなぁ……婚約者と仲良くなる方法を聞いてたって言えばいいよぉ。君たち、仲が悪いもんねぇ?」

レフィトの言葉にギョッとして、アザレアを見る。

今日、アザレアとゼンダ様が言い争うのを見たばかりだ。

もしかして、泣いちゃうんじゃ……とハラハラしていたが、アザレアの瞳は冷めていた。表情もごっそり抜け落ちている。

「ゼンダ様は、昔から私のことが嫌いですもの」

「ふーん? そうなんだぁ? オレは違うと思うけどなぁ」

「違いませんわ」

「頑なだなぁ。ま、いーや。放課後、迎えを出すから、ちゃんと来てねぇ?」

「分かりましたわ。聞かれたら、 癪(しゃく) に 障(さわ) りますが、ゼンダ様と仲良くする方法を聞いてたと伝えることにしますわ。きっと苦虫を潰したような顔になるでしょうけど……」

既に嫌そうな顔をしていたけど、大丈夫なんだろうか。

一足先に教室へと戻っていくアザレアを見送ると、再びレフィトとふたりきりになる。

「大丈夫かな?」

「大丈夫だよぉ。親に仲良くするように言われて、学園で一番仲良しな婚約者のオレたちのところに、仕方なく聞きに行ったんだと思われるから」

学園で一番仲良しの婚約者って……。どうして、そんな平気な顔で言えるんだろう。

肯定も否定もしにくいんたけど。

「ねぇ、カミレ? こんなチャンスなかなかないと思うんだぁ。だからね、動こうと思ってるんだけど、いいよねぇ?」

レフィトが嬉しそうに笑う。まるで、この時を待っていたと言わんばかりだ。

「そろそろ、反撃……とまではいかなくても、やられっぱなしは終わりにしようよぉ」

今が動き時ではないか……。それは、私も思っていた。

無視するだけでは、何も解決しなかった。たかが噂……、そう思っていたけど、急激に悪化して、着々と私の立場を悪くしていっている。

周りの目が言ってくるのだ。私のことを悪女だと。悪い女だと。

噂の真偽なんか関係なくて、そういう立場の人間がいることを面白がっている。

「そうだね。やられっぱなしは終わりにする。戦うにしても、直接は何もされないからいいことにしてたけど、それももうおしまい」

そう言った瞬間、琥珀色の瞳が鋭さを持った。

口の端を上げて笑う姿に、リードを手放して大丈夫だったのか不安になる。

「まずは、噂を操作しようかぁ」

「操作なんて、できるの?」

「全部は無理でも、ある程度はね。心の中ではマリアン嬢のことをよく思っていない人物に色々と吹き込むんだよぉ」

つまり、私たちは噂の種を蒔くってことか……。

「言うも言わないも、その人次第だけどね。でも、恨みはあるはずだからさぁ」

その言葉に、婚約者の令嬢たちが頭を過った。