作品タイトル不明
修道院へ行こう①
春休みに入った。
学園に行かない長期休暇中、レフィトは騎士団での仕事が増える。
「カミレ、おはよぉ」
「…………ぉ……はよ……」
「ほら、早く着替えてぇ。部屋の外で待ってるからぁ」
ん……朝ごはんは…………。
ぁ、駄目かも…………。
──コンコンコン。
「カミレ、起きてるぅ?」
「…………」
「あ、やっぱり寝てる! お義母さーん、カミレ寝ちゃいましたぁ」
遠くでレフィトの叫ぶ声がする。
何で、叫んでるん……だろ。
浮上した意識は、すぐにまた夢へと落ちていきそうになる。
「もう。レフィトくんをあんまり待たせちゃ駄目よ。ほら、着替える!」
「髪はオレがやってもいいですか?」
「ふふっ、分かったわ。着替え終わったから、入っていいわよ」
「はーーい」
ふわりふわりとする意識の中、ガチャリとドアが開く音がして、レフィトとお母さんが入れ替わる。
「朝食と昼食は、お外で食べるのよね? 夕食は食べていく?」
「ありがとぉございます。いただきます」
「じゃ、準備しておくわね」
そう言うと、お母さんは部屋から出ていった。
「今日はどんな髪型にしよっかなぁ。動きやすい方がいいよねぇ。……って、まだ寝てるかぁ」
「…………起きてるょ」
「うんうん。こういう時のカミレはだいたい寝ぼけてるからなぁ」
クスクスと笑う声が気持ちいい。
「…………ぁれ?」
「あ、起きた? おはよぉ」
「おはよう。……って、起こしてよー」
「今日も起こしたって。寝起きのカミレ、可愛かったよぉ」
あぁぁ……、恥ずかしい。
レフィトが起こしてくれるのが定番となって、ずいぶん経つけれど、やはり慣れない。
自分で起きれればいいのだけど、どんなに目覚ましをかけようと、早く寝ようと、寝起きの悪さだけは治らないのだ。
「今日は後ろに一つにまとめたよぉ」
手鏡を渡してくれる。
「わっ! 編み込みも入ってる。可愛い」
「でしょぉ?」
ご機嫌にレフィトが笑う。
「じゃ、準備もできたし行こうかぁ」
「え? どこに? それに私まだ着替えて……る!? 何で!?」
まさかレフィトが……。いやいや、レフィトがそんなことするわけないって。
ということは、無意識に自分で──。
「お義母さんが着替えさせてくれたよぉ」
「あ、そうなんだ……。って、えぇ!?」
こ、高校生にもなって、母に着替えさせてもらうとか……。
「……? もしかして、オレに着替えさせてほしかったのぉ? でも、ごめんね。婚姻前に、さすがにそれはできないやぁ」
「ち、違うからね!」
「真っ赤になってて、かーわいい。もしかして、想像しちゃ……」
そう言いながら、レフィトの顔が赤くなっていく。
「想像しないで!」
「ご、ごめん!!」
な、何だこのラブコメみたいな展開は……。
恥ずかしくって仕方ない。
「そ、そう言えば、今日は騎士団お休みなの?」
私服姿なので聞けば、まだ赤さの残る顔でレフィトは頷く。
「うん。だから、今日は一緒に修道院に行こうかと思ってぇ」
「そうなんだ。……って、私聞いてないよ?」
「今言ったからねぇ。だって、知ってたら事前準備するでしょぉ?」
「むしろ、それが大事なんじゃないの?」
何を持っていっていいのか。
お手伝いができるのか。
できるなら、何を優先してすべきか。
考えていきたいことは、たくさんある。
私はお金がないから、寄付という形は難しい。だからこそ、事前の下調べと準備をしたい。
「かもねぇ。でも、そうしたらカミレはオレと遊んでくれなくなるでしょぉ?」
「え?」
「今日はあくまでもどんなところか見に行くだけ。そこでカミレが必要だと思うものを用意したらいいんじゃない?」
たしかに、そうかも。
人から話を聞いただけでは、本当に必要なものは分からない。
自分の目で見て、当人に聞くのが一番だ。
「さ、行こうかぁ。朝食は途中で買って食べようよぉ」
「うん。ありがとう」
エスコートしてもらって、馬車に乗る。
いつの間にか、このふかふかなクッションも当たり前になっている。
「慣れって怖い……」
「何がぁ?」
んー、何て言うのかな。
「レフィトがいない生活はもう考えられないなって思っただけ」
そう答えれば、レフィトは琥珀色の瞳を瞬かせ、へにゃりと笑う。
犬耳としっぽの幻覚が揺れている。
「カミレのいない生活を送る気はないからねぇ」
聞きようによっては、物騒な言葉だ。
でも、それが嬉しい。
「うん。ずっと一緒にいてね」
「当たり前だよぉ」
頬に手を添えられ、レフィトの方を向かされる。
あ、これキスされるやつ……。
そう思って目を閉じれば、鼻先に唇が触れた。
「へへっ」
頬を赤くして、無邪気に笑う姿に、胸がギュッと締めつけられる。
「レフィト……」
今度は私がレフィトの頬に触れれば、スリっとすり寄ってくる。
可愛い……。大好き……。
「目、つぶって?」
この日、私は初めて自分からレフィトの唇にキスをした。