軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十八話 スクロール魔法の母

第七十八話 スクロール魔法の母

薄暗い室内で、電気スタンドの明かりが自分達だけを照らし出していた。

眼前には、スーツ姿のロッソさんが指を口の前で組むゲン●ウポーズで座っている。

「ひと思いに吐いて、楽になれ」

「いや、これって」

「楽になれえええええい!」

ロッソさんが叫びながら、電気スタンドを掴んで近づけてくる。

眩しさに目を細めていると、横から璃子先輩が箸を近づけてきた。

「かつ丼作ってやるからな……」

「え、今お腹いっぱいで……」

「かつ丼作ってやるからなあああああ!」

箸の持つ所を、頬にぐりぐりと押し付けてくる。

困惑していると、部屋の明かりがつけられた。照明のリモコンを手にした美由さんが、じとっとした目で自分達を見ている、

「カーテンを閉め切るのは分かるのですが、なぜ無駄に暗くするのですか?」

「気分だ」

「雰囲気」

「狙撃対策ではなかったのですね……」

やだ、この子発想が恐い。

電気スタンドと箸をしまい、それぞれ椅子に座る。

なぜか、対面に3人という、面接みたいな形だが。

「では、詳しく説明せよ。まずは、霊格が上昇し新しく作れる様になったスクロールについて、だ」

「気分を楽にして良いからね!別にここでの発言で裁判の時不利になる事はないから!」

「裁判ってなんですか。なんでまだちょっと取り調べ続いているんですか」

「耕太さん」

「はい」

「説明してください」

「はい」

ポケットから新しく作ったスクロールを取り出し、机に並べる。

「……いや、多くね?」

「先ほど消費した『言霊』のスクロールを除いて、9種です」

「そん、なに」

「……『念話』以外にも色々と使い道が多そうなのが作れたって言ったら、驚きます?」

「耕太さんがそういうもの言いをする段階で、驚いているのですが?」

「まあ……とりあえず、内訳を説明すると」

1つずつ、並べたスクロールを指さしていく。

『火土』

『氷嵐』

『雷槍』

『破魔結界』

『守護結界』

『飛行』

『修復』

『属性付与』

『転移門』

「です」

「……名前からしてやばいのがあるのだが」

「まだ慌てるな、ロッソん。名前だけで判断しちゃダメだ」

「……それぞれ、説明を」

いつの間にか全員ゲ●ドウになっているのだが。僕はこれから人型決戦兵器にでも乗せられるのか……?

本当に面接みたいで、背筋が自然と伸びる。

「はい。まず『火土』は……炎を纏った礫を出す魔法ですね。『氷嵐』は風を纏った氷柱を、『雷槍』は雷の槍を出せます」

「……あれ、思ったより普通?」

「ですねー。威力も、これでやっと普通の『スクロール作成』の異能もちが作った物と同等って所ですよ」

「そうなのか?若き鬼が使う魔法は、良い破壊力を出していたと思うが」

「ロッソん。スクロールも魔法だから、使い手によって威力は変わるんよ」

「なるほど……エースパイロットが乗れば量産機でも無双できるか……」

「たぶんそう。部分的にそう」

「なぜ私を見るのですか?」

無意識に、3人揃って美由さんを見てしまう。

冷静に考えて、一番おかしいのはこの人ではなかろうか。

「えぇっと、話を戻します。『破魔結界』は、アンデッド系や悪魔系の魔物にスリップダメージを与える空間を一時的に展開するものです。『守護結界』は、たつみんさんの『魔力障壁』みたいなもんですね」

