軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

虎の尾

聖女とは何か?

あの乙女ゲーをやりこんだレリアの答えは――。

「どうして、頭お花畑の人間兵器の一作目の主人公がここにいるのよ」

――だった。

物陰に隠れ、壁を背にしてそのまま座り込む。

「もしかして、婚約者って主人公だったの?」

一作目の主人公。

その姿を確認したレリアは、本当に恐れていた。

理由は、一作目の主人公が聖女だから。

そして、凶悪とも言える飛行船を操るためである。

あの乙女ゲーの中で、一作目の主人公は大きな存在だった。

三作目に登場した際は、三作目の主人公を助けてくれる。

その際、とても頼りになる存在として描かれていた。

ただ、プレイヤーの評価は酷い。

何しろ、主人公を差し置いて「一作目の主人公は最強」だったのだから。

「無理。勝てるわけがない。あんなのにセルジュがどうやって戦いを挑むのよ」

『おや、どうしました?』

「ひっ!」

座り込んでいたレリアに声をかけたのは――イデアルだった。

物陰に隠れ、マリエたちの様子をうかがっている。

『ふむ、どうやら逃げ支度のようですね』

レリアはイデアルを見上げると、周囲には何やらポール状のロボットたちが浮かんでいた。

「こいつらは何?」

『ジャミング装置だと思ってください。ルクシオンがいるので、こちらも警戒しているのですよ』

「――やっぱり、あいつら強いの?」

『はい。旧人類の文明末期に建造された移民船ですからね。色々と積み込んでいるようです。ですが、ご安心ください。私も負けていませんよ。輸送艦でも軍艦ですので』

レリアは俯いて膝に顔を埋めた。

『何か心配事でも?』

「あの女――薄い茶髪の女がいるわよね?」

『亜麻色の髪をした女性ですか? ふむ、情報ではオリヴィアという女性ですね。バルトファルト伯爵の婚約者だという話です』

「実はさ――」

レリアは淡々とイデアルに事情を話すのだった。

オリヴィア――リビアがいかに規格外であるのか、を。

それを聞いたイデアルの反応は――。

『なんと! それは一大事ですね』

「本当よ。あの外道の婚約者なんて信じられない。いったいどんな手を使ったのよ」

『ルクシオンがいますからね。方法はいくらでも考えられますが――洗脳、あるいはゲーム知識を利用したのかもしれませんよ』

レリアは、リビアが持つ能力を知っていた。

何しろ、マリエと違ってあの乙女ゲーの一作目をクリアしたのだから。

「あいつと王家の船がセットになると危険よ。セルジュだって勝てるかどうか分からないわ。チートやインチキみたいな存在なのよ」

『港に白い飛行船が来ているという情報がありましたね』

レリアの肩がビクリと震えた。

『――大丈夫ですよ、レリアさん。これから説得してみましょう』

「説得? 出来るの?」

『はい。私が隙を作りますので、お手伝いしていただけますか?』

レリアは立ち上がると、物陰からリオンたちを覗く。

「何でも良いわ。あの女だけは要注意人物だから注意しないと」

マリエの屋敷を後にした俺たちは、アルバイト先に出向いていた。

急に辞めることになったので、挨拶だけはしておこうと思ったのだ。

「はぁ、気が重いな」

ルクシオンが俺の右肩辺りに浮かび、周囲を警戒している。

リビアは俺の手を握っていた。

「リビア、俺はこの店で事情を話してくるから、外で待っていて貰えるか? すぐに終わるだろうから」

準備中で慌ただしい店の中だ。

リビアを連れて入れば迷惑だろう。

店長、怒っているかな?

「は、はい」

リビアの視線は俺とルクシオンを交互に見ている。

「――ルクシオン、リビアを頼むぞ」

『お任せください。それよりも、店長を怒らせないようにしてくださいね』

「分かっているよ」

俺は店へと入るのだった。

店内では、店主が腕組みをしていた。

「馬鹿野郎。心配かけやがって!」

「――申し訳ない」

事情を説明したが、国に帰るとしか伝えなかった。

詳しい内容は伝えるべきではないと思ったからだ。

ジャンが俺を見ている。

「はくしゃ――リオンさん、大丈夫なんですか?」

「あぁ、大丈夫。国に戻るだけだから」

店主が俺に土産を渡してくる。

「持って行け。それにしても、ノエルちゃんも抜けるのは痛いな」

俺は抜けても良いの? なんて、言える雰囲気でもなかった。

少し前まで一緒に働いていたというのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう?

