軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十話 別のクラン 上

第四十話 別のクラン 上

虎毬さんからダンジョン探索の誘いがあった、翌日。

放課後、電車を使い、又隣の市へ。そこからバスに乗り、目的地を目指した。

自分以外の乗客は数人だけ。前の席に座っているお爺さんが持っているのだろうラジオの音声が、こちらにまで聞こえてくる。

『ですからですね、今こそ国際協力に力を入れるべきなんですよ』

ラジオのゲストらしき、どこかの大学教授さんが、妙に熱のこもった様子で語っているようだ。

『異能者の数は、日本において1万人に1人とされています。それに対して、ダンジョンの数はあまりにも多い』

『多いとは、具体的にどれ程なのでしょうか?』

『流石に正確な数字は言えませんが、国内だけで封鎖所は2千を軽く超えているのです』

『それは……異能者の数が1万人に1人なら、明らかに異能者の方が多いのではないですか?合計で1万と2千人ぐらいですよね』

メインパーソナリティーの発現に、大学教授さんは小さくため息をついた。

『ええ。ですが、それは子供や老人も含めたものです。その上、異能にも戦いに向いたものと向いていないものがいるのですよ。異能者1万2千人が、全員が戦えるわけではない』

『なるほどぉ……』

『現在の冒険者数は、約2千人。ダンジョンの数よりも少ないのが現状です。単独でのダンジョン探索は出来ない以上、政府はこの事実をもっと重く受け止めるべきですな』

『その為の、国際協力なんですね。足りないからこそ、人類全体で補い合うべきだと』

『その通り!』

我が意を得たりとばかりに、大学教授さんが手を叩く音を出す。

『先程言った通り、異能者にも向き不向きがある。だからこそ、ダンジョンでの間引きに適した、スペシャルチームを組むべきなんですよ。そして、それを世界の必要な土地に、必要な時にですね』

そこで、運転手さんの声が聞こえてきた。

『お客様へご連絡します。他のお客様のご迷惑になりますので、携帯電話での通話や────』

それを受けてか、前の席のお爺さんはラジオを止めた。

車内に、車の走行音だけが聞こえる様になる。時折、道路の凹凸でガタンと揺れた。

先程のラジオで語っていた、大学教授さんの考え。それは……どうにも、自分には難しい事に思えてならなかった。

確かに、『回帰の日』によって世界は変わったと思う。

しかし、人全体が変わったわけではない。社会が全く別物になったわけではないのだ。

自分は性善説も性悪説もあまり信じていないが、きっと……彼の言っている事は、上手くいかない。

正しくはある。正しくはあるのだが、皆が皆、1つの問題に手を取り合って対応できるかと言われると、素直に頷けない。

だが、『ならばこの冒険者不足をどうするのか?』という問いに対して、代案も浮かばなかった。

異能者の数を増やす?非異能者でも魔物と戦う手段を作る?地脈をどうにかして、魔物やダンジョンの数を減らす?

どれも、一朝一夕で出来る事ではない。しかし、二度も霊的災害に遭遇した身としては、あまり悠長な事を言っていられないとも思えた。

何より、小鳥遊さんが語る並行世界の未来の話を、知っている。

正直、彼女の話に未だ実感を持てていない。だが、このままではまずいのだろうと、薄っすら感じている。

凄い学者さんや、凄い異能者が、何か『これは』という解決策を打ち立ててくれないものか。

並行世界で自分は悲劇の英雄らしいが、この世界の自分はちょっと腕っぷしのある高校生でしかない。そんな大それた事は出来ないので、まず他力本願である。

……小鳥遊さんと『より良い未来の為に』とか言ったけど、具体的に何をしようとか、何が出来るとか。全然ないな、僕ら。

誰にでもなく、苦笑する。

────本当に、自分はただの学生なのだな。

そこで、再び車内にアナウンスが流れる。今度のは、目的のバス停が近い事を告げる内容だった。

降車のボタンを押して、数分後。バスが止まり、料金を支払って降りる。

じっとりとした風が、肌を撫でた。霊格が上がって暑さや寒さに強くなったが、快不快の感覚は変わっていない。

少しだけ大股で、目的地に向かう。

バス停から10分程の場所に、封鎖所があった。その前で、見知った顔と知らない顔がこちらを見ている。

待ち合わせの時間より早めに来たつもりだが、待たせてしまったらしい。

「お待たせしてすみません。クラン『アルフ』の、矢広です」

「いえいえ!私達も今来た所ですよ、矢広君!」

「はい。本日は合同依頼を受けてくれて、ありがとうございます」

片方は虎毬さん。もう片方は、糸目の20代ぐらいの女性であった。

基本的に整った容姿なのだが、どうにも糸目な事以外印象に残りづらい人である。体格もそうだが、それ以上に纏っている雰囲気が……とでも言えば良いのか。上手く言語化が出来ない。

