軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十五話 工場を作る為の工場を作る為の準備

第四十五話 工場を作る為の工場を作る為の準備

「素晴らしい朝ですな……」

「そうですね……」

「いや人の部屋で朝から何をやっているんですか?」

窓から日光を浴びながら、何やら爽やかな笑みを浮かべているケネスとレオ。

片やうちの実働部隊隊長、片や蒸気自動車部門のエース。他の騎士達の代表とも言える2人が、何故か人の部屋で『一仕事終えた』とばかりに笑っていた。

「いやはや……帝都の民も飽きが早いのか、それとも諦めが良いのか。ここ数日は、窓から若様の姿を見ようという輩も減りましたな」

「……そうですね」

「しかし、それでもカーテンが閉められ、中の様子がわからない様になっていますね」

「……そうですね」

「はて。そのカーテンを閉めている時は、グリンダが一緒の時ばかりでは?」

「…………」

「たしかに!いやぁ、偶然ですねぇ」

騎士2名が、わざとらしく不思議そうな顔をこちらに向けてくる。

「さっぱりわかりませんなぁ!」

「でもなんだか、未来への希望を感じられますねぇ!」

「やかましい!というか、レオは今日休みでしょう。なんでここにいるんですか!」

「休みだからこそ、安心がほしくって……」

「大きなお世話です!」

自分の性事情が彼らの未来に関わる事は理解しているが、それはそれとして探ってくるのは勘弁してほしい。

怒りと羞恥で頬が赤くなるのを自覚しながら、咳払いをする。

「まったく……僕はこれから出るので、ケネスは留守を頼みます」

「ああ、そう言えば外出の予定がありましたな。……申し訳ありません、若様。外出先と、目的について、今一度お教えください」

先ほどまで上機嫌だったケネスの顔に、ダラダラと汗が流れ始める。

「今日は1日、クリス殿下と城で今後についての打ち合わせですが?なんなら、明日と明後日も日中は殿下と過ごす予定です」

「 」

「け、ケネスさぁぁぁん!?」

白目を剥いた老騎士が、受け身もとらず直立不動の姿勢から後ろに倒れる。それを見た若手騎士が、絶叫をあげた。

いや、うん。正直こうなる気はした。

「そんな……そんな、ケネスさん……!」

「終わりだ……ストラトス家は……我らの故郷は……もう……」

ケネスは自身を抱き起して涙するレオをよそに、うわ言を呟き始める。

大袈裟過ぎでは?もしや、自分と殿下の噂ってそこまで深刻なレベルで広まっているのだろうか……。

漫才みたいな状況の部屋に、ノックの音がする。

「はい」

「若様、グリンダです」

「どうぞ。入ってください」

「失礼します」

そうして入ってきたグリンダは、いつものメイド服姿ではなかった。

白いシャツとズボンに紺のブーツ。赤い厚手のジャケットに、ワインレッドのリボンタイという出で立ち。

長い髪も白のリボンを使い、後頭部で1本に纏めてある。

「……何をしていらっしゃるのですか、皆さん」

呆れた様に金色の瞳をジト目にするグリンダに、倒れたままのケネスが震える手を伸ばす。

「ぐ、グリンダ……若様が……若様が、クリス殿下とデートを……」

「仕事ですが?」

「知っています。私も同行しますので」

「ほんとか!?」

「いやだから仕事」

バネ仕掛けの人形みたいに、ケネスが飛び起きる。

「これまで、人手不足で若様の近くに誰もいない状態が多かったですから……私がこちらにいる間は、可能な範囲でお傍におります」

「頼りにしています、グリンダ」

「はっ。お任せください」

彼女は騎士に就任している。自分に匹敵する魔力量と身体能力なので、護衛として申し分ない。今回はメイドとしての仕事ではないので、服装も動きやすさ重視になっているわけだ。

