軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二王子

「――ジェイクか」

神妙な顔をするユリウスだったが、ジェイク殿下は苛立っていた。

「肉を焼く手を止めろよ!」

ユリウスは、ジェイク殿下が現れたのに肉を焼き続けている。

だが、真剣な顔で怒鳴り返す。

「馬鹿! 急に止められるわけがないだろう。少し待て。これを焼いたら話を聞いてやる。いいか、タイミングが重要なんだ」

ユリウスは真剣な顔を串焼きに向けていた。

それは、ジェイクに向けた表情よりも真剣で、そして集中している。

それが許せないのだろう。

ジェイクがユリウスに近付き、網の上に置かれた串焼きを手で叩く。

「私を無視するな! この落伍者め!」

まだ焼けていない肉が芝生の上に落ちると、ユリウスはすぐに拾いに向かう。

そして串を拾うと土を手で払い、水で洗ってからまた焼きはじめた。

「おい!」

ジェイクがまた文句を言おうとすると、ジルクたちが集まってくる。

様子を見ていると、ユリウスは怒っていなかった。

「ジェイク、この肉は俺が育ててきた鶏のマーガレットだ」

「それがどうした?」

「大事に育ててきた。それを今日食べるために、俺は殺したんだ」

それを聞いたマリエが「ユリウス、食べにくい話をしないで」と食べていた串を皿に置いてしまう。

というか、育てていた鶏に名前を付けていたのか?

こいつ大丈夫なのか?

王子が鶏を育てるのも問題だが、名前を付ける方が駄目だ。

――愛着がわくからな。

「そ、それがどうした」

ジェイク殿下も少し悪いと思ったのだろうが、引くと格好がつかないので強気の姿勢を崩さなかった。

「いや、お前に怒るつもりはない。だが、食べ物は大事にして欲しい。それだけだ」

それを聞いたジェイク殿下は、鼻で笑っていた。

「落ちぶれた貴様らしい台詞だ。お前たちが食べるために殺しただけだろうが。何を偉そうに私に説教している? まぁ、いい。おい、バルトファルト」

急に俺に視線を向けてくると、ジェイク殿下が近付いてくる。

「何度か謁見の間で見かけたが、いつも冴えない面をしている」

「お元気そうで何よりです」

確かにお前と比べれば冴えないだろうさ。

ジェイクは口の悪い子供という印象を受ける。

「私の前に膝をつけ。そうしたら、今後は私の部下としてこき使ってやろう」

こいつ馬鹿なのか? やっぱりローランドの子供だな。滅ぼすしかない。そう思っていると、エリカが俺の前に出た。

「ジェイク、侯爵に膝をつけというのは無礼です」

俺を庇ってくれたエリカに感動してしまう。

まだ、頼りになる王族はここに残っていた。

ミレーヌ様の血と、姪っ子の魂は健在だ。

王国は健在である!

そんなエリカに、ジェイクが手を上げようとした。

「王宮では何もしなかった臆病者が、私の前に立つんじゃない!」

「っ!」

エリカが目を閉じると、俺はジェイク殿下――ジェイクの顔面に拳を叩き込んでいた。

「殺すぞ、糞ガキ!」

すると、グレッグたちと睨み合っていたオスカルが飛んでくる。

「殿下ぁぁぁ! 侯爵、何をなさったのか理解されているのですか!」

「お前こそ馬鹿か? この糞ガキは俺に膝をつけと言ったんだぞ。何様のつもりだ。というか、エリカに手を出そうとしたのが許せない。この場で灰にしてやるよ!」

ジルクが呆れながら拳銃を抜いていた。

「まったく、過激な寄親を持つと苦労しますよ。ジェイク殿下、そしてオスカル――安心してください。一発で仕留めますから」

ブラッドが両手に炎を出現させる。

「上級生に向かってその態度はないよね」

クリスとグレッグは、筋肉を見せつけていた。

「先に無礼を働いたのはジェイク殿下だ」

「おうよ。それを無視しておいて、ジェイク殿下だけを庇うのか?」

オスカルは、立ち上がると上着とシャツを脱いで二人に対抗して筋肉を見せてくる。

「ふっ、ジェイク殿下は元からこの気性なのです。治るならとうの昔に治っている! もう、これは治らない殿下の個性なのです!」

ジェイクの乳兄弟って、ちょっと可哀想な奴なのか?