魔力の流れを意識しなければ、ふとした拍子に見失ってしまいそうな人だ。

「こちらは『 安田公子(やすだきみこ) 』さんです!優秀なスカウトさんですよ!」

「安田です。よろしくお願いしますね」

「あ、はい。こちらこそ、本日はよろしくお願いします」

スカウト、斥候という事か。

安田さんが、丁寧にお辞儀をしながら名刺を差し出してくる。慌てて受け取るが、当然ながらこちらはそんな物持っていない。

「あ、えっと。すみません。名刺は……」

「いえ、大丈夫ですよ。学生さんと聞いていますので」

困っている自分に、安田さんはのんびりとした声で首を横に振った。

本当に気にした様子はなく、雰囲気も先程から変わらない。何というか、掴みどころのない人である。

「では、外にいてもしょうがないですし、中で少し話しましょう!」

「あ、はい」

虎毬さんを先頭に、封鎖所へと入る。空調の利いた室内に入ると、肌に纏わりついていた湿気が晴れていく様であった。

そこから、建物の隅の方で探索時のポジションについて軽く話し合う。一応、メールや学校で虎毬さんとは話していたが、即席のパーティーという事もあり念の為だ。

しかし、やはり意外というか……。

「本当に、虎毬さんも前衛に立つんですか?」

「はい!任せてください!」

むん、と。小学生でも通じる様な体躯の彼女は、力こぶを作るポーズをとる。

実際には力こぶなんて出来るはずもなく、薄手のカーディガンに覆われた華奢な腕しかそこにはない。

異能者にとって見た目の情報なんて些細な事だが……それでも、不安になる。

安田さんの方を見るが、糸目のままニコニコと笑っているだけだ。どうにも、心の内が読めない。

「……分かりました。予定通り盾役は自分が、攻撃は虎毬さん、安田さんが支援、という事でよろしいですね?」

「はい!一番大変な役をお任せしちゃいますが、頼りにしていますね!」

「私も大丈夫でーす」

……大丈夫なのかな。

引きつりそうになる頬を抑えて、着替えに向かう。諸々の用意を済ませた後、更衣室を出た。

壁に背を預ける様にして、彼女らを待つ。しかし、どうにも落ち着かない。やはり緊張する。

だが、それでも教室程のアウェー感はなかった。

ダンジョン探索は、やる事がハッキリしているからかもしれない。あるいは、自分が必要とされていると、強く感じられるからだろうか?

異能者になった事で友達が減ったのに、異能者になって充実感を覚える事があるとは。世の中、分からないものである。

そんな事を考えていると、虎毬さん達も出て来た。

互いに問題ないかを確認後、受け付けを通って奥の部屋に向かう。その時、やはりというか受け付けの人が虎毬さんを二度見していた。

気持ちは分かる。正直、冒険者には全く見えないし。

背後で金属製の扉がしまった後、『霊装』を展開する。軽く籠手や胸当の調子を確かめ、剣帯にランタン型のLEDライトを通した後、2人の方を見た。

安田さんは、全身黒ずくめである。

フード付きの黒い外套も、その下のピッチリとした上着や、革の胸当も、無骨なズボンも、全てが黒色だ。

布製らしき靴も、右腰の矢筒や左腰のナイフも黒い。手に持った弓まで同じ色で、如何にもなスカウトである。

虎毬さんも黒ベースの『霊装』なのだが、こちらは随分と印象が違った。

なんせ、どう見てもシスター服なのである。

黒いベールを被った、修道女らしい格好。といっても十字架は下げておらず、派手な髪がベールの下から覗いているが。

だがそれ以上に気になったのが、腰のベルトとそこに下げられた得物である。

「日本刀……?」

小鳥遊さんが吊るしている軍刀とは違う、キチンとした刀だ。虎毬さんの体格に合わせてか、脇差……いや、反りから見て、小太刀だろう。

自分の視線に気づいたのか、彼女は自慢げに胸を張った。

「はい。浪漫ですよね、日本刀!実は私、剣道を嗜んでいた時期もあるんです」

「剣道を……」

武道経験者というのなら、確かに頼りになるかもしれない。

公安である可能性も含めて、これなら彼女に前衛を任せても大丈夫そうだ。

「ふふん。ですので、大いに頼ってくださいね、耕太君!」

「……分かりました。よろしくお願いします」

思考を切り替える。

ここから向かうのは、ダンジョンだ。相手の外見で何かを判断するのは、やめるべきだろう。

剣の鞘を強く握り、深呼吸を一回。長く吸って、長く吐き出す。

鞘を締め付ける指が、だんだんと緩んできた。額当の穴を通って、角が伸びるのを自覚する。

「……行きますか」

「はい!」

「了解です」

自分の問いかけに、他2人が頷いてくれる。

それにこちらも頷いてから、先頭に立った。肩に彼女らの手が置かれたのを確認してから、楕円形のゲートへと足を踏み入れる。

いつもの、吸い込まれる様な感覚。その直後に、足裏がごつごつとした地面を踏みしめた。

腰に下げた明かりが、周囲を照らす。

光を受け止める壁や天井はなく、凸凹とした灰色の地面が広がっていた。目を凝らして、ようやく少し遠くに石の柱が目視できる。

ここは、広大な地下空間の様なダンジョン。道と呼べるものはなく、見渡す限りが暗闇であった。

鞘から剣を抜く音が、2つ。自分と虎毬さんが、何も言わずに得物を握った。

「……行きましょうか」

普段の異様に高いテンションではない。真剣な面持ちで、虎毬さんがこちらに告げる。

それに自分と安田さんが頷いた後、一番近い柱へと向かった。運が良ければあそこに自衛隊のペイントが描かれているし、それがなくとも、ある程度の間隔で石の柱はあるはずだ。

真っ暗闇が続く広い空間に、足音を響かせながら。

彼女達(別クラン) とのダンジョン探索が、始まった。