軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十話 帝都を目指して

第三十話 帝都を目指して

「ふぅぅ……」

流石に疲れたと、兜の下で息を吐く。

アウル男爵の軍を打ち破って。生き残りを武装解除して近くの村に押し付けて。道中の関所は全て蹴り砕いて。領都の城門は魔法でぶち抜いて。館に乗り込んで名乗りを上げてから男爵の息子さん達や一部の騎士を切り伏せて、と。

どう考えても1日でやる事ではない。あと、息子さん達切り伏せた後の、その……ご遺族の悲鳴が、耳に残っている。

館の真ん前にハーフトラックで乗り付けての事だ。当然、男爵夫人や男爵の孫達もいる。

「はぁぁ……」

現在は、連れてきた兵士と騎士により館を完全に制圧。統治に必要そうな書類や、それに関して知識のある男爵家騎士を確保した。

夫人を始めとした男爵家の一族は、屋敷奥の部屋に拘束させてもらっている。

彼女らの未来は、良くて一生を教会の中で過ごすか、最悪見せしめとして打ち首。戦争が始まった状況的に、恐らく……。

「───しっ」

出そうになった次のため息を、気合で止める。

子爵家側に死者こそ出なかったが、皆懸命に戦い勝利したのだ。命令した側の人間が、これ以上うじうじとはしていられない。

「ウィリアム。後を頼めますか?」

「はっ、若様。お任せください」

近くに控えていた老騎士に声をかける。

ケネスの1歳下の彼は、よく兵士達を纏め上げてくれた。頼りになる武人である。

「今後、この地はストラトス家の領地となります。効率的な運営の為に」

「略奪の類は一切許さないと、兵士達に徹底します」

「ええ。代わりに報酬は弾むとも、伝えておいてください。僕は街道を走って戻り、合流地点に向かいます」

「わかりました。ハーフトラックの用意を」

「いいえ、自分の足で走ります。合流地点までなら、この方が速い」

「……流石ですな、若様」

一瞬目を真ん丸にして驚いた後、ウィリアムはニッカリと笑った。

「では、ここはお任せください!村に預けた兵士達に関しても、後で遣いを送ります」

「頼みました。じゃあ、僕はこれで」

「はい!ご武運を!」

戦に勝ったが、まだ終わりではない。むしろ、前哨戦とすら呼べない段階である。

大剣を肩に担ぎ、走り出す。騒ぎを聞きつけて領主の館を遠巻きに見ている住民達を跳び越えて、更に加速。

鎧を着た状態でも、時速100キロは普通に出せる。途中少し休みながらでも、ハーフトラックで来た時より速い。

びゅうびゅうと流れていく景色は、まだ明るかった。太陽の位置から、合流地点には夕暮れ前につけるだろう。

街道に足跡を刻みながら、真っ直ぐに領境を目指した。

* * *

男爵の館を出てから1時間強。日が暮れる前に、どうにか合流地点に到着する。

「ふぅぅぅ……!」

暑苦しいと兜を脱ぎ、頭に巻いていた布も取り払った。

汗が頬を伝い、息も荒い。我ながら結構無茶をしたものである。せっかく綺麗にした鎧も、泥でまた汚れてしまった。

「若様!よくぞご無事で!」

「お待ちしておりました!」

合流地点としていたのは、領境にある川の傍。いわゆる『河川港』である。

ストラトス家のメインとなる収入源はガラス製品に磁器といった、陸路では壊れやすいものだ。

その為、コンクリを使い治水した時に幾つか領内に河川港を作ったのである。いくらロードローラーで道を整備するにしても限度はあるし、何より領の外に出たらボコボコの道が待っているのだ。水路は大事である。

河川港で待機していた兵士達が駆けよってきて、水筒とバスケットを差し出してきた。

「どうぞ、塩と砂糖を混ぜた水です」

「こちら、ケネス様から預かったクッキーです」

「ありがとうございます。いただきます」

水を飲み、クッキーをかじる。少し塩味が強めなクッキーであった。あの老騎士なりの配慮だろう。ありがたい。

「ごちそうさまでした。それで、ケネス達は?」

「ケネス様はあちらの小屋にいらっしゃいます」

「わかりました。貴方達は周囲の警戒を続けてください」

「はっ!」

「あ、それとこれ」

チップとして、銅貨を1枚ずつ渡す。

「しっかり働いてくださいね」

「はい!」

「もちろんです!」

河川港の兵士達を背に、小屋へと向かう。扉に近づいた辺りで、ケネスが出てきた。

「お疲れ様です、若様。予定より早かったですな」

「そちらこそ。ご苦労様です。これでも、急いだんですけどね」

「はっはっはっは。まあ、若様とお館様の所は敵の領都まで遠かったですからな。私の所など、直線なら半分の距離でしたし」

「それでも、流石です。この後も頼りにしていますよ」

「はっ!お任せください。さて……後は、皇太子殿下だけですな」

「ええ……っと。噂をすれば」

───ポッポォォ!

