軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 頼れる(?)相談役たち

翌早朝。身支度を済ませた湊が縁側に出てきた。

それを、座布団でまどろんでいた山神が見ている。

湊は、今から縁側と庭の清掃をするのだろう。

さほど汚れもしない場をほぼ毎日清掃している。ご苦労なことである。

なお湊は、この家の買い手がついて退去を乞われた場合、即日にでも出ていけるよう、常に準備を整えている。そのせいもあり、極力物を増やさないようにもしていた。

山神が場所を移動するべく、身を起こす。

そこに、なぜか近寄ってきた湊が目前で膝を折った。背筋を伸ばして畏まっている。

「おはよう、山神さん」

やけに厳かな声である。

しかも、 頭(こうべ) を垂れ、合掌までしているではないか。朝っぱらから気合を入れて、崇め奉られている。

むろん山神はその意味はわかってない。

こんなことをされたのは初めてで、やや面食らっていた。

「うむ」

だが迷惑なはずもない。

態度で応えるまでよ、と小狼も胸を張った。これで威厳は示せたはずである。

どれくらいそうしていたか。異様に長い時間、一人と一柱はそのままの状態だった。

ドドドッ。滝の音だけは変わらず轟いていた。

それからさらに――。

「山神さん、いつも一緒にご飯食べてくれてありがとう」

朝食のみならず、昼、おやつ、夜。ともに食したあと、必ず懇切丁寧に感謝の言葉と拝まれることになる。

その都度、数分以上の 時(とき) を要する。

毎度毎度、山神はきちんと付き合っている。むろんありったけの感謝の念を向けられて、嫌なはずはない。自らの 糧(かて) となる思いでもある。迷惑なはずはなかった。

とはいえ、湊の目つきは問題だった。

研究者顔負けの冷厳な目で、まるで実験結果を観察するかのごとく山神の全身を眺め回す。

ちといかがなものか、と山神は思っていた。

ちちち、ちゅんちゅん。鳳凰のご機嫌伺いに訪れたスズメたちの鳴き声はどこか笑っているようだ。

たんまり神水シャワーを浴びたクスノキの若葉は、水気を帯びて濃さを増した。

自ら葉を傾けて、丸い水滴を転がして遊んでいる。

その様子がよく見える縁側に並ぶのは、湊、霊亀、応龍。

珍しい面子で、真昼間から酒宴が催されていた。

もちろん、下戸である湊の脇に置かれているのはお茶だ。ガラスポットの中で真っ赤な花が一輪咲き誇っている。

香りで、目で楽しむ 工芸茶(こうげいちゃ) は、青き龍神からの土産品である。

広がるジャスミンの香りに、応龍が機嫌よさげに尾をゆらしている。

霊亀の前に置かれた酒杯に、湊が酒を注ぐ。

これは、酒類を買ったらおまけでもらった日本酒だ。一滴も酒を呑めないにもかかわらず、酒屋の常連の湊はおまけをもらうことも多い。

湊にはさっぱり味の違いはわからぬが、今回の日本酒はやけに香りが強いなと感じていた。

「山神さんの体が早く元に戻るように、できるだけ感謝の念を込めていろいろやってみたけど……。全然効果ないみたいなんだ」

山神を元のサイズへと戻そうと奮闘すること、一週間。

山神のサイズにさほど変化はなく、巨躯と呼ぶにはほど遠い。

透けることはなくなった程度で、あまり芳しい成果は出ていなかった。

今現在、山神は御山に帰っている。

鬼のいぬ間に、ではなく、かの神が不在のうちに、湊は霊亀と応龍に相談兼弱音を吐いていた。

なお、鳳凰は爆睡中。麒麟は旅立ってからまだ戻ってきていない。

『なにやら頑張っておったようだな。効果がないことは、決してないぞい。見た目にあまり出ておらんだけぞい』

霊亀が首を左右に振る。

『如何にも。しかと内面に成果が実っておる。その身もしかと見れば、数日前より大きくなっている』

応龍も羽を開いて応える。

「――効果、出てる?」

二瑞獣は深く頷いた。

「そうかな……。でもこの前は拝んだら、見る間にむくむく巨大化していったんだけど……」

納得がいかなさげにつぶやく。

「お供え物にも感謝の念を込められないかと思って、お菓子相手に拝んでもみたんだけど」

『なにゆえ……? やり方が斜め上方向すぎるぞい……』

呆れながら霊亀が塩を舐めた。

「あれかな、お菓子がいただき物や市販品だからよくないとか? 手作りのほうがいいとか?」

『まあ、念を込めて丁寧に作れば、多少は上がるやもしれんが、そこまで劇的な効果はあるまいよ。現に今も食事は手作りだろうに』

霊亀は呑みながらも、瞼、首、尾を動かし、なるべく湊にわかりやすいよう努めていた。

そうしてあれこれ告げていた湊が、はっと気づく。

「そうだ、あれか。俺が本心で山神さんは、あんまり威厳ないって思ってるせいか」

『……そこは、なにも間違っておらん。気にせんでええぞい』

霊亀が貫禄のある声で宣った。

応龍は素知らぬ顔でグラスをくるりと回し、ワインの芳香を嗅いでいた。

それから、いくらも経たないうちに、早くも酔いが回った応龍が浮きはじめた。ワイングラスの中身もその身もゆらいでいる。

いつものことのため、湊と霊亀は欠片も気にしない。

湊が日本酒の瓶を傾ける。

「お、そろそろなくなる。かなり減りが早かったね。そんなに美味しかった? 俺には普段の酒類より香りが強いくらいしかわからなかったけど」

『……度数が高いだけで、さしてうまくもなかったぞい。 予(よ) がさっさと消化したほうがええと思ってな。風神と雷神は気に入らん物は呑まんからな……』

霊亀は歯に衣を着せぬ物言いはするものの、気遣いはする。

山神は舐める程度にしか呑まず、風神と雷神は高級志向。やけに香りだけは高いこの酒は、口をつけようともしないだろう。

それに風神と雷神はここのところご無沙汰でもあった。

彼らの訪問はその性質と同じく気まぐれだ。

他に消費するモノがいないため、霊亀は浴びるように呑んでいた。

そんな理由ゆえに、ガブ呑みするわりに、普段の満足げな様子は見られない。

湊もなんとなく察していた。

残っていてもどうしようもないため、どんどんあけられる霊亀の酒杯に、遠慮なく注いでいった。

霊亀が酒杯から面を上げ、軽く一息ついた。

『まあ、そう焦らずともええだろう。そう遠くないうちに元通りになるぞい』

元来、悠久の時を生きる霊亀は気が長い。

すぐすぐにでも元に戻したがる湊の気持ちは、さして理解できない。

案ずることは何もないのだと、頼りがいのある霊亀が態度で告げている。

それを見て、湊も自らの焦り具合を恥じた。

「そうだよね。なにも今すぐに戻さなくても、山神さんがどうにかなるわけじゃないよね……」

そう、山神は強いはずだ。

今まで小さくなっても、時間が経てば必ず戻っている。初対面時にも透けていたが、いつの間にか確固たる存在感を見せつけてくれるようになっていたではないか。

湊は冷めきったお茶を 呷(あお) った。

「本体デカいし、しかも恐るべきパワーを秘めた火山だし。それに 天狐(お隣さん) の強引な招きも簡単に断ち切ってくれたしね」

明るい声には、ゆるぎない信頼が乗っていた。

その時、湊の視界に入らない下方で、霊亀と応龍が顔を見合わせていた。