軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大樹の村の食堂と良いニュース

文官娘衆たちの主張はこうだった。

文官娘衆は、三軒の大きな家に分かれて暮らしており、基本的に集団生活を送っている。

食事も当番制で担当することになっているのだが、忙しい者が当番になったときの食事は悲惨なことになる。

悲惨な食事の例として、皿の上にキャベツがまるごと一個置かれている、皿の上にダイコンがまるごと一本置かれている、皿の上にナスが二本並んでいる、皿の上にキノコが数本置かれている、皿の上に……

はい、ここで文官娘衆の魂の叫びをどうぞ。

「皿の上に食材を置いたからって、それは料理じゃない!」

はい、落ち着いてー。

「す、すみません。

ですが、あまりにもあまりだったので……

わかりますか?

ザブトンさんの子供に同情されて、 蒸(ふ) かしたジャガイモをもらった気持ちが」

「もらったのか」

「はい。

バターも乗せてくれました。

美味しかったです」

だろうな。

「ともかく、私たちは仕事の量が安定せず、料理に掛けられる時間が一定ではありません。

料理の技術不足もあって、どうしてもそうなってしまうのです」

「わかったわかった。

だから、食事を提供してくれる場所が欲しいって話だろ」

「はい。

村には宿の食堂と村長の屋敷の食堂がありますが、宿の食堂は来客がなければオープンしませんし、オープンしても来客優先です。

村長の屋敷の食堂は偉い人との遭遇率が高いので、食事目的では顔を出しにくいので」

「遠慮しなくてもいいのに」

「魔王さまやクローム伯には慣れましたが、ドースさまやライメイレンさま、ヨウコさまは……まだちょっと」

「そんなに怖い相手じゃないのだが……まあ、食事は落ち着いてしたいという気持ちはわかる」

「ありがとうございます。

そこで、住民専用の食堂の開設を是非に」

「それなんだが、建物はリアたちがなんとかするだろうけど、料理人はどうするんだ?」

「ご安心を。

ドライムさまの執事、グッチさまから料理人見習いとして悪魔族を何人か受け入れてもらえないかという話がきています」

「その料理人見習いの悪魔族の実践の場として、住民専用の食堂を使うと」

「はい。

もちろん、村長が料理人見習いの悪魔族の受け入れ許可をいただける前提の話ですが……」

「そこは断ったりはしないが……

お前たちの家から誰かを連れてくるとかは駄目なのか?」

「は?」

「あ、いや、文官娘衆って魔王国に家があるんだろ?」

「ええ」

「その家、使用人とかいるんだろ?」

「それはもう数え切れないほど」

「その使用人を連れてきて、料理をしてもらうのは駄目だったのか?」

「村長、村長。

使用人は、奴隷ではありませんよ」

「なんの話だ?

いくら俺でもそれぐらいは知っているぞ」

「ですよね。

使用人は賃金をもらって働く人です」

「そうだな」

「賃金に対し、労働内容が酷い場合は辞めます。

もちろん、辞める前に交渉はありますよ」

「そうなんだ」

「つまり、使用人にも仕事を選ぶ権利があるのです」

「うむ。

えっと、つまり……この村で働いてもらうのは厳しいと?」

「労働場所の説明の段階で断られますね。

というか、断られました」

「そ、そうなのか……」

「ええ、もう少し詳細を語れたら違うのでしょうけど、魔王さまからあまりこの村のことは広めるなと言われているのでどうしても。

気合の入った忠臣なら来てくれるかもしれませんが、それほどの忠臣となると親が手放しませんので」

「気合の入った忠臣?」

「クローム伯爵家の家政婦長、ホリーさまみたいな方ですね」

「彼女が気合の入った忠臣?」

「フラウさまの娘、フラシアベルさまの世話をするためだけに大樹の村に来るのは相当に気合が入っていないと」

「うーむ。

やはり、“死の森”って名前が 悪(わる) すぎるのか……」

「それだけではありませんが……まあ、一般の方が自主的にくる事はないと覚えておいてください」

「そうか。

……ん、待て待て。

自主的にここに来たのがいたぞ」

「 目的(さけ) のためならどんな困難だろうと乗り越える方は、一般の方とは扱いません」

そのあと、色々と打ち合わせをして村の食堂建設が決定。

どのように運営するかは思案したが、決定は料理見習いでやってくる悪魔族と相談したあとで。

どれだけ考えても、実際に運営する者たちの意見を聞かないとな。

「ところでだ。

一つ、いいか?」

俺は村の食堂建設決定の書類を 崇(あが) めている文官娘に聞く。

「なんですか?」

「お前も料理当番の日があったんだよな?」

「ええ」

「皿の上シリーズをやったのか?」

「ま、まあ、やりましたね」

「何を置いたんだ?」

「小麦」

「…………」

「さすがに怒られました」

「だろうな」

村の食堂は、早くオープンできるように頑張ろう。

ルーがシャシャートの街に行っているので、ルプミリナはティアが面倒をみている。

さすがに押し付けてばかりでは悪いので、俺も積極的にルプミリナのいるティアの部屋に通う。

ティアの部屋でルプミリナを抱いていたのはグランマリアだった。

「すまない。

面倒をかけるな」

「いえいえ」

「ティアは?」

「隣室でオーロラさまを寝かしています」

「そうか。

なら、静かにしないとな」

「ええ」

俺は両腕を広げてルプミリナにおいでと誘ったが、ルプミリナはグランマリアから離れなかった。

「こういうのは女性のほうが好かれやすいですから」

「気をつかわなくていいから」

しかし、この広げた両腕はどうしたものか?

悩んでいると、グランマリアが少し考えてからこう言った。

「両腕はそのままで。

実は村長にお話があります」

「ん?

なんだ?」

「 懐妊(かいにん) したようです」

「……え?」

懐妊?

解任じゃないよな。

懐妊。

妊娠ってことか。

……誰が?

いや、この場合……

俺がグランマリアをみると、グランマリアは恥ずかしそうに笑って俺の広げた両腕の中に、ルプミリナごと飛び込んできた。

「ああ、ルプミリナがいるから強く抱きしめられない」

「妊婦を強く抱きしめるのは駄目なのでは?」

「そ、そうだな。

いや、よくやった。

ち、違うな。

これだと偉そうだ。

……ありがとう。

そうだ、ありがとう」

グランマリア懐妊。

良いニュースだ。

「良いニュースなのはわかりますが、私の部屋でイチャイチャするのはどうかと思います」

オーロラを寝かしつけて戻ってきたティアに怒られた。

ちなみに、ティアはグランマリアの懐妊を知っていた。

「疑いの段階から相談を受けていましたので。

ルーさんも知っていますよ」

「そ、そうなんだ」

全然、気づかなかった。

「こういったのは本人が伝えるものですから、ルーさんを叱らないでやってください」

「もちろんだ」

「あと、私も黙っていましたが、叱らないでやってください」

「ははは」

笑ってしまった。