軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

建国祭に向けて③

そして、無情にも再び頭にトレーを載せられた。

少しでも動こうものなら、きっと落ちてしまうだろう。

私は石のように固まり、微動だに動けない。

「カミレお姉さま、動かなければ練習になりませんわ」

「勇気を持って一歩を踏み出すんですわ!」

ふたりの言うことは、分かる。

だけど、決心がつかない。

「もし、このまま動かなくても……。私の言いたいこと、分かりますわよね?」

ティーカップを一つ摘み、モネラちゃんは微笑んだ。

これは、脅しだ。人質は、カッツェ家のティーカップ。

自分の家のティーカップが人質なんて、ありなの!? とは思うものの、私には効果てきめんだ。

そろり、そろりと足を出す。

一歩、二歩と進んで行くけれど、それとともに私の視界も下がっていく。

「駄目ですわ! カミレお姉さま、背筋を伸ばしてくださいまし。お膝も曲がってましてよ!?」

「それでは、絵本に出てくるおばあさんみたいですわ!!」

「まぁ! 何て、的確な表現なのかしら……。さすが、お姉さま」

「もう、モネラったら……。カミレちゃん、ファイトですわよ。気持ちで負けたら終わりですわ!」

「そうですわね。カミレお姉さま、頑張ってくださいまし! うちのおばあ様の方がしゃんとしていますわよ。腰を曲げては、なりませんわ! お膝も伸ばすのですわ!」

アザレアと(カッツェ) モネラちゃん(姉妹) が応援してくれている。

だけどね、どんなに応援してもらっても無理だって!

どうにかトレーを落とさないようにした結果、何故か曲がってしまった腰と膝。膝はどうにかなるかもしれないけど、上体を起したら、割る。間違いなく、割ってしまう。

私だって、こんなに前のめりで腰を曲げている姿勢は、つらい。

私を支えているのは、絶対に割れないという強い想いだけだ。

「お願い。一度、やり直させて……」

「ということは、一つ割ればいいんですのね?」

「いや、そうじゃなくて……」

ううぅ……。モネラちゃんがスパルタだ。

というか、声が楽しそうなんだけど……。モネラちゃんって、ドSだったの?

見た目は天使、中身は悪魔……ではなくドS。そんなギャップ求めてないよ。一部で需要あるかもだけど、今はなしでお願いしたい。

「モネラ。あまりカミレちゃんをからかっては駄目よ」

「アザレアちゃん……」

良かった。アザレアが助けてくれそうだ。

これでティーカップを割らないで済む。そう思って、胸を撫で下ろした。

けれど──。

「カミレちゃんならできますわ。ネバーギブアップですわ!」

まさかの、全力応援。

なんでだよ!! と思わず心の中でツッコミを入れつつ、アザレアはけっこう体育会系だということに気が付いた。

パワータイプというか、とにかく回数をこなして体に覚えさせるスタイルみたいなのだ。

あと、わりと気合で何とかなる! みたいな印象も受ける。

「アザレアちゃん、本当にもう無理です!」

「無理だと思ってからが、本番ですわ! ぐっと体を起こせばいけますわよ!!」

あぁ、伝わらない……。いけないからお願いしてるのに……。

どうしたらいいんだろう。

この姉妹はきっと、やり直しをさせてくれない。

落とせば当然ティーカップは割れるし、立て直すために手で触れてもモネラちゃんの手によってティーカップは割られる。

つまり、自力でどうにかしなければならないということ。

いや、無理じゃない? ここから立て直すとか……。

だけど、他に手段はない。腹をくくるしかない。

一番、ティーカップが無事な可能性が高いのは、私が元の姿勢に戻ることだ。というか、それ以外にティーカップの生き残る道はない。ティーカップの運命は、私に託されたのだ。

「アザレアちゃん、モネラちゃん! 私、頑張ります!」

「カミレお姉さま、その意気ですわ!」

「ネバーギブアップでしてよ!!」

ふたりの応援に、心の中で大きく頷く。

大丈夫。きっとできるよ。

頑張れ、私!

「ネバーギブアーップ!!」

パリンッ……カランカランカラン……。

「「「………………」」」

起こした体で、恐る恐る後ろを見る。

そこには、ティーカップだったものの破片と、トレーが落ちていた。

上体を起こした瞬間、トレーは私の頭から滑り、ティーカップは落ちていったのだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁ……」

なんてことだ……。根性では、どうにもならなかった。

そりゃそうだ。根性だけで上手くいくわけがない。それが分かっていたから、無理だと言っていたのだ。

何故、きっとできるなんて思っちゃったんだろう……。

ティーカップの破片を拾い、合わせてみる。

そんなことをしても元には戻らないと分かっているのに、やらずにはいられない。

「カミレちゃん、触っては危険ですわ!!」

「そうですわ。これ、片付けてちょうだい」

モネラちゃんの指示で、侍女さんがテキパキと片付けていく。

ティーカップが割れたことなど、まるでなかったかのように床の上はきれいになった。

本当になかったことにできたら良かったのに……。

「あの、さっきのティーカップなんだけど──」

「さ、次ですわね。カミレお姉さま、次こそ成功ですわ」

にっこり笑顔のモネラちゃんが近づいてくる。

「ちょ、ちょっと待って……」

にっこり笑顔のモネラちゃんが近づいてくる。

このあと、私は三個のティーカップを更に犠牲にして、無事に頭にティーカップの置かれたトレイを載せても落とさずに歩けるようになった。

いったい、ティーカップの値段は一ついくらだったんだろう……。

できるようになった喜びよりも、そっちが気になってしまい、寿命が大幅に縮んだのではないかと本気で思った。