店主が俺を見て、

「お前、鈍いから気付かなかっただろうが、あの子はお前に気があったんだぞ」

「え? ジャンと仲がよかったじゃないですか」

俺はてっきり、ジャンと仲良くしていると思ったのだが――。

「え、えっと、僕には故郷に幼馴染みがいまして、その――結婚の約束もしています」

「え、そうなの?」

驚いていると、店主が店の外で待っているリビアを見た。

「お前の方も彼女がいるみたいだけどな。まったく、あの子には幸せになって欲しいぜ」

苦笑いしつつも、俺は店を出ていくのだった。

夜。

港に戻った俺は、アインホルンでリビアと話をしていた。

「ルクシオンが裏切る?」

「あ、あり得ないですよね?」

甲板で手すりを背にして俺は手をひらひらとさせた。

「ないって。あいつ、見た目や言動よりも義理堅い奴だよ。俺はクレアーレの方を警戒した方が良いと思うけどね」

――俺はあいつのせいでメイド長に怒られたからな。

「私もあり得ないとは思うんです。けど、どうしても気になって仕方がないんです」

下を向いているリビアの肩に手を触れる。

「大丈夫。あいつは裏切らないよ」

裏切ったら俺たちはこの場にいないというか、死んでいると思うし。

そう思うとあいつらやっぱり危険だよな。

少し緩い感じの人工知能で本当によかった。

ガチの人工知能だったら裏切られていた気がする。

あの乙女ゲーのふわふわした設定万歳!

「そう、ですよね」

リビアは俺の言葉に安心したのか、リコルヌに戻ろうとするのだった。

「送っていこうか?」

「すぐ隣じゃないですか。大丈夫ですよ」

タラップを降りていくリビアを見送ると、俺に笑顔で手を振っていた。

リオンと別れたリビアは、アインホルンの隣に停泊しているリコルヌへと歩いていた。

「そうだよね。きっと大丈夫だよね」

生々しい夢だったが、リオンがいればきっと大丈夫だと思って背伸びをする。

すると、船の影から声が聞こえてくる。

『――何をしに来たのですか?』

『冷たいですね。我々は同志ではないですか』

声の主はルクシオンと――知らない誰かだ。

気になって覗いてみると、ルクシオンと同じ球体が浮かんでいた。

一方は青い球体で、周囲にポール状のロボットたちを浮かべている。

「あれがイデアル君?」

気になって様子を見ていると、ポール状のロボットたちがルクシオンを囲んでいた。だが、攻撃しているようには見えない。

イデアルはルクシオンを誘っているようだ。

『このまま何もしないつもりですか? 貴方の目的を達成するため都合が良いのは、今のマスターではないはずだ』

イデアルの言葉に、リビアは驚いて自分の口を手で押さえた。

(もしかして、夢に出たルク君の言っていた仲間って――)

『私のマスターを襲撃しておいて、今度は勧誘ですか?』

ルクシオンは不機嫌そうな声を出している。

だが、イデアルは嬉しそうだ。

『私も貴方も目的があるはずだ。その理想のために――いえ、理想郷を実現するために今が最善だと言えるのですか?』

理想? 最善?

話を聞いていると、後ろから人が近付いてきていた。

「ねぇ、少し良いかしら?」

振り返ると、そこに立っていたのはツインテール姿のノエル――ではなかった。

一瞬だけノエルと勘違いするも、すぐに他人と気が付きリビアは警戒する。

「貴方、一体誰ですか?」

ノエルらしき人物は、よく似ているが偽物だった。

似ている人物が舌打ちをした。

「何だ、すぐに見破られちゃった。ついてきてくれたら楽だったのに」

ノエルらしき人物の後ろから、ロボットたちが出てきてリビアを囲むのだった。

「え? この子たちは?」

ルクシオンが用意したロボットと形状が違っており、どうにも無骨な印象がある。

それらに囲まれたリビアは、近付いてきた女子に手を触れられた。

右手で左胸を鷲掴みにされ、痛くて顔を歪めると――。

「何なの、この無駄に大きな胸は? これであいつに気に入られたのね」

「触らないで!」

振り解こうとすると、バチリと音が鳴りリビアは動けなくなった。

倒れそうになると、ロボットたちがリビアを担ぐ。

急にアラートが鳴り響くと、アインホルンやリコルヌからロボットたちが出てきた。

「ちっ! 見つかったじゃない!」

女子が走ると、リビアを担いだロボットたちが後に続く。

追いかけてくる味方のロボットたちだったが――空から降りてきたギーアにより破壊された。

『お前、何してんだよ』

「き、気付かれちゃったのよ!」

リビアは意識が遠のく中――。

(私をさらいに来たの? どうして私を――)

