軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十一話 クラン『アルフ』 下

第三十一話 クラン『アルフ』 下

悲報。 瀟洒(しょうしゃ) なメイドさんだと思ったら、元はダメなオッサンだった件について。

璃子先輩族じゃねぇ。もっと下の残念な何かだ。

「というか、女遊びに男遊びって」

「キャー☆オタク君ったら真っ先にそこを気にするなんて、変態さんだー!エッチなのはいけないと思います!ナイトプールは二十歳から!」

「黙ってやがれください似非ギャル先輩」

「やんのかてめぇ!」

ガルルと唸る璃子先輩を無視し、視線を犬吠埼さんに向ける。

彼?は何故か自信満々にサムズアップをしてきた。

「おう。オレは二刀流だぜ。ま、この体になってからは完全にメイド化するのを恐れて、どっちも遊べてないがな!」

「ソッスカ」

どうしよう。この人をどう形容して良いか分からない。

「オレはもう、一生この体と付き合っていくしかねぇのさ……悲しい事にな」

「あ、はい」

もう一生その体の方が良いんじゃないですか?と言いかけたが、流石に自重した。

合法の賭け事は兎も角、それ以外の趣味が人として終わり過ぎているけども。

「普段は、別のクランメンバーを『奉仕のサンドバッグ』にして何とか発散している。だが、そいつが学校の事で暫く遠出していたからな。今日はちょっと溜まってんだ」

「奉仕のサンドバッグって人生で初めて聞いたかもしれません」

バチコーン、と無駄に慣れた様子で犬吠埼さんがウインクをしてくる。

「ふっ……オレがお前の初めてをもらっちまったか」

「変な言い方をしないでください」

「キャッ☆オタク君とメイやんがいけない関係に!」

「変な頭をしないでください」

「オタク君さぁ!?なんかあーしにだけ当たり強くない!?」

「安心してください。こんな事、貴女にしか言いません」

「オタク君……!それだけあーしに信頼を……!」

「はい。負の信頼をしています」

「美由っちぃ!オタク君が虐めるぅ!」

「この紅茶とお茶菓子美味しいですね」

「無視!?我が道を行きすぎだよこの子!?どういう教育したのオタク君!」

「どちらかと言うと貴女の影響だと思います」

具体的に言うと璃子先輩の布教の結果だと思う。

小鳥遊さん、いつの間にこんな図太く……いや、それは女性に対して失礼か。

それに、実際の腰回りは凄く細くて……いけない。この前の事を意識したら、耳が熱くなってきた。

「おんやぁ?オタク君の耳が赤いぞぉ?どぉしたのかにゃ~?風邪でもひいちゃったのかにゃ~?にゃんにゃんにゃ~?」

「お?エッチな妄想か?妄想しちゃったのか?猥談ならいつでも乗るぞ少年。安心しろって、オレ口は硬いから!信じろって!」

くっ、バカと悪い大人が寄ってきやがった!

口を『へ』の字を通りして富士山型にして、顔を背ける。マスターがやってくるまで耐えれば、あの人がこの邪知暴虐な変人どもを蹴散らしてくれるはずだ……!

え、自分で迎撃しないのかって?ポメラニアンにワニの群れと戦えと?

───カランコロン。

扉のベルが鳴った瞬間、犬吠埼さんが瀟洒なメイドさんに変身する。

いつの間に立ち上がったのか。楚々とした仕草で扉の方へ向き、優雅に一礼をした。

というか、今日は貸し切りのはず。ならば入って来たのは、クランメンバーに他ならない。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「おう。ただいま」

