軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アグリオとラムファ①〜レフィトside〜

ネイエ嬢に 嵌(は) められたのは気に食わないけれど、カミレのためにアグリオとラムファ嬢を見に行く。

リカルドから、アグリオに『ラムファ嬢の病は国外で治療をすれば治るものだ』と話したと聞いてからというもの、一応ふたりの動向に注意はしていた。

けれど、ふたりの関係性は聞いた通りギスギスとしたもので、変わりはない。

今日だって、変化はないだろう。そう思って見に行けば、ラムファ嬢の顔色が悪い。

薬の効果もあり、少しずつ元気になっていってはいたけど、ラムファ嬢は季節の変わり目や、暑さ寒さには弱い。それでも、 子どもの頃(昔) のように倒れることもなくなっていたはずだ。

それなのに、今にも倒れてしまうのではないかと思うほどに、明らかに具合が悪そうだった。

アグリオがいると聞いていたけど、いない?

ラムファ嬢が倒れたのをただ見てたなんてカミレには言えないし、声、かけた方がいいかなぁ……。

ホール内の端にあるソファに腰かけ、浅く息をしている姿に、少し 逡巡(しゅんじゅん) したあと、一歩踏み出す。

すると、急いだ様子でアグリオが戻って来た。

「ラムファ、水飲めるかい? 本当に薬をきちんと飲んでいるんだろうね?」

「私のことは大丈夫ですから。お気になさらないでください」

「そんなこと、できるわけないだろ……」

グッと眉間にシワを寄せてアグリオは言うと、ラムファ嬢の手に水の入ったグラスを握らせ、その隣へと腰をかける。

ラムファ嬢の顔を覗き込むように前かがみになったアグリオのピアスが、ちゃらちゃらと揺れる。

「……お願いですから、私のことは放っておいてください。マリアン様がアグリオ様を待っていますよ」

「今、マリアンは関係ないじゃないか」

「そう……ですね。アグリオ様にとっては、今は関係ないかもしれませんね」

「ラムファ?」

「では、はっきりと申します。今更、婚約者のように振舞われると困るんです。どうぞ、今まで通りお好きになさってください」

わーぉ。なかなか言うねぇ。

アグリオ、驚いちゃってるじゃん。

うーん、でもこのままだとちょっとまずいかぁ。オレには関係ないけど、やっぱり介入するかなぁ。

結果的にネイエ嬢を喜ばせたり安心させたりすることになると思うと、ものすごーく嫌なんだけど仕方がない。

カミレが悲しむ顔は絶対に見たくないから。

「ラムファ嬢、大丈夫?」

アグリオとラムファ嬢の座るソファの前にしゃがむ。

「ねぇ、座ってるだけでもしんどいんでしょぉ? 帰りの馬車は呼んだ? まだなら、頼んで来ようかぁ?」

アグリオの存在を無視して、ラムファ嬢だけに話しかければ、ラムファ嬢は戸惑ったような表情を浮かべた。

「レフィト、ラムファのことは俺がどうにかするから……」

アグリオにそう言われて、かちんと来る。

どうにかするって、何なんだろうねぇ……。

だけど、それを表に出すことなく、へらりとした笑みを貼り付ける。

「何言ってるのぉ? アグリオ役立たずじゃん」

「そんなことは……」

「ないって言い切れるのかなぁ? ってか、何でここにいるわけ?」

マリアンはいいの? と言いたいのが伝わったのだろう。アグリオはオレから逃げるように視線を外す。

あーぁ、情けない。ま、理由は知ってるけどねぇ。

でも、本当に何で今更? って思ってるからさぁ。

婚約者の病気についてもきちんと調べず、真実を知ったら、今度はべったり一緒にいるようになるなんて。

本当に自分本位で、気持ち悪い。

「……レフィトには関係ないだろ」

「そうだねぇ。でも、何で今になって? って思ったんだよぉ。余計なこと言って、ごめんねぇ?」

アグリオは言い返すことなく、ため息を一つこぼすと、この話を終わりにした。

昔からアグリオは、話しても仕方がないと判断したり、自身が不利だと感じた時点で諦めるから、こういう時は馬鹿ログロスや、しつこいデフュームに比べて楽ではある。

気に食わないことには、変わりないけど。

そう言えば、マリアンと一緒にいた時に一番話したのはアグリオだったっけ……。

「で、迎えは呼んだのぉ?」

「いえ、最後までいるので……。お気遣いありがとうございます」

小さくラムファ嬢は微笑んだ。

でも、この様子じゃ建国祭が終わるまでいるのは無理だ。

途中で倒れることになる。

「アグリオが嫌なら、ネイエ嬢を呼んでこようかぁ? それかカナ嬢とかぁ」

「本当に、大丈夫なんです。体調が良くないのは、いつものことですから」

「そうかもしれないけど、ラムファ嬢も分かっているでしょぉ? このままだと倒れるって」

オレの言葉に、ラムファ嬢はただ眉を下げて困ったように笑う。

「そうですね。でも、私には来年もこの光景を見られるのか保証もない。自分とは程遠いキラキラとした世界を目に焼き付けておきたいと願うのは、わがままでしょうか?」

まっすぐにオレを見たラムファ嬢に、小さく首を横に振る。

そっかぁ。もう、覚悟を決めてるのかぁ。

なら、オレが口を出す必要はない。オレがするのは、カミレを関わらせないことだけ。

だけど、もしアグリオの手を借りるということが嫌なだけなら、オレも考え方を変えないと。

「それは、カラコエ家の世話になりたくないからぁ? それとも、もうすべてをおしまいにしたいの?」

アグリオが息をのんだのが分かった。

たぶん、両方なんだと思うけど、ラムファ嬢は何て答えるのだろうか。

「誰かの重荷になって生きるのも、憐れまれるのも、もう疲れたんです」

「そっかぁ」

アグリオの重荷になるのも、アグリオに憐れまれるのも、嫌になったのかぁ。

あーぁ、アグリオが邪魔だなぁ。

「ねぇ、アグリオ。オレ、ラムファ嬢と少し話したいから、席外してくれないかなぁ?」

「何を言ってるんだ?」

「言葉のままの意味だよぉ。話すのに、アグリオが邪魔なんだよね」

「自分の婚約者が他の男とふたりで話すのを放っておくわけないだろ」

え? それ、アグリオが言うの?

散々、ラムファ嬢のことを放っておいた奴が言っていいことじゃないよねぇ?

「……レフィト様とお話するので、席を外してください」

「だが……」

「真実を知って、その罪悪感を消すためにそばにいられるの、迷惑なんです。お願いですから、放っておいてください」

「……分かった。だが、せめて水分は取ってくれないか。来てから、何も口にしてないだろう?」

かたい声で言うラムファ嬢を気遣うようにアグリオは言う。

その言葉に無言でラムファ嬢はグラスの水を半分飲んだ。

「もう少し飲めるか? もし、何か食べられそうなら──」

「いえ、今は大丈夫です」

「そうか……」

アグリオはラムファ嬢の手からグラスを取って、立ち上がる。

「話し終えるまでの間、そこの柱のとこにいるから。レフィト、終わったら呼んでくれ」

まるで仲が良好な婚約者のように振舞うんだなぁ……。

まぁ、元々このふたりの仲は良好ではあったもんね。

ラムファ嬢の我慢で成り立っていた関係ではあるけれど。