まあ、女騎士を連れている若い男の貴族とか好色扱いされるけど……クリス殿下の存在もあって、大っぴらにアレコレ言われる事はないだろう。

「おお……神はまだ、我らを見捨ててはいなかった……!」

「よかった……本当に……!」

「貴方達はいい加減自分の部屋に帰りなさい」

いつまでも人の部屋……いや、借りている部屋だけれども。ここに残っている騎士2名に、小さくため息をついた。

* * *

馬車に揺られ、帝城に向かう。

帝都の街は本当に豊かだ。屋根は鮮やかな瓦で覆われ、壁はレンガや石を使ったものばかり。

まだコンクリートを使った家までは着手できていないのもあり、ストラトス領では領都でも木と石を組み合わせた家の方が多いぐらいである。

新しく手に入れた領地の家々は、木と藁のみ。むしろ、これがこの世界ではスタンダードな平民の家である。

そんな景色をグリンダと楽しんでいれば、すぐに城へ到着した。

……城の門や一部の壁がまだ修繕中だったりするが、それはモルステッド王国とドラゴンのせいだと声を大にして言いたい。

自分が壊したのは全体から見れば少しである。たぶん。

グリンダの『君、やったな?』という視線から顔を逸らし、城に入る。ボディチェックも最低限で、すぐにクリス殿下の執務室へ通された。

「おお、待っていたぞ!クロノ殿!」

こちらが挨拶するより先に、殿下がニパッ!と笑いながら話しかけてくる。

それに苦笑を浮かべつつ、頭を下げる。

「お元気そうで何よりです、殿下」

「うん。それと、たしか君は……グリンダだったな!」

クリス殿下の視線が、自分の斜め後ろにいるグリンダへ向けられる。

「はい。ストラトス家のメイド兼騎士の、グリンダです」

この世界、数は少ないがメイドと騎士を兼任している人もいる。本当にごく稀で、よっぽど人材不足な家でしかやらない事だが。

「ラーメンを作ったという人だな!しかし、騎士でもあるのか……?」

こちらの紹介に、殿下が小さく首を傾げる。

「確かにラーメンの開発者ですが……非常に腕のたつ護衛です。クリス殿下の所へ行くのに不要かと思いましたが、家臣達がうるさいもので……」

「いや、いい。クロノ殿も、ストラトス家も信用している。よろしく、グリンダ」

「はっ。勿体なきお言葉……」

ごく自然に手を差し出した殿下に、少し困惑しながらもグリンダが握手する。

戸惑って当然だ。相変わらず、この方の距離の詰め方はおかしい。皇太子殿下がメイド兼任の騎士に握手を求めるなど、異例中の異例だ。

それが嫌味にならないのだから、ある種天性の才である。

「私は貴女の顔と名を……そして作ってくださったラーメンの数々を忘れた日などありませんよ……ミス・グリンダ……!」

「あ、はい」

そして瞳を潤ませるシルベスタ卿にも困惑していた。当然である。

「あはは……それで、今日は例の話についてなんだが」

思考が麺類に支配されている親衛隊隊長に苦笑しつつ、クリス殿下が早速本題に入る。

「はい。必要な資料は持ってきています」

「ありがとう。さ、そこにかけてくれ」

「失礼します」

部屋の中央にある机を挟む様にして、革張りのソファーに座る。

この辺のデザインも勇者アーサーの影響なのか、それともこの世界では元々なのか。何となく、前世の社長室みたいである。

お互い隣に護衛を座らせた状態で、殿下から見えやすい様に資料を机の上に置いた。

「なるほど……これが」

瞳をキラキラとさせ、興味深そうにする殿下に頷く。

「はい。これが、『工場を作る為の工場』……その、大まかな設計図です」

当初、ここまでクリス殿下に教えてしまうかは父上と2人して悩んでいたのだが。

このお方は、自分と1日領地を回っただけで気づいてしまったのである。

『工場が出来始めたのはつい最近らしいのに、こんな数が……もしかして、工場を使って工場を作っているのか?』

と。あの日、父上を含めて4人で会議した時にぶっこんできたのである。

工場を建てるとしても、それには多くの資材と準備が必要なのだ。蒸気機関は勿論、配管やら何やら用意しないといけない。

それを短縮する為に、各種部品やら何やらを作る工場がストラトス家にはある。これがあったからこそ、うちの領地は地元で1番の発展を遂げたと言っても過言ではない。

……正直、クリス殿下に技術関連で隠し事をするのは無理な気がしてきた。

「帝国の兵士達に銃を持たせ、そして行軍するのに支障がない程のハーフトラックと食料を用意するとなれば、大規模な工場が必要になります。しかし、時間は限られている。その為、新たに工場を作る為の工場を建設するべきだと考えます」

父上から送られてきた計画書を見つつ、言葉を続ける。

「蒸気機関を使った工場の稼働には、大量の水が必要になります。輸送の面を考えても、大きな道と一緒に川があった方が効率的でしょう。いかに魔法で水を出せると言っても、限界はありますから」

