軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

理不尽な世界

もしも時間を巻き戻せるなら、俺はいったいどのように行動するだろうか?

影ながらリビアやアンジェを支援して、ハッピーエンドを目指しただろうか?

そうなると、ホルファート王国の状況は変わらなかったはずだ。

女尊男卑の社会が続いており、きっと俺は苦労しただろう。

それを思えば、今の状態はまだマシなのだろうか?

王家は揺らいだ支配体制を建て直すために、俺を利用しようとしている。

不満の矛先である王家を見限り、王国を建て直すためにレッドグレイブ公爵家が簒奪を考えている。

貴族たちも不満を持ち、今の王家には従っていたくないと考えている。

今まで恩恵を受けていた連中は、切り捨てられたことで逆恨みして王国を憎んでいる。

――まさに火薬庫の中で火遊びをしている状態だ。

「もう詰んでるじゃねーか!」

『ここまで綺麗に詰むと、清々しいですね』

この状況、どうして皆が俺に頼るのか?

「そしてまた、俺はそれに関わるしかないのか。罰ゲームだな」

頭が痛くなってくる。

『なら、すぐにでも新人類殲滅をご命令くだされば――』

「却下だ。お前もしつこいな」

『プログラムに刻み込まれた本能とでも考えてください』

「嫌な本能だな」

そもそも人工知能に本能ってどうなの?

ルクシオンと今後の対策を考えているのだが、どうにも曖昧な返事しかしてこない。

「誰でもいいから血が流れない方法で統治してくれないかな。いっそヴィンスさんでもありだと思うんだよ」

すると、ルクシオンが聞きたくない未来を予想する。

『その場合ですが、レッドグレイブ家は領主たちの不満を解消するために今の王家を処断するでしょうね。公開処刑では、きっとミレーヌがマスターに呪詛の言葉を吐き続けるでしょう』

「何その嫌な未来」

『エリカも例外ではありませんよ』

「公爵家に味方は出来ないな」

エリカを処刑するとか、絶対にあり得ない。

ミレーヌさんに呪詛を吐かれるとか、そんなのも嫌だ。

『そこまでしなければ、まとまらないという事です。王国と言うよりも、マスターを苦しめた淑女の森でしたか? 彼女たちは恨みを買いすぎました』

それを放置した王国を、領主貴族たちが許せないのは納得できる。

「なら、どうする?」

『マスターがこの国をどうしたいのか、が重要ですね。面倒なら沈めてしまってもいいのでは?』

「嫌だって言っているだろうが」

『王家にマスターが味方をしたところで、不満は残り続けます。反乱の火種はくすぶり続け、いずれ大陸を焼くでしょうね』

何て面倒なことをしてくれたんだ!

過去の王国の関係者を問い詰めてやりたい。

「女性優遇を決めた連中を殴ってやりたいな」

『ですが、当時の王国にそれだけの決断をさせたのは、地方領主たちですよ』

ファンオース公国――いや、ファンオース公爵家のように、過去には王国が地方領主達に苦しめられてきた。

その不満は大きかったと聞いている。

過去の王国の関係者が、今の状態を聞いたら笑い転げてしまうのだろうか?

それとも、やり過ぎたと思うのか?

『実際、領主たちはすぐに王国に攻め込もうとしています。抑えつけていたのは、間違いではなかったのかもしれません』

王国の立場を考えれば、だけどな。

抑えつけられた俺たちからすれば、たまったものではない。

「このまま、他の誰かが王国を統治したらどうなると思う?」

『地方領主たちが勢いづき、また暴れ回るのではないでしょうか? レッドグレイブ家は、それをマスターの力で――私の力で抑えつけることも考えているかと』

どう考えても、俺は将来的に酷使されるようだ。

「どうして乙女ゲー世界なのに、フワフワした感じの甘い世界じゃないんだ!」

もっと色恋だけに悩むような世界じゃ駄目だったのか?

どうしてこんなに理不尽なんだ。

『マスターには厳しい世界ですね』

「それで、対策は?」

『マスター次第ですね』

「案くらい出せよ」

『方針が決まっていないのに、ですか? 無意味です。私が考える最適解は、王宮を破壊後に王家の関係者を確保。その後、マスターが大陸を支配するのが、一番と考えています』

