作品タイトル不明
建国祭に行こう⑤
「え、マリアン様? カミレちゃんといったい何を……」
「アザレア、早くいらっしゃい?」
「は、はいですわ!」
慌てたようにマリアンの方へと向かいつつ、ちらちらとアザレアが私を見ている。
何が何だか分からないといった表情で、その隣ではゼンダ様は頭を抱えている。
「あ、あの、マリアン様?」
「ねぇ、アザレア。あなたはどうしてカミレさんと一緒にいるのかしら?」
「え? それは、カミレちゃんとお友だちになったからですわ」
「……盗みの冤罪をかけたのに? カミレさんには、許してもらえたの?」
「えっと、その…………」
アザレアは言い淀んだ。視線は泳ぎ、明らかにおどおどしている。
その姿に、まずいな……と思う。これじゃあ知らない人から見たら、謝罪が成立していないのに、アザレアが私と友だちだと言い張っているみたいだ。
実際、私はアザレアの謝罪を受け入れてない。そのことで、まさかこんな風になるなんて……。
「アザレアちゃ──」
「たとえ、そうだったとして、マリアン様は関係ありませんよね。たしかに、レアはカミレ嬢にひどいことをした。でも、レアとカミレ嬢は、良い関係性を築いています。それは、他者が口をはさむべきことではないかと」
「ゼンダ様⁉」
ゼンダ様はアザレアを隠すように、マリアン様の前に立った。
そうすれば取り巻きたちもまた、マリアンをかばうように前へと出る。
「ゼンダ、お前はいつからマリアンにそんな口を聞けるほど、偉くなったんだ?」
「そうですね。しかし、これではっきりしたじゃありませんか。アザレア嬢も、ゼンダも、マリアンを陥れようとしていると。強い光があるところに、影はつきものです。マリアンの悪い噂の原因は、あなたたちじゃないんですか?」
「わ、私、そんなことしてませんわ!」
「口では、どうとでも言えますからね。マリアンのためとか言って、勝手にカミレ嬢に冤罪をかけて、自身の立場が悪くなったら、今度はマリアンに命令されたと言い出すなんて、心底軽蔑しますよ」
冷たい視線をマリアンの取り巻きたちに向けられて、アザレアは肩を揺らす。
それでも、アザレアはまっすぐにマリアンを見た。
「私がカミレちゃんに冤罪をかけたことは、マリアン様のご指示でも何でもなく、私が自分で決めたことですわ。そのことで、マリアン様にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたわ」
「私、アザレアのことを怒っているわけじゃないのよ? ただ、貴族の令嬢としてのあなたの振る舞いを案じているだけなの。分かってもらえるかしら……」
「もちろんですわ。カミレちゃんの優しさに甘えている自覚はありますもの」
うん? なんだか、とってもいい話みたいなまとめ方してない?
マリアン、絶対に自分の立場を立て直すために、アザレアを呼んだよね?
何で、心配してあげたお優しいマリアン様になちゃってるの?
こんなの、おかしいって……。
「私、自分の意思でアザレアちゃんと一緒にいます。許すとか、許さないとか、どうして他人である皆さんがこだわるんですか? あと、デフューム様……」
「何ですか?」
「アザレアちゃんは、自分のためにと誰かを売るようなことは絶対にしません。冤罪をかけたことの謝罪を、アザレアちゃんだけがしてくれたんです。しなくたって、誰にも責められないのにですよ」
「だから何です? 謝罪をすることでの利益を見出しただけでしょう?」
「立場の悪い私に謝っても、利益なんかでませんよ。それと、デフューム様が言及したマリアン様が指示を出したという噂ですけど、アザレアちゃんは必死に否定していました。それを見ている生徒も多かったと思います。憶測で物事を言うのは、やめてもらえませんか?」
「それだって、作戦の可能性も……」
顔を歪めてデフュームは言うけど、それは無理だ。
だって、アザレアだもの。
もしそうなら、アザレアはずーっと演技を続けていることになってしまう。
「デフューム、もうおやめなさい。カミレさんの言う通り、アザレアはいい子よ。アザレアはカミレさんに謝罪をして受け入れられた。とても素敵なお話だわ。ね、皆さんもそう思うわよね」
マリアンが周りを見回して言えば、気持ち悪いくらい、取り巻きたちが一斉に頷いた。
「私もカミレさんが嫌な思いをしていないと知れて、安心したわ。アザレアも良かったわね」
そう言いながら、マリアンはアザレアに微笑んだ。
いつものアザレアだったら、嬉しそうに頷いただろう。
それなのに、アザレアの顔は青ざめている。
「では、私たちは参りましょうか。建国祭、お互いに楽しめるといいわね」
マリアンは取り巻きたちを引き連れて、去って行く。
思ったよりもあっさりと引いていく姿に、違和感を覚えた。
マリアンって、こんなに引き際が良かったっけ?
何より、アザレアの顔色の悪さが気になる。
「アザレアちゃん、大丈夫? 何か、言われたりとか──」
「マ、マリアン様が……」
「うん」
「私のこと、裏切者って…………」
猫のような眼に涙を溜め、震える声でアザレアは呟いた。