作品タイトル不明
建国祭に行こう②
お城へと到着した。
馬車の窓から見上げるけれど、お城の屋根が見えない。
遠くから眺めることはあったけれど、こんなに近くで見たことはなく、当然ながら入るのも初めてだ。
緊張で無意識にギュっと自分の手を握りしめれば、体を起こしたレフィトが私の手を優しく握る。
「ドレスグローブしようかぁ」
「うん。そうだね」
返事をしながら、ドレスグローブへと手を伸ばせば、先にレフィトが手に取った。
「はい、手を出してぇ」
「……自分でできるよ?」
「うん。でも、オレがしたいんだぁ。カミレのお世話をするのは、オレの趣味みたいなもんだからねぇ。とは言っても、カミレが全然させてくれないんだけどさぁ」
くすくすと笑いながら、レフィトは私の手につけてくれた。
「ありがとう」
「どういたしましてぇ。へへっ、ドレスグローブをつけたら、もっとお姫様みたいだねぇ。可愛い」
ハチミツのような甘さを含んだ琥珀色に、ドクンと心臓が跳ねた。
どんどん顔が熱くなっていくのを感じる。
そんな私に、レフィトは嬉しそうに微笑むと、私の指先に唇を落とした。
上目遣いに見つめられ、壊れそうなほど心臓がドクドク言っている。
「絶対に、守るから」
そう言ったレフィトの顔は、さっきまでのわんこ感あふれるものではなく、騎士の顔だった。
自分のことは、自分で守れるように頑張るから……。そう伝えたかったのに、無意識に私は頷いていた。
それを確認すると、レフィトはへにゃりと笑う。
わんこ→騎士→わんこという変化に、私の脳の情報処理が追い付かない。
「さ、降りようかぁ。あーぁ、ドレスグローブはカミレと直接手を繋げないのがなぁ……」
ほんの少し不満そうに、唇を尖らせてレフィトは言う。
その姿に、定番の犬の耳としっぽの幻覚が見えた。
情報処理が追い付かない頭でも、これだけは確実に分かる。
わんこレフィトは最高に可愛くて、騎士レフィトが最強にかっこいい。
うん、間違いない。
御者が馬車の扉を開けてくれ、先にレフィトが降りた。
そして振り向くと、手を差し伸べてくれる。
「カミレ」
優しい声に、あたたかな琥珀色の瞳。
緊張する私に、大丈夫と言うかのようにレフィトは一つ頷いた。
「ありがとう」
その手を取って、馬車を降りる。
足はほんの少し震えたけれど、大丈夫。しっかりと立てている。
アザレアとネモラちゃんとの地獄の特訓を思い出し、意識して背筋を伸ばす。ティーカップを割る恐怖に比べたら、誰も私を気にしないだろう舞踏会なんて、きっとへっちゃらだ。
そう思って歩き出したのだけど……。
見てる見てる見てる! 何だかすっごく見られてる‼
何で? たかが子爵家のお金が無くて社交界デビューもしていなかった小娘が、こんなに注目を集めるなんて、おかしくない⁉
ドレスは……、アンが着せてくれたからバッチリなはず。歩き方も、たぶん大丈夫……と思いたい。
他に何か…………。
そこまで考えて、ハッとした。そして、レフィトの方をちらりと見る。
そりゃ、注目も集めるわ。次期騎士団長で、こんなにイケメンなんだもん。視線を集めない方がおかしいって!
ということは、ちらちらと私を見る視線には嫉妬が……感じられない? どういうこと?
「みんながカミレのことを見てるねぇ。すんごい、目を潰してやりたい」
へらりと笑うレフィトに、思わず顔が引きつった。
何で、闇の方に向かってるの? そんな要素、どこにもなかったでしょ⁉
それに、これは私が注目されているんじゃない。されているのだとしても、私はおまけ程度。
「レフィト、みんなが見てるのは私じゃないよ? レフィトだよ」
「んー? たしかに、オレも見られてるけど、カミレの方が見られてるよねぇ? やっぱり可愛くし過ぎたのかなぁ……。でもなぁ、せっかくカミレがドレスを着るのに、最高に似合うようにしないなんて選択肢、考えられないと思わない?」
「それ、私に聞かれても……」
「目を潰すのが駄目なら、記憶を抹消させたいなぁ。カミレを見て、可愛いと感じたクソどもの顔は、覚えたからねぇ。まぁ、カミレを可愛いと思わない奴は異常だけどさ」
もうどこからツッコめばいいの?
目も駄目だし、記憶も駄目に決まってるよね? さりげなくクソどもって笑顔で言うの止めてほしい。普通に怖いから。
それに、私を可愛いと思わないと異常って、その考え方が異常だよ……。たしかに、悪役ヒロインだから私の顔は可愛いけど、好みなんて人それぞれじゃん。
そもそも、そんなに私は見られてないんだよね。
「レフィト……」
「うん? なーにぃ?」
「私はレフィトのおまけ程度にしか見られてないからね。レフィトの方こそ、自分がどれだけかっこいいか自覚した方がいいと思うよ」
そう言えば、何故かレフィトは頬を染めてへにゃりと笑う。
「カミレにかっこいいって、言ってもらっちゃったぁ」
くふくふと笑う姿は、ものすごく可愛い。
だけど、舞踏会のメイン会場につくまでに、何だかどっと疲れた。
「仕方がないから、カミレに見惚れた奴らは、ほんのちょっとの制裁だけにしとくねぇ?」
可愛らしい笑顔のまま言われ、私はツッコむことを放棄した。
これからが本番なのに、ここで気力を使い果たすわけにはいかないんだよ。
私に見惚れてたとレフィトにカウントされた可哀想な人たち、ごめんね。今日が終わったら、ちゃんとレフィトには「駄目だよ」って、言っておくからね。