――大陸の統治とかしたくない。

王様とか、どう考えても面倒だ。

「ユリウスとかジェイクは駄目か?」

『駄目です』

そもそも、忌まわしい旧支配体制の象徴みたいなものだそうだ。

新しい国家を建国するなら、あり得ない選択らしい。

まぁ、串焼きに取り憑かれたユリウスでは、国家運営は難しいだろう。

串焼き屋を保護するとか言い出しそうだ。

「何で俺がこんなに苦労しているんだろうな?」

『時期が悪かったですね。別に、マスターだけが苦労しているわけではありませんよ』

「だろうな」

今後の方針を決めようとしていると、ルクシオンが話を中断した。

『マスター、外出の時間です』

「もうそんな時間か」

今日は、同じグループの仲間で集まる日だ。

今では俺は侯爵なのだが、所属しているのは貧乏な男爵家のグループだ。

机の上に置いてある書類の束を手に取った。

「さて、行くか」

そこは大衆居酒屋だった。

貸し切って集まったのは、学園の男子生徒たち。

それも、離島に住む貧乏男爵家のグループである。

三年生になった俺は、そんなグループのまとめ役になっていた。

「さて、入学してもうすぐ一ヶ月だ。君たちも学園での生活に慣れてきた頃かな?」

入学したばかりの頃は、右も左も分からない可愛い後輩たちだった。

しかし、今は学園の事情を知ってか――少し浮かれている。

「今日はささやかながら祝いの席を用意した。楽しんでくれ」

乾杯をすると、上級生と下級生が色々と話をしていた。

「いや~、女子が次々に声をかけてくるんですよ~。特に、三年生の先輩たちが優しくて~」

嬉しそうな一年生を見て、三年生の先輩が忠告する。

「いいか、絶対に騙されるなよ。手を出したら責任問題だ。絶対に早まるな。相手の状況は必ず調べるんだ」

「え、いや、でも――」

「馬鹿野郎! 今はお淑やかに振る舞っているが、三年生の女子なんて一番酷い時の女子だぞ! 今はお淑やかでも、少し前までは酷かったんだからな!」

確かに酷かった。

愛人――専属使用人を連れ回し、男など使用人のようにこき使っていた。

尽くされて当然という態度だったね。

男子には辛い時代だった。

ダニエルが現状を正しく後輩に教えていた。

「心を入れ替えた女子もいるけど、取り繕っただけの女子も多いからな。本当に気を付けろよ。結婚してから、こんなはずじゃなかったっていう男子は多いぞ」

レイモンドも同様に注意する。

「婚約やら結婚と同時に、態度が変わった女子も多いよね。ま、すぐにみんな離婚したそうだけど」

卒業生などもっと酷い。

このチャンスを逃せるかと、離婚祭りだ。

嫌な祭りだな。

そういえば、ルクル先輩も離婚したと聞いた。

女性たちだって、結婚の条件を見直そうとはしていた。

だが、男性の方が我慢の限界だった。

別に、今の結婚相手――妻にこだわる必要がない。

ダニエルやレイモンドの話が本当なら、結婚可能な女性は多い。

逆に男性の方が少ないとなれば、どちらが必死になるかは決まっているようなものだ。

立場が逆転した。

ただ、だからと言って、誰もが理解しているかは別問題だ。

よく「今の時代にこれはない」とか、そういった例は多い。

たとえるなら飲酒運転だ。

取り締まりも厳しくなり、やっては駄目だと分かっているのに安易に考えて飲酒運転をする輩はいる。

時代が変わったのに、自分だけは大丈夫と考える人間はどこにでもいる。

上級生からのありがたい言葉を聞いて、下級生たちが真剣な顔をしているところで俺は手を叩く。

「さて、そろそろ俺から話をしてもいいだろうか? 実は、俺の実家は飛行船やら鎧を製造する工場を持っているんだ。そこで、君たちにもお得な情報を持って来た」

三年生たちの顔が一気に微妙なものになった。

だが、逆に下級生たちは嬉しそうだ。

次々に質問をしてくる。

「あの、飛行船をタダでもらえるって噂は本当ですか!」

「購入費用はかからないね」

「鎧も最新式だと聞いたんですが、本当ですか?」

「あぁ、うちのは最新型だよ。性能も保証しよう。――なぁ、みんな?」

ダニエルを見ると、片手で顔を押さえながら頷いていた。

「確かに性能はいいよ」

レイモンドは、眼鏡を外して目頭を指で揉んでいた。

「リオン、今回集めた理由ってこれ?」

俺は用意していた契約書を取り出すのだった。

「幸せはみんなで分かち合わないと駄目だろ? 田舎領主に飛行船は大事じゃないか。今なら、古い飛行船も高く買い取るぞ」

下級生たちが興奮気味に俺の話を聞いていた。

「俺の実家にもついに新型の飛行船が来るのか!」

「侯爵ってやっぱり凄いな」

「侯爵素敵! 抱いて!」

ははは――最後の奴、それは冗談だよな? 酒に酔って顔が赤いだけだよな?

