作品タイトル不明
建国祭に行こう①
建国祭の日が来た。
どうにかモネラちゃんから及第点をもらい、カッツェ家秘匿の地雷人物リストも覚えた。
ネイエ様から社交界での注意点も叩き込んでもらったし、大丈夫だと思いたい。
「……ちょっと見過ぎじゃないかな?」
「んー? だって、可愛いからぁ」
建国祭が開かれるお城へと向かう馬車の中、レフィトはずーっと私を見ている。
嬉しそうにへにゃりと笑う姿からは、いつも通り犬耳と大きく揺れるしっぽの幻覚が、こんにちはしている。
「レフィトの方が可愛いと思う」
「えー? カミレの方が可愛いよぉ。……でも、オレのこと可愛いって言ってくれて、ありがとぉ」
大きな手が私の手を握る。
もう手が繋がったくらいでは、緊張したりしない。だけど──。
「へへっ。カミレと一緒にいれるの、嬉しいなぁ」
「──っ!! …………私も」
こういう不意打ちは、未だに慣れない。
心臓がピョンと跳ねて、思わずちょっとぶっきらぼうな言い方になってしまった。
それでも、レフィトは八重歯を覗かせながら、嬉しそうに笑ってくれる。
「気持ち、おそろいだねぇ」
「うん」
「口数少ないねぇ。緊張してる?」
「うん、ちょっとだけ」
嘘。かなりしてる。
みんなに協力してもらった。大丈夫だと思うけど、それでも失敗したら……という不安は拭いきれない。
「そっかぁ。そうだよねぇ」
のんびり言いながら、琥珀色が私を見た。
優しい色をした瞳に、トクトクと心臓が鳴っている。
「大丈夫だよ。カミレ、すっごく頑張ってきたでしょぉ。所作も綺麗になったし、ダンスも見違えるように上手になった。あとカミレに必要なものは自信だよ」
「……自信」
「もし、自分に自信が持てないなら、アザレア嬢やネイエ嬢、オレを信じてよぉ」
「みんなを?」
「うん。そうだよぉ」
出会った頃からは信じられないほど穏やかに、レフィトは笑う。
「大丈夫、できるよ」
「何で、レフィトが自信満々なのよ」
「だって、分かるんだぁ。それに、たとえ失敗しても大丈夫だよ」
「え?」
「その時は、オレがフォローするから。はじめから完璧になろうとしないで? たまには、オレがかっこよくカミレを助けるからさぁ」
少しだけ冗談っぽくレフィトは言う。
そして、ちらりと八重歯をのぞかせて微笑んだ。
「それに、次の日までにはちゃんとお片付けするよぉ?」
「え? お片付け?」
「うん。建国祭は、一日じゃないからねぇ。もし、カミレを笑う奴も、貶めようとする奴も、横恋慕する奴も、みーんなオレがお掃除するから、安心してぇ?」
「…………え?」
「同じ目には、会わせないよぉ。本当は事前にどうにかできれば良かったんだけど、誘導することしかできなかったからさぁ」
「誘導?」
「そうだよぉ。ネイエ嬢の方につくように、令嬢を誘導したんだぁ。表面上ではマリアン嬢の味方でも、ネイエ嬢に情報を流しているんだぁ」
「それって、スパイじゃん」
「あはは、そうかもねぇ。問題は、間違った情報を流してくる令嬢もいることかなぁ。情報の精査を本当はもう少ししたかったんだけど、そこまでは時間が足りなかったんだよねぇ」
う、うわぁ……。
レフィトの悪い顔、久々に見たや。
味方だと心強いけど、敵には絶対に回したくない。剣の腕はもちろんだけど、裏工作みたいなのも得意なんだよね……。
「……引いちゃった?」
しょんぼりと俯き、チラリと私を琥珀色の瞳が見た。
あぁ……。今度は、くーんと鳴く幻聴までする。犬耳としっぽが元気なく、ぺったりとしちゃってるよ。
正直、ちょっと引いたし、「そんなことしちゃ駄目だよ」って言わなくちゃいけない。
だけど、しょんぼりレフィトが可愛すぎる……。こんなに可愛いレフィトに注意するなんて、無理だ。私には、できない……。
それに、私が駄目だよって言うの、レフィトのことだから分かってるんだろうなぁ。
「オレのこと、怒る?」
「そ、そんなことしないよ! だから、元気出して?」
「本当にぃ?」
「うん。本当……だよ? 私のためにしてくれたんだもんね?」
こくりと小さく頷くと、レフィトは私の膝へとぽすりと頭を乗せた。
そして、私の手をレフィトの頭へと持っていく。
「なでてくれるぅ?」
はい、喜んで!!
もう、全力で撫でさせてもらいますよ。
それにしても、何だか今日のレフィトはいつもより甘えん坊だなぁ……。
「何かあったの?」
「……うん。カミレが全然かまってくれなかった」
そっか。ここのところ自分のことで手一杯で、さみしい思いをさせてきたもんね。
腰にギュッと抱きついて、レフィトは少し拗ねたように言う。
そのやわらかな黒髪を優しく撫でれば、スリッとすり寄ってくる。
「カミレがずっと頑張ってるの知ってたから、我慢してたんだよぉ? 建国祭が終わったら、いっぱいかまってね……」
あ、もう駄目だ。
可愛いの天元突破だよ。何で、こんなに可愛いんだろう。
ちょっと怖いと思ったのに、すぐに可愛いが大行進してやって来る。
「頑張っているカミレも好きだけど、一緒にいて笑ってくれるカミレが一番好きなんだぁ」
「うん。また一緒にたくさんいようね。そうだ! 一緒にケーキ作ろうよ」
「ケーキ?」
「そうだよ。スポンジ焼いて、一緒にデコレーションしよう? 街の建国祭に行ってた時は、お祝いにケーキを作ってたんだよ」
「そうなんだぁ。パーティーより、そっちの方が楽しそうだねぇ」
クスクスと笑う振動が、お腹に伝わってくる。
久しぶりの甘くて優しい時間。
お城につくまで、私とレフィトはその時間を楽しんだ。