軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十話 たつみんへの固執

第七十話 たつみんへの固執

たつみんさんの質問攻めは、空が赤くなる頃まで続いた。

「酷い目にあった……」

「どんまい!」

キッチンにて、璃子先輩と一緒に夕食の準備をする。

チラリと隣の自称ギャルに視線を向ければ、彼女は非常に手際よくジャガイモの皮をむいていた。しかも包丁で。

こちらがピーラー片手に1個を不格好に剥き終えるのと、璃子先輩が2つ目を綺麗に剥き終わるのがほぼ同時。

偶に母さんの手伝いとかするけど、やはり練度が違う。

「まあ、たつみんさんの周囲には畑を持っている人も多いでしょうから、『変若の水』に興味を持つのは当然でしょうけど……」

「肥料も高くなっているからねー。気温は高いし、天気は安定しないし」

まな板で野菜を切っていく璃子先輩が、ケラケラと笑う。

食器棚からカレー用とサラダ用の皿を出し、キッチン中央の机に持って行きながらため息をついた。

「ただ、それでも着ぐるみのドアップは、きつい……」

「着ぐるみなしだと、たつみんはシャイだからねー」

「呼んだがお?」

「うぇ!?」

突然聞こえた声に、お皿を落としそうになる。

異能者として強化された肉体で、どうにかキャッチ。声の主へと振り返る。ここへ着ぐるみで入ろうものなら、璃子先輩から怒声が飛ぶのは確定だが。

しかし、その心配は杞憂だったらしい。たつみんさんは着ぐるみではなく、給食センターの人みたいな格好をしている。

ただし、全身が青色だ。いや、お腹の部分だけ白いので、『たつみんカラー』とでも言えば良いのか。布マスクにも、開かれた竜の口っぽい模様があるし。

それでも良いんだ……たつみん的に。いや、たつみんというキャラクターを、まずよく知らないのだが。

「おーう。どったの、たつみん。まだ晩御飯にはかかるよ?」

「耕太君が手伝っているのに、連れ回したアタイが休んでいるのは気が引けるがお」

「なーる。でも、ちょっと3人で動くには狭いんだよねー……よし」

切り終えた野菜を鍋に入れた璃子先輩が、ビシリと机を指さす。

「オタク君はそこでカボチャを切ったり、ナスの皮剥いたりしていて。たつみんはサラダ用の野菜をお願い」

「分かりました」

「了解がお」

言われた通り、キッチン中央の机にカボチャと包丁を持っていく。

3人で動くには少し狭いが、それでも普通の家よりは広い。人を1人分開けて、たつみんさんと隣り合った。

この宿、もっと大人数が泊る事を想定しているのか、包丁やまな板が幾つもある。誰がどれを使うとならないのは、ありがたい。

ええっと……確かカボチャを切る時って……。

「耕太君」

「はい?」

まな板の上でカボチャを安定させ、厚めの包丁を手にした所でたつみんさんが話しかけてきた。

「カボチャのヘタを取る時は、真っ直ぐ突き立てるよりも、斜めにぐっと入れた方が楽がおよ」

「え、そうなんですか?ありがとうございます」

言われた通り、ヘタの周りに斜めの角度で包丁を突き刺す。あ、確かにすんなり入った。

「おお……たつみんさん、料理とかするんですか?」

「野菜の切り方に詳しいだけだよー。その子、サラダとかはキッチリ作るけど、それ以外は美由っちみたいな食生活するから」

