軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孤児院へ行こう③

「久しぶり。元気してたぁ?」

「はい。レフィト様もお元気そうで安心いたしました」

レフィトと院長先生が話している。

気心の知れた雰囲気に、思わずレフィトを見れば、まるでいたずらが成功したと言わんばかりの顔で微笑まれる。

「本当にご立派になられて……。隣にいらっしゃるお嬢様は、もしかして──」

「そう、オレの婚約者だよぉ」

へにゃりと嬉しそうにレフィトは話す。

婚約者という響きはいつだって緊張と共に、小さな胸の高鳴りを呼んでくるのだ。

「カミレ・ハオトレと申します」

建国祭に向けて学んだお辞儀を思い出し、ゆったりと頭を下げる。

「ご丁寧にありがとう存じます。私の方から名乗るべきでしたのに、ご挨拶が遅くなり、申し訳ございませんでした。私はサヴィオス修道院と孤児院の院長をしております、マーサと申します」

私と同じように院長先生はゆったりと頭を下げたあと、目尻のシワを深くさせ、顔を上げる。

「今は神に仕えておりますが、以前は、私も貴族だったのです。その頃、騎士団に勤めていた主人が、何度かレフィト様を家に招いたことがございました。お会いするのは、十年以上ぶりでございますね。お手紙をいただいた時は、本当に驚きました」

穏やかな口調のまま続ける院長先生に、修道院は女性の逃げ場でもあるという話が頭をよぎる。

まさかね。いや、でも……。

「ずっと、レフィト様のことが気がかりでございましたが、もう……大丈夫なのですね……」

「そっか。気付いてたんだねぇ」

「何が……とまでは分かりませんでしたが、察するものはありました。何もできず、申し訳なく思っており──」

「仕方ないってぇ。男爵夫人が侯爵家のことに口を挟むなんて無理だし。それよりも、まさか家の外にも心配してくれている人がいたなんてねぇ」

どこか寂し気にレフィトは微笑む。

けれど、すぐにその寂しさを隠すように、にこりといつもの笑みを浮かべた。

「昔話もこれくらいにして、サヴィオス修道院と孤児院について教えてよぉ。修繕工事は絶対として、他に何か困ってることはある?」

「……レフィト様。ここサヴィオスは、たとえ貴族の方であれど不可侵の領域でございます。援助をいただくわけには参りません。皆様一様にお断りいたしております」

院長先生は、迷うことなく言い切った。

けれど、援助や寄付なしに行っていくには限界があるだろう。

その証拠に、壁にはヒビが入り、すき間風が入ってくる。

「なら、何で会ってくれたのぉ?」

「援助はお受けできませんが、我々は来るものを拒みはしません。成人男性を修道院の中にお入れすることはできかねますが」

「援助に関しては、他の修道院は受け取ってるよねぇ? 公にはしてないだけだって」

「他所は他所でございます。受け取ってしまえば、逃げてきた者を守れませんから」

絶対に譲らないという強い意志を感じる。

きっと、こうやって修道女や子どもたちを守ってきたんだよね。

だけど、このままじゃたぶん駄目になる。

「……院長先生のお話はとても立派だと思います。ですが、それは環境がある程度整っている必要があるのではないでしょうか?」

私はここの生活を知らない。

けれど、建物と外の畑を見ただけでも分かることはある。

「栄養が足りず、衰弱している子どもはいませんか?」

「──っ!」

院長先生の目が見開かれる。

やっぱり、そうか。

見るからに痩せている院長先生は、きっと自分の分の食事も子どもたちにあげているのだろう。

「大人になった子どもたちはどうしてますか? 女の子なら、修道女になれますが、男の子の行き場はあるのですか?」

「街に住み込みとして、雇ってもらっています」

「満足な賃金はもらえているのでしょうか?」

院長先生はうつむいた。

守るために閉じたことで、守れない者が出ているのだ。

多数を守るために少数を切り捨てろとは言わない。

けれど、現状のままでは駄目だ。

何か、策が必要だよね……。

「修道院で、何か作って売れたらいいのにね。あ、でも……足元見られて買いたたかれるかな……」

「そうだねぇ。でも、それは信用できない者を相手にした場合じゃない? ほら、こういう時のためのカガチだってぇ」

あー、なるほど!

って、便利屋じゃあるまいし。

……でも、カガチさんなら適正価格で買い取ってくれそう。

「問題は、何を作るかだよね。カガチさんのお店なら、服飾系?」

「そうなるかなぁ。あとはカガチ伝手で商人を紹介してもらうとか?」

「たしかに! って、すみません。勝手に盛り上がってしまって……」

呆然とした表情で私たちを見ている院長先生に、頭を下げる。

「い、いえ……。援助ではなく、まさか金策の仕方を考えてくださるとは思わず……」

「援助はその場では助かりますし、稼ぐよりも額はいいでしょうけど、一回限りの可能性もありますから。長い目で見れば、自分たちで収入を得られるのが一番かと」

「あ、開始資金は、オレが貸すよぉ。これは援助じゃないから、きっちり返してよねぇ」

にんまり笑いながらレフィトが言う。

「ねぇ、需要があるものって何だと思う?」

「カガチ連れてくるべきだったねぇ。まさか、こうなるとは思わなくってさぁ」

「……どうなると思ってたの?」

「んー、そうだなぁ。カミレが何かしら動き出すとだけは思ってたかな」