作品タイトル不明
青葉祭のダンスパーティー
グリークラブの伴奏は、問題なく終わった。
マーガレット王女は、次期は音楽クラブの部長だし、リュミエラ王女もコーラスクラブの部長だから、グリークラブはこれで終わりにするみたい。
パリス王子が秋学期も留学するのか? それとも国に帰るのかは、未だわからない。あちらの国王陛下が何を考えているのかもわからないんだよね。
「今回の舞台にもあの階段が使われたのね」
伴奏の練習はしていたけど、前日はバタバタして舞台稽古も上の空だったからね。
去年の収穫祭で使った電飾階段を利用して、クライマックスを盛り上げた演出だった。
「ペイシェンス! 夏休みに領地の屋敷で少女歌劇団の練習をすることが決まったのだ。できれば、指導して欲しい」
やっと終わって、ドレスに着替えに行こうとした時、アルバート部長に捕まった。
ラフォーレ公爵家は、私には鬼門だよ。
パーシバルという婚約者がいるけど、近付くのは良くない。
「私が拝領した領地は、長年放置されていましたので、夏休みは管理をしたいと考えています」
つまり、ラフォーレ公爵家に行く余裕はないと伝えた。
「ペイシェンス! 急いでドレスに着替えないといけませんわ」
マーガレット王女とリュミエラ王女に急がされたので、アルバートもそれ以上は要求しなかったが、何だか暗雲が立ち込めている感じがする。
ラフォーレ公爵家には行かない。それに、それを強要されたくないのだけど……今年の夏の離宮にも近づきたくないんだよね。
だって、煌びやかな他国の王族が揃っているんだもの。
そんなことを考えながらも、ドレスに着替えたり、髪をセットしたり、わいわい忙しい。
「ペイシェンス、この髪飾りをつけて欲しいのです」
マーガレット王女は、音楽クラブの新曲発表会やグリークラブの発表会の時は、いつもよりはゴージャスな片流しだったけど、ダンスパーティーは、全てアップにする。
それに、髪飾りは小さな輝くティアラだ。もちろん、社交界デビューで付けるような正式な王女のティアラではないけど、細くて華奢なデザインが可愛い。
「まぁ、マーガレット様! とても素敵ですわ!」
お洒落なエリザベスが絶賛している。
本当は、ドレスももっと装飾を増やしたかったみたいだけど、私的にはこちらの方がスッキリしてて良いと思う。
「ペイシェンス、私の髪も結い直して下さる?」
リュミエラ王女もアップにしたいみたい。
こちらは、ティアラではなく、繊細な金属の花模様の髪飾りだ。やはり、リチャード王子が来られないから、少し寂しそう。
他の学友達の髪もセットして、自分も着替えて、髪を整える。今日は、片流しにして、ドレスと共の布の髪飾りを付ける。
「ペイシェンスのドレス! 素敵だわ。夏に領地に着ていくドレスが間に合うかしら?」
エリザベスは上得意様だね。
「ええ、青葉祭が終わったら、仮縫いにいらして下さい」
マーガレット王女も家に遊びに来たいみたいだけど、今はパリス王子との縁談が進んでいるので、身を慎んでいるみたい。
「そろそろダンスパーティーの会場に行きましょう!」
本当なら、婚約者のパーシバルにエスコートして欲しい。でも、今回は学生会長だし、裁縫教室の前に来させるのはちょっとね。
未だ、パーシバルに未練がある女学生もいるようだし、いらぬ波風は立てたくない。
何人かは、裁縫教室の前で、ダンスのパートナーをエスコートしようと待っている男子学生もいた。
リュミエラ王女は、少しだけリチャード王子が参加できないか期待していたのだけど、青葉祭は学生だけだからね。リチャード王子は、そういう所は規則を守るタイプだもん。
「パリス様は、エスコートに来られないのですか?」
リュミエラ王女がマーガレット王女に自分に遠慮したのか、心配そうに小声で尋ねる。
「未だ、正式に発表されていないから、目立つことは控えているの」
リュミエラ王女とリチャード王子も正式な発表は、今年の社交界デビューの席でされる。でも、これはもう決まっているからね。
マーガレット王女とパリス王子の縁談は、未だ二国間であれこれ話し合っている最中だ。それに、キース王子とカレン王女の縁談もあるから、外務省は大騒ぎしているみたい。
何故なら、夏休みには領地に帰られるモラン伯爵が、今年は行けないかも知れないと言われていたからだ。
これは、少し困っている。未婚の私とパーシバルは、保護者がいないと同じ屋敷で泊まれない。モラン伯爵夫人だけ領地に来るなんて、考えられないからね。
うちの父親を少しの間でも書斎から連れ出して、ハープシャーかグレンジャーに滞在して貰えれば、パーシバルと夏休みを一緒に過ごせるのだけど……頑張ろう!
