軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らなかった恋心〜other side〜②

そう聞かれても、分からない。

私は、アグリオ様のことをよく知らない。

ううん、アグリオ様だけじゃない。

昔から知っていた人たちの誰のことも分かっていないのかもしれない。

でも、それでも──。

「さっき、もし外れても、ラムファは現状と変わらない生活だって言ってましたよね?」

「うん。言ったよ。それは、ラムファ嬢が何もしなければ、だけどね。どうするのかなー」

「どうするのかな、じゃないです。ラムファの命がかかってるんですよ!!」

思わず大きな声が出た。

そんな私にパンセくんは不快感を表した。けれど、リカルド様は笑みを浮かべている。

「何もしないのに、よく言えるね」

リカルド様の言葉が突き刺さる。

そう。私は何もしない。何もできない。

リカルド様を責める資格がない。

「ねぇ、ネイエ嬢は、ラムファ嬢がどうすると思う?」

明日の天気の予想でもするかのように、軽い口調でこの話をリカルド様はする。

人の命に重みなどまったくなく、どこまでも他人事のように話すのだ。

「分か……りません」

「そっか。友だちでも分からないのか。あれ? 友だちじゃないんだっけ?」

好奇心を宿した瞳に耐えられなくて、視線を外そうとした。

けれど、それでは駄目なのだ。

お心を確かめないと。本当に、私はこの方を王位につくことを望んで良いのだろうか。

「ラムファは、薬のことを何か言っていましたか?」

「聞いてないから、知らないよ。でも、これがきっかけで薬が飲めなくなるかもしれないとは、伝えたよ」

「それに対して、なんて言ったんですか!?」

「何も言ってないよ。でも、笑ってた」

「えっ?」

「笑ってたんだよ。おかしそうに」

どういうこと? 薬の有無は、ラムファにとって一大事なはずなのに。

「なんかね、もううんざりなんだって」

「うん……ざり…………」

「誰かに利用されて生きるのに、じゃない?」

レオンハルト王子と同じエメラルドグリーンの瞳。

美しい色のはずなのに、その奥に計り知れない闇が覗いている。

「……その話、きちんとレフィト様にしたんですか?」

「簡単にはしたよ」

「仲間になってほしいのなら、アグリオ様が耐えられなくなる可能性の話までするべきではないですか?」

「どうして? 仲間じゃないのに、そこまでは話せないよ。すべての真実は渡せない」

リカルド様の言っていることは分かる。

だけど、それではリカルド様の考えが伝わらない。

断られる可能性が大きくなる。

「仲間には欲しいけど、僕を裏切る仲間はいらないんだよ。ね、ネイエ嬢?」

無邪気に笑いかけられる。

それなのに「きみは裏切らないよね?」と聞かれている気がするのは、リカルド様を信じきれないという、後ろめたさがあるからだろうか。

「レフィト様は、リカルド様を裏切ると?」

そう聞く私に、リカルド様は何も言わない。

その代わりに、一番リカルド様から信頼されているパンセくんが口を開いた。

「当たり前じゃないですか。あいつは、ハオトレ嬢さえ良ければいいって人ですよ? そんなの、おれたちより近くにいるネイエ様の方がよく分かってますよね?」

嫌味を言われているのに、空気が軽くなった気がした。

止まりかけていた私の思考が動き出す。

「そうね。レフィト様自身はそうかもしれないわ。でも、カミレちゃんは違う。自分さえ良ければなんて考えないわ。とても優しいもの。カミレちゃんとリカルド様が友好的な関係の間は、レフィト様も何もしないわよ。味方にはならなくても、裏切ったりはしないわ」

「だからこそ、ハオトレ嬢がこちら側にほしいんですよ」

「……私は何もしないわよ。カミレちゃんを巻き込まないで」

拒絶するかのように、自分でも驚くほど硬い声が出た。

駄目よ。カミレちゃんは、希望なの。

今が貧しいとはいえ、ルドネス侯爵家に嫁ぎ、その後も働きながら暮らしていこうとしている。

レフィト様なら、きっとカミレちゃんの願いを叶えてくれる。高位貴族の女性が働く前例に、彼女はなれる。

私が叶えられないものを、カミレちゃんなら……。

「レフィト様も、ネイエ様も、ハオトレ嬢をとても大切になさるんですね。ただの子爵令嬢でしょうに。あぁ、頭は良いんでしたっけ? でも、それだけだ。侯爵家には、見合わないですよね」

「何が言いたいのかしら?」

「いえ。マリアン様が敵視するほどの人ではないな……と。それに、あなたたちが守るほどの人でもね……」

心底分からないという視線を向けられる。

パンセくんの言っていることは、正しい。けれど、不思議なほどに、私たちはカミレちゃんに惹かれている。

良くも悪くも。

「カミレ先輩は、優秀だよ。話も斬新で面白いし。利用価値も高いけど、それ以前にカミレ先輩の僕たちの常識にとらわれない価値観がほしいよね。まぁ、番犬が牙を剥きそうだから、容易には近づけないんだけどね」

「そうしてください。カミレちゃんに何かあれば、私はあなたのそばから離れます」

「へぇ。ラムファ嬢に対してとずいぶん違うんだね」

笑いながら言われた言葉に、ひどく息が苦しくなった。