作品タイトル不明
孤児院に行こう②
ど、どうしたらいいの……。
揺れる馬車の中、後先を考えなかった自分に、頭を抱えたい気持ちをぐっと抑える。
キスをしたまでは良かった。
けれど、この甘い、むず 痒(がゆ) い空気がつらい。
「レ、レフィ……ト……」
恐る恐る呼べば、レフィトはビクリと肩を揺らし、まだ赤さの残る顔で私を見る。
「な、何ぃ?」
「あ、その……呼んだだけ」
「そっかぁ……。ねぇ、カミレ」
「うん」
「オレも呼んだだけぇ……」
…………んぁぁぁぁぁあ!!
誰か、助けて!!
恥ずか死にそう……。
「あのさぁ……」
「うん」
「カミレ大好きだよぉ。ね、ぎゅってしていい?」
「……いつも聞かないじゃん」
何でこの空気の時に限って聞くの……。
そう思いつつ、少しだけ腕を広げる。
「いいよ」
恥ずかしすぎて、素っ気ない声が出た。
けれど、レフィトは嬉しそうにへにゃりと笑う。
「ありがとぉ」
強いけれど、優しい力で抱きしめられる。
広い背中に手を回せば、ほんの少しだけレフィトの腕の力も増した。
「……このまま帰りたいなぁ」
「えっ!?」
「ふふっ……。ちゃんと行くから大丈夫だよぉ」
くすくすと笑いながら、体温が離れていけば、いつもの雰囲気になっている。
あぁ、そうか。
レフィトが、そうしてくれたんだ……。
「……ありがと」
「何がぁ?」
「さぁ、何でしょう」
レフィトの肩にもたれかかる。
私たちは、ぽつりぽつりと会話をしながら、修道院への道を進んでいった。
***
「えっと……、ここが修道院なの?」
私の家から更に郊外へと馬車で進むこと四十分。
ついた先で見た光景に、言葉を失った。
ボロい、ボロすぎる……。
勢いよくぶつかったら、崩れるんじゃない?
修道院に行くってことに緊張してたけど、これは別の意味で緊張する。
そっと、そーっと歩かないとだ。
「そうだよぉ。ここがサヴィオス修道院。あっちが孤児院。あ、オレは孤児院には入れるけど、修道院は入れないんだぁ」
「えっ!?」
「男子禁制だからねぇ」
あ、なんかそんな話を聞いたことがあるような、ないような……。
「院長は孤児院で待ってるはずだよぉ」
「待たせてるの!?」
「そりゃ、貴族が来るんだし、待つのは当然かなぁ」
そ、そうか……。そうだよね。
自分が貴族という自覚がないせいかな。待たせてるとか、いたたまれない……。
孤児院の方に向かっていけば、雑草が生い茂っている。
その一角だけが畑となり、整備されていた。
「あ、カミレの家にあるやつだぁ!」
レフィトが畑を指差す。
「にんじんだね。孤児院でも育ててるんだ」
「……にんじん?」
「そうだよ。たまにレフィトも水やりしてくれてるでしょ」
きょとんとレフィトは首を傾げて、畑から視線を私に移す。
「オレ、にんじんに水やりしてたのぉ?」
「そうだけど、知らなかったの? スープの具材とか、お弁当にも入ってたことあるよ」
「教えてよぉ。というか、にんじんが実ってるの見たことないなぁ」
えっと、何を言ってるんだろう。
そもそもにんじんって、実るって言うの?
「にんじんは根菜だから、実ると言うより、土の中で育つと言う感じかな」
「根菜って、何?」
そこからか!
そうだよね。レフィト、じょうろの使い方も知らなかったもんね。
「土の中で育つ野菜のことだよ」
「……土の中で育つ。一つ抜いてみてもいいかなぁ」
「駄目だって!」
孤児院は自給自足なはず。
貴重な食料を勝手に抜くなんて、許されるわけがない。
「抜いてみたいなら、今度 家(うち) でやろう? 種まきからやって、レフィトが育てみるのもいいし」
「──っ! やりたいっ!!」
あ、犬耳としっぽの幻覚が見える……。
「カミレ、野菜育ててたんだねぇ。すごいねぇ……」
ほぅ……と感嘆のため息をこぼすと、レフィトは嬉しそうに笑う。
「カミレといると、新発見がいっぱいだね」
「私もだよ」
名ばかりの貴族令嬢の私と、侯爵令息のレフィト。
育った環境があまりにも違う。
価値観の違いに驚くことも多いけど、それすらもレフィトといると楽しいのが不思議だ。
「って、院長先生を待たせてるんじゃなかったっけ?」
「そうだよぉ」
「急ごう!」
大きいけれど、かなり 老朽(ろうきゅう) 化してそうな建物の扉をレフィトがノックする。
「お入りください」
中から返事が聞こえ、私たちは扉をくぐる。
「お待ちしておりました。このような場所まで来ていただき、ありがとう存じます。どうぞ、おかけください」
木の椅子を勧められ、座れば、ぎしりと椅子が鳴る。
視線のみで室内を見れば、掃除は行き届いているものの、壁にはヒビが入っていた。