軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

裏切り

アインホルンにある休憩所。

ソファーに横になる俺は、クレアーレと話をしていた。

「どうしてイデアルは俺たちと戦う? お前ら、同じ人工知能だよな? 味方じゃないのか?」

殴られたところは、リビアに治療して貰い今は痛みも少ない。

『その方が自分の目的を達成できると判断したからでしょうね。実際、マスターは新人類を滅ぼしたい、って私たちが言っても拒否するでしょう?』

「当たり前だ」

世界を滅ぼせるスイッチを持っているみたいで気分が悪い。

こいつら、普段馬鹿っぽいが――やれることがえげつなすぎて笑えない。

『――イデアルはマスターを邪魔だと判断したかもね。ほら、公国との初戦では不殺を頑張ったじゃない。あれ、イデアル的にマイナスかもね』

「だからってここまでするか?」

クレアーレは俺の認識を訂正してくる。

『今までの行動は挑発かもね。ぶっちゃけ、もう戦争は始まっているようなものよ。あいつ、絶対に色んな手段でこっちを攻めるわ。スパイを送り込むとか、もう色んな手段を考えているはずよ。最初から手を結ぶつもりがないの。それにしても、余裕のない人工知能って駄目よね』

お前は余裕がありすぎるけどね。

クレアーレはセルジュがノエルを連れ去ったときの対応も気にしている。

『襲撃された時もそう。もしかしたらわざと民間人を残したと思うのよ。マスターが本気を出して暴れたら、それを大義名分にするつもりだったんじゃない? 事実とか関係なく、マスターが民間人を攻撃したぁ~、って言ってね』

「俺のせいにする? 無理がありすぎるだろ」

『マスターは馬鹿ね。この世界なら情報操作なんていくらでも可能よ。どちらが先に攻撃したかなんて、大衆は分からないもの。イデアルはそっち方面で私たちよりも優れているわ』

「――情報関係はやっぱり勝てないか?」

『あいつを出し抜くのは難しいわね。全ての面で負けているとは思わないけど』

イデアルのやることが汚すぎて笑えないぞ。

セルジュの野郎を裏で操っているのはあいつじゃないか。

「――それで? ルクシオンは何て言っているんだ?」

『あいつ、最近はコソコソ動いているのよね。もしかしたら、何か企んでいるかも』

ルクシオンはイデアルと接触してから、何かと理由を付けて俺の側にいない。

代わりにクレアーレが側にいる。

こいつの軽口も嫌いじゃないが、皮肉や嫌みが足りないな。

物足りなくて仕方がない。

「秘密兵器でも作っているのかな?」

『アロガンツを改造しているとか? でも、戦争を考えると、しょせんは一機の鎧よ。重要度は低いわ。セルジュの鎧――ギーアだっけ? アレだって、それなりの鎧で囲んで叩けば勝てるわよ』

「それを考えて、相手も数を揃えるだろうけどな」

『どうするつもり? このままだと、イデアルは必ず王国に攻め込んでくるわよ』

「――出世をせずに問題を片付ける方法を考える。何か妙案はないか?」

考えると言いながら、すぐにクレアーレを頼ってしまったが――そもそも、俺が考えたところで妙案など出ないからな。

なら、人工知能を頼った方がマシだ。

『一番簡単なのは、マスターが支援してあの五人とマリエちゃんを活躍させる方法かしら? 王宮は王子が活躍してくれて嬉しい。四人の実家も喜ぶと思うわ。マリエちゃんは――活躍すると神殿がまた復権目指して騒ぎそうだけどね』

「ならそれで」

以前にも試したが失敗した手法だ。

しかし、他に考えもないので決定する。

『でも、これって現状を放置するって意味なんだけど? ノエルちゃん、取り返せないんですけど?』

それは困ったな。

「忍び込んで奪って逃げるか」

『潜り込むまでは可能だけどね。でも、現地で私たちがサポートできないわ。イデアルがガチガチにガードしているから難しいの。自重しないっていいわね。マスターにも見習って欲しいくらいよ』