「ほーん。バリアを張れるって事でOK?」

「はい。目の前に魔力の立方体を出すも、自分を囲う様に展開するも自由です。ただし、たつみんさんのほど頑丈じゃありませんし、効果時間も短いです」

「……おかしい。ここまで、わりと普通だ」

「何か隠している事はないか、若き鬼よ」

「耕太さん。嘘はいけませんよ」

「ねえ、僕の信用ってどうなってんの?」

もしかして、彼女らの中で自分はその術の価値も分からん奴って感じなのだろうか。

確かに、作った直後とかは脳の疲労で思考力が低下し、一晩経ってから『あれ、もしかして凄いの作ったんじゃね?』となったりするけども。

あと、直前に視覚の暴力を受けたり、ツッコミのデスマーチをする事になったりすると、抜け落ちたりするが。

「えー、『飛行』は、今まで使っていた『浮遊』の強化版です。空中での移動速度上昇。並びに、他の魔法との同時使用も可能ですね。戦いの幅が、一気に広がりました」

「シンプルにくっそ便利なやつだな、おい」

「ただ、燃費は悪化したので一概に上位互換とは言えませんけどね。長く飛んでいる事は、今の所できません。短期決戦前提です」

小さく肩をすくめてから、続ける。

「『修復』は、破損した無機物を直せます。ただし、無から有を出すわけじゃないので相応の材料が必要ですし、修復対象への理解度で消費魔力が変動します。何より、大雑把に繋げたりくっつけたりするだけなので、細かい物品には使えません」

「つまり?」

「美術品や精密機器、魔道具の類には使えません。壊れた家の壁を直すとしても、大工さんが使う場合とそれ以外の人が使う場合で、魔力消費に大きな差が出ます」

「なるほど、把握」

「……それは、『ケニング』に使用可能ですか?」

「割れた装甲をくっつけるだけなら。ただし、修復までの時間とか考えると、戦闘中に使うのは推奨できない。最低でも数分、下手すると数十分かかるから」

「分かりました」

「……これもまた、シンプルに便利なのがきたな」

「この場でパッと浮かばないだけで、画期的な使い道とかあるかもしれないしねー。あ、ちなみに包帯とかに沁み込んだ血を取り除く事は?」

「……染み抜きの類は、あんまり?たぶん完全には無理かと。薄くするぐらいはできると思いますが」

「OK……細菌をアレコレするのは、厳しいかー。あくまで『大雑把』らしいからなー……」

この魔法は、便利だがあくまで『接着』や『接合』にしか使えない。また、元々くっついていた物でなければ発動しないので、直接戦闘に活用したりはできないだろう。

基礎理論が概念への干渉だ。術式の難易度もあって、万能には遠い。

「『属性付与』は、ゲームとかで武器に炎とか風を纏わすやつですね」

「オタク君、さては説明が面倒になってきたな?」

「そんな事ないですよー。いや、だってこれはマジでそれぐらいですし……」

「ハッ!」

突然、ロッソさんが目を『クワッ!』と大きくする。

「吾輩思いついた!その辺の石に炎や雷を付与して、エネルギー界に革命を起こせるのでは!?業界に漬物石サイズの一石を投じる事ができるぞ!」

「業界に?石?……ああ、諺の」

美由さんがスマホで言葉の意味を調べているのを横目に、こちらは首を横に振る。

「効果時間が短いので、たぶん無理です。少なくとも生産コストに見合った出力は出せません」

「ロッソん。それができるのなら、あーし始め付与魔法もちは軒並み発電所勤務だよ」

「うぬぅ……」

しょぼん、としたロッソさんの背中を、美由さんが撫でる。

この2人も仲良くなったなぁ……。

「あ、『転移門』はどこでも●アの劣化版です。物流業界には漬物石投げこめますよ」

「待てや」

「名前からそんな気はした」

「どこでもド●……ああ、あの青い狸の」

ポン、と。美由さんが手を叩く。実は狸じゃなく、猫型ロボらしいよ?

「いや……え、マジで名前通りな感じ?」

「まあ、大体は?2つのスクロールをセットで運用し、片方のスクロールを起動するともう片方も同時に起動。空間を捻じ曲げて、繋げる事ができます」

空間をどうこうの部分は、ドラ●もん以上に上手く説明できる気はしない。

ただ、偶にネットで見る『一度分解して~』な話ではなく、本当に空間をくっつけるだけである。

「ただし、他のスクロールと比べてかなりの魔力を消費します。それと、魔力で覆われた空間……結界で覆われた場所や、ダンジョン内には繋げられません」

「そこはたつみんの『黄昏の具足』と同じかー」

「何より」

「何より?」

「書くのが……もの凄く、めんどい……!」

「お、おう……」

いや、本当にマジできつい。

1本書き上げるのに、他のスクロールの3倍はかかる。魔力もそれぐらい消費するし、書いた後は知恵熱みたいになるのだ。

これでも魔力量は多い方だし、固有の影響で病気知らずである。それでも、こんなん量産しようと思ったら体がもたんわ。

「これに関しては、簡易スクロール化は無理ですね。絶対に。てか、そもそも新しく作れる様になったスクロールだけじゃなく、これまで使っていたスクロールも半分ぐらいしか簡易化の目途が立っていませんし……」

