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作品タイトル不明

第四十四話 補給物資

第四十四話 補給物資

「あの時は助かった。礼を言う。貴殿程の猛者は帝国広しと言えどそうはいない。……ところで、クロノ殿には婚約者がいないと聞いたが」

「あの銀の輝き!私はあの時、天から剣が降ってきたと思いましたぞ!勇者アーサーのごとき貴方の戦いぶりには目が奪われました」

「ほう、あの鎧と剣は今、修理中なのですか。それも帝城で倒した竜の一部を使って。素晴らしい。是非吾輩に修理費を出させて……ふむ。既に殿下が」

「クロノ殿。貴殿と父君は敬虔な勇者教の信者だと聞いている。どうだろうか。儂の弟は勇者教にて司祭をやっておってな。今度会って見ると言うのは」

「私の甥は素晴らしい戦士なのだが、まだまだ経験が足りなくてな!貴殿程の男の下で働けばきっと良い成長をするはずだ。クロノ殿の役にも立つはずだぞ?」

───疲れた。

つい昨日まで続いた上位貴族達との面会ラッシュ。そして、明日明後日も子爵以下の貴族達に会わないといけない。

その合間に、自分は訪ねて来てくれた人達や、手紙をくれた人達相手にお礼状を出さないといけないのである。

それぞれの『お土産』にあった文章を考えないといけないのだ。同じ内容ばかりだと、『ストラトス家ってそういう家なんだ……ふーん』となってしまう。貴族間でも村八分って存在するから……。

貴族のネットワークをなめてはいけない。なんせ、あくまで『地元では有名』レベルでしかないストラトス家の事をやたら詳しく知っている人ばかりだったのだ。

例えば、自分も姉上も婚約者すらいないとか。父上が敬虔な勇者教の信者とか。ガラスや磁器の販売で財を成したとか。その他諸々。よくもまあ、この短時間で調べたものである。

むしろ、それだけの情報収集能力があって何故オールダー王国では奇襲を受けたのだと聞きたい。内側にしか目がついていないのか。

……いや、よそう。彼らとは、なるべく中立以上の関係を築きたい。敵の動きに気づけなかったのは、自分達も同じである。

幸い、この体は頑丈だ。腱鞘炎や腰痛とは無縁と言える。体力も問題ない。うちの騎士達経由で帝都守備隊から貴族達の情報をもらい、それを頼りに手紙を書いていく。ジェラルド卿やコープランド卿にも、後日お礼をしなければ……。

忙し過ぎて、グランドフリート侯爵に紹介してもらった店にはまだ行けていない。どうにか騎士達や兵士達は行かせたが、肝心の自分は少なくとも戴冠式までは無理である。

というかこれ、戴冠式終わった後でも無理では……?

