軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アグリオとラムファ②〜レフィトside〜

睨むようにこっちを見ているアグリオに、溜め息がこぼれる。

「申し訳ありません……」

「別に、ラムファ嬢が謝ることじゃないよぉ」

二人きりになった途端、耳を澄まさなければならなくなった小さな声。

やっぱりアグリオがそばにいると心強いのかねぇ?

「隣、座っても平気?」

「はい、どうぞ」

あっさり警戒心なくOKが出た。

けれど、あまり近くに座るのもどうかと思い、一人分の空間を空けてラムファ嬢の隣へと腰をおろす。

「私と一緒にいて、カミレ様は大丈夫なのですか?」

「うん、平気だよぉ。心配、ありがとねぇ」

「いえ……」

小さく首を横に振るラムファ嬢に、どう話そうかと考える。

直球で行くか、少し雑談を挟むか……。

「ラムファ嬢はさ、カミレを様付けで呼ぶんだねぇ」

「えぇ、カミレ様は次期侯爵夫人ですもの」

「オレとカミレの婚約に、何も思わないのぉ?」

「何も……ですか。お互いに想い合っているのが伝わってきて、とても素敵だと思います」

そうくるのかぁ……。

誰が相手でも親切丁寧、人見知りだから、前には出てこないし、話す相手も極一部。それでも、多くの人に慕われているだけのことはある。

「そっかぁ。ありがとぉ。……ねぇ、答えたくなかったら、答えなくていいんだけどさ、もしかして薬飲むのやめた?」

「……そんなに調子が悪そうに見えますか?」

「うん。今にも倒れそうな顔色してるよ」

「そう……ですか……」

ラムファ嬢は困ったように笑う。

質問には直接答えてないけれど、飲んでいないということで間違いないだろう。

「もしかして、アグリオに知られちゃった?」

「本当にレフィト様は、何でも知ってるんですね。きっとご想像通りだと思いますよ」

「じゃあ、アグリオの心の傷になりたいんだぁ」

ラムファ嬢は目をまん丸にしてオレを見たあと、視線をアグリオに向ける。

「もう、終わりにしたいんです。この恋心も、思うようにならない体も。アグリオ様の心の傷とまでは考えてませんでしたが、忘れられたくない……とは思っていました。四六時中、私のことだけを考えてとまでは言いません。ですが、どれだけ月日が経とうとも、永遠に私のことを忘れないでほしいんです」

「それは、なかなかの望みだねぇ」

儚(はかな) げに微笑むけれど、言っていることは強烈だ。

「死んでもなお、アグリオの中で生き続けたいんだぁ」

「えぇ。自分でも異常なのは分かっています。だけど、知られてしまったから。……知らないままなら、静かに何も行動を起こすつもりはなかったんですけどね」

「そんなにアグリオに薬のこと、知られたくなかった?」

知られたことで、こんなにも恋焦がれているアグリオがそばにいてくれるようになった。

決して、悪いことではないはずだ。

オレが同じ立場なら、恨みながらも喜んだだろう。

心が壊れるほどに苦しくて、そばにいられることが嬉しくて、おかしくなるだろうなぁ。

「ラムファ嬢は、よく正気を保ってられるね」

「ふふっ……、正気に見えますか? なら、まだ大丈夫ですね」

あぁ……、もしかしたら、オレの思い違いだったのかもしれない。

もうずっと前から、ラムファ嬢は普通と言われる範囲を超えていたんじゃ……。

「まさか、レフィト様が私にこうやって話しかけてくださるとは思ってもみませんでした。良い出会いだったんですね」

「うん、おかげさまでねぇ」

誰をとは言われなくても、カミレのことだと分かる。

オレとラムファ嬢は、恋と呼ぶのは重すぎる想いを胸に抱えていて、オレは運良く受け入れてもらえた。

違いはそれだけで、だけどその違いはあまりにも大きい。

「ねぇ、ラムファ嬢。もし、オレがアグリオに治療費を貸すって言ったら、どう思う?」

これは、完璧なお節介だ。

前のオレなら、絶対に口にすることはなかった。

ラムファ嬢はもう終わりにしたいと言っているのだから、放っておけばいい。

そんなことは分かっているのに、つい口から言葉が零れた。

「……誰かに貸すには、決して安くはない金額ですよ」

「そうだねぇ。でも、アグリオが本気なら貸してもいい」

十三歳で騎士団に入ってからというもの、ずっと貯めてきた。

騎士団内での剣術大会や、要人警護など、結果や働きに応じて給与とは別に支払われた特別報奨や危険手当、 国王(おっさん) 個人から受けた調査の報酬、すべて集めれば余裕でたりるはず。

それでも万が一足りなければ、カガチにでも頼れば何とかなるだろう。

「リカルド第二王子殿下からも似たようなご提案をいただきました」

「へぇ、リカルドは何て?」

「殿下の味方につけば、治療費をすべて支払ってくださると……」

「で、断ったわけかぁ」

ラムファ嬢は、小さく頷く。

「殿下につくということは、多くの高位貴族と対立することです。ずっと皆さんの後ろを追いかけて、それでも追いつけなかった私は、いつだって待ってもらわなければならなかった……。そんな私では殿下のお役に立つどころか、足を引っ張ってしまいます」

「そうでもないと思うけどねぇ。ラムファ嬢はさ、自己評価が低すぎるんじゃない?」

「そんなことは……。現に、いつもアグリオ様やネイエ様、カナ様のお世話にばかりなってますから」

「あの人たちがやりたくてやってることでしょぉ」

アグリオは世話焼きだし、ネイエ嬢やカナ嬢は面倒見が良い。

だけど、アグリオとネイエ嬢は一見誰に対しても友好的だけれど、人の好き嫌いが激しいタイプだ。

そのふたりに大切に思われるのは、ラムファ嬢の纏う穏やかな雰囲気や人柄のおかげだろう。

「本当にアグリオにお金を貸さなくていいんだね?」

「はい」

その返事に迷いはなく、意思の固さを感じさせる。

「じゃあ、アグリオがカラコエ公爵家で工面してもらえるようにしたとしたら?」

「あり得ませんよ。そうなったら、アグリオ様が苦手としているお兄様にも頭を下げることになりますし、何よりこれから先、カラコエ家のために生きなくてはならなくなりますから」

「自分の生家のために生きるなんて、貴族らしくていいんじゃないかなぁ?」

「そうですね……。でも、アグリオ様は望んでません。お気遣いは感謝しますが、私はこのままでいいんです」

そう言って笑うラムファ嬢は、何だか苦しそうに見える。

だから、既にらしくないことをしているのに、思わず言ってしまった。

「アグリオなんかのために、人生のすべてを使ってもいいの? アグリオが大事にしなかったことを後悔するような人になれば、四六時中ラムファ嬢のことを考えると思うよぉ」