作品タイトル不明
夏のひととき
俺が【万能農具】を使って木を切り、そのまま加工、ハイエルフたちが組み立てる方式で村の食堂の建設が開始された。
あっという間に出来上がる。
本来なら、切った木を乾燥させずに加工すると、時間経過で歪んでしまうのだが【万能農具】で切ればその辺りの問題はない。
やはり便利だ。
「内装はもう少し掛かりそうですね」
文官娘衆が、行程表を確認しながら俺に報告してくれる。
ザブトンが頑張ってくれたので、テーブルクロスやカーテンなどの布類は揃っているが、椅子やテーブルがまだだ。
あと、純粋に窓や食器棚、食器なども。
いつもなら俺が頑張るのだが、今回はそれを止められた。
「料理見習いの方がまだ来られていませんから、急いでも仕方がありません。
家具、食器は 五村(ごのむら) の職人に発注しましょう」
そういうことになった。
溜め込んだお金を使う策の一環らしい。
たしかに、なんでもかんでも自分でやっていてはいけないな。
それに、俺が作ったのは、どれだけ頑張っても素人の出来。
本職の品には敵わない。
ここは一つ、本職の品を見て勉強しよう。
と思いながらも、自分で作りたかった。
悔しい。
「お金の件はあるだろうけど、家具や食器は村長に任せてもよかったんじゃないの?」
「褒賞メダルの交換品ですから、公共の場といえども量産させるのは悪いかなと」
「本音は?」
「素朴なテーブルって発注したら、隠れた場所に神様を彫ったテーブルを持ってくるから……」
「最近、シソさんが新しいテーブルを見る度にひっくり返したり分解するのはそれが原因だったか……」
気分転換に、俺はプールに向かう。
夏だからな。
子供たちも集まっている。
うん、賑やかでいい。
猫たちもいるな。
プールの水が掛からない日陰の良い場所で、だらけている。
宝石猫が俺を見て一鳴きしたので、手を振って挨拶。
ん、違う?
あ、お皿の飲み水が 空(から) になったのね。
新しい水をいれさせていただきます。
水着姿の鬼人族メイドが、代わりに行こうとしてくれるが遠慮する。
鬼人族メイドには子供たちの見張りをよろしく頼む。
猫の飲み水を補充し、俺はプールを越えて少し先に。
そこで【万能農具】を振るい、地面を砂地にした。
広さは畑一面分、五十メートル四方かな。
「村長、これは?」
俺の様子をみていたハイエルフのリアに聞かれたので返事。
「ちょっとした遊びのための舞台」
ビーチフラッグをするために用意した。
海でやればいいだろうと言われるかもしれないが、まあいいじゃないか。
ビーチフラッグ。
砂地に 旗(フラッグ) を立て、少し離れた場所で旗に足を向けてうつ伏せになる。
合図と共に起き上がって走り出し、旗を取るゲーム。
俺は 和気藹々(わきあいあい) とした感じを願ったが、駄目だった。
「うらぁぁっ!」
走っている最中に、相手を攻撃するのはなしです。
「おらぁぁっ!」
魔法も駄目です。
「こうすれば……」
飛ばないように。
砂地を走ることに意味があるのです。
最初は子供たちがキャッキャッとやっていたのだが、それを見てリザードマン、ハイエルフ、山エルフ、獣人族、天使族が参加。
迫力あるし、盛り上がるが……俺の望んでいたのとちょっと違う。
「ドワーフは参加しないのか?」
「脚力には自信がないからな。
それに、こうやってプールサイドでまったりと酒を飲みながら、眺めるのも悪くない」
ドワーフたちはラフな格好でビーチチェアに座り、酒を楽しんでいる。
そのドワーフたちの大半の服装がハーフパンツの水着にアロハシャツっぽい上着、丸い帽子を被っているので、サングラスをかけたら休暇中のマフィアの集団みたいだなという感想は、心の中で留めておく。
ビーチフラッグは、子供たちの中ではウルザが圧勝。
大人たちの中では、プールを楽しみにきていたラミア族が強かった。
ラミア族は、砂地でも苦もなく移動できるらしい。
クロの子供やザブトンの子供たちも参加し、まだまだ続けられている。
子供たちが順番待ちになったので、ちょっと集合と声をかけた。
そして用意していたスイカを取り出す。
砂地にスイカとくれば、スイカ割りだ。
砂地にスイカをそのまま置くと、スイカが割れた時に砂まみれになるので、下に布を敷く。
そして、子供たちの一人……グラルがやってみるか?
グラルに棒を持たせ、目隠しをする。
そして、グルグルっと回転。
この辺りで見ていた子供たちは何をどうするか理解したようだ。
グラルに指示を出し、スイカの方向に誘導する。
「まえ、まえー」
「もう少しみぎー」
うん、これが俺の望んでいた指示。
「右に小幅で二歩、そのまま前方に十二歩……いや、十三歩。
うむ、そこだ!」
的確な指示をするのは、グラルの父であるギラル。
いつの間に来たのかな?
水着だし。
「いまさっきだ。
ライメイレンから呼び出されてな」
「ライメイレン?」
「ああ。
ちょっとしたトラブルがあったらしく、その相談に乗れと言われた。
ここで待ち合わせなのだが、ライメイレンがまだ来てない」
「大丈夫なのか?」
「問題ないだろ。
本気で手に負えない問題なら、俺に相談などせん」
それは誇っていいのだろうか。
ギラルは気にした様子もなく、グラルが割ったスイカを食べにいった。
「村長にしては珍しいですね」
子供たちを見張っている鬼人族メイドの一人が、聞いてくる。
「食べ物をあのように扱うのは嫌うと思っていましたが?」
「そうだが……まあ、スイカ割りは特別だな」
なぜって?
スイカ割りだから。
実際、俺はスイカ割りの経験はない。
漫画とかテレビでやっているのを見ただけだ。
それだけに、特別感があるのかもしれないな。
だが、当然ながら畑にあるスイカでやったら怒る。
スイカ割りをやっていいのは、砂地のここだけ。
そして、割っていいスイカは俺が用意した分だけで。
「お父さん、スイカ全部食べちゃったよー」
ウルザがそう言いながら、俺の後ろに控えているスイカに視線を送る。
ははは。
次は誰がやるのかな。
あ、うん、ギラル。
待て。
グラルにいい所を見せたい気持ちはわかるが、先に子供たちにやらせてあげて。