本当に羨ましい連中だ。

この世界の技術レベルとか、そんなことを無視してやりたいようにやっている。

「――少し寝る」

ユリウスと喧嘩をして疲れた。

『お休みなさい、マスター』

クレアーレが毛布を俺にかけるのだった。

深夜。

リビアはリコルヌにある自室のベッドでうなされていた。

夢に出てくるのは、都市が燃えている光景だ。

「――え?」

燃える都市――そこに立つリビアは、周囲を見て驚く。

「何で王都が」

瓦礫の山はホルファート王国の王都だった。

そんな燃える王都を一人で歩いていると声がかかる。

「逃げろ――“リビア”」

咄嗟に声がする方を見れば、倒れているのは――ユリウスだった。

周囲をよく見れば、倒れているのはユリウスだけではない。

ジルク、ブラッド、グレッグ、クリス――そして、カイルの姿もあった。

どこかいつもより大人びた雰囲気がある六人の格好は、制服ではなく騎士服だった。

ユリウスなど豪華な衣装を着用していた。

汚れ、血の跡がある白い服装だ。

「殿下、今助けます」

駆け寄って治療魔法を使おうとすると、左腕に見慣れない腕輪をしていた。

「え?」

首飾りと――右手には杖を持っていた。

どこかで見たことがあるようなそれらの道具を思い出そうとすると、ユリウスは絞り出すような声で言うのだ。

「逃げろ。リビア――ルクシオンが裏切った」

「――嘘」

ルクシオンが裏切ったと言い、ユリウスは事切れる。

触るが反応はない。

すると、後ろから見られている気配を感じた。

ゆっくりと振り返ると――。

「ルク君?」

浮かんでいる球体が、赤い一つ目をリビアに向けていた。

周囲の炎で、メタリックカラーは赤く染まっているように見える。

『――ルク君? それは私の略称でしょうか?』

「そ、そうだよ。今日はなんか変だよ。それよりリオンさんは? アンジェの姿も見えない。アーレちゃんはどこ!?」

いつもと違い、怖い雰囲気を漂わせているルクシオンは――普段と違い冷たい電子音声をしていた。

リオンと話すときのような声と同じなのに、まったく違うように聞こえる。

『錯乱しているのですね。アンジェ――アンジェリカは既にここにはいません。貴女が追い出したではないですか。アーレという娘は学園に何名か確認していますが、貴女と私に接点などないはずだ』

「何を言っているの?」

『まだ理解できないのですか? 裏切られたのを信じたくないのでしょうか? 聖女もこうなると哀れですね。ただ、今の私には貴女など少しの興味もない。貴女の全てを解析しましたからね。もう――お前は必要ない』

ルクシオンが何を言っているのか分からなかった。

アンジェを追い出した? アーレという娘? まるで、アンジェをリビアが追い出したような言い方と、アーレ――クレアーレが人であると勘違いしているようだ。

それ以前に、裏切ったとルクシオンは言った。

「どうして。どうして裏切るの。ルク君がリオンさんを裏切るなんておかしいよ!」

リオンとルクシオンはいいコンビだと思っていた。

リビアにはルクシオンが裏切るなど信じられなかった。

『――リオン? それは誰ですか? さて、もういいでしょう。貴女にこき使われるのも今日限りだ。仲間が来ているのでね。私はそちらに合流させてもらいますよ。――さようなら、元マスター』

「え?」

ルクシオンが空に浮かんでいくと、爆発が起こりリビアに向かって燃えている瓦礫が落ちてくる。

目をつむる。

(リオンさん!)

「――リオンさん!」

飛び起きたリビアは、酷い寝汗をかいていた。

息を切らし、そして両手で顔を覆う。

「ゆ、夢?」

ここはリコルヌにある自室だ。

次第に昨日の出来事を思い出し、安堵すると天井を仰いだ。

酷く怖い夢だった。

まるで現実のような――それでいておかしいところが多い。

「何だったんだろう?」

倒れるように横になり、額に手を乗せて夢のことを確認する。

ルクシオンが裏切った夢。

気になることは多い。

まずはユリウスだ。

ユリウスはリビアを呼ぶなら“オリヴィア”だ。

それに、アンジェをリビアが追い出したと言っていた。

クレアーレのことも知らない様子だった。

そして――。

「ルク君がリオンさんを知らないはずがない。それに、裏切るわけが――」

そう思っても、心のどこかで信じ切れなかった。

怖かったのか、心臓がいつもより音を立てて胸が少し痛い。

「仲間? あれ? そう言えば、アーレちゃんがイデアルは同じ存在だって」

色々と考え込んでしまったリビアは、そのまま眠ることが出来ないまま朝を迎えた。

――朝からリビアの様子がおかしい。

アンジェの様子も変だ。

俺に「私たちの知らないお前の妹はいるか?」などと聞いてきた。

そんなことを言われても困る。

親父に隠し子がいれば話は違うだろうが、いたら家族内で揉めると思う。

お袋が怒るのは間違いない。

でも、アンジェやリビアが聞いてくると言うことは、何か情報を掴んでいるのだろうか?

