軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう二度と傷つけさせたりしない①〜レフィトside〜

ハイレンが出ていって、部屋にはカミレと二人になる。

カミレの頭には包帯が巻かれていて、痛々しい。

「ごめん……」

堪えきれなくてこぼれ出た。

その途端、止まっていた涙が再び真っ白なシーツへと落ちていく。

カミレがログロスに突き飛ばされた瞬間、オレは何もできなかった。

机に向かって背中から倒れ、頭から血を流したカミレにただ気が動転した。

何も考えられなくて、体が震えて、カミレの名前を呼ぶことしかできなくて……。

そんなものじゃ止まるわけもないのに、カミレの傷に震える手でハンカチをあてた。

ハンカチはみるみるうちに赤く染まって、現実に思えないのに血は温かくて、涙だけがオレの目から落ちていく。

ネイエ嬢たちが動いてくれて、カミレが「大丈夫だよ」と口にして、やっとほんの少しだけ思考が動いた。

病院に連れて行って、手当てをしないと!

そんな状況下で、一番冷静なのはカミレだった。

頭から血を流したまま、王子たちと渡り合い、責任を有耶無耶にさせなかった。

「守れなくて、ごめん……」

こんな言葉、オレ自身が苦しみから逃げるためのものだ。

それでも、言わずにはいられない。

「レフィトが謝ることじゃないよ」

「うん……」

カミレなら、そう答えるってわかっていた。

わかっていて聞いた。聞かずにはいられなくて。

「今回のことは、事故だから。まぁ、煽った私にも原因があるけど」

「──っ。そんなわけない!」

「ううん、あるよ。でも、私も悪くない。もちろん、レフィトも」

そう言って小さく笑うと、カミレは細い指先でオレの目尻に触れる。

「心配かけて、ごめんね」

言わせて、しまった。

オレが……弱いから。

何があっても、カミレを守るつもりでいた。

学園で誰よりも強い自負もある。

けれど、結果はこれだ。

「オレ、もっと強くなる」

もう二度とカミレを傷つけさせないように。

そのためにも、動かないと。

「カミレ。オレ、王子を失脚させるよ。危害を加えられなければ、放っておくつもりだった。でも、もう駄目だ。この国で生きていくなら、排除しないと……」

「ちょ、ちょっと待った!」

「うん?」

「話が飛躍しすぎじゃない!?」

慌てた様子でカミレは言う。

けれど、もう止まるつもりはない。

「ねぇ、カミレ。今回は、カミレだった。じゃあ、その次は? カミレじゃなく、別の相手かもしれない。アザレア嬢やネイエ嬢だったら?」

カミレが視線を揺らす。

きっとそうなったら、カミレは自身を責めるよね?

自分自身のことは、すぐにのみ込んじゃうし、出来事をうまく利用しようと動く。けど、他人相手なら、そうできないでしょ?

その優しさを、もっとカミレ自身にも向けてよ。

「それに、次はもっと大きな怪我をするかもしれない。命に関わるようなことが起こる可能性だってある」

だから、潰す。

今までのオレは甘かったんだ。

事態を静観して、カミレが望まないからと準備だけを進めて、そんな甘さが今回のことを招いた。

「このことは、正式に国王へ直訴する。ルドネス侯爵家の婚約者に怪我を負わせたんだ。言い逃れなんかさせない」

「──っ!? い、一回、落ち着こう? 国王様にって、国レベルの問題になっちゃうって!」

そう言うカミレの顔色が悪い。

普段から色白なのに、今は血の気がない。

「……もう横になって」

「でも!」

「このままだと倒れちゃうから」

ゆっくりと横たわらせ、掛け布団を肩がすっぽり入るように掛ける。

「ねぇ、国王様にってどういうこと?」

「カミレさ、覚えてる? オレが王子の監視係だって話したこと」

掛け布団から手を出し、小さく頷くカミレの手を両手で包み込む。

「その役目を、オレはもう辞退してるんだけど、他の監視係からこの件は報告がもういってるはずなんだ」

「そう……なの?」

「うん。だから、カミレが気にすることないよ」

そう話せば、ホッとしたように小さく笑う。

きっとログロスがしたことは、わざとじゃなかったとでも思っているんだろう。

たとえそうだとしても、今回のことは許されることではない。

カミレが言った第三者を交えた話し合いは、国王や重鎮たちを交えたものになるだろう。

その時に有利にことを進めるためには、親父の協力が必要か……。

最後にまともに話したのは、いつだったっか。そもそも、今までに会話らしい会話をした記憶も怪しい。

「少し、休んで……」

「うん、ありがとう。レフィトも、帰ってゆっくりしてね」

「カミレが寝たのを見たら、帰るね」

「絶対だよ。休まないと駄目だからね」

そう言いながらも、カミレの瞼はとろとろと落ち、空色の瞳は閉じられていく。

「おやすみ、カミレ」

「おやすみなさい……」

いつもよりゆったりと小さな声で答えたあと、すぐに一定のリズムでの呼吸が聞こえてきた。

疲れていたのだろう。

「さて、どうやって親父を説得してルドネス家の意見として直訴するかだなぁ」

でもその前に。

今日はカミレの隣にずっといよう。

「今度こそ、守るよ……」

もうこんなことは起こさせない。

生きているのを後悔するほどに、地獄を見せないと。

気付けば海の底へとゆっくりと引き込まれ、二度と地上には帰れないように。どこまでも、徹底的にね。