軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

熱気球を飛ばす青葉祭の準備

建築家のラドリー様から、ハープシャー館の補修工事が終わり、グレンジャー館の方をしていると手紙が届いた。

管理人からも春になったので、葡萄畑を任せているサムが新しい苗木を植えたり、今ある木の手入れをしているが、何人か雇いたいと伝えてきた。

寮の夕食後、少しの時間しか取れないけど、パーシバルと話し合う。

「ペイシェンス、領地の方は順調そうですね」

手紙を見せたパーシバルがホッとした様子だ。

「ええ、ライトマン教授と学生達が水路と道路の整備もしてくれていますし、教会の屋根や孤児院の補修もやってくれたみたいです。それに温室でメロンとスイカも作ってくれているそうですわ」

温室は、ゲイツ様も協力して作ったものの、その後は領地に行く時間が取れず、管理人に丸投げ状態なのだ。

「メロンもスイカも、少し成長を促さないと美味しい実がならないかも。青葉祭が終わったら、一度、領地に行きたいですわ」

私も青葉祭の準備が忙しいけど、パーシバルは学生会長なのだから、もっと忙しい筈。だから、隙間を見つけては、こうして貴重な二人の時間を取っている。

「ハープシャー館も見てみたいですし、グレンジャー館は設計図だけで決めてしまったから、ラドリー様は信頼していますが、やはり実際に見ないと不安です」

ハープシャー館は、これからワインの生産地として、買い付けに来る商人や貴族をもてなす事が出来るように、少し瀟洒なフランスのシャトー風になっている。

無骨な石造りではなく、その上に白の漆喰壁で飾り、屋根もブルーグレーのスレートで、私的にはお城っぽい感じに仕上がってて、ここに住むのかと戸惑うぐらいなのだ。

「ハープシャー館は、とても綺麗なシャトーになりましたね。ペイシェンスの居城に相応しいですよ」

パーシバルは、産まれながらの貴族だから、お城に住むのに違和感は無いみたい。

確かに、モラン館もお城だけど、昔からの防御拠点っぽさが残っているんだよね。

それは、ノースコート館もだけどさ。サティスフォード子爵館は、どちらかというと、私のハープシャー館寄りかな。こちらも、港に来る貴族を接待する機能重視だよね。

ラドリー様の提案で、グレンジャー館は、ほぼ建て直しする事になった。ご先祖様の館だけど、本当に長年放置されていたし、機能面も駄目駄目だからね。

「海辺を活かした館にしたいですね」

グレンジャーの鄙びた漁師町には、貝殻を焼いた白の塗装がされている家が多い。普通の庶民の家って、木造か石造りだけど、海風から護る為に身近な廃物利用をしているみたい。

ラドリー様は、それを取り入れて海に近い館を演出したいと言われていた。

私も、ハープシャー館の瀟洒な感じとは違う、海辺のリゾート風が良いなと思っていたので、お任せしたんだけど、実際は見ていないから、早く行きたいんだよね。

「青葉祭が終わったら、春学期の試験勉強をしなくてはいけませんが、一度は領地に行きたいのです」

その為に、青葉祭の準備と並行して、ディベートやレポートの下調べもしている。

「今回は、ペイシェンスと違うチームになりましたから、私も負けませんよ!」

うっ、パーシバルとフィリップスと違う赤チームになったから、協力して資料集めできないんだよ。

「ラッセルやアルーシュ様やザッシュと一緒ですが、あまり仲良くしないで下さいね」

あれっ、珍しく嫉妬っぽい言葉! なんだか、少しいちゃいちゃモードになったけど、ここは寮の食堂、あまり長居はできないし、周りにはパーシバルの信奉者の騎士クラブのメンバーもウロウロしている。

「ほら、ちょっと聞いてみろよ!」

知らない間に、肉壁に囲まれていた。パーシバルは、こんな事は許さない。

「何か用なのか? はっきりと言いたまえ!」

叱られても頬を染めている肉壁達。少し不気味だけど、それだけパーシバルに憧れているのだろう。

うっ、前世のBLのガチムチは趣味じゃなかったから、読んで無かったけど、友だちの一人がそちらが好みで一、二冊は……消去! 消去!

「あのう、パーシバル様は騎士クラブを退部されていますが、昨年の青葉祭の優勝者でもあります。前年の優勝者との模擬試合、そして優勝カップの授与をお願いしたいのです」

ああ、頬を染めても、私の好みからは遠いよ。

「それは聞いているが、青葉祭の最中は忙しいからとラズモンド部長にも断った筈だ」

普通の優勝者は、ロマノ大学に進学しているか騎士団に属しているだろうけど、一日ぐらいは融通して出席しているのだろうね。

騎士クラブの騒動は覚えているよ。キース王子を煽って、乗馬クラブや魔法クラブをこき使おうとしたハモンド部長。今は、確かパーシバルと同学年のラズモンド・サセックスが部長の筈。

「でも……」

頬を染めて身体をくねくねされてもパーシバルも気持ちは動かないし、私の目にも嬉しくない。

「皆、無茶を言うのではない!」

おっ、キース王子も食堂に残っていたのか、こちらの騒動に気づいて注意してくれた。

「でも、せめて優勝カップの授与ぐらいは……」

パーシバルも本当は学生会よりは、騎士クラブに居たかったんだろうね。かなり、折れてきているのが横にいてわかる。ふふふん、婚約者だからね! ポーカーフェイスだけど、少し分かるんだよ!

「パーシバル、騎士クラブのメンバーを学生会に協力させるとラズモンド部長から聞いている。勿論、協力するのにやぶさかでは無いが、優勝カップの授与は、伝統ある行為だし、そちらも協力願えると嬉しい」

はぁ、これって錬金術クラブの熱気球の地上部分の人員整理の為に協力して貰うんだったよね。

つまり、私のクラブの為にパーシバルが……なんか、凄くむずむずしちゃう。

「仕方ありませんね。しかし、その分のお手伝いをしっかりとして頂きますよ」

おー! と野太い歓声があがった。

肉壁から解放され、寮の階段まで送って貰いながら、私はパーシバルに謝る。

「パーシー様、錬金術クラブの為に騎士クラブの優勝カップ授与とか引き受けさせてしまって……」

言っているそばから、パーシバルがクスクス笑う。

「ペイシェンス、私は、文官コースに転科しても騎士クラブに属していたいと思っていたぐらいです。学生会長になって、嫌々退部したのですよ。勿論、青葉祭は成功させたいですが、本音は騎士クラブの試合に出たいのです」

つまり、この提案は渡りに船なんだね。

優勝カップの授与をするので、少なくとも決勝戦から見学できると、パーシバルは笑う。

この申し出のお陰か、騎士クラブメンバーが熱気球の試乗の手伝いを、本当に熱心にしてくれて、凄く助かった。