ジェイクが頬を押さえながら立ち上がる。

「さ、下がれ、オスカル。この、不届き者は、私自ら成敗してやる」

ジェイクが手袋を俺に投げようとしていた。

マリエが叫ぶ。

「こらぁぁぁ! 何をしようとしているのよ!」

両手で頭を抱えたマリエは、きっと一年生の頃を思い出しているのだろう。

自分のことのように拒否反応が出ている。

俺はジェイクを見て鼻で笑ってやった。

「兄弟揃って俺に負けたいようだな」

ユリウスが一人で「バルトファルト、そこで俺を引き合いに出さなくてもいいじゃないか」とか言っているが無視した。

すると、一人の女性が俺たちの間に割って入ってくる。

中庭を通りかかったその女子は、両手を広げてジェイクの前に立ちはだかった。

「もう止めてください!」

その女性――いや、アーレちゃんを見て俺は声も出なかった。

もう、後ろ姿は女性そのものだ。

ジェイクがアーレちゃんに退けと叫ぶ。

「私の前に立つ意味を理解しているのか? 退け、女!」

「ど、退きません! そうやって、身分を理由に横暴に振る舞うなんて間違っています。わ、私も人のことは言えませんけど、そういうのは違うと思います」

俺が黙っていると、マリエも何と言ったらいいのか分からなかったようだ。

ジェイクとアーレちゃんが睨み合い、そしてジェイクが引いた。

「――今日は引いてやる。女、名前は?」

「え、えっと――アーレって呼ばれています」

「呼ばれています? 変な奴だな。だが、面白い女だな。私の前に立つ勇気は認めてやる」

オスカルがジェイクの後ろに付いていく。

「殿下、やはりそっちだったのですね」

「お前は何を言っているんだ?」

「いや、さっきの子ですよ」

「この私を前に堂々としていた。気の強い女は嫌いじゃない。というか、お前は本当に俺のことを敬っているか?」

「もちろんです! ジェイク殿下は気高く、雄々しく、わがままで素晴らしい殿下です!」

「そうか。――ん?」

二人が漫才をしながら去って行く。

ジェイクの口振りからすれば、これって少しどころかかなりまずくないだろうか?

まるで乙女ゲーの主人公を気に入る攻略対象のような――。

「嘘だろ」

俺がそう言うと、アーレちゃんが振り返ってきて俺に頭を下げてくる。

「先輩、余計なことをしました。申し訳ありません」

「いや、あの、うん。そ、それよりも、そっちはだ、大丈夫?」

どう接したらいいのか分からないぞ!

「はい。それに、これは罪滅ぼしでもあるんです」

「罪滅ぼし?」

「先輩には以前迷惑をかけてしまうところでしたからね」

何を言っているのか分からないが、これってどうなるのだろうか?

アーレちゃんが去って行くと、マリエが震えていた。

カイルとカーラは、ユリウスが焼くお肉を待っている。

俺はジルクたちを見るのだ。

「お前ら、あいつらを本気で殺すつもりだったのか?」

「まさか。脅しですよ。貴方を真似てみました」

「俺は銃を出して脅したりしないぞ」

「面白い冗談ですね」

ジルクが俺を笑っているが、納得できない。

そして、ブラッドがユリウスの網を見る。

「お茶会を再開しようか。よし、今度は僕も手伝うよ。こうして、っと」

ユリウスの手伝いをしたかったのか、タレのついた串焼きを網の上に置く。

すると、ユリウスの目が見開かれた。

「貴様ぁぁぁ! いったいどういうつもりだ!」

「え? え!?」

困惑するブラッドの胸倉を掴み上げ、ユリウスの額には血管が浮き出ていた。

かなり怒っている。

「そこは“塩”の場所だ! タレのついた串を置くとは、貴様は戦争がしたいのか!」

「ちょっ! ただの網だろ!」

「ふざけるな! 領土問題を起こしておいて、その態度はなんだ!」

先程よりも激怒しているユリウスを見て思うのだ。

お前、ジェイクに馬鹿にされるよりも、肉を焼く場所の方が大事なのか、と。

「ご、ごめんなさい」

ブラッドが白目をむいて謝罪するが、ユリウスは止まらなかった。

「謝罪で済めば戦争など起きんのだぁぁぁ!」

マリエがユリウスを止めにいく。

「ユリウス、ブラッドが死んじゃうわ!」

ジルクやグレッグ、そしてクリスもユリウスを止める。

「殿下、そこまでです!」

「もう怒るなよ」

「殿下は串焼きにこだわりすぎだ!」

楽しそうなマリエたちを見て思った。

ジェイク殿下の件は、マリエとは後で話そう、と。

「放せ! 俺は肉を焼くんだぁぁぁ!」

ユリウスの声が中庭に響き渡った。

(まずい。これはまずいわ)

お茶会が終わり、片付けをしているマリエは焦っていた。

興奮したユリウスをリオンたちが連れていき、残っているのはカイルとカーラ。そして、エリカの四人だけだ。

カイルが溜息を吐く。

「結局、片付けは僕たちになりましたね」

カーラはゴミを拾いならが頬に手を当てている。

「久しぶりのいいお肉、おいしかったですね」

マリエも何も知らなければ、のんきに片付けをしていられた。

だが、今の問題はジェイクだった。

(面白い女だな、って主人公に言う台詞じゃない!? あの馬鹿王子、なんで男に惚れているのよ!)

アーレちゃんは、元アーロンという攻略対象の男子である。

ジェイクが主人公ではなく、アーレちゃんに興味を持つなどマリエも考えていなかった。

(兄貴のところの丸い奴らのせいよ! どうして性転換なんてさせたのよ! というか、何を間違えたら、性転換って発想になるのよ!)

