軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古く正しい伝統

始祖さんが、なにやら四角い箱を両手で持ちながらやってきた。

四角い箱の中には小さな鐘が一つあるだけ。

小さな鐘は四角い箱に取り付けられているから、箱に入れたまま使うのだろう。

俺がその箱に関して質問する前に、始祖さんがその箱を俺に向けた。

……

何も起こらない。

一安心と微笑む始祖さん。

何か起こったのは、ビッグルーフ・シャシャートに送るための調味料などを一村住人が運んできた時。

箱の中の小さな鐘がチリンチリン鳴った。

うるさいぐらいに。

さすがに始祖さんもうるさかったのか、その箱を地面に投げ捨てて壊してしまった。

いいのかな?

いや、清々しい顔をしているからいいのだろう。

鬼人族メイドに散らかさないように言われて、謝っている。

なんだったんだ?

事情を聞こうとした俺の横にいたのがライメイレン。

始祖さんが持っていた四角い箱と同じようなものを持っている。

それを俺に向けるが、やはり反応せず。

だが、一村住人には反応し、チリンチリンと鳴り出した。

……

ライメイレンは始祖さんと同じようにその四角い箱を地面に投げ捨てて壊してしまった。

そして始祖さんと顔を見合わせ、握手している。

なんなんだ?

よくわからないけど、鬼人族メイドがライメイレンに散らかさないように注意している。

「悪い報告があります」

客間の椅子に座った始祖さんがそう言って、切り出してくれた。

話を聞いているのは俺のほかにライメイレン、それとギラル。

「勇者が現れました」

勇者?

少し前に話題になった勇者か。

なんでも、これまでは死んでも復活できていたのが急に復活できなくなって活動していなかった。

復活できるようになったってことか?

それとも、復活できなくても活動を再開したと?

