作品タイトル不明
国境を越えよう!
ソニア王国への旅は、ハッキリ言って退屈だし、辛い。
マーガレット王女も馬車の中で話したりしないで、ほとんど寝ている。私もだけどね。
早朝に起つのも辛いけど、途中のトイレ休憩まで座っているのが一番辛い。
揺れない馬車、それに暖房付きでもこんなに辛いのなら、パーシバルはもっと寒くて辛いのではないかしら。
トイレ休憩の宿屋、昼食をとる貴族の館、宿泊する館でも、パーシバルと話せる時間が少ない。
それは、マーガレット王女も同じ不満を持っている。パリス王子と話す時間が少ないのだ!
でも、国内の旅程がハードなのは、王立学園が冬休みになるのを待って出発になったからなのも説明されているから、文句は言えない。
それに、冬の旅は天気が良い間に進めるだけ進む方が良いのだ。これまでは、雪がチラつく程度だったが、大雪の日は館に留まるしかないかもしれないからね。
ただ、大勢の旅なので、覚悟はしていたけど、お風呂に入れないのが辛い。
メアリーにお湯を運んで貰って身体を拭いているし、魔法で綺麗にはしているけどさ。
「お嬢様、ここら辺がケープコット伯爵領ですよ」
珍しくメアリーが発言した。マーガレット王女やシャーロット女官に遠慮して、無言だったのだ。マーガレット王女とシャーロット女官がうとうとしているので小声で教えてくれた。
「ああ、お母様はここでお育ちになったのね」
馬車の窓から外を眺めるけど、雪に覆われている。それに、冬場なので街中を歩く人の姿も見えない。
「春になるのが待ち遠しかったのでしょうね」
ペイシェンスは、王都育ちだから、こんな侘しい冬景色は、領地を得るまで知らなかった。
グレンジャー家は貧しくて、転生した時なんか暖炉の火もショボくて凍死するかと思ったけどね。
「ペイシェンスのお母様の実家なの?」
うとうとしていたマーガレット王女も会話に参加する。
「ええ、そうみたいです。私は、初めてですが、メアリーは母の実家からついて来たので……」
これもよくある話なので、不思議にも思わず受け入れられる。マーガレット王女が嫁入りする時は、ゾフィーがついて行くのかもね。
「今夜は、カッパフィールド侯爵の館で泊まります。お風呂も全員の分を用意して頂けます」
マーガレット王女も喜んでいるし、私も嬉しい!
自国の王女であるマーガレット王女には、お風呂は常に用意してあるのだけど、この一週間の旅で、私なんか一回だけだもの。
カレン王女は私よりは多そうだけど、毎晩とは言えないので、偶にマーガレット王女が譲ったりしていたみたい。
これは、ソニア王国に入ったら逆転しそうなんだよね。
「早めに到着して、お風呂に入り、夕食の後はゆっくりと話し合いの時間を取っています」
明日は、ソニア王国なのだ! 何だか彼方は、歓迎式典とかあるみたい。はぁぁ、面倒臭い予感!
それで、今夜は早めにカッパフィールド侯爵館で休息を取るのだ。
父親の敵認定だった老カッパフィールド侯爵は、亡くなっているけど、やはり少しもやっとしている。
「明日は、国境を越えたら、歓迎式典なので、朝からドレスアップして下さい。マーガレット王女は、パリス王子の婚約者としてのお披露目ですからね!」
ここまで、ローレンス王国の貴族には、新年までにソフィアに到着しなくてはいけないと、外務省と陛下からのお達しがあったので、昼も夜も簡単に終わらせてくれていた。
ここからは、パリス王子とマーガレット王女のお披露目も含まれている。
王妃様が、華美ではなく華やかに着飾るようにと言われていたエリアに突入だ。
「国境を越えたら、歓迎式典の後は、マードウィク辺境伯の館に泊まります。ここでは、近隣の貴族が招待されているので、気をつけて行動して下さい」
ただ、マーガレット王女には嬉しい一面もある。パリス王子と一緒に行動する場面が増えそうなのだ。
「ペイシェンス様は、マーガレット王女の側仕えとして、常にお側にいらして下さい。女官や侍女は、ソニア王国では裏方になりますから」
それは、パーシバルも同じだ! 外務省の下級官吏だからね。
「何か分からない事があれば、ベネッセ侯爵夫人の指示に従って下さいね」
いつもは、王宮で困ったらシャーロット女官に頼んでいたのに……少し不安だけど、マーガレット王女も他国に嫁ぐ意味がじわじわと心に染みてきたみたい。
「ふふふ、 天狼星(シリウス) が側にいますから、大丈夫ですよ」
シャーロット女官が、注意しそうになったけど、冗談だと分かったみたい。
「あっ、それと言い忘れていましたが、明日の歓迎式典ではペイシェンス様は 馬の王(メアラス) に乗られた方が良いと思います」
うっ、それって乗馬服だよね。つまり、朝から馬車ではなくて、 馬の王(メアラス) で移動って事?