ちょい悪のアーロンが、清楚系のお嬢さんになるとか想像も出来なかった。

マリエが焦っている横で、エリカも手伝いをしている。

「ちょっと困っちゃうよね」

困ったように笑っているエリカを見て、マリエはジェイクの言葉を思い出した。

「ねぇ、エリカ。あんた、色々と我慢していない?」

「――そんなこと、ないよ」

マリエはエリカのことを知っている。

前世ではエリカに苦労をかけてきた。

そのため、エリカは我慢強いのだが――同時に自分の気持ちを押し殺すようになっていた。

「もっとわがままを言ってもいいのよ」

「私は、もう十分にわがままだよ。だってお姫様だよ。中身はお婆ちゃんなのに」

エリカの言葉がマリエの心に突き刺さった。

自分など、中身はいい年齢なのに逆ハーレムを目指したのだ。

どっちが親なのか分からなくなってくる。

「も、もっと言いたいことは言わないと駄目よ。大抵のわがままなら、私が叶えてあげるわ。大丈夫。今の私には兄貴がいるからね!」

「母さん、楽しそうだね」

「エリカ、人生は楽しまないと駄目なのよ」

「もう十分に楽しいよ。楽しそうな母さんも見られたし、それに伯父さんにも会えたもの」

「あれ? エリカ、兄貴に会いたかったの?」

「うん。だって、母さんは酔って戻ってくると、いつも『兄貴がいたら~』って話をしていたもの。お爺ちゃんやお婆ちゃんも『あの子が生きていたら、姪の貴女を可愛がりすぎたかもね』っていつも言っていたよ」

マリエは変な汗が出ていた。

(え、私って酔うと兄貴の話をしていたの? うわ~、恥ずかしい)

これではまるでブラコンではないかと焦る。

(はっ! それよりも今はジェイクの話よ。このままだと、攻略対象の男子がミアちゃんとくっつかないわ)

アーロンは既に論外だ。

同級生の一人は学園にすら入学していない。

ジェイクはアーロン狙い。

オスカルは――馬鹿。

残る一人は、来年入学する下級生の男子だ。

(もう、下級生の男子に期待するしかないわね)

正直、あそこまでジェイクが粗暴だと、何かしでかすのではないかとマリエは心配だった。

エリカが俯いている。

「どうしたの、エリカ?」

「母さん、あのね。私は一つだけ心残りがあるの。エリヤのことなの」

「あの醜男? そういえば、学園で見かけないわね?」

「え? 母さんもエリヤを見かけているはずだよ。少し痩せちゃったけど、可愛い子だよ」

「少し痩せたの? でも、イラストだと凄く太っていたわよ」

エリカは、エリヤのことを話すと嬉しそうになる。

「エリヤはね、実はとても優しい子だよ」

マリエはその姿を見て、エリカの気持ちを察するのだった。

男五人にボコボコにされたユリウスを連れて、俺は医務室から出てくる。

「暴れすぎなんだよ」

俺もユリウスの拳を顔面に受けてしまい、目に痣が出来ていた。

「すまん」

他の四人は帰らせて、俺はユリウスと一緒に男子寮へと向かっている。

しかし、鍋奉行ならぬ網奉行とか――この国の王族はミレーヌさんやエリカ以外は駄目すぎるな。

ジェイクも期待できそうにない。

色んな意味で期待できない。

まさか男を気に入るとか、想像もしていなかった。

二人で廊下を歩いていると、目の前に一年生らしき男子生徒が立っていた。

ユリウスが俺の前に出る。

「エリヤ、何の真似だ!」

「エリヤ?」

その男子生徒の名前を聞いて、すぐに思い浮かんだのはエリカの元婚約者だ。

だが、マリエから聞いていた外見とは違う。

ポッチャリ系の男子という感じだ。

醜く太っているという外見ではなかった。

「――リオン・フォウ・バルトファルト侯爵。このフレーザー家の跡取りである、エリヤ・ラファ・フレーザーが決闘を申し込む!」

エリヤが白い手袋を投げ付けてくるのだが、それをユリウスが受け止めてしまった。

「止めろ! バルトファルトに挑むという意味が分かっているのか? エリヤ、お前では相手にならない」

エリヤが両手を握りしめて力の限り叫んだ。

「だから諦めろ、って言うのか! エリカを奪われて、僕に黙っていろと! 僕は――僕はエリカじゃないと駄目なんだ!」

俺はユリウスが握っている手袋を奪い、そしてエリヤに言う。

「威勢がいいな、一年生。そんなに勝負がしたいなら、どんな勝負でも文句を言うなよ」

エリヤが俺を睨み付けながら頷いた。

「どんな勝負でも受けてやる。そして勝って――エリカを取り戻すんだ」

その目は真剣そのものだった。

「エリヤ止めろ。バルトファルトは容赦するような奴じゃないぞ」

ユリウスが何とか決闘を止めようとしているが、エリカのためにもこいつはここで潰しておくことにしよう。

「次の休日が楽しみだな、エリヤ君」

俺に勝負を挑んだことを後悔させてやる!