「オタク君がいつになく遠い目をしている……」

「『転移門』のスクロールは……まあ、うん。便利だが、大変そうだな」

「しかし、これは素晴らしい魔法です。兵士と物資を素早く現地に運べます。霊的災害への対応力が各段上がるかと」

「……霊的災害の現場って魔力濃度が滅茶苦茶だから、直接現場で使うのは無理だと思うよ?」

「それでも、近隣の街へ転移できるだけでも大きく変わりますので」

「そうだねー……」

これを大量に作れと言われたら、絶対に。絶っっっ対に無理と言うが。それでも有用なのは分かる。

……というか、他の『スクロール作成』もちに作ってもらえない?マジで?

僕が作れるんだし、他の人も作れるって、きっと。隠しているだけで。何なら、新しく作れる様になったスクロールの出力って、マジで普通の異能もちが作るスクロールと同じぐらいだからね?

「んで、ある意味本題なんだけどさー。『ゴーレムに正しく命令できる』ってのは?」

「そうですね……どこから説明したものか」

「あ、今コーヒーをお持ちします」

「え、ああ、ありがとう」

「センキュー」

「感謝する」

美由さんがコーヒーを人数分持って来てくれた後、机の真ん中に砂糖とミルクを置く。

彼女ほどではないにしろ、たっぷりと入れて甘くしてから飲んだ。それから、頭の中で話を纏めながら語っていく。

「ゴーレムは、基本的にバカです」

「ハッキリ言うねー」

「そのうえ燃費が悪く、出力も低い。そして、『命令を理解できていません』」

「む?どういう事だ?たしか、ある程度の指示は従うはずだぞ。『真っ直ぐ歩け』や『そこの物を持ち上げろ』程度だが」

「それは、ゴーレムが現代の言語をまともに理解できていないからです。知能は低いですが、もっと分かる言語で喋ればもう少し融通が利きますよ」

現代と神代では、使っている言語が異なる。一部でも通じているのが奇跡とさえ言えた。

あるいは、そもそも言葉は通じておらず、命令した人間の身振り手振りに反応しているだけか。流石にそこまでは分からない。

『ゴーレム作成』の異能もちなら、もう少し知っているのかもしれないが。あいにくと、そういった伝手はない。

「え、何それ知らない。吾輩初耳なんだけど」

「たぶん、一部の魔法使いや生産系の異能持ちは知っていますよ。機密なのかは知りませんが、一般に広まっていないようですけど」

「ほーん……?」

自分が、試しに1機作っただけで分かった事だ。絶対に、他の生産系の異能もちや、『ゴーレム作成』系の異能もちも知っている。もっとも、後者はかなり数が少ないので、よく分からないが。

兎に角、僕に分かるんだから、大抵の人は分かるのだろう。

何故か、璃子先輩が疑惑の眼差しを向けてきているが。

「それでも、複雑な命令は理解できないでしょう。しかし、スクロールの作成において必要なのは、『術式の内容を理解している事』と、『1文字ごとに正しい魔力を注ぎ込む事』です。そこは、簡易化によりどうにかします。ならば、後は魔力を流し込む術さえあれば良い」

「さらっと言うなぁ……」

「疑問なのですが、それならばゴーレムである必要はないのでは?」

「非異能者だと、魔力を注ぎ込む機構を用意するのが大変。というか、コストに合わない。そして、異能者なら別の事をやった方が良いでしょ。戦いなり、生産なら他の魔道具や魔法薬の作成とか」

「まあ、機械化した方が楽だしコストも安く済むだろうな。いや、機械化ではなくゴーレム化だが……」

「後は、ゴーレムに簡易版の術式を教え込む事ができればいい。簡易版は1本分全部一気に書き切る必要はないよう、調整しました。一節ずつ、専用のゴーレムに書かせれば良い……はずです。まだ実際にやっていないので、断言はできませんが」