カリカリと文字を書く音だけが響く部屋に、扉を軽やかに叩く音が加わる。

「はい」

「若様、ケネスです。お館様から届いた物資の目録をお持ちしました」

「入ってください」

ガチャリと扉が開き、馴染みの老騎士が入ってくる。

だが、その後ろにはもう1人いた。

「グリンダ……!?」

腰まで伸びた栗色の髪に、黄金の瞳。優し気な顔にニッコリと笑みを浮かべた同郷のメイドが、小さくお辞儀をする。

「お元気そうで何よりです、若様。お館様の命により、ストラトス領から物資を届けに参りました」

「目録はグリンダが持っております。私は他の騎士との打ち合わせがありますので、1……いえ、2時間ほど空けさせて頂きますぞ」

ケネスが、それはもう嬉しそうに笑いながら敬礼をしてきた。

「それでは!武運をお祈りしていますぞ、若様!」

「いや、ちょ」

「おおっと、そう言えば帝都守備隊の方々ともお話があるのでした!?これは急がねばなりません!申し訳ありません、若様!2時間後に!」

わざとらしくそう言って、老騎士は駆け足で部屋を出ていく。少し遠くの部屋から、他の騎士達の『やっほぃ!』『希望はまだある!』という声が聞こえてきた。

まるで、援軍なき籠城戦をしていたら思わぬ救援が来たみたいな喜び様である。

『……なんだか、大変そうだね』

扉を後ろ手に閉め、グリンダが苦笑を浮かべる。

それに対し、小さく肩をすくめた。

『見ての通り、前世だったら確実に腕の関節が逝っている有り様です』

『まあそっちもなんだけど。聞いたよ?ドラゴンと戦ったって。本当にいるんだね、ドラゴン。流石異世界』

『正直僕も驚きました。てっきり、こっちでもフィクションの存在かと少し疑っていましたし』

『だよね。どんなだった?』

『茶色のでっかいトカゲですね。骨格は少し馬っぽかったですけど。火を吐くし魔法も使います』

『オーソドックスなドラゴンって感じだね。強そうだ』

『あと頭が2つありました』

『わーお、そこは変化球だ』

日本語で喋りながら、グリンダが机に近づいてくる。

そして、紙の束を差し出してきた。

『そりゃあ、お館様が私をこっち勤務にするわけだよ。血の涙流していたけど』

『貴女が?領地の防衛は大丈夫なのですか?』

『たぶんね。その辺の理由もこっちに書いてあるよ』

受け取った紙の束。それはストラトス領からの補給物資の目録であったが、それと一緒に父上からの手紙もある。

ざっと見た感じ、6割程いつもの親バカだったのでスルーし、必要な部分だけを読んだ。

『……父上は、スネイル公王の息子達が反乱を起こすと予測しているのですね』

『そりゃあね。オールダーの女王様がどれだけ優秀で、公王と繋がりがあったとしても彼らにとっては他人だ。突然来た人に遺産を奪われるってなったら、誰だって怒るよ』

グリンダが小さく肩をすくめる。それに合わせて揺れた爆乳から、どうにか視線を逸らした。

しかし、彼女は顔をこちらの耳元に寄せてくる。ふわりと、石鹸の香りが鼻をくすぐった。

『お館様、こっそりと槍や弓矢を公国に流す気らしいよ。どっちの陣営にかは、言わずともわかるよね?』

『……そんなルート、持っていましたっけ?』

『お館様曰く、抜け荷の疑いがある商人に売れば勝手に流れるって言っていたよ。皆商魂たくましいし、公王の息子達も兵士や武器を集めるだろうからね』

『なるほど』

やはりというか、あの人は親バカさえなければ優秀な領主である。

そして、ちょっと人間性を疑う思考回路であった。いや、領地を守る為というのはわかるのだが。

『とにかく、スネイル公国とオールダー王国は少なくとも数カ月はこっちを攻めてくる事はない。むしろ、何か起きるのなら帝都だって言っていたよ。だから私はこっちでいざという時に備えておけってさ』

『まだ何かあるんですかね……』

『さあ。そこまでは予測できないって言っていたけど、何かやらかすならホーロス王国だろうって』

『あの国ですか……』

ホーロス王国。帝国から見て、東に位置する大国。

かつては帝国と大きな戦を何度もしていたが、サーシャ様が現国王の所に嫁いだのを機に双方矛を収めたのだが……コーネリアス皇帝の死には、恐らくあの国も関わっている。

あげく、帝都へと進軍しモルステッド王国軍と衝突。撤退したらしいが、道中の村々は焼野原にされたそうだ。

今もじわじわと帝国の領地を荒らしているそうだが、その侵攻ルートは滅茶苦茶で予測が出来ないと、この前グランドフリート侯爵から聞いている。

彼は、まるでサイコロでも振って攻める場所を決めている様だと言っていたが……まさかな。

『わかりました。警戒をしておきます。ただ、鎧と剣は戴冠式までに直るかどうか怪しいですけど』

『そうそう。道中、噂で聞いたよ。倒したドラゴンの素材で作り直すんだって?』

『ええ。といっても、鎧の方は飾り程度です。剣の方は、柄を竜の骨と皮で作る予定ですよ』

今でも思い出す。殿下の紹介状を手に、ケネスの案内で自分の鎧と剣を作ってくれた工房を尋ねたのだ。

営業担当っぽい人が顔を引きつらせている横で、親方らしき厳ついおっちゃん達が目をギラギラさせて剥ぎ取ってきた竜の骨や皮を眺めていたものである。

背の高いドワーフと言われたら、信じてしまいそうな親方達だった。ここまでの鎧と剣の使い心地からして、きっと良い腕なのだろう。

営業担当の人がお腹を押さえて『ほ、他のお客様の注文が……』『で、でも殿下の紹介状……』『今をトキメク竜殺しの宣伝効果……』『しかし常連さんの……』と。泣きそうな顔をしていたのも印象深かった。

