軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

青葉祭前日のどたばた

青葉祭の前日、いつもなら音楽クラブの練習やグリークラブの伴奏練習だけど、今年は少しどたばたしそう。

何故なら、錬金術クラブの熱気球が思いがけない程の評判になったからだ。

「マーガレット様、音楽クラブの練習はパスさせて下さい」

新曲発表会、中等科二年の私は午後からなのだけど、無理を言って午前中にしてもらっている。

「まぁ、ペイシェンスなら練習しなくても大丈夫でしょう。でも、グリークラブの伴奏は参加しないとダメよ」

「ええ、その時間は講堂に行きますわ」

今年は、グリークラブは最後なので、三時ごろからの練習だ。なんとか、午前中と国王陛下御夫妻が来られる午後一の気球の当番はできそう。

本来は、保護者だけなのに、今年は他の上級貴族も熱気球に乗りたいと申し出があって、カエサル部長にもできるだけ、こちらにきて欲しいと言われている。

校舎から離れた運動場に熱気球を三機設置している。

「おお、ペイシェンス! 来てくれたのか!」

カエサル部長に熱烈歓迎されたよ。何だか嫌な予感。

「三時には講堂に行かなくてはいけません」

先ず、言っておかなきゃね。

「グリークラブの伴奏練習なんか、ペイシェンスじゃなくてもできるだろう」

ベンジャミンが横から文句を言う。

「私は、ハノンは得意ですが、リュートは下手なのです。だから、練習には参加しないといけません」

今年は、楽曲も提供していないし、このくらいは協力しないといけない雰囲気なんだよ。

「下手なら、他の人に任せたら良いのに……」

確かに、ベンジャミンとかカエサルの方が私よりリュートは上手そうなんだよね。絶対に手伝ってはくれそうにないけどさ。

「それより、何か変更があったのですか?」

カエサル部長が肩を竦める。

「青葉祭にも保護者が来るけど、前日に陛下が来られることを知った人が押しかけて来そうなのだ。だから、熱気球だけでなく、綿菓子でもてなしたらどうかと思っているのだが……」

確かに、上級貴族がいっぱい来たら、待ち時間が長くなる。ぼぉっと立って待たせておくのは、まずいかも?

「去年のガーデンチェアーとガーデンテーブルを運ばせている。立ったまま綿菓子を食べて貰うわけにもいかないだろう」

綿菓子は、他の錬金術クラブメンバーでも作る事はできるけど、私よりは時間がかかったり、不恰好になる。

「では、私は綿菓子を作れば良いのですね」

綿菓子作りは、料理クラブの女学生達と何回も作ったから慣れている。

「ああ、それと国王陛下御夫妻の接待を頼みたい。ペイシェンスは、夏の離宮に招待されていたから、慣れているだろう」

「ええっ、公爵家の嫡男であるカエサル部長の方が接待役に相応しいのでは?」

カエサル部長は、こういった社交が苦手なんだと逃げられた。

「ペイシェンスは、この秋に社交界デビューなんだろう。慣れておいた方が良い」

それは、カエサル部長もだと思うよ。

「カエサル様も、今年は社交界にデビューだと公爵様に聞きましたよ」

ベンジャミンが余計なことを話したみたい。カエサル部長が苦虫を噛んだ様な顔になった。

「ベンジャミンも来年は社交界デビューだ。他人事ではないぞ」

凄く二人とも嫌そうな顔だ。

「カエサル部長、ベンジャミン様、男の方はドレスとか着なくても良いから、そんなに面倒くさくないでしょう?」

あっ、アーサーが笑っている。こちらは、上に兄上がいるからよく知っているのかな?

「ペイシェンスは、もう婚約者がいるから、社交界デビューといっても、王宮での舞踏会に出る。後は、親戚や知り合いのパーティーに招待されるだけだ。だが、カエサル部長やベンジャミンは、狙われているからな」

ああ、そうか! バーンズ公爵家の嫡男、侯爵家の嫡男だもんね。

「爵位目当ての令嬢など御免だ! それに、私はロマノ大学は八年は行きたいから、婚約者は当分必要ない」

「えっ、八年?」

「できれば、十年でも良いが、同じ学科には八年しか在学できないのだ」

ああ、前世の大学でも在留期限が決まっている所もあったね。

「別に大学生でも婚約できるし、結婚もできるでしょう」

アーサーのコメントに、カエサル様が眉を顰める。

「大体、ペイシェンスがパーシバルと婚約するから、今年は令嬢達の本気度が増したのだ。彼がいれば、もしかしたらと夢を見ていられたのに」

そんなの知らないよ!

