軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪役令嬢にざまぁされたくないので、準備を始めましょう①

本日のメインである、サーカスが行われる会場へと到着した。

「…………ここ?」

あまりにも立派な建物の前に馬車が止まったので、思わず馬車の窓から二度見してしまった。

「そうだよぉ。降りる前に、これ着けてねぇ」

そう言って渡されたのは、シンプルだけどオシャレな仮面。

何故、仮面?

そう思って馬車の外を見れば、仮面をしている人が大半だ。

「……変なとこじゃないよね?」

「違うよぉ。仮面は、プライベートだから話しかけないでねっていう合図なんだぁ。ほら、貴族って縦社会だからさぁ、目上の人がいれば挨拶しなくちゃなんないでしょ? あれ、話しかける方も、話しかけられる方も、面倒なんだよねぇ」

「なるほど」

確かに、家族や恋人との時間を邪魔されたくないって人は多そうだ。そう思うと、この仮面システム、なかなか合理的な気がする。

「あ……」

「あー……」

私の声で窓の外を見たレフィトは、あからさまに嫌そうな声を出した。

「あーいう例外もいるんだよねぇ」

その例外というのは、マリアン御一行だ。

マリアンが取り巻きたちを引き連れて、移動している。仮面はつけておらず、挨拶に来る貴族たちに笑みを振りまいている。

仮面を外して挨拶に向かう貴族までいるのだから、大人気だ。

「すごいね。一回りも二回りも歳上の人たちが、頭を下げてるのが普通なんだね」

「公爵令嬢で、王子の婚約者とくれば、王家の次に権力者だからねぇ」

そんな相手からのざまぁを回避しなくちゃならないとか、不幸としか思えない。

ここが悪役令嬢がヒロインの世界だと気が付いてから、速攻攻略を諦めたし、それ以前もイベントを待っていただけで自主的に動いたことはない。

大人しく過ごしていたから、普通に考えれば、ただのクラスメートで、関わり合いも最低限であったはず。

それが、今ではすっかり敵対してしまった。強制力でも働いたのだろうか。

でも、この世界の全てに強制力があるわけじゃない。もし、全てに強制力が働けば、レフィトが私の隣にいることはなかったから。

「少し待ったら、いなくなるかな?」

「開演までには、席につくんじゃないかなぁ」

仮面をつけていようと、絡まれる気がする。

そう思ったのは、私だけではなかったらしい。レフィトも待つという選択をしたようだ。

「今日は婚約者とのデートだったみたいだねぇ」

「…………えっ?」

そんな馬鹿な。どう見たって、マリアンと取り巻きたちだ。

まさか、マリアンと王子のデートの邪魔に来たとか? そうだとしたら、無粋を通り過ぎて、空気読めな過ぎじゃない?

取り巻きたちの婚約者の姿なんて…………。

「……いた」

嘘でしょ? 婚約者と来たのに、放置してるの?

しかも、婚約者さんたち、手に仮面を持ってるよ? ということは、プライベートです! って、つけた仮面を外させてマリアンのところに挨拶に向かわせたってこと? 自分が行きたいから?

「最低」

「うん。最低だねぇ」

クズだ。人間として、本当にクズ。

デート中に、他の女のケツを追いかける馬鹿がどこにいるって言うんだ! あそこにいるけどね!!

「でも、あーいうのはよくあることなんだよねぇ。ほら、見てみなよ。すんごい冷めた目はしてるけど、怒ってないでしょぉ?」

そう言って渡されたのは、双眼鏡。

準備がいいな……と思いながら覗き、四人のご令嬢を見る。

ひとりは俯いてて表情が見えないが、他の令嬢たちは口元に笑みを浮かべている。見ただけで震え上がりそうなほど冷めた視線をマリアン御一行に向けながら。

「怖っっ!!」

「怒ってるより、怖いよねぇ」

レフィトは笑ってるけど、この恨みは相当だと思う。積もりに積もったものがあるやつだ。

想像はしていたけど、これは取り巻きたちヤバいんじゃない?

家のために婚約してるけど、心のなかでは既に見放されてるんじゃない?

「なんか、味方になってくれそうな気がする……」

「どうだろねぇ。家が関わってくる話だから、簡単にはいかないよ。近くに見に行きたい?」

「……どうやって?」

「変装道具、実はいくつか乗せたんだぁ。ウィッグと扇子だけでも雰囲気は変わるよ? 残念ながら、ドレスは変えられないけどさぁ。ショールを羽織れば、少しはマシかなぁ。となると、問題は髪型かぁ……」

そう言って、レフィトは私の頭に視線を向けた。

私の髪は、過去最高に可愛くおしゃれになっている。編み込みもあれば、豪華さを出すために一部をクルンと巻いてくれている箇所もある。ところどころについている小さなお花の飾りも最高のバランスだ。

それが、ウィッグを着ければ、確実に台無しになってしまう。

私自身で復元は不可能。ポニーテールが限界な私にとっては、未知の領域だ。

「凝ってるもんね。おしゃれだし、何故か横になっても崩れなかったし、どうなってるんだろ」

「ここまでじゃなければ、オレもできるけど、やっぱりクオリティが下がるんだよなぁ」

……ん? レフィトができるの? 何で?

「カミレの髪を結いたくて、練習してんだよぉ。まだ、アンほどのものは無理だけど。できることは、何でもオレがやりたいしさぁ」

す、すごい……。私よりも確実に女子力が高い。

レフィトみたいな人のことを、スパダリって言うんじゃなかろうか。

「ねぇ、ビックリしてるけど、肝心なところ聞いてたぁ? カミレのことは、何でもオレがやりたいのぉ。覚えといてよ?」

「何でもって……」

何だ? 何でもって。

「髪乾かしたり、服選んだり、髪結んだり、ご飯食べさせたり、何なら移動も抱っこで──」

「途中から、介護じゃん!」

あ、思わずつっこんじゃった。

今、そんな雰囲気じゃなかったはずなのに。

「か……介護って…………」

レフィト、泣かなくても……。

ある意味、すごい喜んでくれてるしいいのかな。笑い過ぎて、息できてないみたいだけど、大丈夫なのか?

「しっかりー」

笑い過ぎて、息も絶え絶えなレフィトの背中をさする。

色気はないが、これはこれで私たちらしくていいのかもしれない。

「今、私がしてるのも介護? いや、これは介抱かな」

「も……、ほんと……やめ…………」

馬車の外は殺伐としているけど、ここは平和だ。

髪をほどかないといけないからアンには悪いけど、少し近づいてみようかな。話しかけるまではいかなくても、分かることがあるかもしれない。