軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 洞窟に響く音

第十五話 洞窟に響く音

小鳥遊さんの家の裏庭に木を植えて、4日後。土曜日。

先日例の木を伐採し、魔法により加工を手伝ったわけだが、それだけに注力するわけにもいかない。

やる事は山ほどある。その1つ、霊格……レベル上げだ。

瞑想や滝行等、戦う以外にもレベルを上げる手段はあると聞く。だが、現状最も効率的かつ確実なのはやはり魔物との戦闘とされていた。それは、100年後でも変わっていないらしい。

より力をつける為に、加入テストを含めて3回目のダンジョン探索へと自分達はやって来ていた。

場所は、前回とはまた違う『封鎖所』。しかし、距離がさほど変わらない事もあり、周囲の風景も似た様なものであった。

更衣室で着替えを済ませ、小鳥遊さんと共に受け付けを通って奥の部屋に。

『霊装』を展開し、ダンジョンへと入る。

世界がぐるりと回った様な感覚の後、足裏にゴツゴツとした感触が伝わってきた。腰に吊るしたランタン型のLEDが、周囲を照らし出す。

そこは、濡れた様な岩肌の洞窟だった。湿気た空気が、鼻腔から肺へと流れ込む。所々に苔が生え、どこか幻想的な雰囲気を放っていた。

ゆっくりと、視線を巡らせる。幅は、普通車がギリギリ通れる程度。天井の高さは、2メートル半。対霊庁の情報通りか。

「では、打ち合わせの通りに」

「……わかった」

小鳥遊さんの言葉に、頷きながら答える。

彼女の手には、例の木の端材から作った杖があった。

自分が以前作った、ボンドで無理矢理作った物ではない。彼女がガレージの機械で瞬く間に削り、組み合わせた、リボルバー型の杖。

スクロールを5本装填した、シングルアクションの拳銃……を、ベースにしているらしい。銃には詳しくないが、素人目にも随分とリアルな見た目をしている。

黒く塗装されている事もあり、銃口部分にあるオレンジ色のガラス玉さえ無ければ実銃と見間違えてしまいそうだ。白いグリップが、何となくオシャレに思える。

こちらも剣を抜くと、小鳥遊さんが自衛隊のマーカーを発見。地図を確認した後、歩き出した。

お世辞にも、人の足に合っているとは言えない地面。凹凸が激しく、曲線が多い。

本物の洞窟も、この様に歩きづらいのだろうか。転ばない様に注意している事もあり、自分達の足音の間隔は不規則であり、間が空いている。

そんな中。

───カカカカカカッ!

連続で硬い何かを叩いた様な音が、洞窟内に響く。

すぐに剣を構え、正面を見据えた。未だ、曲道には遭遇していない。音の方向からして、真っ直ぐに向かって来ている。

面頬の下で、己の息が少し荒くなるのを自覚した。戦う前のこの空気は、どうにも慣れない。

人工の光が照らす洞窟に、異形の姿が浮かび上がる。

『シィィ……!』

あの特徴的な足音に混ざって聞こえて来たのは、蛇の様な鳴き声だった。

薄緑色の鱗に覆われた、トカゲの頭。その下には蛇の体が続く。長い尾が、ゆらりと揺れた。

しかし、体から生える6本の足は外骨格に包まれ、昆虫の様な形状をしていた。

濃い茶色の足がぬらりと光り、地面に打ち付けられてあの硬質な音を出す。

『ヨーウィー』

オーストラリアに伝わる、肉食の怪物に似た姿をした魔物が、自分達を見つめていた。

その瞳に、殺意はない。だが、開かれた口元は食欲を溢れさせていた。

『シャァァ!』

短い歯がノコギリの様にずらりと並んだ口を開き、ヨーウィーがこちらへ跳びかかる。

尻尾を除いても3メートル近い巨体が、思いのほか素早い動きで近づいて来た。距離感が狂いそうになる光景だが、魔眼は正常に機能する。

腕の様に振り上げられた右前足の付け根に、小鳥遊さんが放った不可視の鉄槌が直撃。僅かに体勢が崩れ、突進の勢いが削られた。

そこへ、踏み込む。

「ぐぅぅ……!」

吠えそうになる口を理性で閉じながら、剣を振り上げる。

天井に切っ先をぶつけない様、肘を折り畳み、踏み込みながら膝を曲げた。腰の捻りを加えた袈裟懸けの斬撃を、ヨーウィーへと叩き込む。

魔物は左の前足を掲げ、刀身を受け止めようとした。火花を散らしながら外骨格が割れ、その下の肉を切り裂く。

前足を両断した片手半剣が、そのまま首元の肉を抉り取った。赤い鮮血が舞い、こちらの顔にかかる。

だが、まだ死んでいない。ヨーウィーは縦長の瞳孔でこちらを睨みつけ、人の頭など丸飲みに出来そうな口で噛み付きにきた。

それも、視えている。

腰を落とす事で回避すれば、相手の口は頭上でバクンと閉じられた。無防備な腹へ、肩から体当たりをする。

肩鎧と鱗がぶつかり、ヨーウィーの巨体が後ろへ押しやられた。よろめいた所へ、横薙ぎの一閃を食らわせる。

肉厚の刃が鱗を割り、肉を裂いて骨を砕いた。首の半ばまで刀身が食い込んだ所で、剣が止まる。

『ッ……!……!?』

吠えようとする怪物の口からは掠れた息だけがこぼれ、傷口の血が泡立つ。未だ動こうとする前足に捕まるまいと、腹を蹴り飛ばしながら剣を捻った。

ずるりと、刃が抜ける。赤い軌跡を残しながら、ヨーウィーの巨体が地面に転がった。

数歩後退し、剣を構え直す。油断してはならない。講習会で耳にタコが出来る程、自衛隊の異能者が手負いの魔物に重傷を負わされた話を聞いている。

視野を広くとる様に意識しながら、神経を集中させた。ヨーウィーは足音が特徴的なので接近に気づき易いが、足が速いので敵の増援も注意すべしと、対霊庁のホームページに書いてある。

