軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十一話 帝城奪還戦、開幕

第三十一話 帝城奪還戦、開幕

ハーフトラックの速度自体は、軍馬よりも遅い。

だが、それよりも圧倒的に勝っている点が2つ。1つは、魔法使いが火夫を務めた場合の移動距離。

もう1つは、その走破性である。

軍馬ではまともに走れない様な悪路だろうと、関係ない。後輪の無限軌道もあって、強引に乗り越えられるのだ。

無論、流石にきちんとした道を進むよりかは減速するが、それを差し引いても道なき道を馬よりも速く移動できる。

流石に、義経がやった崖下りなんかは馬に負けるが。

昼も夜も走らせ続け、道中の関所は『皇太子殿下のお通りである』と吠えて強引に突き破り、夜間は魔法で明かりをつけて進む。

隠密性など考えていない。フリッツ皇子派が追いかけてこようとしても、隊を編成している頃には次の関所についている。

伝令が届くより先に。敵部隊が追い付いてくるより先に。何よりも速く、進むのだ。

自分やグリンダ、あるいはガルデン将軍の様な単騎で足止めができる者達がいたとしても、それらに追撃命令が出る前に走り抜けてしまえば良い。

そうして走り続けて。

「本当に、2日で帝都についちゃったっす……」

帝国内でも屈指の堅牢さを誇る城壁と、その向こうに見える尖塔。

それらと丘を3つ挟んだ位置に、一旦ハーフトラックを止めていた。一応の偽装として、丘の陰に隠れる様にはしてある。

まだ日は高いが、物見も丘の上で派手に動かない限りは気づかないはずだ。

その状態で15分ほど休憩を挟んだのだが、休憩時間が終わるなりアリシアさんと数人の親衛隊は再び丘の陰から帝都を眺め、何度も目をこすっている。

なんなら、互いの頬を引っ張り合う者達もいた。

「幻覚魔法でもくらってるんすか、あーし達……」

「いつまでそうしている気ですか。早く戦闘準備をしなさい」

呆然とするアリシアさんのお尻を、シルベスタ卿が『スパーン』と引っぱたく。

「いった!?何するんすか隊長!」

「私達の仕事は何ですか。考える事ですか?いいえ。殿下をお守りする事です。では、今なにをすべきですか?」

「戦う準備っす!すんませんっしたぁ!」

「よろしい。次の訓練メニューを倍にするだけで許しましょう」

「ひぇ」

「どんまい、副隊長」

「副隊長……貴女の犠牲は無駄にしません……!」

「何を言っているんですか。連帯責任で全員ですよ」

「ぴぇ」

「私は真面目に準備していました隊長!ご慈悲を!どうかご慈悲を!」

「安心してください。私も2倍やります」

「体力お化けの隊長の基準で考えないでほしいっす!!」

親衛隊がコントをやっているのを横目に、自分達も装備を整える。道中も関所を無理矢理通る際や、森を突っ切る際に偶然遭遇した魔物を叩き切る際に武器をとったものの、それらは鎧を着るまでもなかった。

だが、ここから先は違う。あの城門の先には、帝国でも精鋭と名高い『近衛騎士団帝都守備隊』がいるのだ。

兵士達が装備を整えたのを確認し、一旦集合させる。

「これより、クリス殿下よりお言葉がある。傾聴せよ」

ハーフトラックから出した踏み台に乗り、一段高い位置に立ったクリス殿下が親衛隊や兵士達を見回す。

「皆、よくここまでついて来てくれた。まずはその事に礼を言わせてくれ」

真剣な面持ちで、一拍置いてから彼女は続ける。

「正直に言おう。ボクが玉座についたからと言って、帝国が良くなるとは限らない」

「っ!?」

思わずクリス殿下を二度見しそうになるのを、ぐっと堪える。

作戦前の演説で、変な事を言わないでもらいたいのだが……。

「ボクに政治的実績はない。軍事的な実績は、オールダー王国との戦い……そして撤退した経験だけだ。それに比べて、フリッツ兄上は30年近く帝城で政務に励み、何度も軍事作戦に参加して戦果を挙げている」

