軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十二話 押し寄せるボケ

第四十二話 押し寄せるボケ

「んで、やっぱり虎毬ちゃんは公安だったん?」

虎毬さん達と一緒にダンジョンへ行った翌日。喫茶店にて、対面に座る璃子先輩がそう尋ねてきた。

「残念ながら、自分にはよく分かりませんでした」

「まあ、そう簡単に分かるわけないわなー」

こちらの答えに、彼女は小さく肩をすくめながらコーヒーを飲んだ。

そして、自分の隣に座る小鳥遊さんが自身の細い顎に指を当てて考え込む。

「どうにかして、遠海虎毬さんにコンタクトを取れれば良いのですが……」

「取ったとして、どう伝えれば良いのか、ってのもあるよね」

「素直に『魔物の手が政府に伸びているかも』って警告つきで伝えれば良いんじゃね?」

「……それも、手と言えば手ですよね」

「問題は、そもそもこっちの虎毬ちゃんが良いもんか悪もんか、ハッキリしていないって所だけどねー」

璃子先輩の言う通りである。

現状、自分は彼女が悪人だとは思っていない。どちらかと言えば、善人だと思う。しかし、腹芸で公安相手に勝てる気がまるでしない。つまり、真意が分からないのだ。

「『ロッソ・ヴェンデッタ』の様に、こちらの世界、あるいはこの時代においては、私が持つ情報は当てにならないかもしれませんね……」

「後世に英雄として伝わっているけど、実はとんでもない悪党でした……なんて。創作じゃぁよくある話だからねー」

後頭部で腕を組んだ璃子先輩が、苦笑を浮かべる。

……何というか、ずっと同じ悩みで足を止めている気がした。

ここは、そろそろ強引にでも踏み出した方が良い気がする。

そんな事を考えていると、璃子先輩がこちらに視線を向けてきた。

「てか、それこそロッソんの方の確認どうよ。ぶっちゃけ、あーしはもうあの子好きなんだけど」

「そうですね。僕も、ロッソさんが大量虐殺をやる人には思えません。何か、魔性に堕ちた要因があるのかと」

自分と璃子先輩の視線が、小鳥遊さんに向かう。

彼女は、目を閉じて数秒の沈黙を挟んだ後。

「……私も、同意見です。彼女がいる街やその周辺で、吸血種による被害は出ていません」

やや瞳を伏せながら、頷いた。

「お祖母ちゃんも、あーしらと同じ意見だよ。きっと理由があったんだろうって」

璃子先輩が、カウンターにいるマスターに視線を向ける。自分もそちらを見れば、マスターの頷きが返ってきた。

「となると、ああいう人がそんな事を仕出かす原因があるとしたら」

「家族、だよねー……」

璃子先輩が、苦笑を引っ込めながら姿勢を正した。

「ライカンスロープの霊的災害。アレって、美由っちの世界だとオタク君は巻き込まれなかったんだよね?となると、その時に避難所を守り切れずお母さんが亡くなった可能性が?」