刀身越しに見ていた魔物は、5秒もすると黒い靄にその肉体を変えた。濃い灰色の地面に、小指の先程の大きさをした紫色の石が残る。

それから周囲に視線を走らせた後、他に敵がいない事を確認して息を吐きだした。

「ふぅぅ……お疲れ様、小鳥遊さん」

「はい。そちらこそ、お疲れ様です」

切っ先を下ろし、肩の力を抜く。ヨーウィーの魔力が、自分達に流れ込むのを感じた。

ゲームみたいに表現するのなら、『経験値』とも言えるこの魔力の残滓。それは、残念ながらパーティーで均等に分割される事はない。

対象と結んだ縁……死因となる傷を与えた者程、魔力が多く流れ込む。今回は自分が多くダメージを入れたので、恐らく配分はこちらの方が多い。

少しだけ申し訳なく思いながら小鳥遊さんへ振り返り、手元にある杖へと視線を向ける。

「その……どう?杖の調子は」

「支障ありません。まだ1回しか使っていませんので、今後も問題が出ないかは不明ですか」

「わかった。おかしな所があったら、すぐに教えて」

「はい」

小鳥遊さんが頷き、シリンダーを横に出して空のスクロールケースを抜き取る。

あのケースは、自分の『霊装』由来の物ではない。アレも、端材から彼女が作った物だ。肉体にまだ慣れていないと本人は言っていたが、それが信じられない器用さである。

小鳥遊さんは滑らかな手つきで空のケースをしまい、新しいスクロールを装填した。それを見た後、自分も魔石を拾い上げる。

2人で協力して倒した時は、取りあえず近い方が拾うと、事前に決めておいた。後で結局クランに提出するのに、魔石の所持に関してきちんとしておかないと諍いの元となるのは有名である。

まあ……勝手に持ち出して、闇ルートで売る冒険者がいるからだろうけど。

「……本当に、この杖は素晴らしいですね」

ぼそりと、小鳥遊さんが呟く。

再び振り返れば、彼女の目は銃型の杖に向けられていた。

「そうだね。本物の銃そっくりで、よく出来ていると思う」

「ああ、いえ。造形ではありません。素材による魔力の伝導率です」

少し慌てた様子で、小鳥遊さんが顔を上げた。

「一切の淀みなく、スクロールまで魔力が届きます。実銃の様なのは、見た目より使い心地かと」

「……そう、なんだ?本物の銃って、触った事がないからわからないけど」

「これを量産出来れば、比較的弱い異能者や、条件次第で非異能者も戦力化出来るかと」

「まあ、問題はその量産性なんだけどね」

彼女の言葉に、苦笑を浮かべる。

「……やはり、スクロールは機械で作る事は出来ませんか?」

「たぶん。1文字ごとに、言霊を理解して魔力を流し込む必要があるから」

スクロールマジックは、発動に詠唱を必要としない。代わりに、書き込む際に専用の詠唱を頭の中で口ずさみながらペンを動かす必要がある。

その為、印刷機等で書き込む事が出来ない。文字の一画ごとに、籠める魔力を変えなければならないのだから。

実際、海外で実験した異能者がいたはずである。ネットニュースなので、どこまで信用出来るかはわからないが。その人は機械で作ったスクロールを使おうとしたが、不発に終わったらしい。

「……難しいですね。弱い異能者に書かせる、というのも、そもそも異能者の数が……」

「それこそ、ゴーレムが文字を理解して、書き込める様になったら別かもしれないけどね」

まあ、現状作れるゴーレムでは、人間やAIで動きを1つ1つ指示したとしても細かい字を書くのは難しいだろう。

例えケニングの様な機体が複数あっても、パイロットに恐ろしい技量が要求されそうだ。実質、重機で文字を書かないといけないわけだし。

……まあ、手段がないわけではないのだが。

思いついている方法は、ある。それを使えば、あるいはスクロールの量産も可能かもしれない。

しかし、それをやるにしても『自分の魔力出力が足りていない』のが現状だ。あと、場所とか資材とか色々。

結局、地道に鍛える他ないのである。

「取りあえず今は、ダンジョンに集中しよう」

「……そうですね。失礼しました」

お互いに頷き、探索を再開する。

まだ、1戦目。強くなるには、全然足りていない。

自分は未だ『未来の出来事』に実感を持てていないし、肉を斬る感触は嫌いだが……鬼の血の影響か、はたまた若さゆえの事か。

奥へと進む足を阻むのは、洞窟の凹凸だけだった。

……今ちょっと転びそうになったけど、魔眼で回避出来たのでセーフである。