そうなれば、簡易スクロールによる物量戦が可能になる。

魔物は多い。だが、人類全体で見れば少ないはずだ。

大量生産したスクロールを自衛隊や軍隊が使えば、一部の例外を除いて圧殺できる……はず。たぶん、メイビー。

まあ、世界中にばら撒く頃には、ケニングが使っていたという魔力付与済みの弾丸が出回っていそうだが。

「次に、『ゴーレムの戦力化』ですが、ゴーレムを単独で戦わせるのはこれでも無理だと思います」

「そうなのか?」

「はい。だから、あくまで『ゴーレムは補助』です」

「……なーる」

「そういう事ですか」

「え?え?」

璃子先輩と美由さんは、既に分かっているらしい。

なぜ、知能も出力も低いゴーレムを、各国が戦力化したがっているのか。それは偏に、『ゴーレムが魔物を認識、干渉可能だから』である。

「ゴーレムをパワードスーツ化すれば、非異能者の自衛隊の隊員や軍人でも魔物と戦闘可能、という事ですか」

「その通り」

「あ、ああ!」

パン、と。ロッソさんが手を叩く。

「凄いではないか!それは!」

「はい。美由さんがロッソさんみたいになるのを防ぐ事の、次ぐらいに重要な事です」

「私の優先度は下げてください」

「待て。吾輩の様にとは?」

「ロッソん。今はその辺スルーしてね」

「え、うん。分かった」

小声で『吾輩みたいな……魔界貴族のお手本の様なレディ?それとも頼りになる大人……?』と妄言を発する20代厨二は無視し、話を続ける。

「ゴーレムに『装着者の動きに追従せよ』と正しく命令すれば、コンマ数秒のラグはあれど動いてくれるでしょう。パワーアシストはそこそこ止まりでしょうけどね」

……実は、前に『僕の考えた最強のパワードスーツゴーレム』なんて物があるのだが。

コストがアホみたいにかかる割に対して強くないし、装着者の非異能者が十中八九死ぬのでボツにした。

そもそも、パワードスーツ型ゴーレムに格闘戦能力なんて、おまけ程度で良いのである。

「ゴーレムの足りない知能は、装着者が補い、装着者にない魔物からの攻撃に対する防御はゴーレムが補います。そして、スクロールによる攻撃で敵を倒せば良い……そう、考えています」

「……疑問なんだけど、ゴーレム着る意味ある?格闘戦は、聞いた感じ厳しそうだけど」

「いります。具体的に言うと、主に防御面で。魔力を付与した装甲って、用意が難しいんですよ……」

「あー……」

本当に、ケニングの装甲は画期的である。どんな鉄板でも、繋げてしまえば魔力を帯びるのだから。

つくづく、自分は凡人の域を出ないのだと実感する。あんなもの、僕には100年かかっても作れない。

……スクロールも、100年先まで残せない。せいぜいが、10年。

一瞬だけ、美由さんに視線を向ける。そして、すぐに正面へ向き直った。

「ゴーレムなら、霊木をただ体に貼り付けるよりも、霊木内部の魔力を余さず装甲として使えます。また、霊木を素材にしているだけあって、『念力の盾』とも相性が良い。工夫次第ではありますが、ライフル弾でも防げる防具になりますよ」

「……オタク君が、断言するってのは珍しいね」

「あ、いや……はい。そうですね。断言します」

不敵に笑う璃子先輩の目を見て、ハッキリと口にした。

「これは、歴史を変える『魔法』です」

100年後の世界にもない物を、そして、100年後にも世界に影響を与え続ける物を、作り出せる。

たとえ、『彼女がいた世界』には、届けられないとしても。

それが、何より誇らしかった。

「あ、そう言えば。『言霊』のスクロールってケニングのアップデートに使えない?システムに関してなんだけど」

「機械の言語は無理です。そういうのは、『言霊』とかないんで……」

「そっかー。スマホの画面がいけたから、もしやと思ったんだけどなー」

「機械の言語は、アレ言霊入ってないんで……」

いや、マジでケニングを引き合いに出さないでください。お願いだから。

どーせ『本物の天才』には勝てねぇですよ。けっ!