「国境の手前から 馬の王(メアラス) に乗られたら良いだけです。式典の後は、馬車で辺境伯の館まで移動しましょう」
それって、私の乗馬が苦手なのがバレないようにする為かな?
「ワン!」『私も!』
旅の間、朝と晩にお腹いっぱい食べて、後は寝ているだけだもんね。
「ペイシェンス様?」とシャーロット女官が不安そう。
「 天狼星(シリウス) も外を走りたくなったみたいです。私が 馬の王(メアラス) に乗るからかもしれませんわ」
馬の王(メアラス) と 金の鬣(グルファクシ) も仲が良いとは言えないけど、 天狼星(シリウス) は天敵だからね。
「 天狼星(シリウス) 、 馬の王(メアラス) や 金の鬣(グルファクシ) を怯えさせたら駄目ですよ!」と言い聞かせておく。
「あのう……その 天狼星(シリウス) がドラゴンを討伐したとの噂を聞きましたが、本当でしょうか?」
シャーロット女官も、初めはビクビクと足を乗せていたけど、慣れたと思ったんだけどね。
「ええ、一緒に持ってきている冷凍馬車の中のドラゴン肉は、 天狼星(シリウス) が討伐した物ですわ。半分は、プレゼントしてくれたので屋敷に置いてありますけど」
ゲイツ様が討伐したドラゴン肉の半分は、先発でソフィアに送られている。後の残りの一部は、新年会で料理されるのだろう。
「ふぅ、ドラゴンが本当にいるのね」
マーガレット王女が溜息をつく。
「ええ、北の大陸に飛来しないと良いのですが……他の魔物も多くなっていますから、ソニア王国でも狩りが行われるそうですわ」
そこから、大袈裟すぎない褒め方の練習をして、笑いながら馬車の旅を続ける。
「マーガレット王女は、パリス王子なら上手く褒められますね!」
「ペイシェンスもパーシバルなら上手く褒められるのでは? これって、貴族の上下で褒め言葉も変えなければいけないのかしら?」
「マーガレット王女は、上の立場だから、そこまで気にしなくても良いのでは?」
王族だもんね! 私は、伯爵だから、上の爵位の人には丁寧な対応がマストだそうだ。
「ゲイツ様とか、どうされるのかしら?」
侯爵は、上級貴族だけど、上には公爵や王族がいる。でも、ゲイツ様って陛下以外には敬意を表していないんだよね。
「ベネッセ侯爵夫人が、この旅の間に躾けなおすと言われていましたわ」
王妃様とそんな話をしていたみたい。マーガレット王女が、悪戯っぽく笑う。
「それができたら安心ですわ」
「ドラゴンスレイヤーのゲイツ様が、多少の無礼な態度でも誰も諌める事はできませんよ」
シャーロット女官は、それよりハニートラップが心配だと小声で話す。
「ゲイツ様は独身ですし、婚約者もいらっしゃらないから……ドラゴンの脅威に怯える国にとって、願ってもない縁談ですわ」
「まさか、カレン王女との縁談では? キースとの縁談が進んでいると思っていましたわ」
「それは、無いでしょうが……彼方には、他にも……」
不愉快な噂を思い出しちゃった! カインズ公子の下には公女もいたよね?
マーガレット王女もパリス王子の妾腹の公子や公女の存在は知らされている。
今回の訪問では、顔合わせはしないし、愛妾も離宮に居る予定だ。
パリス王子とカレン王女の母君であるフローレンス王妃が、王宮の婚約披露パーティに出席されると言われているけど、欠席かもね。
身体の具合が悪いとか言われたら、ゴリ押しはできない。聖皇の妹だからさぁ、我儘なんだよ!
ただ、愛妾は絶対に参加させないようにと外務省が強く主張したそうだ。
パリス王子との縁談は、ソニア王国の王太子妃、いずれは王妃になるから成立しているのだ。
シャルル陛下が愛妾と仲良くしようが、それはローレンス王国とは関係ない!
ただ、それが通るかは不明だし、嫁いだ後は、愛妾が王妃のように振る舞っている王宮でマーガレット王女は生活するのだ。
国境近くにきて、覚悟が決まった顔になったマーガレット王女。私も 馬の王(メアラス) に上手く乗って、主だと示さなくてはね!
カッパフィールド侯爵への蟠りなんて、消えちゃったよ! お風呂に入って機嫌が良いからかもね。