……なんというか、すみません。

『すごいじゃん。伝説の武器だよ、伝説の武器』

『まあ、そこまで性能が上がるわけではないでしょうけど……それでも、頑丈な柄だと嬉しいですね』

戦った感じ、竜の骨も皮も鋼より頑丈であった。

加工は大変だろうが、それでも完成すれば自分の全力に耐えてくれるだろう。

『ああ、そうだった。目録の品は全部ケネスさんに言われた倉庫に移動しておいたよ。いやぁ、パドル船2隻で運ぶだけあって、凄い量だったよ』

『ありがとうございます。滅茶苦茶助かります』

目録には大量の金貨や銀貨などの現金。そしてガラス製品や磁器、ハーフトラックの予備部品であった。

現金は部下達の生活費や、こっちで何か用意する時にも必要である。この世界に、まだATMやクレジットカードはないのだ。

だが今は、正直言ってガラス製品や磁器の方がありがたかった。

ストラトス領から帝都まで直通で水路があるわけではないので、途中ハーフトラックで運んだのだろう。壊れやすい物だが、運搬にグリンダが関わってくれているのなら問題ない。彼女なら、粗すぎる道は魔法で均せるからだ。

訪ねてきた貴族達に、お土産のお返しとして送る品が欲しかったところである。父上に家の倉庫でだぶついている商品を送ってもらえないか相談する予定だったが、先によこしてくれた様だ。

頂いたお土産は撤退戦でのお礼だが、受け取って終わりでは繋がりも消えてしまう。

せっかくのコネ。大事にしなくては。

しかも、戦争のせいで流通が滞ってしまった商品なら尚良し。新規のお客様を獲得するチャンスでもある。

『それと……後日、 例(・) の(・) 材(・) 料(・) も送られてくる予定だよ。殿下には話が通っているんだよね?』

更に耳へ顔を近づけ、小声で言ってくるグリンダ。

彼女の長い髪がこちらの頬に触れ、肩に柔らかい重さが押し付けられる。

『え、ええ。まあ。はい。大丈夫……な、はずです』

『なに、その不安になる返事』

『そっちが近すぎるせいですけど……!?』

抗議の視線を向けるも、グリンダは 揶揄(からか) う様にニヤニヤと笑うだけである。

『今更過ぎない?私の胸やお尻を、散々吸ったり揉んだり挟ませたりしたくせに』

『そ、それとこれとはですね……!』

『まあ、欲求不満なのはわかるぞ。若者よ』

彼女の顔が遠ざかり、当然肩に触れていた胸の感触もなくなった。

それを残念に思うも、気合で表情を取り繕う。

『最後にしてから、もう1カ月以上だもんね。てっきり、殿下や親衛隊の誰かか、そうでなくともお店で発散していると思ったけど……まぁだ童貞なんだ。君。聖職者にでもなるの?』

『やかましい!』

『はー……私が伝授した技が活かされる事はなさそうだね。悲しい事だ』

掌を上にして、わざとらしく『やれやれ』と首を横に振るグリンダ。

その口元は隠しきれない愉悦で歪んでいる。人の性事情を弄るのがそんなに楽しいか、このセクハラTSメイド。

『ま、これはしょうがない。そう、しょうがない事だから』

『何がしょうがないですか。こっちは本当に忙しかっただけで、時間さえあれば、その、きちんとそういうお店にですね……!』

『ほら。出発前に、私も約束しちゃったし』

しゅるり、と。

メイド服のリボンタイが、解かれる。

『覚えているかな?帰ってきたらまたしてあげるって。屋敷にはまだ帰っていないけど、戦いには勝ったわけだし』

胸元のボタンが外され、白いフリルのついた黒い下着が露出する。当然、透き通るような肌も、深く長い谷間も。

彼女は胸元をはだけさせた後、長いスカートをゆっくりと持ち上げた。少しずつ、焦らす様な速度で露わになっていくニーソックスに包まれた美脚。

きゅっと細い足首から膝にかけてとは逆に、たっぷりと肉の乗った太腿。黒いニーソックスが少しだけ食い込み、柔らかさを強調している。

絶対領域にはガーターベルトがアクセントを加え、白い肌と妙にマッチしていた。

『私、他の騎士達より読み書きは得意だから、お礼状を書くの手伝えるけど……その前に、する?』

遂に、ショーツまでもが露わとなった。

ブラジャーと同じく、黒に白のフリルが施されたデザイン。非常に際どいローライズで、少しずらしたら秘所が見えてしまいそうだった。

ごくり、という音が、二重で聞こえる。いつの間にか、自分もグリンダも生唾を飲んでいたらしい。

『……な、なんでそっちまで緊張しているんですか』

『まあ、そりゃあね。私だって、男相手の経験は君だけだし。今回も絶対に……ぜぇったいに、子作りまではさせないけど……それ以外なら、手伝ってあげるよ?』

……この部屋の窓は、道路から竜殺しを見ようとしてくる住民対策に昼間でもカーテンを閉めている。

そして、騎士が貴族の代わりに手紙を書くのは珍しくない。読み書き出来ない貴族も多いのだ。

だから……つまり……。

『よろしく、お願いします……!』

誘惑に負けても、良いと思うのだ。