軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三章 エピローグ 上

第三章 エピローグ 上

たつみんさんの実家で発生した霊的災害から、数日後。

6月も中旬となった頃。放課後に、自分達は喫茶店『アルフ』に集まっていた。

『いやー。大変だったがおー』

いつもの着ぐるみ姿で、たつみんさんは頭を掻く仕草をした。

『事情聴取がもの凄く難航したがおー。途中、『せめて被り物は取ってください』とか言われて困っちゃったがおー』

「困ったのは警察の人達だと思います」

そりゃそうよとしか言いようがない。

店の隅にあるテーブル席にて、璃子先輩がケラケラと笑う。

「本人確認も一苦労だね、そりゃあ。で?結局、あの霊的災害の原因って分かったの?」

『村長さんが自衛隊の人から聞いたらしいがおー。何でも、通常の間引きペースでは間に合わないペースでレッサーデーモンが増えていた可能性があったらしいがおー』

「それはまた……」

「んー?でも、間引きの状況とかやっている側から分かるんじゃない?やけに数が多いなー、とか」

『それが、奴らのダンジョンってかなり入り組んだ構造らしいんだがお。その上、フルカス……ボスモンスターの頭が良いから、頭数が揃うまで隠れていた可能性まで出て来たらしいがお』

「うわぁ……」

思わず、口が『へ』の字になる。

確かに、あの魔物ならそれぐらいやりそうな気がした。騎士の称号を持つあの魔神は、『突き刺す者』という名前に反してその専門は占いだと伝承が残っている。

明らかに知性がある動きを思い出し、背筋がぞっとした。

隣の席に座る美由さんが、眉間に皺を作る。

「それは……他のダンジョンでも同じ事が起きている可能性もあるのでは?」

『がおがおー。警察の人や自衛隊の人達も、美由ちゃんと同じ考えに至ったらしいがおー』

たつみんさんが、体ごと頷く。

知性を持つ魔物は、全体から見れば少ない。だが、存在はする。その上、大抵が強力な魔物だ。

他のダンジョンでも間引きのペースを誤魔化されている場合、いつどこで霊的災害が起きるか分からない。

今頃、警察や自衛隊の人達は緊急であちこちのダンジョンを調べて回っている事だろう。

必要な事だとは思うし、やってもらいたいが、もの凄く大変な作業だ。

感謝の念を抱くと同時に、絶対にそっちの道へは行かないと誓う。

「亡くなった人もいるらしいから、大声で喜ぶ事は出来ないけれど。璃子達が無事で良かったよ」

「マスター」

マスターが、曖昧な笑みを浮かべてやってくる。

レッサーデーモン達が出現する『封鎖所』の人達が、亡くなったとニュースでやっていた。

彼らの死を思えば、あまり大っぴらに騒げる話でもない。

それでも、自分の胸は安堵と喜びの方が多くを占めている。我ながら、不謹慎なのかもしれないが……顔も知らない人達の死を、嘆き続ける事も出来ない。

だから、今だけは黙祷を捧げる。ほんの、数秒だけ。短くも、心から冥福を祈った。

コトリ、と。目の前に青い布のコースターと、その上にグラスが置かれる。

「はい。矢広君と小鳥遊ちゃんはアイスカフェオレ。璃子とロッソちゃんは、アイスコーヒー」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます、マスター。頂きます」