そこにいたのは、魔力量からして異能者と思しき女性であった。

ぼさっとした髪に、眠そうな瞳。猫背と病的に白い肌なのもあって、およそ健康的とは言えない。

だぼっとした緑色のパーカーに、黒いジャージのズボン。そしてスニーカーという、随分とラフな格好だ。

顔立ち自体は整っているし、雰囲気から大学生ぐらいの年齢なのだろうが……大人のお姉さん感は皆無である。

入店してきた女性は脇に抱えていた鞄を慣れた様子で犬吠埼さんに預け、こちらに視線を向けた。

「あん?ああ、あんたらが噂の新人ペアか。よろしく」

「あ、どうも。矢広耕太です」

「小鳥遊美由です。よろしくお願いします」

慌てて立ち上がって挨拶をすると、彼女はその眠そうだった瞳をギラリと輝かせた。

「ほーん……女向けのエロゲに出ていそうな奴と、男向けのエロゲに出ていそうな奴だな」

「……はあ」

色々ツッコミどころしかない発言だったが、どうにか言葉を飲み込む。初対面の相手に、璃子先輩みたいな扱いは出来ない。

犬吠埼さんは良いのかって?アレは気遣うだけ無駄かなって。

冷や汗を流す自分に、その女性はケラケラと笑う。

「おっと。気を悪くしちまったのならすまん。悪い意味で言ったんじゃねぇ。アタシは絵のモデルになりそうな奴を見つけると、つい口が滑るのさ」

「絵のモデル……?」

「これでもプロを目指してんだよ。大学に通いながらな」

女性が、自身を親指で指さす。

「アタシは『 上代絹江(かみしろきぬえ) 』。歳は21だ。気安く上代さんって呼んで良いぜ」

「あ、はい。よろしくお願いします、上代さん」

「冗談だよ。絹江で良い」

「いや、その……絹江、さん」

「随分と硬いな。顔はメスお兄さんなのに」

「誰がメスお兄さんか」

あ、つい普通に返事をしてしまった。

……いや『メスお兄さん』の否定って普通か?

「なんだよ、腹から声出るじゃねぇか。今度地雷系の女装してモデルになってくんねぇ?バイト代は払うぞ、そのうち」

「やりません。絶対にやりません」

「矢広さん」

「小鳥遊さん?」

凛とした声に振り返れば、小鳥遊さんが真剣な瞳でこちらを見ていた。

「本当にやらないんですか……!?」

「やらない。ケーキ食べてなさい」

「はい……」

おい璃子先輩。本当にこの人へ見せたのは仮面ライ●ーだけか?別の変なもん見せてねぇか?

疑いの視線を自称ギャルに向けると、そっと逸らされた。黒だなこいつ。

後で絶対にマスターへ告げ口する事を誓っていると、絹江さんがくつくつと笑う。

「ま、断られちまったのなら仕方ねぇ。そのうち妄想で勝手に描くさ」

「いや描かないでください。というか、僕の女装とか需要ないでしょう」

「あるさ!ここに1人な!」

「お前を1人にはさせねぇ!オレも楽しみにしているぜ!」

「黙れ似非ギャルとダメ人間」

「似非じゃねぇ!」

「やめろ。やめてください。ダメ人間という単語を聞くと、奉仕欲ががががががが」

「あ、なんかすみません」

激しく痙攣する犬吠埼さん。不謹慎かもしれないが、その振動でお胸様が激しく揺れている。

おお、たゆんたゆん……絹江さんの登場でお胸様の平均値が下がっていた気がするが、それを吹き飛ばす存在感だ。

「犬吠埼。お茶」

「はい、お嬢様」

絹江さんの言葉に、犬吠埼さんが即座に反応する。

それはもう見惚れる程のメイドさんっぷりで、瞬く間に、それでいて静かにお茶とお茶菓子を用意していた。

まるでそうされるのが当たり前という様子で、絹江さんも奉仕を受け入れている。

「ああ、奉仕のサンドバッグって」

「そう!絹っちは私生活ダメダメだからね!メイやんがお世話しないと、たぶん気づいたら死ぬタイプの人間だよ」

「おう、解説どうも似非ギャル。お前いい加減自分が『オタクに優しいギャル』じゃなくって『ギャル風のオタク女子』って認めたら?」

「うるせぇ!あーしは自他共に認める真のエリートギャルだ!この美大に落ちた自称絵描き!」

「てめぇそれ言ったら戦争だろうが!アタシは落ちたんじゃねぇ!入らなかったんだ!」

ギャアギャアと璃子先輩と絹江さんが騒ぎ出す。

今の所、変な人しかいない。普通の人ばかりだと緊張で吐きそうになるが、変人ばかりだとそれはそれで疲れる。まともなのは、自分とマスターだけか。

似非ギャルの璃子先輩。メイドに魂が侵食されている犬吠埼さん。ダメ人間で絵描きの絹江さん。

キャラの濃い面々に、小さくため息をつく。

……あれ。よく考えると、このクランの男女比やばくないか?

犬吠埼さんは特殊ケースとして置いておくとして、自分以外は全員女性である。

どっと、嫌な汗が噴き出た。

この状況を、気軽にハーレムなどと喜ぶ事は出来ない。むしろ、『アウェー』と呼ぶべき空間である。

このクランが女性ばかりなのは、ここから最も近い『とあるクラン』のせいだと分かっているが、それでもここまで偏るのは想定外だ。

犬吠埼さんは男としてカウント出来るか?肉体は女性だが、精神は男性である。ならば、男として扱うべきだ。

そんな彼と目が合うと。

「どうなさいましたか、お坊ちゃま。何か御用がありましたら、ワタクシに何なりとお申し付けください」

「い、いえ。大丈夫です」

無理だ!メイドさんモードのこの人は、ただの清楚で可憐な爆乳美女でしかない!

