軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十三話 偽りの農村

第四十三話 偽りの農村

全員が支度を終え、受け付けを通り奥の部屋に。

鉄の扉が背後で閉まり、それぞれが『霊装』を展開する。

「……ふむ」

ロッソさんが、小鳥遊さんの方を、より正確には小鳥遊さんが持つ『盾』を見る。

それは、自分が以前作った物と違い、しっかりとした作りのバックラーであった。

綺麗な円形の盾であり、直系約30センチ、厚さ約5センチの木製。使用木材は当然、『変若の血潮』で育てた木である。

固定に使っているネジやグリップ以外の部分は、魔力を含んでいる為魔物からの攻撃に対して、見た目通りの防御力を発揮するはずだ。

また、『念力の盾』も搭載している。一時的にだが、ライカンスロープの攻撃だって完璧に防いでくれるはずだ。

……たぶん。恐らく。理論上は。

「更衣室で話は聞いていたが、手作りと言うわりに存外頑丈そうであるな」

「でっしょー?美由っちってば本当に器用だよな!」

「いえ、これぐらいは」

謙遜しないで小鳥遊さん。思いっきり粗悪な盾を作った、自分にダメージ入るので。

この体になって器用さはかなり上がったはずなのだが……使っている工具の差以上に、センスの差を感じる。

「それで。その『念力の盾』とやらはどれ程の頑丈さなのだ」

「あー、僕が試しに剣でぶっ叩いても、突破は出来なかったです。それ以上の攻撃は、ちょっと実験出来ていないので」

「今度、あーしが試しに魔法ぶっ放してみようか?」

「それならば、吾輩も協力しよう。王者の一撃を見せてやろうではないか」

彼女らの申し出に、少し考えてから頷く。色んな攻撃を受けておいた方が、実戦の時に安心だ。

「そうですね……僕が構えて試しに受けてみますので、その時はよろしくお願いします」

「え?いえ。私の方が、異能の特性から実験台に丁度良いかと」

「いやいや。スクロールを作ったのは僕だし、これでも結構頑丈だから……」

流石に、小鳥遊さんを実験台には出来ない。それで万が一大怪我したら、罪悪感やばいし。

若干不満そうな小鳥遊さんから目を逸らし、ロッソさんが小さく咳払いをする。

「んん……!さて。陣形については、更衣室で聞いた通りで良いのだな?」

「もち。オタク君と美由っちも、バスで話したやつって事で」

「分かりました」

「了解」

陣形と言っても、そう大したものではない。

自分とロッソさんが前衛。小鳥遊さんが中衛兼ナビゲーター。璃子先輩が後衛。基本的に前衛で敵の攻撃は止めるが、もしも後衛まで攻撃が飛んだら璃子先輩の防御を小鳥遊さんにしてもらう。