――複数の女に手を出すなんて親父は最低だな。

後で兄貴にも聞いておこう。

ついでに親父をこらしめるための作戦を一緒に練ろう。

マリエの屋敷に向かうため、アインホルンから降りる俺には――久しぶりにルクシオンが付き添っていた。

「忙しいのか?」

『――はい』

「そっか。大変だな。でも、今日はお前が俺の側につくのか?」

『クレアーレには留守番をさせます。それに、外は既にイデアルのテリトリーですから、私が護衛としてつくべきです』

「俺、あいつ嫌いだわ」

『そうですか』

タラップを降りていると、背中から声がかかった。

「あ、あの! 私も一緒に行きます!」

大きな声に驚いた。

「リビアか。どうしたんだよ。別に面白くないぞ。マリエたちの様子を見つつ、大使館で話をするだけだし。それに、外に出るのはあまりお勧めしないけど」

残るのか、逃げるのか――それも今日中に決めなければならない。

優柔不断な自分が嫌になるな。

「つ、ついていきます」

リビアの視線がルクシオンに向いていたのが気になるが、俺は同行を認めるのだった。

「離れるなよ。共和国は敵だらけなんだから」

『マスターの敵は多いですからね』

「俺はこんなにも善良なのにな」

『善良? マスター、言葉を間違って覚えてしまったんですね。今の言葉は間違いですよ。今の物言いですと、マスターが優しくて良い人、という意味になってしまいます』

「お前は本当に良い性格をしているよ。お前も俺にとって敵だわ」

『それは結構なことで』

いつもの冗談を言い合っていると、リビアが目を見開いて俺たちを見ていた。

「どうしたの?」

「い、いえ――何でもないです」

ルクシオンがリビアに近付くと、

『発汗、脈拍数もいつもより多いですね。休まれた方がよろしいのでは?』

「だ、だだだ大丈夫だから!」

慌ててルクシオンから距離を取るリビアは、俺の隣に来ると腕にしがみつく。

――どうしよう。

当ててんのよ、状態だ。

今日は朝から良い日だ。

「――リオンさん、後でお話があります」

「お、おぅ」

思わず口元を隠してしまった。

鼻の下は伸びていなかったと思うが、リビアが気付いた様子はないので問題ない。

マリエの屋敷の周辺。

レリアは様子を見に来ていた。

「――あいつら、何か変なことはしていないでしょうね?」

セルジュがリオンに勝利したとはいえ――リオンは実力を隠している。

イデアルが警戒しており、レリアの方も心配になって様子を見に来ていた。

隠れながら覗いていると、リアカーに荷物を載せているマリエが泣いていた。

「ジルクの馬鹿! 全部ガラクタだったじゃない。買い取りを拒否されるとか、どういうことよ! 古美術商の真似をしていたんじゃなかったの!」

泣いているマリエに困り果てているのはジルクだった。

「い、いえ、私がやったのはその――価値のない美術品を、価値があるように言って売りつけることでして」

「――それ詐欺じゃない!」

「違うんです。聞いてください、マリエさん! 私が見つけた美術品の数々を、皆がガラクタだと言うので腹が立って――それで、彼らに相応しいガラクタを集めたら、飛ぶように売れてしまったんです。さ、詐欺じゃないです!」

「まっとうな方法で稼げ、って言ったわよね! 私、ちゃんと言ったわよね! うわ~ん! 追い出すんじゃなかったぁぁぁ! 私は一体どれだけの人に謝らないといけないのよ!」

泣き崩れるマリエ――そして、狼狽えているジルクを、カイルとエリクが連れ去っていく。

「マリエさん話を聞いてください!」

「あんた最低だよ。僕だって詐欺はしないよ」

「俺もお前の行動には引くわ」

レリアは――マリエを見ていて悲しい気持ちになった。

泣き崩れているマリエを介抱しているカーラが慰めていた。

「マリエ様、大丈夫です。私も付き添いますから」

「ジルクの馬鹿野郎ぉぉぉ!」

「あ、マリエ様! バルトファルト伯爵が来ましたよ!」

マリエが顔を上げると、即座にリオンを見つけその足にすがりついていた。

隣にいるリビアのことを全く無視している。

その姿に――レリアは硬直してしまった。

(――嘘)

「だじげでぇぇぇ! じるぐがぁぁぁ、じるぐがぁぁぁ」

「おい、止めろ! 涙と鼻水を俺のズボンで拭くな! 汚いから顔を拭けよ!」

「ちょ、ちょっと、リオンさんに抱きつかないでください!」

リビアが無理矢理マリエを引き剥がそうとしていた。

「じるぐがさぎしちゃったのぉ!」

泣きながらリオンに助けを求めるマリエは、事情を話している。

それを聞いたリオンも頭を抱えていた。

「あの野郎、ふざけやがって!」

『どうしますか、マスター?』

「とりあえず、被害者を捜す。でも、そんな時間があるかどうか――」

「ジルクさん、最低ですね」

唖然とするリビアを見ながら、レリアは冷や汗を流していた。

(あんなに親しそうにしている)

リオンと腕が触れるような位置に立ち、マリエからさりげなくリオンを遠ざけている。

好意があるのは明白だ。

(まさか、婚約者って、一作目の主人公だったの)

血の気が引いていく。

レリアは知っていたのだ。

リビア――オリヴィアがとても危険な存在であると。