軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十二話 歓迎会は終わり、冒険へ

第三十二話 歓迎会は終わり、冒険へ

「申し訳ありません……!」

眉間に深い皺を作り、冷や汗を流しながら小鳥遊さんが頭を下げてくる。

歓迎会が終わった頃に、お腹いっぱいになって眠っていた彼女は目を覚ました。

「え、いや、そこまで気にしなくても」

「いえ。昼間とは言え、気を抜き過ぎました。満腹になると、まさかここまで眠くなるとは……」

さらりと発せられた重い過去に、頬が引きつる。

小鳥遊さんの境遇を考えると、確かに満腹時の眠気なんてこれまで無縁だったか。余計に、怒る気なんて起きない。

喫茶店の前で頭を下げてくる彼女に、顔を上げる様に促す。

「本当に、大丈夫だったから。気にしないで」

「はい……今後は、気を付けます」

どうにか顔を上げてくれたが、小鳥遊さんの表情は暗い。

「……肉の体は、こんなにも不便だったのですね。これだったら、いっそ機械の方が」

「小鳥遊さん。それは、やめよう」

不穏な事を言い出した彼女に、首を横に振る。

「君は、これまで凄く頑張ってきたんだ。今ぐらい、美味しい物をたくさん食べて、ゆっくり眠っても良いじゃないか」

「しかし」

「それに、ここはクランだよ。マスター達もいる。君が、無理をする必要なんてない」

石山さんは悪い人には見えないし、今言った通りあの時周囲には味方の異能者が複数いた。

小鳥遊さんが警戒しなければならない様な事態は、起き得ない。

「……そう、ですか」

「勿論、いざとなったら凄く頼りにしているから。その、何かあったら、お願い。助けて」

本心である。マジでいざとなったら助けてください。

異能者としての才能は、自分の方がある様だ。しかし、戦士の心構えとでも言うべきものは、小鳥遊さんが圧倒している。経験が違うのだ。比べるのすら馬鹿らしい。

ライカンスロープの霊的災害の際も、彼女がいなければどうなっていたか。

こちらの必死さが伝わったのか、小鳥遊さんは少し驚いた様に目をパチクリとさせた後。

「分かりました。全力でサポートします」

ビシリと、綺麗な敬礼をしてきた。

その際に揺れた爆乳に視線が吸い寄せられながらも、どうにか頷いて返す。

店の前でそんな事をしていると、璃子先輩が顔を出してきた。

「2人ともー。いつまでそこにいんのー?」

「いや、片付けを手伝わせなかったのは貴女達でしょうに」

今日の主役なのだからと、手伝いを拒否されたのである。

ちなみに、絹江さんは『急用を思い出した』と言って片づけをさぼり、たつみんさんは手伝おうとしたが着ぐるみが邪魔過ぎたので帰らされた。

ついでに石山さんは『わ、吾輩の胃袋は限界の時を超えた。しばし、休みをとらねばならん』と言ってトイレにいる。

お腹を壊したというより、あの顔は一度にキャパシティー以上の人間と会話して、ストレスが限界を迎えた感じだ。

自分もちょっと限界に行きかけたので、よく分かる。

人と接するのって、大変。

「ま、入って入って」

「どうも……」

「失礼します」

「失礼するなら帰ってー」

「はっ。申し訳ありません。帰宅します」

「小鳥遊さん。冗談だから真に受けないで」

「……!?」

驚愕で目を見開く小鳥遊さんを連れて、店内に戻る。

歓迎会の最中あれだけ奇人変人が騒いだというのに、中は綺麗に掃除されていた。

扉を潜った自分達を、優雅な一礼と共に犬吠埼さんが出迎えてくれる。

「お待たせいたしました。お坊ちゃま、お嬢様」

「あ、いえ、どうも……」

「メイやん。出ちゃってる。メイドさん出ちゃってる」

「はっ!?しまったぁ!?」

尻尾を大きく膨らませて、犬吠埼さんが頭を抱える。

その際にお胸がメイド服の下でたゆんと揺れた。元がダメ人間であろうと、今は爆乳美女なので眼福である。

ちょっと不謹慎な事を考えている自分をよそに、彼女はノロノロとカウンターの席に座った。

「やべぇ……なんか最近、どんどんメイド率が上がっている気がする」

「いっそ、メイドである事を受け入れたら逆に安定するんじゃない?」

「いやだ。オレはまだ、競馬と競艇とパチンコとネットの炎上巡りを諦めていない……!公園で子供を揶揄うのは諦めた。最近お巡りさんの目が厳しい」

「マジでこの人、メイドのままの方が世の為なんじゃ……?」

せめてネットで不必要に火をつけて回るのも、公園でやらかすのと一緒に諦めてほしい。

公営のアレコレは……まあ、そこは個人の趣味の範囲だろうから、とやかく言うつもりはないが。

「いやだね!オレは他人が楽しそうにしている事を、横からぶち壊すのが好きなんだ!なのに、今は他人の笑顔に安らぎを覚えちまっている!なんて事だ!」

「良い事では……?」

「オレはただ、享楽のまま生きたいだけなのに……!神様、オレがいったい、何をしたって言うんだ……!」

「色々でしょうね」

「すげぇなオタク君。人見知りが完全に消え去っているぜ」