「そうだな。それに、先の戦争で未亡人も多い。彼女らの働き先としても、工場は是非建てたい所だ」

オールダー王国との戦争。そして各地で起きた反乱や貴族同士の内ゲバ。更に敵国の侵攻。

これらにより、夫や父親を失った帝国人は数多い。

貴族のご婦人達は領地からの収入か、遺産を使った金貸しで生計をたてる事ができる。

しかし、平民の場合は別だ。この世界では、戦死者の遺族へ送られる金などたかが知れている。とてもじゃないが、まっとうに生きていくには足りない。

なんなら、その少ない金すらも奪いに男手のいない家へ強盗が入る事もある。

何にせよ、遺族の生活を支えるという面でも、蒸気機関を使った工場は有用だ。

しかし、戦力の確保や経済、治安の問題だけではない。

「何より、既に敵国の手に堕ちた元帝国の領土も戦場になり得ますからね……移動力と、現地での『補給』を必要としない食料の確保は必須です」

「……うん」

帝国は疲弊している。そもそも、オールダー王国との戦が起きたのは春。

基本的に戦争をやるのなら夏なので、各農村でトラブルが起きている可能性がある。

それでも帝国が健在の頃であれば、許容範囲だっただろうが……今の状況で各地を兵隊が通り道にしたら、敵と戦う前に飢饉で国が滅びそうだ。

ついでに、進軍先が故郷という兵士達もいるかもしれない。1人2人ならともかく、この規模だと全体の士気にまで影響するだろう。

だからこそ、素早く移動が出来るハーフトラックと、長持ちする食料として缶詰やインスタント麺が必要なのだ。

「それで、あの件……『特許』に関しては、どうなっていますか?」

まあ、だからと言って技術をタダで出すわけにはいかない。

前世の知識という、過去の偉人達の成果をカンニングした結果とは言え、実用段階にもっていくのにストラトス家もかなりのコストを支払っている。

いくら殿下に賭けるとは言え、無償とはいかない。

「その件だが、教会領を管理している枢機卿が他の枢機卿や大司祭を説得してくれるそうなのだ。特許の申請は、問題なく行えると思う」

「教会領が……?」

この世界では、勇者教が特許関連で色々と口出ししてくるのだが……。

予想外の人物が助力してくれるらしい。

「たしか、コーネリアス皇帝は教会領に対してかなりの便宜を払っていたと聞きますが……それでですか?」

皇帝には借りがあるから……というより、現状皇帝の息がかかった存在としてクリス殿下を見ているのだろう。

ようは、『今まで通りの扱い』を求めているのだ。

「恐らくは。枢機卿や他の教会領の司祭達は、これこそ神の御意思とか、隣人は助け合うものと言ってくれているけど……」

クリス殿下が、重いため息をつく。

「改めて父上の歳費に関する帳簿を見たら、あんまり言葉通りには受け取れそうにない」

「……そんなに、お布施を?」

「……うん。今やっている城の修理費が、子供のお小遣いに思えるぐらい」

「えっ」

それは幾らなんでも出し過ぎだ。コーネリアス皇帝は、そこまで熱心な信者だったか?

いや、信心深いという話はあまり聞かない。となると、何か別の……。

「『治療費』に関しては良いと思うんだけど、それ以外の用途不明なお金が多すぎて……正直、調べるのが今から怖いよ」

「治療費?戦争の負傷者のですか?」

「ああ、いや。そっちは別に予算が組んであるんだ。治療費は……」

クリス殿下は苦笑を浮かべ、こちらを見つめてくる。

「クロノ殿は、『アダム・フォン・ウィリアムズ』という人物を知っているかな?」

……誰?