正直めちゃくちゃドキドキする!

これは、非常にまずい状況だ。女性だらけの空間に男が1人でいても、大抵ロクな事にならない。そうテレビで言っていた気がする。

このままでは───『死』。

クランメンバーは、前にマスターから聞いた話から石山さん以外にもう1人いたはず。

その人に、賭けるしかない。

椅子に座り直しながら、心の内で祈る。

神様仏様……!どうか、次にあの扉を潜るのが、頼りになる大人の男の人で、話し上手聞き上手な、陰の者にも優しい陽の者でありますように……!

はたして、この祈りは届いたのか。

ベルの音と共に、扉が開く。

入って来たのは───。

『がぉおおおお!』

着ぐるみだった。

……なんで?

首はなく二頭身に近い、ずんぐりとしたシルエット。つぶらな瞳に、開けっぱなしの口。そこから、柔らかそうな尖った牙が覗いている。

頭の角とお腹の白い部分から、もしやドラゴンをデフォルメしたのだろうか?

……本当になんで?

「おっ、たつみんも来たねー。おひさー」

どうやらギルドメンバーらしく、璃子先輩がひらひらと手を振って出迎える。

いや、まだだ矢広耕太!希望を捨てるには早すぎる!

今日は歓迎会。もしかしたら、気さくなナイスガイがサプライズの為に着ぐるみを用意したのではないか?そして、璃子先輩には事前に連絡をしていた可能性がある。

陰キャにも優しい陽キャよ!カモン!

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「相変わらずたつみんの着ぐるみ柔らかそうだねー。お腹触っても良い?」

神は死んだ。

『お嬢様』で『相変わらず』という事は、普段からあんなトンチキな恰好をした女性なのだろう。シンプルに不審者だ。

『がおがお~。たつみん参上だがお~。みんな到着が早いがお~』

「語尾が安直……!」

思わずツッコミを入れた自分に、着ぐるみが短い足を動かして体を向ける。

『尖った語尾が必ずしも素晴らしいものとは限らない』

「あ、すみません」

思ったよりハスキーな女性の声。

それに思わず謝罪すると、再びあののほほんとした声が着ぐるみから発せられる。

『分かってくれたのなら良いがおよ~。アタイはたつみん。江戸時代からタイムスリップした、竜がおよ~』

「え、貴女も───」

思わずという様子で何か言いかけた小鳥遊さんの口を、璃子先輩が素早く塞ぐ。

危ない。この人、さてはあのキャラ付けを真に受けそうになったな……?

『どうしたがお~?』

「いや、美由っち事前に教えたたつみんの本名、『 竜宮金子(たつみやかなこ) 』を言いかけたから、止めただけだよ!」

『そもそも本名を教えるな、似非ギャル』

「似非じゃねぇ!!」

クランメンバー全員から似非認定されているのでは?

ファインプレーではあったが、それはそれとしてこの人はいい加減現実を認めた方が良いと思う。

「いいかいオタク君&美由っち!たつみんは可愛いもの好きだけど目つきが悪くて怖がられるから、安直に変な語尾と着ぐるみを着ただけの残念さんだ!」

『言ってはならん事を言ったな貴様ぁ!』

「おい竜宮。語尾忘れてんぞ」

『絹江もたつみんと呼べぇ!……がお!』

背もたれに片腕を引っ掛けながら、足を組んで紅茶を飲む絹江さん。

それに吠えた後、竜宮さん……たつみんがこちらにのしのしと近づく。

『おっほん!アタイはたつみんだがお!改めてよろしくがお!』

「あ、はい。よろしくお願いします、たつみんさん。矢広耕太です」

「小鳥遊美由です。今後ともよろしくお願いします」

『がおがお~。良い子達が入って来てくれて嬉しいがお~』

満足気に、着ぐるみを揺らすたつみんさん。

何というか……もはや何も言うまい。

ただひたすらに、マスターの到来を待つ。というか、もしや店の奥で歓迎会の支度をしているのだろうか?