中には疑っている下級生もいたが、そんなのは想定済みだ。

俺は契約書を手に持って、皆に説明するのだった。

「別に怪しい話じゃない。今後の整備でうちの工場を利用して欲しいから、っていう下心がある。ついでに、使っている人間が多いと、いい宣伝にもなるからな」

親切丁寧に説明してやると、皆の目が輝き出す。

その姿を見て、三年生たちは物悲しい表情をしていた。

彼らが飛行船を欲しがる理由も分かるし、安易に止められないのだ。

自分たちも大きな利益を得ているからね。

レイモンドが俺に言う。

「リオン、相変わらず最低だよ」

「何を言う。俺は友達思いの素晴らしい男だぞ」

ダニエルが俺を指さすのだった。

「友達思いの奴は、脅したりしない!」

「脅す? 勘違いをするな。契約を守ってもらっただけだ。俺は悪くない。これからも仲良くしようじゃないか」

ニヤニヤする俺を見て、三年生たちが何か言いたそうにするが黙っていた。

まぁ、こき使ってきただけじゃないからね。

「先輩、俺は契約します!」

「俺も!」

「な、なら、俺も」

次々に後輩たちが契約書にサインをしていく。

「そんなに慌てるな。それから、ちゃんと実家に連絡するんだぞ。あと、使い方に困ったら先輩たちに聞いてくれ」

ダニエルとレイモンドが、後輩たちを見て涙を袖で拭っていた。

「くそ――止められない」

「ごめん。許してくれ。リオンに付き合わされるだけで、メリットもちゃんとあるから」

俺は笑うのだった。

「みんな、これからも末永く仲良くしようね」

別の居酒屋に行くと、そこで待っていたのはフィンだった。

契約云々の話をすると、テーブルに突っ伏す。

「それ、無料契約だろ」

「あ、やっぱり知っていたか」

「当たり前だ!」

本体価格はゼロ円だが、他で料金を回収する方法だ。

「別に悪い話じゃない。騙すつもりもないからな」

「何でそんなにお仲間を増やしているんだ?」

フィンが聞いてきたので答える。

「いざという時の備えだ。あとは、同情かな? 離島の男爵家って大変なんだぞ」

俺の話を思い出したのか、フィンは飲み物を口にしながら再度確認を取ってきた。

「五十歳の女性と結婚させられそうになった話か?」

「事実だぞ」

「確かに酷い話だな」

「帝国は違うのか?」

聞けば、フィンは少し考えてから答えてくれた。

「ない、とは言えないな。だが、貴族同士の結婚とか、政略結婚的な意味合いが強い。逆のパターンも当然ある。だが、そんな話は少ない」

五十代の男性に、十代の女性が嫁ぐそうだ。

前世でも聞いたことがあるし、驚く話ではないのだが――今にして思えば、あの乙女ゲーは、ギャルゲーの男女を反転させただけのような気がする。

俺も思っていたが、マリエも「ズレている」と言っていた原因ではないだろうか?

男女逆になるだけで、随分と酷い話に――いや、少し違うな。

元から酷い話なのかもしれない。

「なぁ、それよりも温泉に入れないか? ミアが、マリエさんから聞いた温泉の話に興味があるみたいなんだ。風呂上がりの牛乳に憧れているみたいでさ」

「またピンポイントだな」

「コーヒー牛乳なら用意できるが、温泉は少し難しいだろ」

そもそも、大地が浮かんでいるので温泉自体が珍しいからな。

俺が所有していた浮島は、熱を出す石を使って温泉を用意した。

――ルクシオンがね。

「あの浮島、今は王宮の管轄だからな。入れないこともないけど、基本的に何もないぞ」

「出来るだけミアの願いは叶えてやりたいんだ。頼めないか?」

「確認は取るけど、随分と過保護だな」

そう言うと、フィンは悲しそうに笑うのだった。

「前世で妹にしてやりたかったが、出来なかったからな。これは俺の罪滅ぼしだ」

「――罪じゃないと思うけどね」

「お前がエリカちゃんに色々とするのと同じだ」

「一緒にするな。俺が貢いでいるのは恩返しだ」

「貢いでいるって自覚はしていたのかよ。婚約者たちが怒るぞ。というか、なんで主人公と悪役令嬢がセットなんだよ?」

「両方好きって言ったら付き合えたんだ」

「ないわ~。お前のその台詞はないわ~。しかも、二人だけじゃなくて三人目もいるじゃないか」

「ノエルはほら。立場とか能力があるから」

「好きじゃないのか?」

フィンにそう言われると困ってしまう。

「三番目に好きとは伝えたな」

「お前最低だな」

そう言ってドン引きするフィンに、俺は自分がいかに苦労してきたかを話すのだった。

「ちょっと待て。結果だけを聞けばそうなるが、過程を聞けば納得するから。いいか、まずはユリウスだ。あいつが駄目だった」

全ての元凶は、マリエやユリウスたちにある。

俺は悪くないのに、あいつらがかき乱すからこうなったんだ。

本当に理不尽な世界だよ。