「どうでしょうか。あの避難所に、ロッソさんの母親がいたにしては言動に違和感があります。あの時、彼女の母親は別の場所にいたのでは?」

「うーん……お祖母ちゃーん。ロッソんの家の住所って具体的にどこー?」

璃子先輩の問いかけに、マスターは首を横に振った。

「事情は分かっているし、璃子達がこの情報を悪用しないって信じているけど、クランマスターとして教えられないかな。お友達なんだから、直接聞きなさい」

「それもそうだねー。折角明日一緒にダンジョンへ行くんだし」

そう。自分達4人は再びパーティーを組み、ダンジョン探索へ向かう予定だ。

行くダンジョンは、前回とはまた別の所だが。

「それに……最近物騒なニュース増えたしねー」

璃子先輩が頬杖をつきながら、リモコンで喫茶店に備え付けのテレビを点ける。

すると、ちょうど報道番組がやっていた。

『────続いてのニュースです。イギリスで起きた銃の乱射事件に対して、国際テログループ、カラミティが犯行声明を出しました』

「うへぇ……」

キャスターが読み上げた内容に、璃子先輩が口を『へ』の字にする。

そして、テレビ画面に髭面の男が映った。

『我々カラミティは、災いをもって世界を正す!異能者とは、世界に混乱をもたらす存在である!いもしない魔物をでっちあげ、人々を苦しめる悪魔だ!人々よ、騙されるな!』

『カラミティの指導者のテキラ・ムースメイ氏の発現に対し、イギリス政府は────』

「勘弁してほしいよね、本当に。何が『魔物はでっちあげ』だよ。ふざけた名前しやがって。絶対偽名だろそれ」

唇を尖らせる璃子先輩に、頷く。

魔物を見る事が出来ないから信じられない、という人は未だいるが、諸々の被害を異能者のせいにするのは本気でやめてほしい。

「美由っち。あの髭って後世にも名前残っていたりする?」

「さあ。ですが少なくとも、私は聞いた事がありません」

「しゃぁ!ざまあねぇぜ髭。せめて本名を名乗れっての。自分を偽る奴が、何かを為せるわけでねーだろ!」

……真面目な話をしているし、ツッコミを入れるべきではないのだろうな。

自称オタクに優しいギャルの璃子先輩に、思わず微妙な眼を向けてしまう。己を偽っていないのだろうか、この人。

『はたして、テキラ氏の声明は正しいのでしょうか?』

『いやー、流石に荒唐無稽としか言いようがないでしょう』

番組に出演している、ヨーロッパに詳しいというジャーナリストが肩をすくめる。

『魔物を信じていない人には、いい加減現実を見てほしいですね。現在の欧州は、英国から助力を得てどうにか魔物被害を抑えているぐらいですから』

『そうなのですか?』

『ええ。あくまで噂の段階なんですが、日本と英国の異能者は他の国の異能者よりも強い力を持っている可能性が高いんですよ。今後の欧州の平穏を考えると、彼らの行動はとんでもない事ですね』

『日本と英国の異能者が、他の国の異能者よりも?』

「そうなん、美由っち」

テレビから視線を外した璃子先輩に、小鳥遊さんが頷く。

「そう言われています。私のいた時代でも、イギリスの異能者達は高い質を持っていました。それに、日本からの避難民の中にいた異能者も」

「ほへー。そうなんだ」

「ただ、魔物に物量で押しつぶされていましたが」

「そりゃあ、そうよね……」

『これは、地脈の影響が強いと考えられており、今後の国際協力に際しては日本の霊地と呼ばれる場所を海外の異能者に貸し出して、修行をですね』

テレビでは、ジャーナリストの人が熱く語っている。

しかし、『カラミティ』ねぇ……何とも、安直な名前だ。

彼らの名は、時折ネットニュースでも見かけている。あくまで噂だが、近々日本でも何かするんじゃないか……と、一時期話題になったっけ。

そんな事を考えている内に、ニュースの内容は動物園の話に移っていた。

『続いてのニュースです!動物園に新しい命が誕生しました!レッサーパンダの風太郎の孫、ジェシーに子供が』

「わぁ……」

映し出されたレッサーパンダに、思わず口元が綻ぶ。可愛い。とても可愛い。

一度、レッサーパンダのお腹とか尻尾を撫でてみたいものだ。可能なら膝の上に乗せてみたい。

「やべーぞ美由っち。オタク君があーしらよりも乙女っぽいリアクションしてやがる」

「誰が乙女か」

「大変素晴らしいと思います」

「小鳥遊さん?どういう意味?なんか目が恐いよ?」

「獣人バージョンは……限定だったのです……!」

「意味が分からないし、分かりたくもない」

つけないからね?ケモ耳とかつけないからね?というか別人だからね?

* * *

そんな話をしていた、翌日。土曜日。

休日という事もあり、午前中から自分達は冒険者業に勤しむ事にした。

いつもより、少し遠くのダンジョン。電車とバスを乗り継いで向かった封鎖所には、今回も既にロッソさんが待っていた。

合流予定時刻よりも15分早くついたはずだが、彼女はいつからあそこにいたのだろう。

封鎖所の駐車場にて、今回はハープではなくハーモニカを携えていた。持っているだけで、演奏はしていない。

「ふっ……今日もまた、風が騒がしいな……」

「お待たせー、ロッソん!ダンジョン探索終わったらロッソんの家に遊びに行って良い?」

「急に!?」

「ロッソんの家に集まって敦盛マックスじゃい!」

「急に!?」

「いいや!敦盛は駄目だ!ロッソんの家で朝まで松尾レース耐久祭りを開催する!!」

「急に!?」

いけない。ロッソさんが『急に』しか言えない生物と化している。

「…………」

「待って小鳥遊さん。斜め45度で叩けば直るとかないから」

「私の心を……!?」

「読んでない。ただチョップの姿勢でにじり寄ろうとしていたから分かっただけ」

「何なのだこれは!?どういう事なのだ!?」

「そして貴女は落ち着いてください」

「時がきたぁ……それだけだぁ……!」

似非ギャルが何か渋い顔で妄言を吐いている。

胸の下で腕が組まれ、彼女の巨乳が強調されたが、気合で視線を逸らした。

「ふざけるのはそのぐらいにしてください、璃子先輩。ロッソさんが困っています」

「時がきたか……ならば、仕方あるまい!」

「仕方なくないと思うので、一旦冷静に考えてください」

マスター。助けてくださいマスター。突然ボケが大量にわきました。なぜか皆さんアクセルべた踏みです。

小鳥遊さんの襟首を掴んで止めながら、空に向かって助けを求めた。だが、当然ながら何も返事はない。

救いは……ないのか……。

「はっ!?吾輩は正気に戻った!」

「その一人称で?」

「突然なにを申す、井上璃子よ!訳をのべよ!」

「説明しよう!『松尾レース』とは、平安京都を舞台にしたレースゲームである!酒と賭けレースに明け暮れる牛車の御者、松尾が、職場から追い出され奥さんに離縁された所から話は始まる!」