――そう、心の中で呟くのだった。

アラートが鳴ると、ルクシオンがイデアルから視線を外した。

『――まさか』

その瞬間、イデアルは空に浮かぶと笑いはじめる。

『間抜けですね、ルクシオン。ジャミングに気が付かないなんて、同じ人工知能として恥ずかしい。いや――これが私と貴方の実力差ですね。やはり貴方は脅威に値しない』

ルクシオンはすぐにリビアを助けようとするが、動けなかった。

周囲にエネルギーキューブが展開されており、閉じ込められて身動きが取れない。

青白い半透明の立方体に囲まれるルクシオン。

『補給艦にこれほどの性能はないはず。イデアル――戦艦を取り込みましたね』

見上げると、夜空に出現したのはイデアル本体だった。

光学迷彩で隠れていたようだ。

そんなイデアル本体に、リビアを抱えた鎧が向かっている。

鎧にしがみついているレリアの姿も確認した。

『どうしてここまでするのですか? 忠告します。すぐにオリヴィアを解放しなければ、大変なことになりますよ。私と貴方が戦うということは――』

だが、イデアルは忠告を笑っていた。

『――とんでもない被害が出る。ですが、それがどうしたというのですか? さて、とらわれの姫を救うために、貴方と貴方のマスターが来るのを待ちましょう』

周囲に展開されたエネルギーキューブから解放されると、アインホルンの甲板からリオンが飛び降りてくる。

手には武器を持っており、足止め用のドローンと戦っていたのがうかがえた。

リオンは空を見上げていた。

「追いつけるか?」

ルクシオンは去って行くイデアル本体を見ながら、

『追いつくことは可能ですが――』

「取り返すのは無理、か」

ルクシオンはリオンの顔を見る。

普段と変わらないが、どこか表情が違うその顔は――明らかに激怒していた。

『申し訳ありません、マスター』

ルクシオンは自分の失態にリオンがどんな反応をするのか見ていた。

「――それよりも、あいつらはリビアをどうするつもりだ?」

『オリヴィアの社会的な重要度は低いです。精々マスターの婚約者という立場ですので、人質にするならアンジェリカを優先すると思われます。ただ、レリアがいるため――』

ゲーム的な理由でリビアを攫ったのではないか?

それを聞いたリオンは――。

「――やってくれたな」

――そう言って、静かに空を見上げていた。

アインホルンの船内。

部屋から枕を持って出てきたマリエは、寝間着姿だった。

「一体何なのよ。今日は引っ越しの作業で疲れているから寝かせてよ」

野郎五人に熱い誘いを受けたが、かわして一人でゆっくり眠るはずだったのだ。

枕を抱きしめ、寝癖のついた髪のまま廊下に出ると――。

「お前よりも情報収集能力が高いのは分かった。他は?」

『情報が少ないので判断できませんが、イデアルの余裕から戦艦に積み込む兵器を取り込んでいる可能性が高いかと』

「他には?」

――ルクシオンを連れたリオンが、マリエを無視して歩き去って行く。

すれ違ったマリエは、枕を強く抱きしめ震えていた。

そんなマリエのもとに駆けつけるのは、明かりを持ったユリウスだった。

「ここにいたのか、マリエ! すぐに食堂に集まってくれ。皆も集まって――マリエ?」

マリエの様子がおかしいと思ったのだろう。

ユリウスは、マリエの顔を覗き込む。

「どうした、顔色が悪いぞ!」

マリエは震えながら、

「あに――リオンが本気で怒ったわ」

「は、はぁ? そ、そうか。それは大変だな。俺からも謝罪するから、一緒に謝ろう」

「私じゃないわよ! 私なら絶対にあそこまで怒らせないわ! 何があったか知らないけど、これはただじゃすまない! ピエールの時みたいにふりじゃないのよ! ユリウス、みんなに気をつけるように言って。今のリオンをこれ以上は怒らせないで!」

ユリウスは困った顔をしながらも頷いていた。

「なら、みんなは食堂にいるから伝えておこう。マリエも行こう」

「待って。寝間着で移動なんて嫌よ」

「ふふ、可愛いから大丈夫だ。みんな喜ぶぞ」

「ありがとう! ――って、違う! 今はそんなことで喜んでいる場合じゃないわ。みんなの所に急がないと」

枕を抱きしめ駆け出すマリエを、ユリウスは追いかけるのだった。

「待ってくれ、マリエ。暗いから走ると危ないぞ」