「まあ、はい」

人は人でも、奇人変人ダメ人間に対しては大きく出られる。それが自分だ。

……そう考えると、僕も大概ダメ人間では?ちょっとショック。

いや、友人に対しても普通に接する事が出来るのだから、セーフである。きっと、恐らく、メイビー。

「はっ!?ダメ人間警報!?まずい、奉仕欲が!」

「キキーモラって凄い。今改めてそう思いました」

内心にまで反応するとか、魔法かよ。……魔法のある世界だったわ。

「そう言えば、マスターは?」

「お祖母ちゃんなら、奥の方で食器を片付けているよ」

「───奉仕を開始します」

「あっ」

何か目が座った状態で、足音もなく犬吠埼さんが店の奥へ歩いていく。大股ではなくスカートの裾も一切翻っていないのに、その動きは素早い。

文字通り、あっと言う間に彼?彼女?はマスターがいるだろう場所に向かってしまった。

それと入れ替わりに、石山さんが戻ってくる。

「ふっ!凱旋の時なり!」

無駄に大仰な仕草で、彼女がこちらへやって来た。

そして、眼帯に指を這わせながらドヤ顔を浮かべてくる。

「此度の饗宴は、中々に楽しめるものだった。しかし、これよりは闇の時間である。吾輩は己の城にて、終末の訪れを待つとしよう……」

『今日の歓迎会、楽しかったです。ですがもう遅い時間ですので、帰らせてもらいますね』……と、言いたいらしい。

比較的分かり易い厨二語である。隣で小鳥遊さんが目を白黒させた後、『何か企んでいるのか……!?』と無駄に警戒してしまっているが。

「あ、石山さん。こちらこそ、今日は楽しかったです」

「ふっ、若人も楽しめたのなら、結構。されど間違えるな。石山岩子の名は、とうに捨てた。今の吾輩は、『ロッソ・ヴェンデッタ』……赤き復讐者である!」

「え、ああ、すみません。ええっと……ロッソさん」

流石に長いので、ロッソの部分だけで呼ぶ。

彼女は一瞬微妙な顔をしたものの、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「まあ良い。同じクランにて轡を共にするのだ。呼び名など、大した意味はなかろう」

「そうそう!大事なのは心だよな、ロッソん!」

「ふぇ……最近の若者恐い……ギャル恐い……!」

満面の笑みで肩を組みに行く璃子先輩に、ロッソさんが目を逸らしながら顔を青くする。

厨二の仮面が秒で剥がれ落ちた彼女だが、似非ギャル先輩からどうにか離れ、気を取り直して言葉を続けた。

「それではな、諸君。夜の闇は、何者にも牙を剥くもの……精々、警戒を怠らぬ事だ」

「あ、はい。気を付けて帰ります。ロッソさんも、お気をつけて」

「ふっ……吾輩を心配とは、この世にこれ程の『無駄』はあるまい。この身こそが、闇を統べる者だというのに……」

額に人差し指を当て、謎のポーズをとるロッソさん。

だが、あと少しだけ、こちらには話したい事がある。

「あの、ロッソさん。ちょっとお願いがあるのですが……」

「なんだ、若人よ。吾輩の慈悲に縋りたいのか。しかし、時が悪い。今宵はもう、歴史の針が進み過ぎたのだ……」

「いえ、お願いしたいのは今日じゃなくって」

『これ』は、予めマスターや小鳥遊さんとも相談し、決めていた事だ。

少し緊張しながらも、不思議そうにこちらを見るロッソさんへ告げる。

「僕達と、ダンジョンへ行ってほしいんです」

「……えっ」

こちらの言葉に、ロッソさんは間の抜けた声を出した後。

「ええええええ!?」

目と口を限界まで開いて、そう叫ぶのだった。

* * *

バスに揺られる事、20分程。

歓迎会の翌日。薄い灰色の雲で太陽こそ覆われているものの、まだ昼と言って良い時間に、自分達は目的のバス停に降り立った。

人の気配がしない、ゴーストタウンの様な空気のある町の一角。少し離れた位置にある放置された畑から、鳥の鳴き声が聞こえてくる。

ここから数分程歩けば、ダンジョンの封鎖所があるはずだ。

じっとりとした空気を感じながら、荷物を背負い直す。異能者になって頑丈になった体でも、この湿度と気温は心地よいものではない。

せめて風の1つも吹いてくれればと思う自分の隣で、ハイテンションな人物が1人。

「ふっふっふ。遂に来たぜ。来てしまったぜ」

反対側に立つ小鳥遊さんと、何とも言えない顔でその人物を見る。

小麦色の肌に、クリクリとした瞳。セミロングの銀髪をシュシュでワンサイドアップに纏めた、ダークエルフ。

英語に似た謎の言葉が書かれた黒いTシャツの上に、薄手の上着を重ねている。豊満な胸元が上着を左右へ押しのけており、存在を強く主張していた。

デニム生地のミニスカートからは健康的な太腿が覗いており、こちらはこちらで非常に眩しい。

見た目だけは、ギャル風の美少女。そして中身は拗らせたオタクにして、自称ギャル。

「あーしの実力を、後輩達にお披露目する時がなぁ!テンションぶち上がりタピオカ丸!出☆陣!」

璃子先輩が、しなやかな腰に両手を当ててドヤ顔をしていた。

……なんでいるの、この人。