軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう二度と傷つけさせたりしない②〜レフィトside〜

次の日、カミレを自宅へと送り届け、その足で親父のいる騎士団へと向かう。

寝食の時間を除き、常に鍛錬や騎士団業務を行う親父と話すには、相手の都合を考えるだけ無駄だ。

「……話があるんだけどぉ」

剣を振るう親父に、ほんの一瞬ためらいながらも話しかける。

「…………」

剣の動きは止まり、無機質な視線がオレへと向く。

あぁ、またこの目か……。

子どもの頃から変わらない、オレへの興味なんて微塵もない目。

この目を見ると、オレの存在が揺らぐ。

いつだって、オレを見てほしいのに、見られることが恐ろしかった。

「ここじゃ言えない話だから、場所変えていいかなぁ?」

「訓練中だ。その口調も直せ」

「急ぎだから、話しかけてるんだよぉ。口調については、余計なお世話。これで迷惑かけたぁ?」

「みっともない」

久々に話したけど、やはり何も変わらない。

ため息をのみ込み、へらりと笑う。

「国王に直訴する文書を送ったんだけど、本当に聞かなくていいのぉ?」

「聞いてないぞ」

射殺すような視線を受け止める。

……オレは、この人の何が怖かったのだろう。もう力で負けることはなく、期待することもないから落胆することもない。

それでも、話しかけることに緊張したのは、子どもの頃の記憶のせいだろうか。

「今、言ったからねぇ」

親父は舌打ちをすると、副団長へこのあとの指示を出し、無言で歩き始める。

その姿に呆れながらも、話をするという第一関門をくぐり抜けたことに小さく息を吐く。

着いたところは団長室。

視線だけで部屋の様子を確認していく。

飾られている数少ない調度品は、子どもの頃から変わらない。物自体は良いのだが、今の流行と大きくかけ離れている。

ここに来るのは、いつぶりだろう。

良い思い出なんてないのに、何一つ変わらない部屋に、昔の記憶がよみがえる。

***

「──なさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

謝る以外の選択肢はなく、引きずるように連れてこられるのは、いつだってこの部屋。

「何故、できない」

普段はオレに対して関心もないのに、この時ばかりは向けられる感情の籠った視線。

「できないなら、出ていけ」

どこを、とは言わない。

「俺の子であるならできる」

「ご……ごめんなさい。ごめんなさい。絶対にできるようになります」

「いつまでだ」

「きょ、今日。今日中に……」

震える声と体。下がったまま上げられない視線。

苛立ちを隠すこともなく聞こえる舌打ち。

息子として『失格のらく印』を押されないことに必死だった。

騎士団の誰かの前でオレを責めたりはしない。

ゆくゆく騎士団長にしたいオレを軽く扱わせないために。

大切にされているわけではない。

できなければ、捨てられる。

あまりにも明確で、強くさえなれば、この目に映してもらえると信じていた。

***

「早く話せ」

親父は革張りの執務椅子に腰をおろすと、それだけを言う。

オレが座ることは許されない。

どれだけ強くなろうと、関係性は変わらなかった。

「はいはい。ログロスがオレの婚約者に怪我をさせた。だから、国王へ直訴した。以上だよぉ」

「意味が分からん」

「オレからすれば、これで意味が分からないことの意味が分からないんだけどぉ?」

オレと同じ琥珀色の瞳に、苛立ちが灯る。

この男に、何故オレは期待していたのだろう。

「それは、ラルトロス辺境伯家の問題だ」

「そうかなぁ。ログロスを諫められない王子の力量不足じゃない?」

「…………王家を愚弄するのか?」

立ち上がり、低く平坦な声で聞かれる。

頷いたら、剣でも抜きそうな勢いだ。

「事実を述べただけだよ。信奉するだけじゃ、国を守れない」

「国が危ういと?」

「このままだと、国よりも優先するものがある人物が国を治めることになるからねぇ」

眉間に深くシワを刻み、親父は再び腰をおろす。

殺気は漏れたままだが、話を聞かせる段階になれた。

「入学当初、学園内は元々第一王子派と関わらない者だけで構成されていた。けれど、今は第二王子派が生まれている」

やはり知らなかったらしい。

まだ学園内でのこと。

けれど、その者たちが卒業した時。

国を動かす世代になった時。

不穏分子へとなる。

「王子は、マリアン嬢のためなら何でもする。それに気付いていないのは、王子と側近候補たちくらいじゃないかな……」

それでも、マリアン嬢が慈悲深いと誰もが信じていた頃は良かった。

「親父はさぁ、第一王子に王位を継がせたいの? それとも、国を守りたい?」

さぁ、言え。

答えは一つだろ。

「国に決まってる」

「だよねぇ。だから、オレは国王に訴えるんだよ。このままでは、国が傾いていくから。これは、国のためなんだ」

その言葉に、親父の目の色は変わった。

話さえ聞かせられれば、なんて簡単なんだろう。

国に忠誠を誓い、何も考えずに国王を信奉していたこの男は、自身で思考するということを忘れてしまった。

国のためという言葉は、甘美な響きとして脳を侵していく。

オレが恐れていた大きな存在は、こんなにも小さかったのか……。

「ルドネス家の意向として、話してもいいよね? 国の未来のために」

あぁ、カミレに会いたいな。

オレの唯一に。