彼女の弱気な発言に、うちの兵士達が不安そうに互いを見始めた。

しかし、親衛隊は一切動じる事なく整列している。

「それなのに……兄上は帝国を裏切った」

沈んでいた殿下の声が、熱を帯びる。

「先の大敗は、フリッツがオールダー王国を本陣に手引きした故に起きた事だ。彼の策略により多くの将兵が死に、帝国は窮地に陥っている」

クリス殿下の力強い瞳が、兵士達に向けられた。

「我々はあの裏切り者を討たねばならない!帝国への献身に見せかけ、実際には他者を貶め成果を奪っていただけのあの男を、成敗するのだ!フリッツが帝国から奪い、そしてモルステッド王国から『下賜』された金で膨れ上がった財布を、帝国の民達に返還する!」

彼女の華奢な手が、力強く横に振るわれた。

「勇者達よ!勇者アーサーの加護を受けし者達よ!汝らの手で国を救い!民を救い!財貨を手に凱旋せよ!大義は我らにある!」

「おおっ!」

短く、しかしハッキリと声を上げる。ほぼ同時にケネスやシルベスタ卿達親衛隊も喉を震わせながら武器を掲げ、つられる様にうちの兵士達も得物を突き上げた。

この程度なら、城壁には届かない。だが、士気の高揚には十分。

特に『自分達が正義』『相手が悪』『財貨を持って帰る』という部分が兵士達には効いた気がする。現金な話だが、自分だって道理と利益はあった方が嬉しい。

これぐらい、わかりやすい方が良いのだろう。これから命を懸けるのだ。高尚な説法より、気持ちよく利益を得たいのが人間である。

「それでは、これより作戦を開始する。アリシア、案内を頼む」

「はっ」

殿下の言葉に頷き、アリシアさんが先頭となって丘に沿うように動き出す。

ハーフトラックはここで待機だ。最低限の守りとしてうちの兵士を5人置いていく。

帝都の城門は現在、固く閉ざされていた。跳ね橋が上げられ、堀も水が流れている。その上城門の素材は驚く事に『魔剣』と同じ素材が使われているのだ。うちや男爵の城門とは、強度が天と地ほども差がある。