「いや、そうではなく。

少し前まで死んでも復活していた勇者たちを……不本意ながら彼らを教会勇者と呼称します。

この教会勇者は、完全に力を失っており、活動は再開されていません」

「じゃあ、勇者というのは?」

「新しい別の勇者です。

いや、新しいは違うかな。

古く正しい伝統の勇者が現れたということです」

始祖さんの言葉に、大きなため息を 吐(つ) きながら確認するギラル。

「本物の勇者が出てきたってことか」

「そうです。

文献にある古く正しい伝統の勇者です。

現在、公式には二人の存在を確認しています」

俺が首を傾げるまえに、始祖さんが説明してくれた。

「古く正しい伝統の勇者は……簡単に説明すれば、オンリーワンの魔法が使える存在です」

「オンリーワン?」

「ええ。

これまでの魔法形態も何もかもを無視した魔法をなぜか習得し、使えるようになります」

始祖さんの説明に、ギラルが補足してくれた。

「昔のその古く正しい……面倒臭いな。

勇者でいいだろ、教会勇者は偽物勇者な。

昔の勇者が使った魔法としては、天候を操る魔法、城を生み出す魔法、海を割る魔法なんてのもあったらしい」

そして、ライメイレンが追加してくれる。

「有名なところでは、蘇生魔法ですね」

「蘇生?」

「ええ。

命ある者、死んだらそれまでです。

ですが、蘇生魔法は死んだ者に再び命を与えます」

すごいな。

「色々と条件はあるみたいですが……」

ライメイレンは顔を始祖さんに向けて、続きを促がした。

「まさしく奇跡の魔法。

そして勇者たちは人間の守護者として活躍するはずだったのですが……

六千年前を最後に、勇者は出現を止めました。

その代わりに出てきたのが、教会勇者です」

「偽物勇者な」

ギラルが訂正を求める。

「わかりましたよ。

その偽物勇者がやっといなくなって一安心と思ったら、出てきたのが文献にある古く正しい……本物の勇者です」

始祖さんの説明は理解できた。

しかし、わからないのは一点。

「その本物の勇者が出ると、困るのか?」

「勇者というより、オンリーワンの魔法が困るのです」

魔法をちゃんと勉強した上で習得し、強力な魔法を使う分には構わない。

しかし、ふいに手に入れた強力な魔法を気楽に乱発されては困る。

と言うことだそうだ。

「わかりやすく例えれば、強力な爆発の魔法を子供が手にした状態。

高確率で事故が起きるでしょう」

確かにな。

天候を操る魔法を乱発されたら困りそうだ。

「それと、勇者の存在価値なのですが……これもやっかいでして」

始祖さんが話してくれるのは勇者誕生の神話。

「いや、神話ってほど大層な話じゃないです。

昔、この世界に魔力が満ちたとき、適応できた者と適応できなかった者がいます。

適応できたのが亜人と呼ばれる者たち。

簡単に言えば人間以外です」

「じゃあ、適応できなかったのが人間ってことか」

「ええ。

当然、人間は亜人に比べて魔法が使えない分だけ生活が苦しくなります。

その様子を農業神が見ていて、哀れに思って人間に与えたのが勇者です」

「哀れって……いや、農業神が与えた?」

「そう伝わっています。

そして、人間の子として勇者が生まれるようになりました。

百万人に一人ぐらいの割合ですが」

「それで人間の暮らしが楽になったと」

「最初はそうだったのですが、勇者として生まれる者の性格が清く正しいとは限らず」

「な、なるほど」

「そのうち、人間の生存圏を広げるために亜人領に侵攻する者も出てきて……

最終的には、勇者は亜人を倒す者という認識が拡がりました」

「え、じゃあ……」

「今回、現れた勇者もそのように動く可能性が高いかと」

「魔王、勇者がいなくなったと喜んでいたのに……ガッカリだろうな」

「そうですが……まあ、その辺りは魔王の宿命ですから」

「宿命?」

「勇者によって亜人たちの生活を脅かされるのを見た魔神が、勇者対策として魔族の中から魔王が生まれるようにしましたから」

「そうなの?」

「ええ。

ですから、勇者と魔王は戦う運命であるといえるのです」

始祖さんはそう言い切った。

「それに、悪い話だけではないのです。

勇者は複数人に対し、魔王は一人。

勇者対策としては不公平ですよね?」

「まあ、確かに」

「なので、魔王は強力な四人の部下が集う運命を持ちます」

「四人の部下……それって」

「四天王です。

今は形骸化して四人の重臣という扱いですが、昔は亜人たちの中で特に優秀な四人が魔王の部下となって勇者と戦ったのです。

勇者が現れたのですから、その四天王が現れてもおかしくありません」

「へー」

なんだか話が逆だな。

普通は魔王が先に登場して、その後で勇者が現れるんじゃないだろうか?

まあ、細かいことはいいか。

「ところで、ここに来た時に持ってた四角い箱はなんだったんだ?」

「あははは」

始祖さんとライメイレンは視線を逸らした。

逸らした先に、四角い箱を持っている魔王がいた。

「この箱?

魔王の一族に代々伝わる、勇者発見器だ。

まあ、今まで勇者に反応したことのないガラクタなのだが、城を掃除をした時にみつけてな。

シャシャートの街にいる村長の妻に見せたら、こっちに置いておいてくれと」

…………

なるほど。

一村住人は調味料を運びに五村に行っている。

始祖さん、ギラル、ライメイレンは目を合わせて頷いていた。

いやいや、潰す方向に動かない。

一村住人が戻ってくる前に、厳重に保管しよう。

俺も面倒事は嫌だ。

だが、急に変な魔法を放たれても困る。

ちゃんと教えた上で、本人にどうするか決めてもらおう。

だから、外部から波風を立てないように。

勇者に目覚めたからっていきなり亜人を皆殺しにするような精神変化はないんだろ?

よかった。

反応があった者にどう伝えるかは……少し考えておくよ。

それで、誰が勇者だったんだ?

……え?

八人ぐらい反応があった?

ははははは。

まさか。

百万人に一人なんだろ?

それが八人?

変な魔法が八個ってこと?

冗談だよな?

冗談だって言ってほしい。

駄目?

冗談じゃない。

そうか……

前言を撤回して謝るから、今からでも箱を壊すのはどうだろう?

邪(よこしま) な考えに流れそうになる俺だった。