今年は、ノースコートはお客様でいっぱいだろう。父親も、カザリア帝国の遺跡には興味があるだろうから、ハープシャーかグレンジャーから遺跡見学に通えば良いんじゃないかな? ああっ、ナシウスが歴史研究クラブの合宿をするかも?
そんなことを考えているのは、パーシバルが学生会長で忙しそうで、私はダンスの相手がいないからだ。
ちょっと寂しいけど、パーシバルの挨拶は格好良かったし、あらら、こちらにやってくる!
「ペイシェンス! 私と踊って下さい」
わぁ、やはりパーシバルは動作が決まるね!
「ええ、でも良いのですか?」
学生会長として、忙しいのでは? と一応は遠慮する。それに、女学生の視線が痛い。
「もう、ダンスパーティーは始まったのです。学生会も後は、終わりの時間まで各自楽しみますよ」
スマートにエスコートされて、ダンスを始める。
「ペイシェンスもお疲れ様でしたね」
今年の青葉祭、ほとんどパーシバルと一緒には居られなかった。お互いに忙しかったからね。
「私より、パーシー様の方がお疲れなのでは?」
午後から手伝いに来た騎士クラブのメンバーから、試合の優勝者に優勝カップを渡すだけな筈だったのに、模擬試合を申し込まれたと聞いたよ。
パーシバルは、制服のまま、圧勝だったみたい。
「ああ、もうペイシェンスの耳にも入ったのですか? あれは、ちょっと失敗したと反省しているのです」
パーシバルは、自分は騎士クラブを辞めたのだからと、渋ったみたい。でも、熱烈に請われて、模擬試合をしたんだってさ。
「上手く、引き分けにしようとしたのですが、相手が強くて、つい……」
色気のない話だけど、話せるだけ嬉しい。だって、この数日は本当に話す時間もなかったんだもの。
「青葉祭が終わったら、一度、領地に行きたいですわ」
保護者が居ないと、パーシバルはモラン伯爵領に泊まるしかない。ノースコートは、夏休みほどではないけど、もうお客様が多いからね。
「馬を何頭か購入しようと考えているのです」
あっ、 馬の王(メアラス) のお嫁さんかな? この話は、少しペイシェンス的には恥ずかしい気がするけど、仔馬は見たい。
本当は、ハープシャーで牧場を作れば良いのだけど、未だ領地の警備はお粗末なんだ。
モラン伯爵家で仔馬を育てた方が安心なんだよね。
「ペイシェンスも、何頭か買いませんか?」
ううん? それは、悩むなぁ! いずれは、退団したいと考えている騎士を紹介してもらう予定だし、 馬の王(メアラス) の仔馬は欲しい。
今年は、無理かなぁと思っていたけど、パーシバルは一緒にモラン伯爵領で育てれば良いと提案してきた。
やはり、パーシバルは、騎士関係が萌ポイントだよ。
それにしても、今年の夏休みは、パーシバルも領地に行けるか、分からないみたい。
「父から何か命じられるかもしれません」
去年もデーン王国にオーディン王子を出迎えに行ったもんね。
「私は、ペイシェンスの側にいたいのですが……」
「私もパーシー様と夏休みを過ごしたいですわ」
やっと、いちゃいちゃモード! 二人で、夏休みの計画を話しながらダンスをする。