だったら、手伝いに行った方が良いかもしれない。そう思い、席から離れようとした瞬間だった。

───カランコロン。

扉のベルが鳴る。

まだ来ていないクランメンバーは、後1人だけ。

自然と、全員の視線が扉に向いた。

「ふーはっはっはっは!待たせたな、諸君!」

肩にかかる程度の長さに切られた、淡い金髪。純白の肌と青い瞳もあって、西洋人形を彷彿とさせる顔立ち。

女性としては長身で、なおかつ出る所は出て引っ込む所は引っ込んだ体つき。それを、黒地に赤いフリルのゴスロリ衣装で包み込んでいた。

左目に薔薇を象った眼帯で覆ったその女性は、装いこそ異なるものの、自分は、自分と小鳥遊さんは知っている。

「我が名は『ロッソ・ヴェンデッタ』!赤き復讐者にして、悪を喰らう闇の使者なり!吾輩のために宴の場を用意した者達よ、喝采をもって出迎える事を許そう!」

妙に『凄み』のある立ち姿で登場した、『ロッソ・ヴェンデッタ』こと石山岩子さん。

店内に素早く視線を滑らせる彼女に、冷や汗を流す。

はたして、石山さんは悪人なのか。それとも……。

彼女の青い瞳が、たつみんさんに固定される。

「キャラの濃さで……負けた……!?」

実は芸人なんじゃねぇかな、この人。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「はい!?え、いや私は別にメイドさんとか雇って……おほん!吾輩の城に貴様の様な従僕はおらんぞ!」

「ワタクシは今を生きる人類全てのメイドです」

「ワールドワイド!?」

「うぇーい!ようこそクラン『アルフ』へ!歓迎するぜ、ロッソん!」

「ロッソん!?というかギャル!?あ、いや、その……ど、どうも……」

「そう……あーしはギャルなんだよ!君はマジで良い奴だ!あざまる!あざまる水産!」

「ま、負けるな私……私は、吾輩は魔界の高貴なる存在……!赤の復讐者……!」

「なあ。お前さん触手が似合うとか言われないか?」

「唐突になに!?セクハラ!?」

「驚くと素が出るタイプか。同人誌は基本書かないが、有りだな」

「有りじゃないよ!?訴えるぞヒューマン!」

『がおがお~。アタイはたつみんだがお~』

「え、ど、どうも……いや何で着ぐるみ?あ、歓迎会の為にわざわざそんな変な格好を」

『変な格好ではない。その頭を粉砕されたいか貴様』

「ひぇ、す、すみません……!」

ああ、早速『アルフ』の洗礼を受けている。

哀れみと共感の視線を向けていると、相手もこちらに気づいたらしい。

「はうぁ!?き、貴殿らはあの時の鬼の面頬とエッチパイスー女子!?」

「あ、どうも」

「えっちぱいすー……とはどういう意味でしょうか、矢広さん」

「それは璃子先輩に聞いてね」

「な、なぜ貴殿らがここに……はっ!?まさか吾輩を追う『組織』の刺客か!魔界使徒12星が、遂に人間界へ!?」

「違います」

「皆~!石山ちゃん達が来る前に料理を運ぶの手伝って~」

ニコニコとした笑顔で、マスターがこちらへやってくる。そして、自分達を見て驚いた様に目を見開いた。

「え、矢広君に小鳥遊ちゃん!?石山ちゃんまで!?お、遅めに来てって言ったのに……」

「あ、すみませんマスター」

「申し訳ありません。15分前行動が基本と考えていました」

「あ、店長さん。おほん……吾輩の時は、吾輩が決める!それだけだ!」

そうして、クラン『アルフ』の歓迎会が始まった。

* * *

美味しい料理に、美人なマスター。そして集う変人ども。

その狂気が半分入った歓迎会での出来事は、ほとんど覚えていない。

ただひたすらに変人どもが奇行に走り、その対応に追われる事となった。その結果。

「ぜー……!ぜー……!大概に……大概にせぇよあんたら……!」

「も、もうむり……たすけて、おかあ、さ……」

自分と石山さんが、満身創痍となった。そして小鳥遊さんは途中で寝た。お腹いっぱいになって眠くなったらしい。一番警戒していた人が何やってんだとは思うが、幸せそうな寝顔を見ては何も言えない。

マスターは基本的に『皆元気だねー』とお祖母ちゃんモードだったので、たった2人でツッコミと仲裁に奔走する他なかった。

……この人が悪い奴だった場合、僕はこのクランに殺されるのでは?過労で。

自称『ロッソ・ヴェンデッタ』こと石山岩子さんが善人である事を、心の底から願う事になる1日であった。