軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされたくないので、準備を始めましょう②

「んじゃ、つけるねぇ」

レフィトがウィッグをつけてくれる。

普段、剣を握っているレフィトの指先は繊細に動き、あっという間に私の髪をネットの中にまとめてくれた。

「おぉぉ!!」

金の髪は全てウィッグの中に収まり、代わりに肩で切り揃えられた栗色の髪へと変わる。

まるでレフィトが魔法をかけてくれているかのような光景が、手鏡越しに見える。

「ドレスに合わせて、ちょっといじろうかぁ」

これまたおしゃれなカチューシャを使い、まるで何てことないようにレフィトは髪型をアレンジしてくれた。

「すごい……」

「カミレが気に入ってくれたなら、嬉しいなぁ」

そう言うレフィトの声が嬉しそうで、何だかキュンとした。

「レフィトの手は、魔法使いみたいだね。こんなに可愛くしてくれたんだもん。ありがとう。いつか、ウィッグじゃなくて、私の髪でもやって欲しいなぁ」

ちょっと図々しかったかな。でも、これが本音だ。

「いつかじゃないよ。ウィッグ外したら、オレがやるからねぇ。楽しみにしてて」

背後から耳元で 囁(ささや) かれ、座面から滑り落ちるかと思った。

急に色気のある声を出すのは、やめて欲しい。心臓がピャッてなるから。

囁かれた左耳を押さえ、文句の一つでも言おうかと振り返る。振り返ったら、言いたいことを全部忘れた。

「ふふっ。かーわいい。カミレは、栗色の髪も似合うねぇ」

だって、レフィトがご機嫌でにっこにこなのだ。

犬耳にしっぽがブンブン振れている幻覚が見える。

「はい、これもつけてねぇ」

さっきとは違う仮面が出てきた。こっちの方が派手でファサファサがついている。

受け取った仮面をつけている間に、レフィトはショールも羽織らせてくれた。

「うん。いい感じだねぇ。オレも少しだけ変えるから、ちょっと待っててねぇ」

テキパキとレフィトは変装をしていく。

ウィッグをつけて、私と同じ、肩で切り揃えられた栗色の髪になる。ハットを被り、蝶ネクタイをつけ、手鏡を見ながら、化粧道具でそばかすを描いていく。

「どう?」

「……誰?」

レフィトの面影はある。よく見れば、レフィトだ。

だけど、パッと見で気付ける自信はない。

少し……とは、一体……。

「えー。見てたでしょ? 愛の力が足りないなぁ」

ケタケタと楽しそうに、レフィトが笑う。

「職人技じゃん」

「そりゃ、職業柄、変装することもあるからねぇ」

騎士団って、国の治安を守るという目立つ職業のイメージだったけど、実はかなり暗躍してるんじゃ……。

「んじゃ、行きますか。馬車も家紋付きじゃないから、安心してぇ」

「……そっか。そんな心配まで必要になるのかぁ」

馬車を持たない我が家には縁のない話で、お金持ちって大変だな……と思う。

タイミング良く馬車の扉は開かれた。仮面をつけたレフィトが先に降りてエスコートをしてくれる。

「お兄様って呼んでねぇ。オレは、ミレイヤって呼ぶからさぁ」

なるほど。兄妹設定か。

ミレイヤ……。反応できるだろうか。

何だか、すごく緊張してきた。

「ミレイヤ、手を……」

そう言った声はいつもよりほんの少し低い。話し方も落ち着いてて、穏やかに微笑む姿は、レフィトなのに、レフィトじゃない。

「ミレイヤ?」

どうしたのぉ? と仮面の奥の瞳が聞いてくる。

慌てて手を重ね、馬車から降りた。

「じゃ、行こうか」

「はい。お……にい……さま…………」

は、恥ずかしいっ!! 顔が熱くなっていくのを感じる。

「それじゃ、兄妹じゃないってバレちゃうよぉ?」

くすりと笑われ、レフィトは私にだけ聞こえる声で囁いた。

心臓が速いのは、緊張かトキメキか……。

私の歩く速度に合わせて長い脚をレフィトは動かす。

歩き方まで別人とか、どうなってるの?

「 また(・・) だわ。一緒に出かけたくて計画したのだろうけど、 杜撰(ずさん) 過ぎて、お話にもならないわ」

「いつまで続くのでしょうか」

「叶わぬ恋というものは、より燃えるらしいわよ?」

「……パンセ。何でなの?」

さり気なく近付けば、ひとりのご令嬢だけは婚約者の名前を呼び、涙ぐんでいた。

そういえば、この子だけ俯いてて顔が見えなかったんだっけ……。

「ジャスミンちゃん……」

目に涙をいっぱい溜めた令嬢を、他の三人は 慰(なぐさ) めている。

ジャスミンちゃんと呼ばれた令嬢は、学園では見たことがない。雰囲気もいくらか幼い気がするし、年下かな?

こういう姿を見ると、取り巻きたちのクズさが増し増しに見える。

そう思ったのは、レフィトも同じだったようだ。仮面の下の瞳が一瞬だけど鋭くなった。

「先に入らない? ラムファも立ちっぱじゃ辛いでしょう?」

「私は大丈夫です。今日は調子が良いので。私よりもジャスミンちゃんを休ませてあげないと……」

「あちらが勝手にするのだから、こっちが先に入ったからと文句を言う権利はないわ。行きましょう」

「でも……」

慣れっこになってしまった三人に比べ、ジャスミンちゃんだけは、後ろ髪を引かれているらしい。婚約者の方を気にしている。

「パンセ……」

ジャスミンちゃんの声で、パンセと呼ばれた男の子が振り向いた。

彼も年下っぽい雰囲気だ。ジャスミンちゃん同様、学園で見かけたことはない。

……というか、ゲームでも見たことないよ? デフュームのストーリーしか記憶にないけど、メインの攻略対象の顔は分かる。

攻略対象じゃないとか? それとも、隠しキャラ? 悪役令嬢版のみのキャラの可能性もある。

「何?」

そっけない言い方にジャスミンちゃんの体が小さく震えた。

「あの……先に中に入ってるね」

「分かった」

それだけ言うと、すぐにマリアンの方を向いてしまった。

ジャスミンちゃんは悲しそうに瞳を揺らしている。

「行きましょう」

ジャスミンちゃんを連れ、四人が先に入ろうとした。その時──。

「まぁ! 大切な婚約者をひとりにするなんて駄目よ? 私たちも一緒に参りましょう? みんなでいた方が楽しいもの」

マリアンは、まるでジャスミンちゃんを心配するかのような表情で言った。

クソな取り巻き者たちは、何て優しいんだ……と感激し、彼等の婚約者たちは、ジャスミンちゃんをマリアンから見えないように自分たちの後ろに隠した。

「皆さんも、そう思いませんこと?」

ノーと言えないと分かってて、聞いているとしか思えなかった。

令嬢たちは曖昧に微笑み、マリアンは皆を引き連れて歩き出す。

楽しいのなんて、マリアンと取り巻きだけ。彼女たちの気持ちは、少しも考えていない。

それでも、文句の一つすら言えないのだ。きっと彼女たちは地獄の中にいる。

今日のために着飾った彼女たちは、どんな気持ちだったのだろう。

マリアン御一行とその婚約者たちの後ろ姿が遠ざかっていく。

私は何もできず、ただただ見送ることしかできなかった。