「違う。すべき説明はそれじゃないです」

「ふむ。そしてプレイヤーは松尾を操作し、牛車を運転。頂点を目指す遊戯であるな!コースに存在する数々のアイテムを使い、並み居るライバル達を打ち払う必要があるのだろう!?」

「なんで貴女まで説明サイドに回ってんですか?要りませんから。これ以上は要りませんから」

「なるほど、そんな面白そうなゲームが……!」

「ちくしょう、必要な子がここにいたぜ」

なんだこの三馬鹿。留まる所を知らねぇのか。

え?今のゲーム説明マ●オカートっぽくないかって?ちょっと何の事か分かんないです。僕、イタリア語はさっぱりなんで。

「じゃ、喫茶店に報告書と魔石提出したらそのままロッソんの家な!」

「って待てい!?なぜ吾輩の城でゲームをする事になっている!?」

「貴女が、『時が来たのならしょうがない』とか言ったからですかね」

「やっぱ耐久は駄目だった?1戦か2戦ぐらいにしとく?」

「まず吾輩の城に来る事が前提!?」

「残りの時間は別のゲームやろっか」

「貴殿、よもやお泊りを想定しているのか!?」

「当たり前だのクラッカー!!」

「璃子先輩。それギャル語じゃないです。たぶん昭和に流行ったやつです」

「クラッカー……それは武器ですか?」

「違うからちょっと黙っていようね、小鳥遊さん」

おかしいな……ダンジョン探索の前から何か疲れてきたぞ?

というか、自分もお泊りどうこうは聞いていないんですけど。いや、流石に男が異性の家に泊まるのはまずいし、やるのなら1人だけ帰るつもりだが。

「分かった……じゃあ、あーしの家でゲーム大会だ!」

「なんでそうなる!?い、いや。吾輩も?別に?嫌というわけじゃないが?こ、心の準備というのがあってだな……」

ロッソさんが、頬を赤く染めながら爪先で地面をいじいじし始める。

あざといな、こいつ。

「うるせぇ!行こう!」

うるせぇな、こいつ。

璃子先輩の大声に耳を塞いでいると、ロッソさんが小さく頷いた。

「し、仕方あるまい。そこまで言うのなら、吾輩も貴殿の話を受けてやろうではないか」

「よっしゃぁ!ロッソさんは押せばいけると思っていたぜ!」

「発言が最低です、璃子先輩」

「だが、今後はこういう誘いは事前に一報しておくのだぞ?それが礼儀というものだ」

「はぁい」

正論である。

「璃子先輩、僕らも初耳なんですけど」

「めんご!てか、もしかして予定あった?」

「いえ、僕はないですけど……」

「私も問題ありません。それより、そのゲームについて詳しく説明してください」

小鳥遊さんがいつになくやる気だ。小さな鼻の孔を膨らませ、ふんすふんすとしている。

「おけまる水産だぜブラザー!」

「強いて言うのならシスターです。そのレースゲームに、仮面ラ●ダーは出ますか?」

「え、ごめん。流石に出ない」

「……そうですか」

あ、小鳥遊さんのテンションが分かり易く下がった。

「ま、まあまあ!代わりにアン●ンマンカスタムとかは出来るから!」

「え、そんなんありましたっけ?」

あとあやし方が対幼稚園児じゃねーか。

「ッ!!本当……ですか……!?」

幼稚園児式で通用しちゃったかー。

璃子先輩が、小鳥遊さんに『バチコーン☆』とウインクをしながらサムズアップを決める。

「あーしを信じろ、美由っち!」

「びっくりする程信じられる要素がない」

「自分の胸に手を当てて己の所業を振り返ってはどうだ?」

「璃子先輩……私は貴女を、信じます!」

「小鳥遊さんの将来が不安だ……」

「そのうち詐欺師に騙されんか、心配であるな」

「ちょっとそこの2人ぃ。これからダンジョンなんだから、もっと真剣になってよねー」

「……ロッソさん。ダンジョンに入ったらあのアホの背中に、思いっきり攻撃しません?」

「奇遇であるな。吾輩も同じ事を考えていた。最大火力を叩き込むぞ。呼吸を合わせよ」

「ちょ、まっ、ジョーク!?」

まあ、バカアホ似非ギャルな璃子先輩は置いておいて、実際封鎖所の前でいつまでも騒いでいるわけにもいかない。

そろそろ、意識を切り替えるとしよう。

「じゃあ、行きましょうか」

「うむ」

「了解」

「ねえ、冗談だよね?本当に冗談だよね?あーしか弱い乙女だからね?ガラス細工より繊細に扱ってほしいからね?」

似非ギャルの戯言を無視し、封鎖所に入る。

やはりというか、最低限の人員しか中にいない。彼女らと別れ、男子更衣室に入る。

……しかし。流れで自分も璃子先輩の家で遊ぶ事になっていたな。

色々とアレな人ではあるが、美人でスタイル抜群な異性の家で、これまた爆乳な美少女と巨乳な美女と一緒に遊ぶ……と。

……あ、やばい。緊張で吐き気が。

全然思考を切り替えられないまま、着替える。

これ……もしや自分は、ダンジョン内で事故死するのでは?

そんな不安と共に、ロッカーを閉じた。