軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話 手作り魔道具

第十四話 手作り魔道具

『ですから、昨今の霊的災害は政府の怠慢が起こした人災だと言っているんですよ!そもそも、こういう時の為に税金を国民は』

『泉原臨時総理は本日、会見にて魔物対策に関してこれまで以上に力を入れていく事を宣言し、具体的なプランとして各クランへの』

『神奈川県にて今月3件目の密室殺人が発生しました。今回も壁には犯人からのメッセージが残されていた事が捜査関係者の取材で』

『魔物による被害と同じぐらい、異能者からの被害が発生しています!この事をもっと政府は注意すべきなのです!異能の力は、我々通常の人間には感知できず』

『東京で発生した、2度目の霊的災害。その際も、あの少女達が多くの命を救っていた事がわかりました。本日は彼女らの中学時代の恩師からお話を』

『魔法薬の保険適用について未だ議論は続いており、専門家からは人体への影響を正確に把握出来るまで、認可すべきではないという声も』

『続いてのニュースです。本日、サッカー日本代表がドイツにて───』

テレビで流れるニュースのほとんどが、異能や魔物に関するものだった。

『回帰の日』から2年。人々は『非日常』を『日常』に変えつつあったが、順応出来たわけではない。

経済も、法律も、個々人も。誰もまだ、この世界の変化に慣れてなんていなかった。

だから、自分が今日学校で発した単語4つしかなかったのは、仕方のない事なのである。

いや~、社会がな~。そうだからな~。こ~れは仕方ない。

……ネットで検索したら、『勇気』と『話術』と『異能以外の特技』がなくとも友達を作れる方法とか出てこねぇかな。

でもそれで『金ぇ!』『コネぇ!』『権力ぅ!』とか出てきたら全てを諦めるしかなくなるので、検索する気になれなかった。良いんだ。別にネットで調べたら、全ての答えが出るわけでもないんだし。

そんな灰色の青春真っ盛りな自分だが、今日はなんと異性の家に来ている。それも飛び切りの美人かつ、スタイル抜群な人の。

これは、灰色という言葉を捨て去る時が来たと言っても過言ではないな!

「では、装備の話をしましょう」

「はい」

ギリ過言かもしれん。

小鳥遊さんの家にお邪魔し、そのまま裏庭に。

自称デミウルゴスが用意したこの家は本当に広く、裏庭もサッカーコートの半分程のスペースがある。

ただ、庭石や花壇の類はない。剥き出しの地面に、雑草がまばらに生えているだけだ。敷地を覆う金網と鉄柱で補強されたブロック塀から、この場所の寂しさを強調している。

だが、今回ばかりは好都合だ。

「じゃあ、この辺に植えるので」

「はい」

裏庭の右側。そこに小さなスコップで軽く穴を掘り、通販で買った樫の木の苗を植える。

肥料は必要ない。本当に、ただ土に植えるだけである。

「……植物に疎い私でも、これでまともに育つとは思えないのですが」

「まあ、普通はそうだよね」

小鳥遊さんの言葉に、深く頷く。

全国の農家さんがぶちギレそうな光景だ。しかし、キレるどころか卒倒しそうなぐらい理不尽なのが、『異能』というものである。

左手をかざし、魔力を集中。掌に淡い金色の光が現れ、それが渦となった。

飛沫の様に舞う魔力の光が、苗に降りかかる。すると、薄茶色だった地面は黒く染まり、葉は煌めいて見える程に生命力を漲らせた。

「……これで、明日の朝には肩の高さぐらいに成長していると思う」

「……流石です、としか言えませんね」

「まあ、僕が凄いわけじゃないんだけど……」

この『固有異能』を得る為に、何か努力した事なんて一切ないし。

正直に言って、褒められても嬉しさより謎の申し訳なさが勝る。

何はともあれ、庭の左側にも同じように苗を植えた。

「これで良し……あまり大きくなり過ぎると伐採が大変になるから、明後日辺りにはもう切った方が良いんじゃないかな?」

「はい。これで、ケニングの右腕が作れそうです」

「……個人的には、そっちの技術も信じられないものなんだけど」

何も、庭が寂しいから木を植えたわけではない。目的は、ケニングの修理である。

「ゴーレム技術と科学の融合……しかも『電気を魔力に変える』とか、とんでもないね。アレ」

「はい。私もそう思います」

ケニング。あの人型ロボットは、ゴーレムをフレームに採用している。

『ゴーレム』

その姿は様々だ。額に文字を刻まれた物もあれば、人型から大きく離れた物もある。

ただ、異能者なら特別な知識や魔法などが無くとも作れる事でも有名であった。

名は体を表す。ならば、体は名を表す。そして、名には力が宿る。それが、魔法の基本の1つであった。

ゆえに、木なり石なりを使って人型を作り、魔力を流し込めばゴーレムは作れるのだ。

……質が、残念過ぎるだけで。

冒険者制度が出来る前。人手が足りないのなら、ゴーレムをダンジョンに投入すれば良いという話があった。

しかし『すぐに転ぶ』『知能が低い』『出力が弱い』『燃費が最悪』。その他諸々の理由で、その計画はおじゃんになったのである。

自分も興味本位で作った事があったが、まさか拳大の石に躓いて転び、そのまま起き上がれないとは思わなんだ……。

そんなわけで、専門の異能を使って作られたゴーレム以外は、現状戦力にならないとされている。

この、未来の品以外は。

「ゴーレムの姿勢制御と知能の低さはパイロットとコンピューターが補い、出力はモーターと組み合わせる事で上昇。燃費の悪さは、電気を魔力に変換する事で無理矢理解決……と。特に、最後のが意味不明ですね」