「あー……」

「そ、そんな目で見ないでほしいがお。お、大人のレディーは忙しいんだがお……!」

「食事にはねー、時短と栄養バランス以外にも、大切な事が沢山あんのよ。まったく」

「そ、それはそうと!」

璃子先輩のお説教が始まりそうになり、たつみんさんが声を上げる。

「悪かったがおね。ダンジョンから帰ったばかりで、質問攻めして」

「いえ。まあ、少し」

「申し訳ないがお。それで、ちょっと相談なんだおが。『変若の水』って販売とか」

「しません」

「そこを何とか」

「しません」

「……怒っているがお?」

「いいえ。怒っているとかじゃなく、法律的に無理だからお断りしているだけです」

カボチャを2つに切りながら、答える。

「あ、オタク君。半分はラップして冷蔵庫の野菜室にお願ーい」

「うっす」

カボチャの片方をラップで包み、冷蔵庫にしまう。

うわ、この冷蔵庫野菜多っ……。

「自家栽培とか、自分の家で食べる分の野菜なら兎も角、販売して利益を得る畑や田んぼとかに使われると、こっちまで違法になってしまうので」

「そう言えばそうだったがお……アタイ、その辺わりと忘れていたがお」

「……ダンジョン探索以外で、営利目的で使っていないですよね?異能」

ちょっと疑いの目を向けると、たつみんさんが再び目を逸らす。

「え、ちょっと……?」

「い、いや。たぶん大丈夫がおよ?アタイ、『移動系』の異能持っているがおから、それで近所のお爺さんとかお婆さんの代わりに、薬もらいに行ったり、買い物に行ったりする事がたまーにあるけど、その時にお礼として野菜とかもらうがおが……」

「……まあ、それぐらいなら良い……のかな?」

法律に詳しいわけではないので、何とも言えない。まあ、地域のそういうのまで他人がとやかく言うのはめんど……もとい、野暮だろう。

自分も物々交換でクラン内にスクロール配るつもりだし。表向きはただの『おすそ分け』って形で。

「というか、たつみんさんって移動に関する異能持っていたんですね」

「あれ、言い忘れていたがおか?アタイ、『黄昏の具足』って言う格好良い異能があるがおー」

「あー……何か、聞いた覚えが」

『黄昏の具足』

ただの時間帯を表す黄昏ではなく、生と死の狭間としての黄昏。そのこの世ならざる空間を歩く為の不可視の鎧……だったか。

前に、対霊庁が公表している異能リストにあった気がする。名前が厨二チックで、印象に残っていた。

転移魔法同様、魔力が籠った壁に覆われている建物には飛べないとか、細かい調整は出来ないとも聞いた気がする。

魔力消費がきついし、発動までに溜めがいるらしいが、それでも『当たり』の異能だ。

「もしかして、その異能で喫茶店にも?」

「そうがおー。昼間なら、マスターの家の裏庭に飛んできて良いって言われているがおー」

「うちの裏庭、基本的に物も人もいないからねー。あーしが小さい頃は、小さい滑り台とかあったらしいけど」

「へー……ちなみに、ご自身以外の人も運べたりは?」

「それは無理がおー。1人用がおー。それより、話は戻るがおが、『変若の水』を肥料代わりに売ってもらうのはダメがおかー……多少高くても、神話に出てくるぐらいの効力なら、お得だと思ったがおが」