とんでもなく強固な守りだが、いざという時の抜け道は存在していた。

10分ほど移動した所で、親衛隊が立ち止まり詠唱を開始する。土魔法により地面が動いたかと思えば、鍵のかかった金属製の扉が現れた。

アリシアさんが持っていた鍵で開錠し、中に。緩やかな坂のある通路に続いており、押し固められた土の壁や天井を、木製の柱が支えていた。

馬がギリギリ入れるぐらいの高さで、幅は人が2列で歩くのがやっとといった程度。

明かりも何もないそこを、ランタンを頼りに進んでいく。下り坂だったのが、だんだんと平らに。そして上り坂へと変わった。

奥へ奥へと進んでいくと、通路の素材が石へと変わる。天井からポツリ、ポツリと水が滴っていた箇所は、堀の下だったのだろうか。

自分達は、地下を通って帝都の分厚い壁も、城下町も素通りし、帝城を目指す。緊急時には使用後に破壊されるはずの通路だが……何故か、こうして無傷な状態で残っていた。

アリシアさん達が使用後、帝都の近衛騎士達に封鎖されたと思い土魔法で掘り返しながら進む予定だったのだが、これは予想外である。

途中で突然崩される、という気配もない。帝都守備隊がこの通路の存在を知らないはずがないので、恐らく……。

1時間ほど進み、ようやく抜け道の終点に到着した。自分とシルベスタ卿が先頭に立ち、剣を構えながら彼女が扉を開けてくれるのを待つ。

硬い唾を飲み込む音が、通路に響いた。それは自分だったのか、親衛隊だったのか、兵士達だったのか。

あるいは、クリス皇太子殿下だったのか。わからない。あるいは、全員だったのかもしれない。

そうして、ゆっくりと扉を開いた先には。

「お帰りなさいませ、クリス皇太子殿下」

「シルベスタ卿もお元気そうで何よりです」

完全武装の近衛騎士が2人、立っていた。

「っ!」

即座に剣を構えて前へ出た自分に、彼らは手を後ろで組んだまま落ち着いた声で話しかけてくる。

「おやめください」

「武器を向けられれば、我らも職務を果たさねばならない」

そう言いながら戦闘態勢に入らない2人組みに、どういう事だと剣を下ろす。

「あなた方は、帝都守備隊ですね?」

兜の面頬を上げたシルベスタ卿が前に出て、彼らに問いかける。

「如何にも。近衛騎士団帝都守備隊帝城護衛班所属でございます」

……長いな、所属が。

「我らの仕事は、外敵から帝都を守る事」

「殿下や殿下が招いた方々を害する事は仕事の内ではございません。もっとも、帝城内で戦闘が起きれば仲裁か、もしくは防衛に動かねばなりませんが」

片や淡々と、片やおどけた様子で語る2人の近衛騎士。兜越しでも、彼らの表情がわかる様な気がした。

「……我らはクリス殿下のご命令で、帝都に他国の軍を招き入れたフリッツ皇子を捕縛しに来ました。ご助力を」

「できません」

「フリッツ皇子は宰相補佐です。帝城の正式な職員である彼を、害する様な命令は聞けません。そういった命令が出せるのは、皇帝陛下のみです」

「クリス皇太子殿下の命令ですが」

「皇太子殿下と、皇帝陛下は違いますので」

シルベスタ卿が眉間に深い皺を作りながらそう言うが、彼らはさらりと受け流す。

「失礼。自分はストラトス子爵家の者です。発言の許可を」

「どうぞ」

彼らは爵位持ちと判断し、許可をもらってから話に加わる。

「オールダー王国との戦争で、フリッツ皇子は重大な裏切り行為を働いた可能性が高いのです。それにより、皇帝陛下も討ち死になされました」

「その通り。フリッツ皇子は帝国の敵です」

「そうですか。では、証拠は?」

「それは……」

物的証拠は、ない。全て状況証拠だ。

それだけでも十分に思えるが……。

「帝国の法に基づき、皇族の方を証拠なく裁く事はできません。というより、我ら近衛にそういった権限はございません」

「よって、『本来は』我らがどちらかの陣営に肩入れする事はないのです」

「───つまり、フリッツ兄上の味方でもないのだな?」

自分達の後ろから、クリス殿下が顔を出してくる。

「クリス殿下。よくぞご無事で」

「こうしてまたお会いできた事を、神に感謝いたします」

「そう言ってくれて嬉しいぞ。コープランド卿にジェラルド卿」

ニッコリと返した殿下に、2人組は一瞬肩を跳ねさせた。

「……我らが、わかるので?」

「何を言っているんだ?貴殿らには10歳の頃、城で迷子になっていた所を助けてもらったではないか」

あっさりとそう告げるクリス殿下に、2人の近衛騎士は片や天を仰ぎ、片や笑いを堪える様に肩を震わせた。

「……恐悦至極にございます」

「よもや、皇太子殿下に声と名前を憶えて頂いているとは。光栄にございます」

「うむ。では、ボクらは兄上を殴りにいかないといけない。そこを通してくれ」

抜け道から出た先であるここは、帝城の礼拝堂地下。隣にある居城───帝城の本体とも言える場所に向かうには、彼らの後ろにある扉を越えねばならない。

殿下の言葉に、彼らは互いに視線を向け合った後。

「実は最近、私は独り言が多くてですね」

ジェラルド卿が何か語り始め、コープランド卿が『自分は何も聞いていない』とでも言う様に扉の脇に移動して壁を眺めだした。

「帝都内に入ったモルステッド王国軍ですが、既に大半が帰国しました。フリッツ皇子がそう命令したらしいです。しかし、帝城にはまだ50人前後の王国軍兵士がいます。恐らく、騎士や貴族階級もいるかと」

