軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編 繋いだ手

三日続いた建国祭も、今日で最終日。

私はレフィトと一緒に、建国祭の最終日に行われる演奏会という名のコンクールを見にやって来た。

チケットを渡して中に入れば、応援ボードを握りしめている元隣の席の男子が見える。

そう、今日はレフィトに席を交換させられた男子生徒──ノースくんの婚約者が演奏会に参加するのだ。

応援ボードの作成を直接手伝うことはできなかったけれど、やり方を書いた用紙を渡したところ、そのお礼にと演奏会のチケットをもらったのである。

「バイオリンは、まだ先みたいだね」

そうレフィトに話しかけた時、急に鼻がむずむずした。

ま、まずい静かな会場でくしゃみとか……。

あぁ、でもこらえられない……。

「──へ、ヘックション」

あぁぁぁぁぁ……。やってしまった。

うぅぅ、周りの視線が痛い。

「大丈夫? 寒くない? ブランケットかける?」

「鼻がむずむずしただけだから、大丈夫だよ。ありがとう」

恥ずかしさと居た堪れなさで体を縮こませながらそう答えると、レフィトは心配そうにオロオロとした。

そして、そっと私の手に触れる。

「ちょっと指先冷たいねぇ。念のため、温かくしよう?」

うー、優しさが沁みる……。

大丈夫だけれど、優しさが嬉しくて頷いたのだが──。

あ、暑い……。かけ過ぎだよ。

「レフィト、三枚は多いかな」

「そうかなぁ。でも、風邪引いたら大変だし……」

「でも、ちょっと暑いかも。一枚あれば十分だよ?」

「本当に? ホントのホントに、寒くない?」

すごく必死に聞かれ、思わず三枚かけようかとも思った。

だけど、暑くなって汗をかいたのが冷えて、本当に風邪を引いたら、レフィトはすごく悲しむ。

「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。寒くなったらもう一枚使わせてもらうね」

「うん。絶対、そうしてねぇ。少しでもしんどくなったら……、ううん、何か変だな? ってちょっとでも思ったら、我慢せずに言って」

なんてお世話を焼いてもらっている間に、演奏会は始まった。

ピアノやフルートなどの様々な楽器や、美しい歌声、そのどれもが素晴らしく、一曲終わる度に惜しみない拍手を贈る。

「次みたいだね」

入口で配られていたパンフレットを指差してレフィトの方を向けば、ちょうどレフィトも私の方を見た。

「あっ……」

もう少し近付いたらキスしてしまいそうな距離に、思わずのけぞる。

「今、オレのこと 避(よ) けた?」

ズンッとレフィトの纏う空気が重たくなる。

あぁぁ……。しょんぼりとした犬耳と、ぺったりと下へと下がったしっぽの幻覚が……。

「よ、避けたんじゃなくて、緊張しちゃっただけ」

「緊張?」

「だ、だって、昨日は一緒にいたけど、最近はふたりで過ごせる時間が少なかったし、距離が近いと何だかすこくドキドキして落ち着かないっていうか……。ドキドキしたら、どうしたらいいのか分からなくなっちゃって……」

しどろもどろしながらも、自分の気持ちを素直に話せば、またレフィトの顔が近くなる。

そのことで、顔に熱が集まっていく。

「本当だ。真っ赤だねぇ」

くふくふと嬉しそうにレフィトが笑う。

「熱が出たわけじゃないよね?」

そう言いながら、おでことおでこをくっつけられ、レフィトの顔がぼやけるほどに近い。

「ち、近いよ……。からかわないで」

「からかってなんかないよ。でも、オレとしては、もっと近い方がいいなぁ」

おでことおでこが離れると、レフィトはこてりと私に寄りかかる。

とは言っても重さはほとんどなくて、レフィトのくっついているところがただただ温かい。

その温もりがもっと欲しくて、ドキドキしたまま私もレフィトの方へとほんの少し体重を預けた。

「カミレ……」

囁くように呼ばれ、レフィトの方に視線を向ける。

すると、何かが私の唇にほんの一瞬だけ触れて離れていった。

「…………え?」

状況が理解できず、ただただ呆然とレフィトを見れば、もう一度、レフィトの唇が私の唇に触れて離れていった。

「────っ!! ま、周りに人が……」

「うん。でも、薄暗いし周りからは見えないから大丈夫だよぉ」

一昨日は「キスは、もう誰にも会わなくていい時にさせて?」って、言ってたのに……。

「人前では駄目だよ……」

「うん。ごめんねぇ」

穏やかに琥珀色は細まる。

あ、私が駄目って言うのわかってたやつだ……。

「レフィトのバカ」

そう言って睨めば、嬉しそうにレフィトは笑う。

「あ、始まるよぉ」

せっかくチケットをもらったというのに、ドキドキし過ぎて、演奏にあまり集中ができない。

演奏中、チラリとレフィトを見れば、微笑みかけられる。

その余裕そうな笑みに、ちょっとだけ悔しくなるけれど、それでも隣にいれるのが嬉しくて、自然と口角が上がっていく。

「また明日からカミレとたくさん一緒にいれるかなぁ」

「うん。我慢させちゃって、ごめんね」

レフィトはゆるく首を横に振る。

「大丈夫だよ。その間に、カミレの悪い噂の上書きしておいたし、あいつ等の親に匿名で手紙も出したからさぁ。たぶん今頃調べられてるはずだよぉ」

ある意味楽しそうに笑っているけれど、目の奥に光がない。

魔王様の降臨である。

「……危険なことだけはしないでね」

「うん!!」

けれど、それも一瞬のうちにいつものレフィトへと戻る。

嬉しそうに犬耳をピョコピョコさせ、しっぽは揺れている。

「カミレが心配してくれるの嬉しいなぁ」

「いつだって、心配してるよ」

「そっか。そうだよねぇ……。オレもカミレのこと心配してる。大切だから」

ちょっとさみしそうに、けれど嬉しそうに、レフィトは笑う。

繋いでいる手も、触れ合っている肩も温かくて、何だか胸がいっぱいになった。