作品タイトル不明
番外編 甘い視線と無理難題
建国祭もどうにか無事に終わり、学園も冬休みへと突入した。
そして、今日はクリスマスパーティーを家族とレフィトと一緒にする予定である。
「……そういえば、レフィトって誕生日いつなの?」
もう過ぎてしまっているという可能性にふと気が付いて、部屋の飾り付けをしながらレフィトに聞く。
「カミレ、高いところの飾りはオレがやるから。椅子に乗るの、危ないよぉ」
後ろからひょいと飾りを持っていかれ、椅子に乗ったまま振り返れば、いつもよりレフィトの顔が近い。
この間のキスを思い出し、顔に熱が集まっていく。
「これ、ここで大丈夫?」
「うん、ありがとう……」
「どういたしましてぇ」
ドキドキしながら、飾り付けをしてくれたお礼を口にした瞬間、レフィトは私をふわりと椅子から降ろした。
「次は絶対に呼んでねぇ」
「うん……。って、誕生日は!?」
そう聞けば、レフィトはこてりと首を傾げた。
「夏だよぉ」
「な、夏!?」
ってことは、まだレフィトと気持ち的に距離はあったけど、婚約してた時期だよね!?
「そっか……。お祝いしなくて、ごめんね。一緒にお祝いしたかったなぁ……」
自分のやらかしたことに、気持ちがぺしゃんと落ち込んだ。
知らなかったし、婚約解消をしたいと思っていた時期とはいえ、婚約者なのに何もしなかったのかぁ……。
というか、もっと早く誕生日を知らないことに気付くべきだった。
「ちなみに、日付はいつなの?」
「八月一日だけど、何でそんなに落ち込んでるの? 誕生日って、たかが生まれた日でしょぉ?」
心底不思議だと言わんばかりに視線に、思わずレフィトの手をギュッと握る。
「だからだよ! レフィトが生まれてきた日だから、大切なの!!」
「そうなの?」
「そうだよ! 来年は盛大にお祝いしよう。二年分……ううん、今までの分、全部祝おう!!」
つい大きな声で言えば、レフィトは驚いたように目をまん丸にしたあと、嬉しそうにくふくふと笑う。
「ありがとぉ。楽しみにしてるねぇ。でもオレ、今年の誕生日、カミレにプレゼントもらってるんだぁ」
「……え?」
何もしてないはず……だけど……。
「マグカップ、買ってくれたでしょぉ?」
でもそれって、レフィトがいつも送り迎えしてくれて、朝食のパンを買ってきてくれることに対するお礼だったよね?
それに、レフィトも私にマグカップをプレゼントしてくれたから、結局お礼にならなかったやつじゃ……。
「あの日、誕生日だったんだぁ」
「そうだったの!? 教えてよぉ……」
「うーん、誕生日がそんなに大切だって知らなかったからさぁ。ごめんねぇ」
「レフィトが謝ることじゃないよ。ごめん、もっと早くに聞くべきだった……」
落ち込んだところで、もうどうにもできないし、レフィトに気を使わせてしまう。
頭ではわかっているけれど、うまく気持ちを切り替えられないでいると、ポンと私の頭に優しく手が乗った。
「カミレ、ありがとぉ」
「……お礼を言われるようなこと、何もしてないよ」
レフィトは、ゆるく首を横に振る。
「オレの誕生日を大切だって言ってくれて、これから先の誕生日を楽しみだって思わせてくれてた。カミレはオレの知らなかったことをたくさん教えてくれるんだぁ」
「そんなこと──」
「ううん、そんなことあるよぉ。それに、カミレといると優しい気持ちになれるんだ。今だって、あたたかい気持ちになってる。だから、ありがとう」
レフィトの手は下がり、私の左頬を優しく包むと真っ直ぐに見つめてくる。
そして、柔らかに微笑み、顔が近づいてきた。
……ん? 顔が近づいてきた?
「ちょ、ちょちょちょっと待って!!」
「ん? どうしたのぉ?」
私の頬に触れたまま、硬い指先で耳を優しくなでられる。
な、何でそんなに色気MAXなの!?
「ここ、家でリビングだからぁっ!!」
「うん。でも、今はふたりきりだよぉ」
そう言われても、いつ親が帰ってくるかも分からないし、ここでキスしたらクリスマスパーティーの時にそのことが頭を過ぎるかもしれない。
そんなの、無理! 恥ずかしくって、耐えられる気がしない!!
「だ、駄目だよ。ここじゃ!」
「……わかったぁ」
レフィトの顔が離れていって、ホッとする。
嫌なわけじゃないけれど、やっぱり時と場所は大切だと思う。
「ここじゃなきゃ、良かったんだ?」
「…………へ?」
じわじわと顔に熱が集まっていく。
そんな私に、レフィトは珍しくちょっとイジワルな顔をする。
「赤くなって、かーわいい。あとで、キスしようねぇ」
「──しませんっ!!」
思わずそう言えば、レフィトはくすくすと笑う。
「ねぇ、カミレ。やっぱり今年の誕生日のプレゼントがほしいって言ったらくれる?」
「それは、もちろん。何でも言って! あ、でも、あまり高いものじゃないと助かるかな……」
というか、高級品は無理だ。
まぁ、レフィトもそのことは知ってるから、無茶は言わないだろうけど。
何がほしいんだろう? そういえば、レフィトってあまり物欲ないよなぁ……なんて思っていると、レフィトはにんまりと笑う。
「え?」
もしかして、安請け合いしちゃ駄目だったやつ?
いやいや、お祝いしたい気持ちは本当だし、レフィトは無茶を言ったりしないし……。大丈夫……だよね?
「キス、してほしいな」
「…………キ……ス?」
「うん。カミレからキスして? あとででいいから」
「────っっ!!??」
キス、私からキス…………。
突如現れた難題に、頭がくらくらする。
無理かも……と、熱い顔のままレフィトを見れば、すごく楽しそうで、無理だと言うことはできなかった。