そんな馬鹿話をしている場合ではなかった。熱気球に温かい空気を入れたり、ガーデンチェアーを設置したり、綿菓子を作る準備をする。

「学生会から頼まれて、お手伝いに来ました」

騎士クラブの初等科三年生と学生会の一部とボランティアが十数人来てくれた。

「先ずは、乗ってもらおう!」

錬金術クラブの新メンバーと共に試乗だ。ナシウスは生憎と歴史クラブの展示の用意でここにはいないけど、夏休みに乗っているし、青葉祭の間に乗る機会はありそう。

「わぁ! 空を飛んでいる!」

上がった熱気球から、歓声が挙がるけど、言うほどは高くない。せいぜい、王都の一部が見える程度だ。

「王宮の許可が出て良かったですね」

学園長は、王宮を見下ろすのは云々と文句を言っていたけど、陛下から許可が出たのだ。

とはいえ、何回も飛ばしたいので、夏休みの時よりは高度は低い。

錬金術クラブのメンバーが一人は乗るから、大体四人ずつ乗せる。

本当は体重で決めたいけど、それはちょっと失礼になるから、四人にしたんだ。

「やはり、皮を染めて良かったですわ」

夏休みの熱気球は、巨大毒蛙の皮のままだったから、クリーム色に薄い緑色の斑があった。

今回は、黄色、緑色、青色、赤色を組み合わせて、赤色中心のと青色中心のと緑色中心の三機だ。

空に上がった熱気球、見ているだけでテンションが上がる。

「ふむ、あのガーデンテーブルから見れる様にしたら良いな。それと、やはりバーナーの音がうるさいから、少し離した方が良さそうだ」

待って貰う間のガーデンテーブルとチェアー、確かに今のままよりも、少し離した方が熱気球を見やすいかも?

「ベンジャミン、ブライス、テーブルを動かしてくれ!」

他のメンバー達もテーブルを動かして、チェアーに座って熱気球が見やすいかチェックする。

「少し離れた方がうるさくないし、首も痛くないですね」

クラリッサと私は、綿菓子の機械もこちらに移動させる。

後は、予約表のチェックと試乗券を渡すテーブルを設置して、準備できた。

「そろそろ、来られるかもな」

国王陛下御夫妻は、午後一の予約だけど、他の保護者は午前中からも多い。

「予約の方が優先だけど、遅れて来られる保護者もいるだろう。ある程度は、臨機応変にやって欲しい」

それに、熱気球を眺めるのも楽しそうだ。

何人かの保護者が来て、熱気球に乗る。ご婦人は、見てから「やはり怖いです」とキャンセルする人もいたが、ガーデンチェアーに座って綿菓子を食べたり、楽しそうだ。

昼は、交代で食べるけど、国王御夫妻が来られるまでは、中等科の学生は食べずに待機することになった。

「ペイシェンス、大丈夫か?」

カエサル部長に気を使って貰ったけど、朝にたっぷり食べたから、少しぐらい遅くなっても大丈夫だよ。私って食い意地が張っている様に思われているのかな?

「大丈夫ですが……国王御夫妻以外の方も多そうですね」

そうなんだよね! 国王御夫妻は、王女、王子の保護者だけど、その側近というか上級貴族もゾロゾロとお供してくる。

「一応、十二時から一時までは、予約を入れていないが、もしかしたら押すかもしれない」

ただ、押しても、その後の予約の保護者も文句は言いそうにないのが助かるよ。

国王御夫妻が来られた。その前に熱気球に試乗した保護者は残って、挨拶しているが……あまりの大人数なので、ガーデンチェアーを空けると帰っていった。

「この人数を一時間で捌けるかしら?」

私とクラリッサは、コソッと心配していたが、カエサル部長は丁寧に国王御夫妻に挨拶している。やはり、筆頭公爵家だけあって、こんな時は頼りになるね。

「おお、カエサル! これは素晴らしいな!」

国王陛下も目を熱気球から離さないみたい。

「では、早速ですがお試乗されますか?」

国王陛下とその側近を乗せて、熱気球が上がる。

「まぁ、本当に空を飛ぶのですね!」

王妃様は、ガーデンチェアーに座って、国王陛下が乗った熱気球を眺めておられる。

「王妃様は、試乗されないのですか?」

国王御夫妻だから、一緒に乗られるのだと思っていた。

「私は高い所は苦手なのです。それに、乗りたい方がいっぱいいらっしゃるから」

ふうん? 王妃様にも苦手な物があるんだね。それか、人前で狼狽える姿を見せない様に気を使ったのかも。

「青葉祭では、料理クラブと協力して綿菓子を販売するのです。ご試食されますか?」

王妃様のお付きの貴婦人方や女官も、熱気球に試乗するのには及び腰だけど、綿菓子の試食は嬉しそうに頷く。

「ええ、マーガレットから聞いています。雲の様に溶けるとか」

私とクラリッサとで、王妃様方の綿菓子を作る。

「まぁ、本当に雲を食べているみたいですわ。それに、色によって微妙に味が変わりますのね」

これは、料理クラブと頑張ったんだよ。青にはりんご、黄色にはレモン、赤にはいちご、紫は葡萄!

そうこうするうちに、国王陛下達が降りてきて、綿菓子を堪能してから帰っていった。やれやれ。

「ペイシェンス、もうすぐ三時だぞ!」

他の上級貴族の試乗や綿菓子の接待に追われていたけど、ベンジャミンが教えてくれた。本当に、タイムスケジュールを覚えて行動するの難しいね。

「では、私はここで失礼いたします」

なんて、講堂に向かおうとしたら、丁度、ナシウスがやってきた。

「お姉様、お疲れ様です」

「ナシウスは、もう歴史研究クラブは良いのですか?」

「ええ、もう展示は終わりました。明日は、二時間の当番の時は歴史研究クラブの展示会場にいますが、他の時間はこちらに詰めます」

ふぅ、私は明日は忙しい。午前中に音楽クラブ、そして三時からはグリークラブの伴奏だ。

「昼前から三時まではここに来たいです」

そう、カエサル部長に告げて、講堂に急いだ。