「ほう……」

「彼らの馬は厩舎にて牧草を食っています。いやぁ、気性が激しい馬ばかりな上に、魔物の血混じりの個体ばかりで係りの者が泣いていましたよ」

「ふむ……」

「それと、素行も悪くメイド達や後宮にも手を出そうとする始末。いやぁ、毎日の様にフリッツ皇子が仲裁に動いていて、大変そうでしたなぁ。その度に、『シスター服を着た女』が彼の傍で笑っていましたっけ」

「……シスターではなく、シスター服を着た女?」

「色っぽい人だったなぁ。でも、スカートの下に暗器の類を隠していそうで近寄りがたかったなぁ」

あくまで独り言という体でいく気なのか、ジェラルド卿は殿下の頭上に視線を向けながら続ける。

「そうそう。色っぽいと言えば、最近モルステッドの奴らは城下町から娼婦を呼ぶようになったとか。いやはや、大変目に毒な光景だ。帝城を守る身としては、見知らぬ女性が増えては困るというのに」

「……見知らぬ女性が増えて、しかも出入りしている、か」

「もうこのむしゃくしゃは、酒を飲んで解消するしかない!コープランド卿、城下町に乗り出すので、付き合って下され!何なら『我らと仲の良い』近衛は全員で飲みにいきましょうぞ!」

「……そうだなー。さけをのむしかないなー」

「おお!普段は堅物クソ真面目なコープランド卿がまさかOKしてくれるとは!いやはや珍しい日もあったものだ!これは帝都で何か起きるかもしれない!街の隅々まで見てまわらねば!」

「そうだなー。みまわらないとなー」

「それにしても……即頷くなんて、もしかして溜まっていましたか?コープランド卿」

「殺す」

「うぇい!?」

剣帯から鞘を外し、ゆっくりと構えたコープランド卿。彼に睨みつけられジェラルド卿がわざとらしく狼狽える。

「これはいけない!すぐにここから逃げなければ!やや!そこにいるのは皇太子殿下!いやはや、あのお方がここにいらっしゃるはずがない!女性も多いし、きっとまたモルステッド王国が誰か呼んだのだ!だから無視していいな!おさらば!」

「失礼します。クリス殿下にそっくりな方。それはそうと、殺す」

「はーっはっはっはっは!捕まえてごらんなさぁい!……え、待って。演技ですよねコープランド卿。演技ですよね!?」

バタバタと騒がしく走っていくジェラルド卿達。更に遠くから『 海(・) と(・) 黄(・) 金(・) の(・) 酒(・) を飲みたいやつ、この手にとーまれ!』と叫ぶ陽気な近衛騎士の声が聞こえてくる。

数秒ほど、呆然とそれを見送った後。

「さあ、行こう。帝城の近衛騎士のうち、ボクの味方となってくれる者達は街に行ってくれた。つまり───」

自分とシルベスタ卿の背中を軽く叩いた後、クリス殿下は。

「帝城にいる武装した魔力持ちは、全て敵だ。討ち取れ」

今にも泣きそうな顔で、笑っていた。

「御意」

殿下の言葉に、シルベスタ卿が兜の面頬を下ろして剣を抜く。彼女の背後で、親衛隊全員が既に武器を構えていた。

「総員、気合を入れろ」

ケネスの言葉を受け、うちの兵士達も得物を構える。

「今回の作戦では、費用は全額クリス皇太子殿下もちだ。故に」

───ガシャン。

彼の手が動き、『ポンプアクション式ショットガン』の薬室に弾が装填される。

「オールウエポンズフリーってやつだ。……死神になれ、野郎ども」

銃剣を装着したライフルを構えたストラトス家の兵士達が、頷く。

「……殿下」

「ああ」

彼女もまた、剣を抜いて。

「進軍せよ!帝城を、奪還する!」

「応ッ!!」

帝城奪還戦が、幕を開けた。