身体能力は璃子先輩の方が小鳥遊さんより高いが、詠唱中なんかは流石に防御も回避も難しい。そんなわけで、こんな布陣となった。

「まあ、吾輩は鉄壁にして不滅ゆえ、後ろに敵の凶刃が届く事など、万に一つもないがな!」

ドヤ顔で、豊満な胸を張るロッソさん。

実際、小鳥遊さんは保険である。最悪、自分が防具で受け止めるつもりだ。彼女の身が心配なのもあるが、スクロールをあまり消耗したくない。

「じゃ、行こうか」

璃子先輩の落ち着いた声に、背筋が伸びる。

普段とは違う雰囲気の彼女が、ここから入るダンジョンの危険度を告げている様だった。

この異界に潜む魔物どもは、純粋な身体能力ならばライカンスロープすら上回る。

それでも、今の自分達なら『やれる』と考えてここに来た。油断はしないが、相手を過剰評価もしない。

冷静に、確実に、探索する。

自分が先頭に立ち、肩を仲間達が掴んだ。互いに頷いた後、楕円形のゲートへ足を踏み出す。

瞬間、あのぐるりと吸い込まれる様な感覚。直後、ブーツ越しに柔らかい土の感触が伝わってきた。

肌を撫でる清涼な風。そこに乗る土と植物の臭い。あぜ道の左右には、腰の高さまである麦に似た植物が広がっている。

視線を巡らせれば、雲一つない青空の下に土と藁で作った家が散見された。その向こうに、水車小屋も見える。

だが、この牧歌的な空間は全てが偽物だ。

麦に似た植物は、本当にただ似ているだけの魔力の塊。ダンジョンから遠ざければ、大気に消えていくのみ。

家々も目を凝らしてみれば、遠近感がおかしい。これらは、壁に描かれた絵に過ぎないのだ。

青空に見える壁や天井が、程よく発光している。ハッキリとした視界で、対霊庁のホームページにあった記載と通路の状況を見比べた。

幅は約12メートル。高さは、約4メートル。自分どころか、ロッソさんでも得物を存分に振るえる程度の広さはある。

周囲を確認後、ゆっくりと壁に向かって移動を開始した。

壁際に見える麦に似た物体は、一部だけ絵ではなく実際に生えている。もっとも、正確には植物ではないのだが。ただ、ダンジョンが部分的にそういう形をしているに過ぎない。

ダンジョンとは、魔物達がかつていた場所の再現。ここの魔物の『伝承』を考えれば、妥当と言えよう。

「現在地は、『L-21』ですね」

ロッソさんの大鎌で影を作りながら、ブラックライトを壁に向ければ、そこにアルファベットと数字が表れた。

近づいた事でより、平面的な事が分かる家の絵の近くに書いてある。

「んじゃ、暫く前進してみようか。オタク君、索敵お願いねー」

「はい」

今回は自分が索敵を行う。前回は安田さんが『五感強化』という異能を使い、聴力で敵の位置を見つけていたが……このダンジョンでは、それが通じない。

剣を手に、ゆっくりと歩き出す。柔らかい土が靴裏の形にへこみ、足跡を刻んだ。

時折流れてくる風で、左右にある麦もどきがざわざわと揺れる。それに心を乱される事なく、『視』えるモノを探した。

そして、ダンジョンに入ってから3分程経った頃。

自分の両目が、周囲とは異なる魔力を捉えた。

「敵です。止まってください」

小声で制止しながら、剣を握り直す。

「数は3体。10メートル先にある、左右の麦もどきの中に隠れています。右に2体。左に1体」

「OK……!」

切っ先で示した箇所に、璃子先輩が扇子を向ける。そして詠唱を開始した。

「■■■……■■、■■■■■■……」

それは、現代ではどこの国でも使われていない未知の言語。

しかし、最後の一節だけは既知の言葉にて、ハッキリと告げられた。

「────晴天に響け。『サンダー・ランス』」

瞬間、彼女が扇子で示した先。敵の頭上に紫色の魔法陣が出現する。

人の頭程もあるそこから、青白い光が発せられた。一瞬、強い光が発せられたのと同時に、空気が弾ける様な音が通路に響く。

焦げた様な臭いが風に混ざった直後、奇襲は失敗したと察したらしい。この地に潜む魔物達が、その姿を現した。

ぐちゃり、と。泥が落ちた様な足音がする。

一見すれば、腰の曲がった老人と間違えるかもしれない。だが、この距離で直視して、アレを人間だと思う者はいないだろう。

髪に見えていたのは、乾燥した藁。眼球があるはずの位置には、それぞれ別の色をした豆が埋まっている。

泥で構成された体は、全身に生えた雑草の根と、白い菌糸の様な物でつなぎ合わされていた。

カエルの様に横へ大きく開いた口から、ごぼり、ごぼり、と。田んぼの底からガスが漏れ出た時と同じ音がする。