汽笛の音が川の方から聞こえてくる。小屋から離れ、水上へと視線を向けた。

1艘の蒸気船が、河川港を目指して進んでくる。川の流れに逆らって、左右のパドルを回転させスイスイとやってきていた。

「くぅぅろぉぉのぉぉどぉぉのぉぉぉおおおお!」

そして、汽笛の音にも負けない声量でクリス殿下がこっちの名前を呼んでいた。

甲板に立つ彼女が、満面の笑みで手を振っている。子供の様にはしゃぐ彼女の斜め後ろには、シルベスタ卿とアリシアさんが仁王立ちしていた。

船が接岸し、錨を下ろす。乗組員がロープを港とつなぎ、橋をかけた。

それを使い降りてきたクリス殿下が、ブンブンと手を上下に動かす。

「凄いな、あの蒸気船というのは!風の向きも川の流れも関係なしにどんどん進んでいくんだ!しかも速い!」

「気に入って頂けた様でなによりです、殿下」

「これがあれば物流の『形』が変わるぞ!ハーフトラックでも思ったが、これもまた凄い!船ならば既存の小舟を牽引する事で、更に多くの積み荷を運べるだろう!それにそれに───」

「殿下、落ち着いてください」

「後にいたしましょう。クロノ殿も困っておられます」

シルベスタ卿とアリシアさんが、左右から殿下の肩を優しく掴んでこちらから引っぺがす。

アリシアさんも現在は仕事モードな様で、親衛隊らしい口調となっていた。彼女らの言葉に、クリス殿下がハッとした様子で目を見開く。

「んん!し、失礼した、クロノ殿。今は大事な戦の最中。浮かれている場合ではなかったな」

「いえいえ。大事な戦だからこそ、元気が良くいかなくては」

兜を脇に抱え、ニッコリと笑う。これは本心だった。

少なくとも、自分の様にうじうじとするよりは余程良い。大将が景気よく笑っていた方が、兵士達の士気も上がる。

こちらの言葉に、殿下は照れくさそうに頬を少し赤くして視線を逸らした。

「う、うむ。そう言ってもらえると助かる。そ、それはそうと!帝都に向かう準備はどうなっているのだ?」

「もう出来ているかと。ケネス」

「はっ。炉に火は入れてあります。いつでも出られますぞ」

自分がやってきたのとは、反対側。小屋の向こうから4両のハーフトラックがゆっくりと出てくる。

今回の戦の為に、普段は開拓や農耕に使っている車両まで戦闘用に換装したのだ。帝都に向かうのに十分な台数がある。

「よろしい。では直ちに乗り込み、出発する。皆、疲れているとは思うがもう少しだけ頑張ってくれ」

「はっ!」

クリス殿下と、彼女が率いる親衛隊15人。

ケネスが指揮するストラトス家の騎士と兵士、20人。

そして自分。合計、38人が4両のハーフトラックに乗り込んでいく。と言っても、1両は物資運搬用で、荷台に人が乗るのは3両だけだが。

ここから帝都まで、替え馬を使っても一週間はかかる。

───だが、うちのハーフトラックなら2日だ。

「発進!」

殿下の号令に従い、トラックが走り出す。ケネスが乗る車両が先頭となり、次に殿下の乗る車両。3番目に自分が続き、最後に物資を載せた車両が1列となって街道を進んでいった。

領の外に出ればでこぼことした道が出迎えるが、撤退戦では森の中を走り抜いたハーフトラックだ。この程度苦ではない。

帝都を目指し、たった38人が進んでいく。

数字だけ見れば無謀としか言えない作戦だが、今作戦の肝は『速度』だ。

少数精鋭にて、帝都を、帝城を押さえる。同時に、フリッツ皇子の捕縛あるいは殺害。

日和見に徹している各地の貴族達が動く前に、帝国の混乱を終わらせる。旗印を失い、皇帝陛下がお決めになった正統な後継者が玉座に座れば下剋上を狙う者達も大義を失うはずだ。

貴族とは、メンツを重んじる。単純にプライドの問題だけではなく、それを『統治に利用している』故に。

だからこそ、大義名分は大事なのだ。フリッツ皇子が帝都にいながら各地の掌握が出来ていないのは、彼が他国の軍を引き入れたという情報が出回っているのが大きいだろう。そのせいで、大義を失ったのだから。

……どうにも、おかしい。

彼は30年近く帝都で政治家をやってきたのだ。それが、こうなる事を予測できないはずがない。

サーシャ王妃が引き連れたホーロス王国軍とモルステッド王国軍が戦ったと聞くが、帝都の守備隊だけでは撃退できなかったのか?

……父上やクリス殿下も、これはおかしいと言っていた。

であれば、帝都で待ち構えているのはフリッツ皇子とその私兵だけではない。

帝国の内乱を、もっと長引かせたい勢力。恐らくモルステッド王国の精鋭が、我が物顔で城にいるはずだ。

どうにも、嫌な予感がする。

あの、平原での戦いでノリス国王やガルデン将軍の視線を浴びていた時と、似た様な感覚。今回は観察されている気配はないが、これから向かう先から何か不気味な気配を感じ取っていた。

帝都に、 な(・) に(・) か(・) がいる。

こんな事ならグリンダも呼ぶんだったと、少しだけ後悔した。だが、彼女にはいざという時にストラトス家の防衛をしてもらわねばならない。父上も頑張ってくれているが、子分達を全て討ち取られた伯爵が、何をするかわからないのだから。

硬い唾を飲み込み、震えそうになる拳を気合で抑える。

待ち構えているのは、はたして英雄か。それとも化け物か。どちらにせよ───敵だと言うのなら、叩き潰す。

だが出来れば敵対せずに済むと良いなぁ、と思いながら。ハーフトラックに揺られるのであった。