作品タイトル不明
悪役令嬢にざまぁされたくない令嬢の婚約者は、幸せな庭を作りたい〜レフィトside①〜
「何を言って……」
そう言ったアザレア嬢の瞳は揺れている。
カミレの言葉に動揺していることが、丸わかりだ。
「アザレア様は、感じたことがないのですか? マリアン様の言葉は優しいのに、その言動が相手を追い詰めていると」
「でも、私はマリアン様に救われて……」
昔の話を持ち出すなんて、気が付いているって言ってるようなものだ。でも、信じたいって感じかな。
なら、その信じたいという気持ちを救いたいに変えてしまえばいい。裏切ることは辛くても、救うためだという大義名分があれば、人は簡単に裏切るという選択が取れるのだから。
「マリアン嬢はさ、昔は優しかったよねぇ。困っている人を見れば手を差し伸べてさぁ。でも、今は自分をよく見せることに夢中だと思うのは、オレだけかなぁ? 昔の優しいマリアン嬢に戻ってくれたら嬉しいんだけどなぁ……」
「……マリアン様は、今でも十分にお優しいですわ」
「そうかなぁ? アザレア嬢にとっては、そうかもねぇ。でも、もしそうなら、どうしてカミレを積極的に仲間にしないのかなぁ? 昔のマリアン嬢なら、積極的に話しかけているはずだからさぁ」
「それは……」
疑いが確信に変わるまで、あと一歩かな。
それにしても、アザレア嬢から見たマリアン嬢は美化され過ぎだよね。ま、その気持ちも分かるけど。
オレも、昔はマリアン嬢の善意は本物か、自分のためか、分からなかったもんなぁ。そこが面白くて気に入ってたんだけどね。
今のマリアン嬢を見ていたら、自分が注目されて愛されるのが好きなだけで、可哀想な人に手を差し伸べるのも周囲の反応を知っているからだって、分かっちゃうんだけどさ。
もしかしたら、昔も今もマリアン嬢は大して変わっていないのかもしれない。
変わったのは、善意として見せられなくなっているということだ。
どうにか取り繕っているけれど、それも上手くできていない。
カミレと出会ってから、善意の鉄壁が崩れ出したのだ。
まぁ、崩れなかった理由は、それまで言い返せるような人がいなかったからだろうけど。
さて、アザレア嬢をどうやってこちら側に落とそうか……。
「アザレア様は、今のマリアン様が好きですか?」
「「え?」」
オレとアザレア嬢の声が重なった。
思いもしなかった質問にカミレの顔を見れば、真っ直ぐにアザレア嬢を見つめている。
「私は、今のマリアン様しか知りません。でも、昔のマリアン様がお優しかったことと、アザレア様が昔のマリアン様を好きなのは、よく分かりました。では、今のマリアン様はどうですか?」
「……分かりませんわ」
「どうして?」
「だって、マリアン様はいつでも正しくて、お優しいはずなのですもの」
「いつも優しくて正しい人間なんていませんよ。誰かにとっては優しくても、別の誰かにとってはそうじゃない。そんなこと、世の中には腐る程ありますし、普通のことですから。……アザレア様から見たマリアン様はお優しくても、私から見たマリアン様は、私を利用している人に見えているんです」
黙ってしまったアザレア嬢を、カミレは待った。
今、口を挟むべきじゃないので、オレも一緒に待つと沈黙が流れる。
んーんーと言うゼンダの声がうるさいから、ちょっと蹴って黙らせておく。
「私にも、マリアン様がカミレさんを利用しているように見える時がありますわ」
「うん」
「私、昔のマリアン様に戻って欲しいですわ。マリアン様がカミレさんを利用しているところ、もう見たくありませんもの」
「うん」
「だから、次からは私が率先してカミレさんとペアを組みますわね。私たちがカミレさんを盗みの犯人に仕立てたことと一緒に、カミレさんが努力家で親切な方だとも伝えていきますわ!」
「……え?」
「カミレさんの良さを皆さんに広めていきますわ!!」
「しなくていい! しなくていいから!!」
敬語も忘れて、止めに入っているカミレはちょっと面白い。
「遠慮なさらないでくださいまし。身分ではなく、人柄で相手を見る大切さを私はカミレさんから教えて頂きましたもの!!」
「いや、教えてないからね。アザレア様、落ち着いてくださ──」
「アザレア様ではなく、どうかアザレアと呼んでくださいませ」
「何で!?」
「好きだからですわ!!」
「……はい?」
「こんなことを言える立場じゃないのは分かっていますわ。でも、今日お話してみて、カミレさんのことを好きになりましたの。ひどい仕打ちをした私の話にも耳を傾けてくださり、意見は違くても私のことを否定されませんでしたわ」
「そんなことないと思うけど……」
「いいえ! 私はバカですけど、分かりますわ。カミレさんはいい人ですわ!! さぁ、私のことをアザレアとお呼びくださいませ!!」
ずいずいとアザレア嬢はカミレに迫り、カミレはその勢いにのけぞっている。
カミレは押しに弱いからなぁ。
独り占めしたいのは山々だけど、女友だちがいるのはカミレにとってプラスになる。オレが一緒にいられない時に、味方はひとりでも多い方がいい。
邪魔だけど必要だから、仕方がない。
もし、オレとカミレにとって邪魔になったら、新しい友だちを用意すればいいだけ。排除するのは簡単だからね。
可愛いカミレをのんびりと見守っていれば、カミレがオレの方を向いた。
「助けて……」
アザレア嬢には聞こえないような小さな声でオレにだけ向けたSOS。
可愛い……。
「アザレア嬢さぁ、図々しいんじゃないかなぁ。たった今、カミレのこと好きになったんでしょ? まずは、自分が好かれる努力をしなよぉ。ご褒美だけもらおうなんて、都合が良すぎない?」
どう? とカミレを見れば、なぜか微妙な顔をされてしまった。
何が違ったんだろう……。