作品タイトル不明
密会〜レフィトside①〜
学園が休みの日曜日。
本当ならカッツェ家に行って、カミレが頑張る姿を応援したい。
だけど、今日は手紙の呼び出しに応じなければならない。
オレの方も、あいつに用事があるから仕方がないと、自分に言い聞かせる。
今日の密会場所はカガチの店。
服飾を扱う貴族御用達のこの店は、人目を避けた話し合いの場として利用されることがある。
高位貴族であれば、奥の部屋に通されることが常なので、内密に会うにはうってつけなのだ。
もちろん、その対応をしてもらえるのは、一部の限られた人だけになっているが。
それでも、誰かに見られる可能性はある。
だから、変装してやってきた。
「こっちだ」
店の奥へとカガチが案内してくれる。
その後ろ姿を眺めながら、ため息がこぼれた。
カミレに会いたいなぁ……。
会えないことが淋しくてたまらない。
もし、用事が早く終わったとしても、カッツェ家にいるんじゃ簡単には会いに行けない。
今日はカミレに会えないと思うと、気分は沈んでいく。
「あいつは、もう来てんのぉ?」
「来てる」
無愛想なこっちのカガチらしい素っ気ない返事が返ってくる。
陽気な方のカガチは聞いてないことまで話すし、こっちのカガチは必要最低限も話さない。相も変わらず、両極端だ。
慣れてるから気になりはしないけど、未だにカミレは目を白黒させるんだよなぁ……なんて、当たり前にカミレのことを考えてしまう。
今頃、頑張ってるんだろうなぁ。
大きく息を吸って、倍の長さをかけて吐いていく。
これは、カミレが気持ちを切り替える時によくやっていること。
最近では、オレの癖にもなってきている。
うん、オレも頑張ろう。
最良以上の選択をするんだ。
「ねぇ、あっちは変装して来てたぁ?」
「してない」
「やっぱりかぁ。見られても構わないって思ってるんだろうけど、こっちの身にもなってほしいんだよね。まぁ、オレが変装してくるから、問題ないんだけどさぁ」
もし、オレとの密会がバレても、オレが自分の方についたと思われてラッキーだくらい言いそうだ。
本当に自分の利益を優先してくる。
いや、オレがどう思うか分かってないだけか。
「カガチってさ、やっぱり中立なわけ?」
「そうだ」
「ふーん。片方に肩入れするわけにはいかないかぁ」
「レフィトもだろ」
「まあねぇ。というか、やっぱ気が付いてたかぁ」
「お互い様だ」
たしかにそうなんだけどねぇ。
だけど、オレはそろそろ中立を辞めるかもしれない。
カミレにとって、より良い未来の方を選ぶ。
そのためにも──。
「オレ、先にカガチと話したいなぁ」
「待たせるのか?」
「カガチの反応次第で出方を変えようかと思ってぇ」
へらへらと笑いながら言えば、カガチはわざとらしくため息を溢した。
そして、雰囲気がガラリと変わる。
どうやらオレとの話に付き合ってくれるつもりらしい。
「五分だけな。あまり待たせたら悪いだろ」
「分かってるってぇ。その感じだと、先にカガチと話したがるって分かってたみたいだねぇ」
「分かってたのは、俺じゃないけどな」
そう言って通されたのは客室ではなく、倉庫だ。
「しっかし、見た目は別人なのに中身がレフィトとか、頭が痛くなるな。しょっちゅう見てても、レフィトの場合はクオリティが高すぎて、脳がバグる」
「そっくりそのまま返すよ。カガチの切り替えには慣れたけど、今のカガチには一瞬戸惑うからぁ」
ガチャリと扉に鍵をかけ、カガチは口元に笑みをのせた。
からりとした雰囲気でも、無機質な雰囲気でもない。めったに……というか、人前ではほぼ見せないもうひとりのカガチ。
カガチの場合は自分で使い分けているので、人格が別れているわけではない。
多分、本性は今のカガチだと思う。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「そのまえに、カガチはいつから王子の監視係なのぉ?」
「おまえたちが学園に入って来た時からだ。レフィトはもっと前からだろ? 俺も監視係だって気が付いたのは、いつだ? 関わらないようにしていたはずだが」
「その関わらないが不自然だったんだってぇ。商売根性たくましい、あっちのカガチのキャラなら、王子たちに会いに来るでしょぉ? なのに、必要最低限だしさぁ。疑わない方がおかしいでしょ」
「それなら、王子御一行は無能集団だな」
「そうだねぇ。実際、無能だから仕方ないんじゃない? 最近は以前よりも自分の頭で考えるってことをしなくなったわけだし」
オレの言葉に、カガチも思い当たるふしがあったようで、眉間にシワを寄せた。
この感じだと、カガチも今の王子を良くは思ってないだろう。元々、あまり良い印象を持ってるイメージもないけど。
「カガチは今後どっちにつくの? 今のところ、リカルドの方を 贔屓(ひいき) してるみたいだけど」
「贔屓なんかしてない」
「そう? だって、この店での密会、王子にはさせないでしょ?」
「信用してないからな」
「リカルドは信用してるんだぁ」
「腹が立つことは多いけどな。因みに、レフィトが俺と先に話したがるだろうって予想したの、リカルド様だぞ」
「うわぁ。何であんなに人の心の機微が分からないのに、こういうところだけ分かるんだか。それが余計にイラっとするんだよなぁ」
まぁ、オレがリカルドを評価してる点もそこなんだけどねぇ。
でもなぁ、リカルドにつくには、あと一歩が足りない。
「カガチは、本当に中立?」
「今は……な。リカルド様がネイエ嬢と婚約するか、レフィトを引き込めたら変わるけど」
「へぇ。何で?」
「俺が敵に回したくない人物は、国王様とリカルド様、それから……」
そう言って指をさされて笑ってしまう。
オレだって、カガチを敵に回すなんて御免だ。
それは、仲が良いからとかではなく、単純に敵に回すと面倒だから。
情報収集に関しては、オレよりカガチの方が上だしなぁ。
「じゃぁ、オレがリカルドにつくって言ったら?」
そう聞くとカガチはゆっくりと瞬きをし、探るようにオレを見た。