「乗っていた私にも、原理はわかりません。コアユニットを開いて中を見たのですが、謎の術式や機械が取り付けられており、複製は難しいですね。幸いタイムスリップの3日前に整備したばかりですので、後2年から3年は問題なく機能すると思いますが」

「……一応聞くけど、コアユニットに人の内臓とか入っていないよね?」

主に心臓とか。

人体における魔力の生成は、主に心臓で行われている……らしい。異能に目覚めた時からある、謎の知識にはそうあった。一応骨や他の内臓からも作られるが、その量には大きな差がある。

人の脳みそを缶詰にしている未来の世界だと、魔道具に使用したという人体をケニングにも使っていそうな気がした。

「いえ。生体部品はないですね。というより、脳以外のパーツは主に魔弾の材料として使われます。こういった場合は、滅多に使われないかと」

「あ……はい」

なんかとんでもない事を言われた気がするが、深く考えるとメンタルが削れそうなので聞き流す事にした。

100年後の未来、こっわぁ……。

「あ。ですが専用機の場合は、機体の各所にパイロットの肉体を使っていると聞いた事があります」

嫌過ぎるぞ、そんな機体。

専用機という浪漫あふれる存在なのに、夢も希望も感じられない。

「まあ、うん。話を戻すけど……木を切り倒す時は言ってね。手伝うし、乾燥もやるから」

「ありがとうございます。しかし、乾燥も固有異能で出来るのですか?」

「あ、いや。そっちはスクロールで」

ポケットから、1本のスクロールを取り出す。

「これは『水弾』……水の塊を撃つスクロール。それを応用すれば、その場にある水を使って魔法を発動させられる。だから、切り倒した木に押し付けて使って、内部の水分をある程度排出する事が可能だよ」

「そんな事が……」

「固有異能で育てた木だから、後々の収縮によるひび割れとかも、あんまりないと思う。後、こっちの『地面操作』のスクロールを使えば、木の内部にあるゴミも大半が取り除けるはずだよ」