「まあ、農家さんが絶対に欲しがる物だとは思いますけど」

「……ちなみに、お爺さんやお婆さんに飲ませるのもダメがお?物々交換で」

「ダメです。緊急時と人体実験以外では、人に飲ませるとかしませんよ。異能ってまだまだ分からない事だらけですし」

「ねえ、今人体実験って言わなかった?」

「そうがおかー……残念がおー」

「スルーすんな?え、あーしさっき飲んだんだけど?オタク君?ちょっと?」

「璃子先輩。火を扱っている時に、よそ見しないでください」

「そうがお。火事になったら大変がお」

「あーしか……?あーしが悪いんか……?」

まあ、奇しくも人命救助の為にしょっちゅう使っているので、本当は人体実験なんてする必要はないのだが。というか、倫理的にアウトだし。

ただ、こういうのはキッパリ断っておかないと後が恐いので、そもそも引き受ける気はない。

不老の霊薬も、疑似的な不死の霊薬も、既にレシピとセットで公表されている。自分よりも凄い異能者が、世界を引っ繰り返した後だ。

それでも、手の届く場所に若返りも出来る万能薬があったら、大抵の人はなりふり構わなくなる……と、思う。

だから、そういう目的で『変若の水』を配る気は今の所ない。自分のあずかり知らない所で利用された場合は、無視を決め込むけど。

閑話休題。カボチャをスライス……というには、少し厚めに切り終え、大き目の皿に載せていく。

「璃子先輩。カボチャってこのぐらいで良いですか?」

「おん?OKだぜー。そんじゃ、ナスを頼んます!」

「うっす。野菜室のを使えば良いんですよね?」

「そーそー。いやー、オタク君は普通オブ普通だから助かるわー。異様に丁寧過ぎるわけでも、ゴスロリ着ているわけでもないから」

「比較対象がアレ過ぎませんか……」

丁寧過ぎる人こと美由さんと、ゴスロリ着てキッチンに入るアホことロッソさんはリビングにいる。

現在、たつみんさんに紹介してもらう予定の製紙工場の人向けの資料を、2人には書いてもらっていた。正確には、ロッソさんが書いて、美由さんがそれを分かり易いか試しに読んでいる。

ナスの皮を剥きながら、ふと気になった事をたつみんさんに聞いてみる事にした。

「そう言えばたつみんさん」

「どうしたがお?」

サラダの盛り付けをしているたつみんさんが、首を傾げる。

「いや。こう言うと不躾というか、アレなんですけど……貴女は、どうしてこの土地に?近所の人達の為、ですか?」

言っては何だが、この村は立地が最悪である。

13個もダンジョンがあるなど、異常な事だ。妙に管理されていない畑や田んぼが多いのは、ただの過疎化だけではないだろう。

恐らく、ダンジョンの出現により人が離れたのだ。元々人口が少なかったのが、人が逃げた事で更に減ったのだろう。

口に出すのは失礼過ぎるので言わないが、この村は後数年もすれば消えてしまうのではないか。そう、思っている。

強い異能者は、行く所に行けば引く手数多だ。偏見もあるけれど、受け入れてくれる土地はある。この村より、アクセスも良く安全な場所が。

「うーん。近所の人達とは仲が良いがおが、それだけが理由じゃないがおねー」

「そうなんですか?」

「そうがおー」

あっさりとした答えは少し意外だったが、内容自体には納得した。

しかし、そうなると……。

「では、『たつみん』……というキャラに」

「たつみんはアタイがおが?がお?まるで中の人がいるみたいな言い方がおね?タックルしちゃうがお?」

「すみませんごめんなさい許してください」

圧が……圧が強い……!

着ぐるみを纏っている時と違って急接近してくるわけじゃないが、目力がとんでもなかった。瞳孔が思いっきり開いている。

……今の格好で急接近されたら、お胸様も近づくよなと考えたが、そっと胸の内にしまう事にした。

「……まあ、言いたい事は分かるがお」

バカな、煩悩がバレた!?

まさか、思考が読めるのか……!?まずい……!

「確かに、『竜宮金子』という女の子は『たつみん』という存在に固執しているがお」

あ、そっちか。セーフ……!

それはそれとして、顔だけは全力で真剣なものを維持する。頑張れ、僕の表情筋。

「その理由は……明日、帰る前にでも教えるがお」

「……分かりました。すみません、変な質問を」

「構わないがお。別に、隠している事でもないがおね」

「ありがとうございます……それじゃあ、ナスも剥き終わったので。僕は一旦失礼しますね」

「ありがとうね、オタク君。もうちょっと待っていて。それはそうと」

「はい?」

璃子先輩が首だけこちらへ振り返り、ニッコリと笑う。

あれ、おかしいな。とっても綺麗な笑顔なのに、目が笑っていない気がするぞ?

「後で覚えてやがれ。てめぇの耐久実験してやるから、料理が終わるまで待っていろ」

あ、これ後でキチンと人体実験云々説明しないと、殺されるやつだわ。

彼女の眼力に押され、雨に濡れたチワワの様に震えながらキッチンを後にした。

カレーが最後の晩餐に、ならないと良いなぁ……!