「センキュー」

「感謝する」

「そして……たつみちゃんには、これを」

そっと、たつみんさんの前に手帳サイズのアルバムが置かれる。

『これは……?』

「前に、メイちゃんがたつみちゃんの所へ手伝いに行った時、絹江ちゃんから『資料として写真が欲しい』ってお願いされたのを覚えているかな?」

『がお。……まさか』

「その時の写真を、分けてもらったんだ」

たつみんさんが、ゆっくりとアルバムを開く。

そこには、自分達が見たのと同じたつみんランドの光景が映っていた。

動かないメリーゴーランド。錆びついた観覧車。崩れかけのお化け屋敷。色の変わったジェットコースターのレール。

それらが、写真として残されている。

「もしもあの遊園地を再建する時に、参考になればって思って。お願いしみたんだ。余計なお世話かも、しれないけど」

『……ううん。ありがとうがお、マスター』

視線をアルバムへ向けたまま、たつみんさんが答える。

その声が僅かに震えている事を指摘するのは、あまりにも野暮というものだ。

「それと……その。たつみちゃんの分のアイスコーヒーもあるけど、飲む?」

少し困った顔で、マスターが問いかける。

若干たつみんさんの後ろに移動している辺り、後ろのチャックから中に入れた方が良いかと、迷っているのかもしれない。

それに対し、たつみんさんが体ごと首を横に動かした。

『ごめんなさいがお。今は、ちょっと……』

「分かった。こっちこそ、ごめんね?じゃあ、私が飲んでおくから」

『ありがとうがお~』

微笑みを浮かべて、カウンターへ向かうマスターへ小さく会釈する。

誰も映っていない、遊園地の写真。少し物悲しい光景ではあるが……たつみんさんにとっては、かけがえのない物のはずだ。

『……よし。十分参考になるがお!』

同時に、未来への助力にもなるのだろう。

『たつみんランド再建の暁には、かつてのたつみんランド要素もふんだんに盛り込むがお!』

「うむ。それが良いだろう。ついでにな、たつみんよ」

『がお?』

そこまで静かだったロッソさんが、眼帯に隠されていない方の瞳をキラリと輝かせる。

「言うか迷っていたが……霊的災害で建物や物が壊れた場合。法律でその撤去は国が業者の手配を手伝い、補助金も出すとされている」

『詳しく』

ずい、と。たつみんさんの顔がロッソさんに近づけられる。

間に座っていた璃子先輩が壁に押し付けられ、ロッソさんはあまりの圧に上体を仰け反らせた。

「ま、待て。吾輩もそこまで詳しいわけではない」

「ぐえー……たつみん。ちょ、狭い。潰れてるー」

『あ、ごめんがお。つい』

顔を引っ込めたたつみんさんに、ロッソさんが姿勢を正す。

「おっほん。まあ、何だ。再建に向けて、破損したアトラクションの撤去が必要な場合は、今の内に考えておくと良い。確か、霊的災害が起きてから日数に制限があったはずだ」

『分かったがおー。ありがとうがおー!』

「ふっ……法について民に説くのも、為政者の務めよ……」

自称魔界貴族のロッソ・ヴェンデッタさん25歳本名石山岩子さんが、もの凄いドヤ顔で告げる。

「今週の末には、貴殿の村にて製紙工場の者達の説得に行く。楽しみにしているがいい」

『お願いがおー』

「……あの、ロッソさん」

「何だ、若き鬼よ。吾輩に尋ねたい事があるのなら、何でも聞くが良い。今日の吾輩は機嫌が良いのでな」

「ん?今何でもって」

「説明というか、説得に行って下さるのはありがたいのですが、きちんとした格好でお願いしますね?」

条件反射でボケに走ろうとする璃子先輩を無視して、ロッソさんをジッと見つめる。

すると彼女は、ちょっと顔を赤くしながら目を逸らした。

「なんだ、若き鬼よ。まるで今の吾輩の格好が、だらしない様な言い方だな」

「だらしなくはないです」

「そうであろう!そうであろう!ふっ、吾輩のカリスマに目を焼かれたか。仕方がない。とくとこの魔界貴族筆頭の姿を網膜に焼き付けるが良い!」

