作品タイトル不明
31.二人で見る花火(1)
私はレナード様に支えられるようにして塔の階段を降り、聖堂から出た。
すでに叔父たちは本部棟の地下牢へ連行されたあとだった。
待っていたルシアン王子は、即座にレナード様へ「トーナメントへ戻るように」と命じた。
騎士団本部のスターである「緑陰の騎士」レナード様がいないトーナメントなんてありえない。
この夏至祭のメインイベントだし、下手をすると観客の暴動が起こるかもしれない。
「司会に試合の順番を変えるように言っておいたから、まだ間に合う。アシュリーのことは私が責任を持って保護する。心配せず早く行け」
「……わかった」
レナード様はなんだか不服そうだったが、スター騎士とはいえ第二王子の命令に背くわけにはいかないのだろう。渋々、といった顔で承諾した。
トーナメント会場である屋外訓練場は、聖堂のすぐ隣だ。
だからレナード様とルシアン王子は発煙筒の合図に気がついて、聖堂の塔へ駆けつけてくれたのだろう。
すぐに会場へ戻るのかと思ったレナード様は、私のそばへ来て、なんだか真剣な面持ちで言った。
「……またあとで、アシュリー」
「は、はい。また、あとで……?」
真面目な表情もかっこよくて、ぼうっとなってしまう。
それにいつもは苗字で呼ばれているのに、今日は名前で呼ばれてしまった。
でも、またあとで、とは……?
トーナメントに応援に来て、という意味かしら?
もちろん行きたいけれど、今から行っても人がいっぱいで何も見えないだろう。
そんなことを思いながらレナード様の背中を見送っていると、ルシアン王子が私に声をかけた。
「お手柄だったな、アシュリー。さすが前騎士団長の娘だ」
「いえ、そんな……たまたま運が良かっただけです」
私は父様の「準備が九割」という遺訓に従い、ただ入念に準備をして今日の作戦に臨んだだけだ。
それが功を奏して、こうしてレナード様とルシアン王子に助けに来てもらい、叔父たちの不正も暴くことができた。
その上、王子殿下に褒めてもらえるなんて、幸運というほかない。
でも──
つい周囲にレイさんの姿を捜してしまい、見つからなくて顔を曇らせた私に、ルシアン王子が何もかも見通しているといった顔をする。
「レイが来なくて残念だったか? あいつは今日はずっと裏方で作業をしていて、パレードにも参加していないんだ。決してきみのことを気にしていないわけじゃない。むしろ誰よりも早くあの塔に駆けつけたかったはずだ」
「あの……えっと………………はい。正直に言うとちょっとだけ残念でしたが、お仕事を優先するのは当然ですから」
ルシアン王子の言葉にほっとした。
私のことがどうでもいいわけでも、急に体調が悪くなって救護室で寝込んでいるわけでもないんだ。
よかった……。
王子は半眼で呟いた。
「……まだあいつの正体に気づいてないのか? 仕事は用意周到な割に鈍すぎないか……? やはり私が一肌脱がねば……」
「えっ?」
「いや、こちらのことだ。それよりきみはこのあと何か予定はあるのか? レイとの約束以外に、という意味だが」
「予定は何もありませんが……」
すると、ルシアン王子はやわらかく笑って、私に手を差しだした。
「では一緒に来たまえ。王族用の特等席で、レナードの試合を私と観戦しよう」
「……はい、ありがとうございます!」
ちょっと畏れ多かったけれど、私は王子の紳士的な申し出に顔をほころばせ、その手を取った。
今年もレナード様はトーナメントで優勝を飾り、会場を大いに沸かせた。
その剣技の冴えはさすがで、去年よりもさらに強くなっているようにすら見えた。
一番人気の騎士様であるにもかかわらず、いや、だからこそ、日々の鍛錬を欠かさずにいるのだろう。
会場中がスタンディングオベーションをしてレナード様の優勝を讃える中、私もまっさきに立ち上がり、隣のルシアン王子に引かれるほど熱心に拍手をしながら、試合場で優雅に四方へお辞儀をするレナード様を目に焼き付けた。
やっぱりレナード様は最高のスターだ。
試合中の彼の勇姿を思い出せば、明日からの仕事も、いくらだってがんばれる。
ここに集まったたくさんの人たちも、きっと同じ気持ちでいるのだろう。みんないい表情を浮かべ、会場をあとにしていた。
私はルシアン王子に何度もお礼を言い、王族席を出た。
一年で一番長い時間昇っている夏至祭の太陽も、森の中の騎士団では、そろそろ沈む頃合いだ。
空はスミレ色に染まり、一番星がきらめいていた。
レイさんと待ち合わせをした時間が近づいている。
でもその前に、私にはやっておきたいことがあった。