農業用の大鎌を泥の腕で握り、豆の瞳でこちらを見つめる2体の異形。植物が腐った臭いが、途端に通路を満たした。

『ポレヴィーク』

スラヴ民話にて語られる、畑の守護妖精。そして、旅人を害する者。

豆の瞳に何の感情も映らずとも、手にした得物と構えだけで、彼らの意思が伝わってくる。

それは、殺意だ。

『ごぼっ……ごぼっ……』

右側の個体が、突如その左腕を振りかぶる。

まるで何かを投げる様な動作をしたかと思えば、奴の腕が伸びた。

泥で構成された腕は10メートルの距離を瞬く間に消し去り、ロッソさんへと迫る。

「ふん!」

だが、その腕は容易く彼女の大鎌で弾かれた。刃ではなく峰の部分が当たったにも関わらず、根と菌糸が引き千切られて泥が四散する。

同時に、自分も駆け出していた。柔らかい土を蹴散らして、左の個体へと剣を振り上げる。

「らぁ!」

『ごぼっ……!』

袈裟懸けに振り下ろした刃を、ポレヴィークは鎌の柄で受け止める。

背丈こそこの怪物は低いが、横幅と厚みはプロの格闘家に匹敵した。その膂力は、北極熊と並ぶと対霊庁は言っている。

だが。

「おおっ!」

強引に剣を押し込み、鎌を弾いた。ポレヴィークの両腕が、得物に引っ張られて上げられる。

無防備になった胴へ、一閃。泥の体を支える根と菌糸を引き千切った。

だが、まだ動く。出血も痛覚もない怪物は、瞬間的にその体をバスケットボール大にまで縮める事で続くもう一撃を回避した。

地面に落ちきる前に再び体の大きさを戻したポレヴィークは、膝を折り曲げた低い姿勢で、既に鎌を振りかぶっている。

『ごぼぼ……』

こちらの左足を刈る為に、大鎌が振るわれた。

────その未来は、もう視ている。

振るわれた大鎌の柄。穂先との接合部を思いっきり踏みつけた。切り裂くはずだった左足の踵に、柄がバキリとへし折られる。

『ごっ……!?』

「しぃ……!」

低い位置にあるポレヴィークの脳天へ、剣を振り下ろす。肉厚の刃が、勢いよく藁の髪と泥の中の根を切り裂いた。

頭を縦に両断された怪物が、その身をぐちゃりと地面に広げる。

それを視界に入れながら、1歩後退しつつ顔を傾けてロッソさんの方を見た。

「でぇりゃあああ!」

彼女の細身から発せられたとは思えない雄叫びと共に、赤と黒で彩られた大鎌が横薙ぎに振るわれる。

隻腕となったポレヴィークにそれを防ぐ力も、体を縮めて避ける隙もなく、得物もろとも両断された。

上半身が勢いよく飛んでいき、偽りの青空にぶつかる。べちゃりと潰れた体は、黒い霧に変わっていった。

こちらが剣を向けていた方も、同じく黒い霧となって後には魔石だけが残る。

最後に念の為周囲に視線を巡らせた後、小さく息を吐いた。

「付近に敵はいません。戦闘終了です」

「ふふん。圧倒的であるな」

「いえーい。2人ともおつー」

「お疲れ様です」

麦もどきの中に転がっているのも含めて、魔石を回収する。

再び4人で集まり、互いの無事を確認した。

「お祖母ちゃんの言った通り、このダンジョンでもあーしらなら大丈夫そうだねー」

「ですね」

ダンジョンや、そこに出現する魔物に、よくネット小説で見る『ランク』は存在しない。

そういった分かり易い強さの指標がない事もあり、基本的に冒険者がどのダンジョンへ探索に行くのかは『自己責任』となっている。

だが、こういう時客観的な視点こそが重要だ。その為、大抵のクランではクランマスターが『どこまでなら大丈夫か』を判断する。

何というか、やる事の多い役職だ。それ以外にも他クランとの情報共有やら、そこから考えられる各ダンジョンへの対策等。本来の仕事と平行してやらないといけないらしい。

……自分には無理だな。クランマスター。

「そいじゃ、探索再開といこっかー」

「はい」

「うむ!」

「了解」

剣を握り直し、峰を肩に担いで歩き出す。

ポレヴィークは、基本的に麦もどきの中に体を縮めて隠れ、奇襲をしてくる場合が多い。

その際に身じろぎ1つしない上に、呼吸もしないので音での索敵は困難とされている。

だが、魔力を誤魔化す異能は持っていない。魔眼で麦もどきを睨みつけながら、ゆっくりと足を進める。

心配していたより、ダンジョンへ集中出来ていた。鬼の血の影響か、それとも自分は冒険者に向いている性格なのか、それは分からない。後者だったら、少し嬉しいのだが。

そんな事を考えつつ、瞳を左右に行き来させ。

柔らかい土に足跡を残しながら、偽りの空の下を進んでいった。