いや、ウィリアムズ家とは、もしやウィリアムズ伯爵家の事か?確か、教会領と皇領の間に挟まっている家である。

しかし、アダムという人物の名は聞いた事がない。

「知らないのも無理はない。彼は僕の『甥』だ。小さい頃は元気だったが、10年程前からずっと病気がちでね」

「……そう言えば、ウィリアムズ家に皇女様がお1人、嫁に行ったという話を聞いた気がします」

「うん。たぶん、それだ。まあ甥と言っても、ボクより2つ年上なんだけどね」

苦笑交じりにそう告げるクリス殿下。

「彼の治療費を父上が出しているというのには驚いたけど、少しだけ安心した。あの人にも、親の情があったんだって」

「それは……」

それはそれで、フリッツ皇子辺りが不憫なのだが。帝都にいると、あの人や他の皇子達の不幸話がちょくちょく聞こえてくる。

たくさんいる子供の中で、愛情に序列をつけるというのはどうも素直に喜べない。

そこは殿下も同じだと思うが、恐らく元々コーネリアス皇帝に対して良いイメージがなかったせいで、こういう事でも株が上がるのだろう。

「他の親族は他国に嫁ぐか、その……父上の手で粛清されてしまったから、今は彼が継承権第2位にいる。しかし、とても政務が出来る体じゃない」

「それは……大変ですね」

「うん……って、そうだ!」

クリス殿下が、1度伏せた瞳をこちらに向けてくる。

「クロノ殿、良かったら彼と会ってもらえないだろうか?貴殿は千切れた手足や潰れた内臓でも治す凄腕の治癒魔法使いだと聞く。もしかしたら……」

「……そういう話でしたら、嫌とは言えません」

営業スマイルで頷く。

皇族に恩を売れるチャンスは逃したくない。たしか、ウィリアムズ伯爵は先の内乱でもグランドフリート侯爵家と並んですぐにクリス殿下を支持すると表明した。

今後、クリス殿下の派閥では力を増すかもしれない。この前の貴族ラッシュの時は会えなかったので、これを機に挨拶するのも有りだろう。

まあ、自分は本職の治癒魔法使いという事もない。挨拶がてら、でも良いだろう。治せたら儲けものという事で。

「本当か!?助かる。これまで枢機卿や大司教達が治癒魔法を使おうと、神に祈りを捧げようと年々弱っていくばかりだったが……クロノ殿なら、治せるかもしれないな!」

予想以上に期待されているらしく、頬が引きつる。

「え、いや。そこまで期待して頂く程の腕はございませんので……」

コーネリアス皇帝の逆で、最初に期待が大きいと1回の失敗で株が暴落しそうで怖い。

クリス殿下はそんな人ではないと信じているが、それはそれ。これはこれ。余計なプレッシャーは勘弁である。

それに、たしか……。

「ウィリアムズ家は当主やその親族まで謎の病や事故で亡くなり、今は姉上が取り仕切っている。あの人の心労も、もしかしたら癒せるかもしれないな!」

そう。今しがた思い出したのだが、ウィリアムズ家は現在夫人が当主をやっている。

残っている男性貴族が、クリス殿下の甥であるアダム様だけなのだ。もしも『お体を治せます』と言って近づいて、ダメでしたではどんな目で見られるか……。

気安く引き受けたのを、ちょっと後悔し始める。

「早速、明日ウィリアムズ家を訪ねよう!大丈夫、彼の静養地はハーフトラックなら日帰りも出来る距離にある!治療の為とあらば、姉上も快く受け入れてくれるはずだ!」

「いや、その……先に!先にこちらの話を詰めましょう!今は帝国の一大事。勿論アダム様の体調も重要ですが、まずは国を見なければなりません」

どうにか時間を稼ごうと言葉をひねり出せば、クリス殿下がハッとした顔をする。

「そ、そうだな。すまない……ボクとした事が、私情ばかり……」

「殿下のご家族への思いは美徳です。どうかご自分を責めないでください」

クリス殿下の様子に、内心でホッと安堵した。

隣から『殿下に良い格好しようとするから』と呆れた様な視線を感じるが、あえて無視する。

相手は皇帝になるお方だ。そりゃあ、格好つけもするだろうに。

しかし、今回に関して自分は迂闊過ぎたと反省する事になる。

「実は、他にも関係各所から既に許可はとってあるんだ。クロノ殿は人気者だから、皆ストラトス家の名前を聞くと話がスムーズになったぞ!ギルバート侯爵も、協力してくれると言っていた!」

この殿下は人誑しで、頭の回転が速くて、記憶力がすこぶるよい事を。

それこそ、法律関係と事務手続きの速さは自分の想像を遥かに凌駕している。生まれる時代が違えば学者に……と思っていたが、どうやら官僚としても非常に優秀な才能を持っているらしい。

そこにストラトス家の現在のネームバリューが加わった結果。

「さ!話を進めよう、クロノ殿!」

もはや、障害などない工場の建設計画が始まった。

……うそぉん。