「頭が残念だなと思う格好だとは思っています」

「魔王級に失礼!?」

いや、自分でもストレート過ぎるとは思うが。他人に迷惑がかかるかもしれないので、ハッキリ言っておこうかと。

目と口を限界まで開いて固まるロッソさんの横で、璃子先輩が笑いながら手を横に振る。

「あーんしんしなって、オタク君!きちんとスーツで行くって事前に話し合ってあるし。お祖母ちゃんとあーしでコーデしたんだから!」

「ああ、じゃあ大丈夫ですかね」

「ねえ、吾輩の信用って実は低い……?25歳ぞ……?年上ぞ……?」

「……すみません」

「謝罪が、辛い……!」

ハンカチを噛みながら虚空を睨むロッソさんから、そっと目を逸らす。

いや、マジですんません。普段の言動があまりにもアレ過ぎて。

『そう言えば』

たつみんさんが、自分達の顔を順々に見てくる。

『あの日見た、ロボットについて。質問ってしても良いがおか?』

彼女の言葉に、全員が一瞬沈黙を選ぶ。

レッサーデーモン達との戦いで、『ケニング』を彼女に見られてしまった。完全に敵が掃討出来たか確認出来るまでは、仕舞えなかったのである。

「そう、ですね。たつみんさんにも」

『ああ、良いがお。言いづらい事なら、聞かないがお』

「え?」

こちらの言葉を遮り、たつみんさんが片手を上げる。

「……良いんですか?」

『がお。あの日、皆が凄く頑張ってくれたのは知っているがお。なのに、アタイがそこで見た事について、アレコレ言うのは不義理がお。何より』

たつみんさんの顔が、こちらを向く。

『……信じているがお』

「……ありがとうございます」

あの日、彼女は多くの思い出を失った。

だが、それで得たものがあるのなら、個人的には嬉しい。

この場にいるメンバーで、たつみんさんと新しい思い出を作れたらと、心から思う。

『お礼も兼ねて、皆にはたつみんなりきりセットをあげるがお!アタイを模した着ぐるみだから、是非着てほしいがおね!』

「え、いらない……」

「ごめん。興味はあるけどちょっと邪魔だわ」

「吾輩の趣味には合わないかなって」

『絆を育んだとは思えない返答がおね!?』

いや、それはそれ。これはこれというか。

着ぐるみとか渡されても、シンプルに困る。

「私は欲しいです」

『おお……!美由ちゃん……美由ちゃんの事は、信じていたがおよ……!』

「着ぐるみがどういうものか、興味があります」

ふんす、ふんすと。美由さんがちょっと鼻息を荒くしながら頷く。

どうやら、前にたつみんさんのお腹を撫でてからあの感触に嵌っているらしい。

『今度、持って来てあげるがお!一緒に着て写真を撮ろうがおね!』

「はい。ですが、その前にたつみんさんにも着て、可能なら写真を撮ってほしい物があります」

『何がおか?美由ちゃんのお願いなら、何でも着てあげるし、写真もOKがお!』

「あっ」

「おバカー!」

「戦とは、常に情報がものを言う……か」

『え?……え?』

素で驚いている様子のたつみんさんの手を、美由さんが握る。

「ありがとうございます。では、早速全員で私の家に行きましょう。この国には、善は急げという言葉がありますので」

『……あ、もしかして、例の罰ゲームがお……?』

「はい」

凛とした顔で、彼女は頷く。

「いずれ耕太さんを着せ替え人形にする為にも、ご協力お願いします」

美由さんの野望は、まだ途絶えてはいなかったらしい。

まだ……負けられない戦いが続くというのか……!

「哀れたつみん……骨は拾ってやるからな……!」

「あ、璃子先輩。僕、今回は途中でドジョウ掬いセット用意してから向かうので。よろしくお願いします」

「てめぇも懲りねぇなぁちくしょう!!」

逃がさん。お前だけは。

この後、鼻に割箸を突っ込むか突っ込まないかで口論になり、全員マスターに叱られた。

本当に申し訳ない。

あとマスターは鼻に突っ込む派なので、覚悟しやがれください。璃子先輩。