丸太の乾燥とか年単位でかかるらしいが、魔法を使えば半日足らずで終わる。

つくづく、これまでの常識に喧嘩を売るものだ。異能というやつは。

「……失礼ですが、矢広さんが作れるスクロールの種類をお聞きしても?」

「え?……言っていないっけ?」

「はい。ダンジョンでの戦闘では、主に『風弾』を使うとは聞いていますが」

「あ、ごめん……」

気まずくなり、少し目を逸らす。

自分が作れるスクロールは、現在10種。魔力の放出量が変われば、もっと作れるのだが……。

内約は、効果が名前通りな『火弾』『水弾』『風弾』『地面操作』。

そして擦り傷や軽い打撲程度なら治せる『治癒』。

筋力と敏捷を一時的に上げられる『身体強化』。

10秒間だけ不可視の腕を出し操作できる『念力』。

次に発動する魔法の範囲を広げる『魔法拡大』。

アンデッドやレイス系の相手にのみ有効な『破魔』。

最後、発動中常に魔力を消費し続けるが、その間発動者を浮かせる『浮遊』である。

『浮遊』はお守り代わりとして常に携帯している。小鳥遊さんがタイムスリップした日、自分がスケルトンから逃げる為に使おうか迷った手段がコレだ。

ただ、この魔法はかなり隙が多い。浮かんでいる時は他の魔法が使えず、移動速度も遅いので敵の前で使うとリスクが大き過ぎる。なので、下手に発動すると返って危険なのだ。

「───っていう、スクロールが作れます。じゃなかった、作れる……よ」

「なるほど……便利ですね」

「あはは……」

それが取り柄だからな、僕のスクロール。

使い手の魔力量で出力が増したりはするが、それは他のスクロールも同じ事。携帯性と発動速度で、どうにか総合的に互角ってだけだし。

「あと、この木でケニングの腕を作る時、端材を貰っても良いかな?」

「勿論構いませんが、何に使うのですか?」

「スクロールの『芯』の部分に使いたいんだ。庭で小さい木を育てては切っているんだけど、結構手間で……」

魔力を流して使う性質上、スクロールの素材はそもそも魔力を含んでいる方が安定する。

予算的な都合でも、自分で調達しているのだが……めんどい。

ちなみに。関係ないが、スクロール用の木の横に家庭菜園もあったりする。『回帰の日』以降更に物価が上がったが、我が家は野菜には困っていない。固有異能様様である。

……鶏も飼おうかな。どうしようかな……。

「そういう事でしたか。ならば、その加工もお手伝いします」

「え、良いの……?」

「はい。何なら、この家の一室を作業場としてお使いになられてはどうでしょうか。材料の運搬も楽でしょうし。部屋は余っています」

「……それは、その……お願いします」

異性の家という事で迷いがあったものの、最終的に頷いた。

なんせ我が家、元々両親が仲良かったのに、若返ったあげく美男美女化。しかも母親がハーフ鬼女になったので……ね?鬼の血が自分より濃い分、色々と……うん。

万が一の『事故』に備え、神経を使う作業には向いていないのである。

お高めのイヤホンなかったら、マジで『死』ぞ。年頃の息子的に。

「まあ、その。スクロールの作成を手伝ってくれるのなら、小鳥遊さんも今後気兼ねなく使ってくれて良いからね?」

「よろしいのですか?」

「うん。むしろ、こっちの方が助かるし……」

平和な国で暮らしていた自分には実感がわかないが、小鳥遊さんは8年も戦場で生き延びて来た兵士である。

そんな人が銃……の代わりに杖を持って一緒にダンジョンを探索してくれるのなら、心強い。

異能者としては少しひ弱だが、それ以上に経験が頼りになる。

「ありがとうございます。たしか、こういう時は……お言葉に甘いです?」

「……お言葉に甘えさえてもらいます……って言いたいの?」

「はい。それです」

「それは、こちらこそだから。本当に気にしないで」

「はっ。わかりました」

背筋を伸ばし敬礼する小鳥遊さん。8年の間に身についた、癖なのだろう。

……その度に彼女の爆乳が揺れるので、こちらの心は無事じゃないが。

薄いTシャツの先にある夢と希望に、視線が吸い寄せられそうになる。その度に、理性を総動員して首を別の方向に曲げる必要があった。

本当にね。この人は危機感を持つべきだと思う。年頃の男を家に呼び込んだあげく、この無防備さなので。爆乳美少女がやっちゃいけない事をコンプリートするつもりか?

まあ、ストレートに指摘する事は出来ないけど。それ自体がセクハラになるし。

……すみません。嘘です。ちょっと役得と思っています。

灰色ばかりの青春は、嫌なんです……!少しでも彩りが欲しいんですよ、刑事さん!

心の中でお巡りさんに弁明していると、歩く青少年の心クラッシャー……もとい、小鳥遊さんが首を傾げた。

「しかし、スクロール作成にはどれぐらいの部屋の広さと、道具が必要ですか?」

「あ、うん。その、書いた後に乾かすスペースがあれば、十分だから。書くだけなら、机の上だけで十分だし」

「……私が聞いた話ですと、専用の工房でそれなりの広さが必要だったはずですが」

「まあ、僕のスクロールって小さいし」

それでも乾かすのにスペースがいるので、彼女の提案はありがたかったが。

必要な物と言っても、大した物はこれと言ってない。

「……よろしければ、矢広さんが普段スクロールを作っているやり方を伺っても?」

「え?えっと……」

小鳥遊さんの言葉に、普段の流れを言語化していく。

スクロールに必要なのは、芯と紙、そしてペンとインクだ。

紙も、本来なら魔力を多く含んだ物が望ましい。だが、そんな物を入手するのは困難である。

その為、内側の書き込む紙はコピー用紙を切って作り、外側の外装は色付きの画用紙を使っていた。画用紙の色で、どの魔法か分かる様にはしている。『火弾』なら赤とか。

ペンは、100均で買ったガラスペン。当然、こちらも魔力なんて含まれていない。

ただまあ、インク……というか、墨を工夫している。

工夫と言っても、変若水を使っているだけだが。

小学生の頃の習字セットの硯で固形の墨を削るのだが、その際に固有異能を使っているのだ。

いやー……あの金色の魔力。水代わりにも使えるのだから驚きである。見た目的に、飲み水にはしたくないが。

何にせよ、おかげでインクの方は魔力モリモリである。

……ツクヨミ様に怒られないか、若干心配だが。

神話だと変若の水って、月の神様が定命の人間を憐れんで地上に送ろうとしてくれた物らしい。

それと似た名前で、似た様な力の固有異能を思いっきり別の方向で使っているわけだけど……大丈夫だよね?別に、自分の血や魔力が月産ってわけじゃないし。

万が一『おうお前なにしてくれとんじゃい!仕様書以外の方法で使うんじゃねぇ!』って怒られたら土下座以外の選択肢がないのだが。

閑話休題。作業の流れを、大雑把に小鳥遊さんへ伝えた所。

「……まあ、私も噂でしか作成方法を知りませんし。他の人もその様に作っているのでしょうか?」

と。今度は反対側に首を傾げていた。

僕が言うのも何だけど、たぶん違うと思う。

不老長寿の薬水を墨と混ぜるとか、他の人はやらないのではなかろうか。

……いや、知らんけど。